もらったものには目を通せ
放課後は約束通り3人が勉強を教えてくれるがルナにとっての問題は「どこが分からないのかが分からない」ということ。つまり全部分からないしそんな理屈で魔法使ってないしだったら実践で覚えるほうが良くないか。
「ルナ、心の声が漏れてるぞ」
「しまった」
「ルナの場合は実践もありなんじゃないかなって思うよ。文章じゃ分かりにくいってのもあるし教科書ってやたら難しい言葉使ってくるからね」
「魔族に優しくないぞ。学園長に抗議入れるか」
「はいはいルナちゃん落ち着いて。ミアが作ってくれたクッキー食べていいよ」
ルナは迷うことなく籠の中からクッキーを1つ手に取って食べ始める。
昨日ルナがクッキーが好きだと聞いたときに練習して作ったそうだがルナは気に入ったのかご機嫌になる。
「それにしてもルナの苦手分野が多いな。魔法薬学と実技以外は全部苦手か」
「むしろ何で魔法薬学は得意なの?しかも超真剣だったしアレンがビックリしてたよ」
「魔法薬学は真面目に受けないと大変なことになると学んでるからな」
「実体験がありそうな言い方だな」
「ある。爆発だけならまだ良かったが大変だったのは近くにいたお父様とお母様と講師を3日間眠れなくしてしまった」
だから魔法薬学は慎重になってるのかと理解したが魔王も相当な被害に遭ったんだなと少し同情する。
だが他の授業より危険度が高いのは魔法薬学なので真面目に受けてくれて助かってはいる。
しかし今日の授業分だけでも他の教科が壊滅的なのはどうにかしないといけない。試験はまだまだ先だが暗記だけでは絶対忘れるしルナの為にもならない。
魔法薬学と実技(魔法実技、剣術、戦闘術)、魔法理論の他に魔力制御学、魔法植物学、魔物学、世界史そして今年からはダンスや礼儀作法も加わっている。治癒魔法学や召喚学などの選択授業もあるがルナはまだ留学したばかりなので必須授業だけにしている。ただ実技に関しては今のルナは圧倒的に強いので1割程度に手加減して臨んでいるためルナはちょっとつまらなさそう。
噂では魔界学が選択授業に入る可能性があるらしい
「疲れたから休憩したい」
「さっき休憩したばかりだろ」
「頭に入ってこないから頭が受け付けてないということだ。そもそも私は留学してきたばかりだぞ」
「そう言ってさっきも休憩しただろ。それに今回の試験はどれくらいの理解力があるか試す為の試験でもあるから頑張らないと今後にも影響するかもしれないからな。留学してきたばかりだと言ってもさすがに世界史は分かるだろ」
「教科書に書いてあることと現実が相違している。なんか魔族側が先に起こした戦いみたいに書いてあるが違うぞ、人間が先に魔族に嫌がらせしてきて魔族は人間からケンカ売られたから買っただけだ。それなのに被害者ヅラしてるのなんかムカつくな」
「そもそも売られた喧嘩は買うなよ」
「魔界の教えでは先に手を出したら負け、売られた喧嘩は買っていいという言葉がある」
「火力が高い教えだな」
「でもなんでルナが戦いについて知ってるの?」
「伊達に118年生きていない」
「ルナちゃんって結構サバ読んでたんだ」
「サバ読むなんて次元じゃないぞ」
アレンはそう言いながらも結局休憩をすることにした。
ルナが今まで勝手にできたことを文字で説明するだなんて難しいから仕方ない部分はあるが魔王城できちんとそこも教えておいてほしい。
「ルナちゃんはまだ覚えないといけないことが沢山あるから大変だろうね」
「手加減してほしいものだ」
「理解しちゃえばルナもここまで苦労しなくてよくなるんだけど」
「来週からは談話室で勉強会する?ルナちゃんと同室誰になるんだろう」
「何の話をしてるのだ?」
「寮の話だ。今は改築中で来週から寮生活が始まると今日の授業前に先生が説明してた」
「そうだったか?」
「えっ、結構長く話してたよ」
セシルが言うがルナは全くピンときてなくてアレンはたまに話を聞かないときがあるなとつくづく思う。
必要な物は各自で準備しなければいけないが一応寮生活の連絡は転送魔法で学園から各自の家にしてあるだろうから使用人はもちろん受け取ってるはずだろうけどルナの寮生活が心配になる。
「いいか。学園の寮は改築工事をしていたが、来週には終わる。だから来週から全寮制に戻るんだ」
「全員、学園に住むのか?」
「ああ。特別な事情がある生徒以外はな」
「私は今の屋敷から移る?」
「そうだ」
ルナは少し考え込んだ。現在ルナが暮らしている屋敷は、魔王が留学中の滞在先として用意したものだ。
使用人もおり食事も出る。魔王城ほどではないが、ルナにとって不自由のない生活のはずだ。
「ルナ、ちゃんと話は聞いておけ。寮生活になったら使用人は連れて来られないからな」
「それは困る。難しそうなのは全部任せていたのに…これからはアレンがカバーしてくれるのか?」
「寮は男子寮と女子寮で分かれてるから無理だ。異性は入れないように結界が施されているし壊したら怒られるからするなよ」
そう言うとルナはショックを受けていて世話される気満々だったのかとアレンは思いながらルナと同室になる者には苦労をかけそうだと予感する。
「仕方ないか…人間のルールは守らねばならない。それで何を持っていけばよい?」
「必要なのは着替えと日用品くらいだ」
「それだけ?」
「机や椅子、寝具は用意されている」
「棚やベッドは?」
「本棚もクローゼットもあるしベッドもある。各部屋にトイレと風呂も備え付けられている」
「風呂まで?」
「ああ。共同浴場もあるが使いたくない者は自室で済ませられる」
ルナは真剣に必要な物を考え始める。
「着替えと日用品……使用人にお願いしたほうが早そうだ」
「自分でも確認しろよ」
「使用人のほうが、私に必要な物を知っている」
「本人より使用人が把握しているのか」
「使用人は優秀だ。ちょっと難ありな部分はあるがな」
難ありな使用人はどうかと思うがルナはそこまで重要視してなさそうなのでそこには何も言わないことにした。
本当にちょっとだけならいいが。
「だが男子寮と女子寮が分かれてるなら4人一緒ではないのだな」
「そうだよ。二人部屋だからだいたい同じクラスの人と一緒の部屋になることが多いかな。だからもしかすると私と同室になるかもしれないよ」
「ミアと同じ部屋ならミアがいろいろ手助けしてくれるのか」
「そうだよ、でも誰と同室にするかは先生が決めるからわたし達は発表まで待つことしかできないからね」
「そうか…4人部屋で一緒だったらもっとよかったのだが…なんで男子寮と女子寮で分かれてるのだ」
「いろいろと事情があるんだよ。ルナちゃんに説明したいけどどう説明しようか。直球に言うとアレンに注意されそうだし…」
「男女共にしたらエッチなことでも起きるのか?」
「直球すぎるよ!なんでルナは平然と言うの!」
「サキュバスが言ってたぞ、人間は男女を共にするとすぐ交尾すると」
「サキュバス、なんてことをルナに教えてるんだ…」
ルナは純粋なので疑いもせずに信じる節がある。
性知識は勉強したぞと言わんばかりに堂々としているが魔法の方を勉強してほしい。
「人間界に同人誌というものがあるらしいな。人間の勉強と性知識を身につけないといけないとサキュバスに言われたから魔界で同人誌読んで勉強したぞ。絵は綺麗だし話が面白いな」
「ルナはもっと学ぶべきことがまだある。それに同人誌だけだと偏るだろ」
「大丈夫だ。それに人間社会には違法な人身売買や弱い者を騙して身体を売らせる者がいるらしい。性教育を受けていないと何をされているか分からないまま都合よく身体に覚えさせられることもあると聞いた。だから同人誌は人間が描いたものだから勉強になると言っていた」
「全然大丈夫じゃないよ…間違ってないけど同人誌じゃなくてももっとルナに分かりやすいし教材あるのに」
「どうせ教科書みたいに難しい言葉で書いてあるに違いない。それに偏らないように学園モノとか拘束されてるやつとか見せてもらった。ちなみに留学前にサキュバスから勉強用として新たな同人誌貰ってきたぞ」
ルナが鞄から1冊の同人誌を取り出すとやはりというかR18もの。このままではルナの性知識が歪んでしまうのも時間の問題。
そもそも同人誌でも健全なものは沢山あるしそっちを先に読んでほしい。あと同人誌を鞄に入れたままにしないでほしい。
「これはまだ読んでないやつだが、勉強したらアレンで実行するつもりだ」
そうルナが宣言した瞬間、アレンは同人誌を没収した。
「あっ!まだ読んでないのだぞ!」
「俺で実行するつもりと言ったら没収されると思え」
「アレンだけ独り占めして読む気だな…サキュバスが『ルナ様は快楽調教が好きそうだから厳選したから楽しんで勉強できるはず』って言って私にくれたのに…もしかしてアレンが勉強して私にしてくれるのか」
「するわけないだろ」
こんなところでルナの性癖を知るつもりはなかったがミアが「快楽調教…ルナってそういうのが好きだったんだ」と顔を赤くしている。
「いいかルナ、同人誌はあくまで娯楽本だ。勉強用には向いてないしルナはまず先に健全な本で学べ。そこまで同人誌がいいならそういう描写がないのを読め」
「純愛モノと言うやつか。ずっとイチャイチャしてるだけの本もあったぞ」
「純愛ならまだいいがルナは何もかも飛ばしすぎだ」
「そう言われても私は恋愛初心者だぞ。だから同人誌は返してほしい。将来アレンと結婚したときに必要なものだ」
「俺と結婚する前提で話すな。それに恋愛初心者はいきなりこんなハードな内容で学ぶな」
すると見守っていたセシルが何かを閃いた。
「だったら良い提案があるんだけどさ、ルナちゃんが試験で赤点回避したら俺とミアはルナちゃんを撫でる権利が貰えてアレンとはデートするご褒美があるでしょ?それに加えてどれか1つでも筆記で90点以上取れたら同人誌返してもらうのはどう?」
「だったら魔法薬学で」
「魔法薬学の試験は実験だけで筆記はないんだよ。筆記は全部ルナちゃんが苦手なやつしかないから」
セシルの提案はルナを悩ませる。同人誌は返してもらいたいが90点以上取らなければいけない。
しかも得意なものは筆記がないときた。仕方がない、同人誌の為にも腹を括るしかなさそうだ。
「90点以上取れば同人誌も返してもらえてアレンとデートも出来てミアとセシルに撫でてもらえる、よく考えたら最高のセットではないか」
「やる気が出たようで良かったよ」
「ただし同人誌を返してもらったとしても実行するな。読むだけにしておけ」
「せっかくサキュバスから教えてもらったのに… 相手を誘惑する方法と魔力を奪う方法について」
「…それどっちもサキュバスのやり方であってルナには合ってないんじゃない?ルナは魔力奪うわけじゃないし誘惑が必要な時って無いと思うけど。それにその内容は同人誌に載ってないでしょ」
「……たしかに。では勉強損ではないか。道理で同人誌の内容とサキュバスが教えてくれる内容が一致しないわけだ」
今更気付いたのかルナは溜め息を吐く。だが同人誌は返してほしいのか勉強は頑張るようでクッキーで糖分を補給しながら「90点か…」と呟いている。
「ではこの学園ではエッチなイベントなんてないのだな…」
「そんなの無いよ。ちゃんとイベントについて転入時に年間予定表渡されたでしょ?それに載ってたはずだよ」
「読んでない」
「割と重要なことだからちゃんと読まなきゃ駄目だよ!」
「私はミアのことを大好きな友達だと思ってるからいろいろと教えてくれるか?」
「ルナったら〜!わたしだってルナのこと大好きだよ」
そう言ってミアはルナに抱きつき頬をくっつけている。
こうして見ると平和そのもので癒やしの空間だ。
「甘え上手になったねー。ルナちゃんの相部屋がミアなら安心できるんだけどね」
「まあ、さすがにそこは配慮してくれるはずだ。今ルナと仲が良いのは俺達だしルナの機嫌を損ねるわけにはいかないしな」
そこは先生が上手くまとめてくれるだろう。それにミアは友達として信用できるが他の女子と組んでアレンのことが好きな女子と一緒だと最悪ルナが嫌がらせを受けるかもしれないので出来ればミアとルナは同室であってほしい。
「でもさすがに学園イベントは知っておいたほうがいいから教えるね。まず大きなイベントとしては魔法披露宴」
「何をする?」
「これはね自分が得意な魔法を披露するの。学年ごとに代表が選ばれて外部の人も見に来るよ」
「本気を出してよい?」
「駄目。ルナちゃんの本気は学園がめちゃくちゃになるからね」
「残念だ」
「次に魔法文化祭〜!」
「文化祭?」
「各クラスやサークルが出し物をするの。模擬店とか劇とか魔法展示とか」
「おお!同人誌で見たぞ。メイドとかバニーガールとやらをしてエッチなことをするやつだな」
「バニーガールもエッチなこともしないよ!あ、でもメイド喫茶とかはするかもだけど」
「重要な行事なのだな」
「そこに食いつくんだね。もちろん健全なものだから」
「おばけ屋敷とやらをするなら本物の幽霊を連れてくることも可能だ」
「いいよ偽物で!私お化けも幽霊も苦手なの〜!」
「幽霊はミアに嫌われているのだな。幽霊が知ったら悲しむだろうから言わないでおくか」
セシルが笑いながら続きを引き取る。
「それからデビュタント。これ重要だよ」
「ああ。今年から本格的に社交界へ出る人も多いからな。特に貴族にとっては大事なことだしルナは公爵令嬢設定だから絶対に必要だ」
「デビュタントは社交界への仲間入りの踊りと聞いたことがある。アレンと踊る?」
「相手は自由に決める場合が多いけど婚約者がいる人は婚約者と踊るよ。デビュタントはたとえ将来何になろうとも必要な場合も出てくるかもしれないし」
「なるほど。アレンは私と踊ることで決まりだ」
「まだ何も決まっていない」
アレンが即座に否定するが正直アレンはルナと踊るほうがまだ安全な気がしていた。どうやらセシルもミアと踊るほうがいいと思っているらしく、他の女子と踊って争奪戦になったり何かを仕込んだりされそうで油断ならない。
舞踏会でグラスに媚薬や毒を仕込まれていたり踊っている最中に魅了魔法をかけられたりしたなどとよく話が出てくる。
「あ、そうそう今年からは仮装パーティーもあるよ」
「仮装?」
「魔物や精霊、昔の英雄とか好きな姿に仮装して学園を回るの。多分ルナが留学してきたのと和平の為に取り入れたんだと思うよ」
「私は魔王の娘の仮装をする」
「それは正体だ」
「逆に誰も本物とは思わないかもしれないよ」
「やはりそうだろう」
「肯定するな。角や翼を出したら即バレする」
「偽物だと言えばよい」
「お前は嘘が苦手だろ」
「仮装パーティーだから許される」
「危険すぎる。せめて別のにしろ」
「そこは追々考えねばな」
「実習イベントだと他校との交流会かな。他の魔法学園の生徒が来たりこっちから行ったりするよ」
「強い者はいる?」
「いると思うよ」
「戦える?」
「模擬戦はあるかも」
「出る」
「即決だね」
「本気を出せる?」
「多分出せないよ。ルナちゃんが本気出したら相手は怪我どころで済まないからね」
「つまらない」
「基準が厳しすぎるよ」
「それからダンジョン実習」
「ダンジョン?」
ルナが初めて心底興味を示したように身を乗り出す。
ダンジョンなら相手は人間じゃないので思いっきり戦えると思っているのだろう。
「何階層だ」
「実習用だから浅いよ。学年や班で決められた区域を攻略する」
「魔物は?」
「ホログラムで調整されてる。だが強さは本物と一緒だ」
「それにキャンプもあるし、温泉もあるから楽しいよ」
「温泉?」
「うん、疲労回復に効く温泉らしいよ」
「疲労回復か、魔王城にもあったな温泉」
「魔王城に温泉あるの!?」
「当たり前であろう。魔族はお風呂大好きだぞ。水浴びしかしなかった頃が懐かしい…もうあの頃には戻れないな」
「魔族ってお風呂好きなんだ。なんか水浴びしかしない想像だったけど」
「こればかりは人間に感謝しかないな。人間がお風呂に入ってるという情報を知って試行錯誤したら温泉ができた。ちなみにゾンビは立入禁止だ。温泉が臭くなるかゾンビが倒れるかどっちが先かという話になる」
「ゾンビ可哀想」
「ゾンビは土の中にいる魔族だからな」
「それなら寮の風呂の使い方は大丈夫そうだな」
まさかこんなところで魔王城の温泉事情を知るとは思いもしなかったが確かにルナと初めて会った時も髪艶はあったし肌もキレイでいい匂いがしてたからルナもかなりのお風呂好きのようだ。
セシルはそのまま続ける。
「ダンジョン実習は夜に班ごとの交流会もあるよ。料理したり焚き火を囲んだり」
「寝る場所は?」
「テントだよ」
「男女一緒?」
「別だよ」
「徹底しているな」
「当たり前だからね」
「ではこっそりアレンのテントへ行く」
「来るな」
「そういえばこれは何と言ったか…夜這いというもの?」
「言葉を覚えるな!」
ミアが慌てて話題を変える。
「それと学園トーナメントもあるよ」
「トーナメント?」
「学年別と全校部門があるの。魔法や武器の使用制限はあるけど、かなり本格的」
ルナの赤い瞳が輝く。相変わらず戦うのが好きなようだ。
だが授業の実技はかなり手加減していて少しつまらなそう。
「出る」
「これは絶対出ると思った」
「アレンも出る?」
「ああ。毎年出ている」
「去年は?」
「優勝した」
「では決勝で戦えるな」
「組み合わせ次第だ」
「私が全部勝てばよい」
「本気は出すなよ」
「またそれか」
「学園を消すな」
「消さないに決まっている。消したら和平も消えるかもしれない」
「それもそうだな。それに力を抑える魔導具が早く用意できたらいいが、今のままじゃルナだけ思いっきり戦えないだろうしルナには我慢させてることが多いしな」
学園長にも既に申し入れているがすぐに用意できるのは力を抑える罪人用の首輪でさすがにそれは…となり、今は職人にルナ用のアンクレットをお願いしている最中だ。
ルナは少し考えた後、妙に真剣な顔で尋ねる。
「優勝者への褒美は?」
「賞金と記念品。賞金は金貨50枚で記念品は珍しいアイテムが貰える。去年は学園唯一の金バッジだったな。卒業まであらゆる学内施設・授業・依頼を最優先で受けられる権力の象徴とか言ってたっけな」
「抱擁は?」
「ない」
「キスは?」
「ない」
「まさか結婚も?」
「ないって答えに決まってるだろ」
「では優勝しても意味が薄い」
「名誉があるだろう」
「アレンに勝てるなら意味はある」
「勝つ前提か」
「聖剣があれば互角だろうけどまだアレンは聖剣持っていない」
アレンも負ける気はないため、少しだけ口元を上げた。
「結構強気だな。まあルナの力は授業で見てるから知ってるが俺も負ける気はしない」
「アレンと本気で戦ってみたいから魔導具ができたら戦いたい。私が負けたら好きにしていいぞ」
「やめろ。それも同人誌の影響だろ」
二人の間に一瞬だけ、戦闘前のような空気が流れたがすぐに元に戻った。
ミアとセシルは顔を見合わせる。
「恋人候補というより宿敵みたいだね」
「両立するのだろう」
「するの?」
「同人誌ではよくある」
「また同人誌基準だね」
今度はアレンが季節行事を挙げる。
魔界に季節なんてないしいつも夜だからルナは季節自体も楽しみにしている。
「季節のイベントなら、星降り祭がある」
「星が降る?」
「魔力を含んだ流星が多く見える夜に、願いをする祭りだ」
「すごく綺麗で神秘的なんだよ〜!」
「願いは叶う?」
「伝承ではな」
「アレンと結婚できますように」
「イベント前から内容を言うな」
「1つだけ?」
「3つまでと言われている」
「ならキスと抱擁も入れる」
「全部俺に関係しているじゃないか」
「他に何を願う?」
「世界平和とかあるだろう」
「もう和平は結ばれている」
「維持を願え。かなり重要なことだろ」
「では4つ必要だ」
「欲張るな」
「星降り祭は恋人同士で見る人も多いよ!」
「本当か?」
「うん。願いを一緒にかけると結ばれるって噂もあるの」
「アレンと行く」
「まだまだ日程も先だぞ」
「あはは、アレンは断らないんだ」
「断って国を滅ぼすとか言われたらどうするんだ」
「私そこまで非情ではないぞ」
咳払いをしてアレンは続ける。
「夏頃には水精霊祭もある」
「水?」
「水の精霊へ感謝する祭りだ。街の水路に灯りを流したり水を使った魔法芸が行われる」
「精霊が何人いるかは知らないが全部の精霊に感謝しないのか?」
「場合によるが水の精霊は非常に友好的で街を潤す大事な精霊だからな。他の精霊は感謝しても恩を仇で返すような精霊だっている。恐らく人間が嫌いなだけなんだろうけど」
「精霊のほうが意地悪だな。人間は精霊が見えるのか」
「見える人と見えない人がいるよ。でも人様々かな、見える力を持ってる人もいれば精霊の存在を心から信じて見えるようになった人とかもいるから見える人と見えない人の差は精霊が選んでるんじゃないかって噂もあるの」
「それが1番妥当な考えではあるな」
「水精霊祭は水着の催しもあるよ」
セシルが何気なく言ったがルナが思いの外すぐに食いついてアレンを見る。
そういえば水着も同人誌でよくあるやつだった。
「私も水着を着る。アレンはどんなものが好きだ?」
「水着は何でもいいだろ」
「分かった。アレンにとって一番可愛くて魅惑的なのを選ぶ」
「せめて可愛いだけにしてくれ」
ただでさえ他の男を虜にしつつあるのにそこに魅惑的な部分は加わるとルナにどんな影響がいくのか予想できないし誰も放っておかないだろう。
するとミアは笑いながら言う。
「もちろん冬には雪祭りもあるよ」
「雪は見たことがある」
「魔界にも降るの?」
「一部地域では降る。だが黒い」
「黒い雪?」
「触ると少し温かい」
「それ雪なのかな」
黒い雪なんて魔界らしいが人間界の雪を見たらビックリするだろう。
そう思いながらアレンが説明を続ける。
「雪祭りでは雪像を作ったり氷の迷路ができたりする」
「雪像はアレンを作る」
「やめろ」
「もちろん実物大だ。大好きなアレンという題名にする」
「もっとやめろ」
「抱きつけるようにする」
「本人がいるのにそっちに抱きつくのか」
「よいのか?」
「言葉の綾だ!今のは忘れろ」
「アレン、今のは墓穴だったね」
「ルナの言葉に釣られただけだ…それと最後に魔法迷宮祭。学園全体に一時的な迷宮が作られる。班ごとに謎を解き出口を目指す」
「戦闘は?」
「魔法生物や罠はある。魔法生物はもちろんホログラムだけどな」
「本気で壊して進む」
「失格になる」
「なぜだ」
「謎を解く祭りだからだ」
「壁を壊せば近道だ」
「それだと謎解きの意味がなくなるだろ。それを禁止するための結界が張られる」
「念入りだな」
「過去に壁を壊した生徒がいたんだろうね」
セシルが言うとアレンは黙った。
その反応に、ミアが気づく。
「もしかして、アレンくん?」
「…1年目に少し」
「壊したのか」
「壁ではない。扉だ」
「同じようなものだ」
「罠だと思った」
「壊した?」
「……ああ」
「やはり私たちは相性がよいかもしれないな」
「そういう共通点はいらない」
すべての行事を聞き終えたルナはしばらく無言だった。恐らくイベントを想像しているのだろう。
そして真剣な顔で言う。
「そんな話、全く聞いていない」
「予定表に書いてある。今日にでも使用人に確認しろ」
「重要な話ではないか」
「だから読めと言っただろう」
「なぜ最初に口頭で説明しない?」
「普通は読むからだ。口頭で言っても忘れる可能性があるだろ」
「私は読まない」
「威張るな。今度からはちゃんと読めよ」
「そうだな…寮生活になると使用人連れて来られないというからな」
「ちなみに談話室があるからそこでいつでもアレンくんとセシルと会えるよ。談話室は基本何しても自由だからね」
「では談話室でマンドラゴラのチキンレースでもするか」
「聞いただけでも危なそうだからやめておけ」
「アレンが言うならやめておくか」
こういうところは素直で聞き分けがいい。
今思えば同人誌で勉強したからやけに距離が近かったのかと気付くが純粋にルナはただ勉強しただけに過ぎない。
「…早くアンクレットができるといいな」
いつもより優しい声色でアレンが言うとルナは微笑みながら頷く。なんだかんだ言いながらルナはかなり我慢を強いられているのでせめて実技の授業に関してはルナが思いっきり戦えるようにしたい。でないとストレスが溜まってしまう。
その中でも唯一の息抜きが同人誌になることだけは避けなければ知識を得たルナが何をするのか分からない。
籠の中が空っぽになり虚空を見つめるルナを眺めながらそう思った。




