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・エピローグC ゲートウェイ再稼動 1/1

 南半球でのスキャンを終えて帰路についた夕方、ゴンドゥからの緊急通信が届いた。出てみるとやつは興奮に顔を赤くして、カメラに身を乗り出してこう言った。


「一大事だ、ギド様! 500年間の沈黙を越えて――ゲートウェイから何かが現れた!!」


「へぇ。何かってなんだよ?」


「わからない……無人の恒星系基地からデータが送信されてきただけだから、憶測しかできないけど……とにかくすごいことだよ!」


「つまりゲートウェイが復旧したってことか?」


 開拓も発掘も道半ば。まだまだこの星でやらなきゃならないことばかりなのに妙なことになりそうな話だった。


「残念だけど恒星系基地のセンサーを信じるなら、復旧したのはほんの一瞬だけみたいだ。その一瞬の復旧状態を使って何かが通り抜けてきたんだと思う」


「まさか敵性体じゃないだろうな……? そいつらを迎え撃つ戦力なんてこっちにはないぞ……?」


 人間を殺戮する機械。人間を喰らう群れ。人類星間共同体の宿敵は数多い。そいつらに存在を知られたら厳しい生存競争に発展する。


「あ……これは……っ」


「何かわかったのか?」


「クジラ……クジラだ……」


「は? おい、まさかピンク色のクジラだとか言わないだろうな?」


「違うよ、白い宇宙クジラだよ! いや待ってっ、宇宙クジラが何かを乗せてる……」


「どういうこっちゃ……」


 気になったのかリタとアムがやってきて左右を囲んだ。ゴンドゥは俺たちにある映像データを送ってきた。

 ……本当に宇宙クジラだった。白く壮大で美しい宇宙クジラに小型の戦闘機がコバンザメのように張り付いていた。


 それが宇宙クジラの背を離れ、カリオペイアⅢへと発進すると――クジラはお使いを終えたかのように、再びゲートウェイを稼働させて向こう側へと帰って行ってしまった。


 宇宙クジラを使ってゲートウェイを動かすなんて裏技があるなんて、見たことも聞いたこともない……。


「そんなん……ありかよ……」


 宇宙の常識をひっりく返す光景だった。


「キド様、映像の偵察機から通信が届いた!! 識別コードは[人類星間共同体]!! これは、仲間からの救難信号だ!!」


「はぁっ、肝が冷えたぜ……。ひとまずは安心してもよさそうだな……。通信を開いて向こうの要求を聞こう」


「わかった、映像を共有するね」


 少し待つと画面に若い女が現れた。士官にはとても見えない。まるでどこかの姫君のようなドレスを着ていた。年齢はアムたちと同じくらいで髪が長く青白かった。


 彼女は俺たちにこう言った。『助けて』と。ついこの前も誰かから聞いたセリフだった。


「どうするの、キッド……?」


 リタは素性もわからない相手に同情して、悲観家のキッドにそう聞いた。


「リタ、キッドは助けを求めてきた相手を見捨てるような人ではありません。慎重で少し動くのが遅いだけです」


 救いを求める宇宙の姫君を相手に、慎重に考えて、それから返答した。


「ったく、武装もねぇのに宇宙に上がれだ? 無謀にもほどがあんぞ、お前ら。宇宙に上がるのは武器を掘り返してからだ」


 なんの運命の導きか、南半球で多数のレーザータレットを発見した。アークトゥルス級の同型からひっぺかえされた物と見ていいだろう。


「助けて、下さいますの……?」


 謎の姫君の問いに生殖能力すらない貧相なガキは答えた。


「後には引けねぇだろ、宇宙に続くパンドラの箱は既に開いちまった後だ。よう、500年ぶりだな、人類星間共同体のお仲間よ」


 かくなる上は仕方がない。再びアークトゥルスとポタモトリゴンを率いて星の世界へと帰ろう。宇宙にはもう叔父貴はいないが、俺にはゴンドゥと仲間たちの末がいる。


 再び[赤の公爵騎士団]を名乗るのも悪くない。失われた半生がそこにある。


「ああっ、ありがとうございます、天使様!! どうか、どうかお救い下さいっ、我が星の民を!!」


「こんな貧相な天使がどこにいるよ。俺は天使じゃねぇ、海賊だ。かつて存在して今もここにある[赤の公爵騎士団]の海賊ギドだ」


 閉ざされていたゲートウェイの向こう側、宇宙の真実を知りたくないと言ったら嘘になる。好奇心と可能性を信じて、仲間と共に再び宇宙に上がることに決めた。


 全ては海賊公爵バンドゥ・カークにこの船を任された日に始まった。細かな因果関係は全くわからないし理解りたいとも思わないが、とにかくこの異常事態はこの船に原因があるとしか思えなかった。


 古代船ポタモトリゴンごと敵母艦を吹っ飛ばしたあの日、あの瞬間、何かが起きた。それがなんだったかは無学な俺にはわからない。


 ただ全てがあの瞬間に始まったということだけは確信を持って言えた。


 謎はこれから解き明かせばいい。人はそのために母なる星から宇宙へと上がり、やがてその末がこのカリオペイアⅢに行き着いた。


 ゲートウェイの向こう側に行ってみないことには真実はわからない。ならば人が抱える永劫の病、知的好奇心に従って向こう側に渡るのみだ。


「アム、リタ、ポタモ。一緒にきてくれ。お前らがいないと俺は何もできないクソガキのままだ」


「うん、もちろん行く……」


「どこにでも行きます、置き去りは嫌です、

キッドがいないと私たちはダメなんです」


「大好き、超好き、メチャクチャにしたい……」


「ポタモ!! ヨーソロー、デストローイ!!」


 ゲートウェイの向こう側へ。その先に災いではなく希望があると信じて、かつて人類が手放した星から星へと渡る力を用いて、宇宙の真実を求めて俺たちは旅立つことにした。


 かつて我らの祖先がそうしたように、生まれ育った母星を不安を胸に抱えて離れて、見上げる他になかった隣の恒星系へと。


 宇宙はいつだって観測し切れないほどの謎と神秘に満ち満ちていた。


――――――――――――――――――――


 一説によるとブラックホールは宇宙の母だという。その内部にはもう一つの宇宙があると主張する者もいる。しかしあらゆる観測を拒み、光や時間すら歪め、全てを飲み込むその天体の真実の姿を見た者はいない。


 ブラックホールは星空を見上げる人類の好奇心全てを拒み、その胎内にもう一つの我らを抱えている。

 あの日、海賊ギドは確かに滅びた。それは変えようのない絶対の真実だ。


――――――――――――――――――――

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