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1・イーフェの告白

全4話で終了します。

よろしくお願いします。


 多分3歳くらいかな。自分という存在を認識しだす年頃。

 なんとなく自分の両手を見て、私、小さいなって思って。

 そうかあ、生まれ変わってるんだって気が付いたのは。


 前いたところとは、場所というより空間が違う。

 髪や目の色とかもそうだけど、生活様式も違うし、何より月が2つ浮かんでいる。

 異世界転生ってやつかって。


 以前の自分の名前も家族も思いだせなくって。

 でもその頃の一般常識はなんとなくわかる。

 あと、趣味かな。手芸が好きで、いろいろ作っていたような気がする。

 もう少し手が大きくなったら、何か作ってみたいな。


 そんな曖昧な前世だけど、それでも少し思い出したら、子供のままじゃいられなくて。

 要するに、大人びた発言をする生意気な子供に変化したわけだけど、両親や兄はかわいがってくれた。


 うちは貴族で、そこそこ裕福な暮らしだと思う。

 両親の仲も良好で、万年ラブラブカップル。

 うん、幸せだなって思える。


「父さまと母さまは、ラブラブだね」

「何それ。仲良しってことなら、そうだよね。二人は番だし」

 あるとき私と兄さまを放置して、二人でイチャイチャしているよくある日常風景を横目につぶやいていると、兄さまが教えてくれた。


「番って?」

「そっか、イーフェはまだ知らないのか。番っていうのはね、運命の恋人のことなんだよ」


 この世界には、番という存在がいるらしい。

 番は、見えない糸で結ばれているのだという。


 みんな番と結婚できるの?と聞けば、ほとんどの人が無理なのだそう。

 運命の糸は、誰にでも見えるわけではないから。

 ただ、番同士が会えば、一目でその存在がわかるのだという。


「それなら、ほかの人と結婚してから番に会った場合はどうするの?」

「昔はそれでかなり困ったことになったらしいよ。

 だから神様が天使さまをお遣わしになったんだ。イーフェも教会で会ったことがあっただろ?」


 そういえば、初めて教会に行って、羽が生えた人にあって「でっかい鳥がいる!」って叫んだな。


「人間は番の糸が見えないからね。天使さまが番以外が結婚するときに、糸を断ち切ってくれるんだ。

 それで結婚する二人の糸を結びなおしてくれる」

「切ってしまえば、もう番ってわからないの?」

「うん、そういうものらしい」


 にいさま、まだ若いのに物知りですのね。

 12歳と4歳の会話じゃないわと、メイドがぼそっと口にして、隣の先輩にどつかれていた。


「そういえば、エステルねえさまにも、番がいるんだよ」


 エステルねえさまは、とうさまの姉の娘だ。

 にいさまの1つ上の13歳、王都に行ったときにしか会えないけど、大好きな従妹。

 かわいくて優しくて、会うといつもかわいがってくれる。

 にいさまより寛大で偉大だ。にいさまにいつも怒られるから言ってるわけじゃない。


 ねえさまは、10歳のときにお茶会で、番に出会ったらしい。

 そのねえさまの番。ねえさまも、かあさまみたいにラブラブにされるのか...。


「何、その目」

「ねえさまも、かあさまみたいに...」


 閑話休題。



 1か月後、王都に行ったときに、ねえさまの番にも会わせてもらえた。

 細目のおだやかに微笑む人。

 ねえさまは性格は穏やかだけど、見た目は金髪、ぱっちりお目目のちょっときつめな美人さんだから、二人が並ぶと将来尻にしかれる未来予想図しか浮かばないけど、とても仲良しさんだった。


「番だって、どうやってわかるの?」


 ねえさまはうっとりとした表情で、


「お茶会の会場についたときから、なんとなくわかっていた気がするわ。

 なんだかドキドキするの。緊張しているっていう感じじゃなくって、これから誰かに会えるんだって。理屈とかじゃなくって、そう、なぜかわかるのよ」

「僕もそうなんだ。今日誰かに会う。きっと生涯大切にできる人にって」


 二人はその時のことを思い出して、また微笑んでいた。


「ねえさま、幸せそう」

「うん、よかったねえ」


 と、兄妹家族安心していたのだけど、その年の冬、流行り病でその人が亡くなったと聞いた。

 特に体が弱いわけじゃなく、たまたま質の悪い風邪だったと聞いた。あまりにも早い別れだった。

 とうさまとかあさまだけで葬儀に参列した。

 私たちも行きたいと駄々をこねたけど、今回はさすがにみとめてもらえなかった。


「ねえさまは、大丈夫?」


 葬儀早々に帰宅した両親に半べそかきつつ抱きつき尋ねる。


「うん、大丈夫だよ。いっそ、もっと泣いてくれたらよかったのにねえ」


 ねえさまは、気丈にふるまっていたそうだけど、目元を化粧でごまかしているのが見え見えだったらしい。

 まだ幼いその顔に施された不自然な化粧に、見ていた皆が泣けたそうだ。


「ねえさまに新しい番ができるのかな?ほかにもいるのかな?」


 私の質問に、とうさまは顔をくしゃっとゆがませて、私をそっと抱きしめた。


「番はね、一人だけなんだよ。だから...」


 とうさまとかあさまの泣く声が聞こえる。


 新しい番というものは存在しない。たった一人だからこその番なんだそうな。

 今、ねえさまはひとりぼっち。

 そう思うと私も涙が止まらなくなった。


 番の片方が亡くなると、糸は勝手に切れるらしい。

 今のねえさまの糸は、胸のところにぽつんと切れ端が見える状態なのだろうか。

 それはとても孤独で切ない。


**********


 ねえさまが17歳になって婚約が決まったと聞いた。

 そもそも貴族同士の結婚など、ほとんどが政略結婚で、番同士ではない。

 番が見つかれば貴族でも政略結婚は二の次になるらしい。

 無理やり政略結婚しても意味ないくらいラブラブになるからだそうで。

 まあ、番が見つかるのはかなり珍しいことなんだそうで、言うなれば、今回のことはよくある話なんだそう。


 今回のお相手は、ねえさまの学園の同級生なんだそう。

 で、お相手が、ねえさまに恋をしたらしい。

 そう、番以外でも、恋愛はするんだよね。

 恋愛と番の本能は、何が違うんだろう。


 お相手のクルト・ベンウィルさまは、ねえさまのおうちである伯爵領のふたつ隣の領主で、侯爵家の次男なんだって。

 ねえさまは一人っ子だから、そこらもよかったらしい。


「ねえさま、いやいやの結婚じゃなよね?」


 私は心配である。

 ねえさまは空気を読めるひとで、押し切られやすい傾向だし。


 元々ねえさまとはしょっちゅう文通していて、彼のことも手紙で聞き及んではいた。

 ねえさまは貴族が通う学園に在籍していて、そこの様子を手紙で教えてくれる。

 授業のことや、クラスメイト・先生。

 そして彼のこと。

 ただ、あまりいいこと書いてなかったような...。


「というか、文句ばっかり書いてあったよね」


 心配になって、速攻ねえさまにお手紙を送ったら、少し厚めの封筒が届いた。


「大丈夫よ、彼はいい人よ」と。

 そして、今までの文句一転、なれそめから現在にいたるまでの流れをこれでもかと書きまくって送ってきたのだ。

 なんだろう、この甘酸っぱい青春の1ページは...。


「のろけかい」


 とりあえず安心したよ。ふう。


 番以外が結婚する場合、まずは婚約式を行う。

 新しく運命の糸を結びなおすのだという。

 教会で天使さま立ち合いのもと、式がおこなわれるそうだが。

 ねえさま、次こそは幸せになるといいなあ。


**********


 婚約式は王都の教会で行われることになった。

 我々家族も招待されていて、久しぶりのねえさまご対面にわくわくしていた。


「ねえさまのお相手の方はどんな方かな。優しい人だといいけど」

「そうだね、私にも手紙が届いて、人となりはじっくり読ませてもらったけどね」


 そうか、みんなに分厚い手紙届いていたんだ。


「ねえさまが納得して幸せならいいんだけどさ」

「そこはねえ。僕らもとうさまかあさまみたいに、番に出会えたらいいけどね」


 うん、私たちも、ちゃんと幸せになれたらいいなあとは思うよね。


「とうさまたち見てると、何が正解なのかわからなくなるけどね」


 今だって、4人余裕で乗れるのに、馬車が別々なのでわかるよね。


「早く王都につかないかな...」



 ようやく王都の教会に到着。

 そのあたりからかな。急に胸がざわざわしはじめた。

 なんだろうこれ。ドキドキする。


「どうしたの?具合悪い?馬車に酔った?吐く?」


 デリカシー皆無の兄に心配されるけど、無視して自分の状態を考える。

 胸はドキドキ、顔はぽっぽ。なんでもないのになぜかとてもうれしい。そしてとても怖い。

 この状態は、いくら現在おこちゃまな私であっても、わかる。


「恋する乙女かよ...」


 これは以前ねえさまに聞いたことがある状態。

 まさか私の番がここに?

 でもなんだろう、すごく嫌な予感もするんだが。


 教会内の控室に案内されているんだが、近づくたびに動悸が増していく。

 そして、嫌な予感も増していく。


 ドアを開けて室内をのぞいた途端、その予感が確信に変わった。

 幸い私は両親の後ろにいたから、相手からは見えていなかったと思う。


 ねえさまの横に立つ、新しい婚約者...。

 なんてこった、ねえさまの新しい婚約者は、私の番だ!


 私は急いで部屋を出ようとしたけど、兄と手をつないでいたから、引き止められてしまった。


「イーフェ、どうしたの?」

「と、トイレ行くっ」


 手を振りほどいて部屋を出る瞬間に、ねえさまの婚約者と一瞬目があった気がした。

 だめだ、間違いない。


「まって」


 私を呼びとめる声が聞こえた。

 やばい、それだけで、泣きそうになった。

 間違いない、私の番だ。

 齢8歳で番発見かよ。

 でも、私は前世年齢考えれば大人の女。

 だからこそ、この選択は正しいんだ。

 私は逃げることにきめた。


 たとえ貴族であろうとも、子供は子供。

 子供が走るのはよくあることと、まわりの大人は私を止めることはなく、


「そんなに我慢していたのか」


 兄だけは生あたたかい顔で見送ってくれていたようだ。


**********


 でも逃げても、これで解決するわけじゃない。どうしよう。

 そうだ、とりあえず隠れようと考えた。

 婚約式さえすめば、私の番の糸は切られるのだから、それまでどこかに隠れていればいいわけで。

 そうでなくては。このままだと婚約式が大変なことになる。


 ねえさまは優しいから、私が彼の番だとわかれば、喜んで今回の婚約式をやめてくれるに違いない。

 だけど、私は知っているんだ。

 ねえさまがようやく立ち直って、今の彼を思っているってことを。


 思い切って、ねえさまに手紙で尋ねたことがある。ねえさま、前の彼を忘れて大丈夫?って。


「仕方ないことよね、前のあの人と比べてしまうのは。

 でもね、彼はそれでもいいと言ってくれるの。

 いつの日か、僕のことだけを思ってくれる日をいつまでも待つよって」


 手紙に書かれた言葉は、本当の気持ちだと思っている。

 だから、もう、ねえさまの心を壊したくない。


 廊下の突き当りの扉を開けると、そこは礼拝堂だった。

 まだ客は来ていなかったが、中央奥に人の気配があった。

 金の髪を腰まで無造作に伸ばし、白い翼を背にもつ、そう、天使が立っていた。

 思わず息を飲んで、立ち止まってしまう。


「おや、子供ですか。式はまだですよ」

 天使は私に微笑んでくれた。これが本物のアルカイックスマイルか。

 今日の婚約式のために来てくれていたのか。


 その時の私はひどく取り乱していた。

 走ってきたから、はあはあ息も乱れていて、多分こわばった顔をしていた。


「どうしました?」


 だから天使さまは、心配してくれたのだろう。

 その優しい声に、思わず私は救いを求めた。


「天使さま、今すぐ私の番の糸、切ってもらえませんか?」


 天使さま、吹いた。むせた。


 涙目の天使がむせて辛そうだったので、


「これ飲んで落ち着いて」

「いやこれ、聖水」



「で、どうしていきなり番の糸を切ってほしいと?」


 ようやく落ち着いた天使に、事情を説明する。


「なるほど、大切な従姉妹のために、あなたが犠牲になると」

「そんな風に言わないでよ。別にそんなつもりじゃ」


 先ほどまでの笑顔と変わらないのに、なんだろう、温度が下がった?寒気がする。


「あなたは、自分の番のことは考えないというのですか?番と出会えるということは史上の喜び。それをあなたは捨てようとしているのです」

「それは」


 確かに罪悪感がないわけじゃない 。


「彼だけではありません。人が番を見出すことはとても大変なことです。糸が見えませんからね。だからこそ、今回真の番が見つかったのに、即糸を断ち切ろうとするあなたが傲慢ではないかと思ったのです」


 悔しいが天使のいうことは一理ある。


「でも、私は自分のことよりねえさまを大事にしたい」


 それこそ傲慢なのかもしれない。


「ねえさまは、番をなくした。そのあと今の彼に出会って、恋しているって。

 今の彼とねえさまは時間をかけて今の関係を作ってきた。それを番だって理由で壊すのはおかしいと思うの」


 そのとき、部屋の外から声が聞こえてきた。もう間に合わない。


「天使さまっ」

「しょうがないですね」


 天使がふっと息を吐き出すと、天使の周りがふわっと淡い光を放った。

 その光が部屋全体を光らせ、部屋の外の声が聞こえなくなった。


「少し時間かせぎですが。しばらく誰も入ってこれませんよ」

「ありがとう、天使さま」


 天使は私に近づくと、片膝をついて目線を合わせてくれた。

 ひえええ、恐れ多い。


「面白い声をだすなあ」


 あれ、声にでてた。


 そして天使は私をじっと見て、うん、そうかとひとり納得していた。


「君、かわった魂をもっているなと思っていたけど、前世を思い出しているんだね」

「そこまでわかるんですか?」

「一応天使だからね、いろいろ見えるんだよ?」


 あれ、アルカイックスマイルが違う意味に思えてきたんだが。

 冷や汗とまらん。


「そうか、だから番という常識をあまり気にしないと」

「そうです、私はねえさまと彼が今まで作ってきた絆のほうを大切にしてほしいの」

「番の糸より、絆の糸ですか。面白いことを言いますね」

「お願い、ねえさまを助けて」


 天使が片手を私の頭の上にのせてきた。


「何を」

「あなたは変わった前世もちですね」


 思いだせませんか?

 その途端、頭の中に映像が流れてきた。


 あれは前世の家、家族、学校、友達、そして大切な人。

 人、人、あれ、一人じゃない、けっこういるわ。


「そうですね、たくさん恋愛しましたね。そして苦労しましたね」


 そうだった、なんというか、うん、惚れっぽかった。うん。

 すぐ好きになって、振られて。

 しかもあんまりいい人に巡り合えなかったというか。


「男を見る目、ねえな~」

「それは言わないで...」


 貢いだり、暴力ふるわれたり、いいようにこき使われたり。

 どうしても好きになってほしかった。

 いつか優しくしてもらえるかもって、尽くして尽くして、それで捨てられたんだ。


「前で懲りたのかな。あなたは無意識に恋愛から逃げていますね。

 だから番を切るという選択が簡単にできるのですよ。

 今回あなたが番だと言っても誰も怒りません。

 むしろ祝福されるでしょう。唯一の人に生涯愛されるでしょう。

 それでも切りたいと思いますか?」


 そうだ、今回は絶対祝福される。絶対愛してもらえる。多分ねえさまも許してくれるだろう。

 だけど、私の中の私が言うんだ。本当に?って。


「私がいた世界には、番の糸なんて存在しませんでした。

 もしかしたら、運命ってあったかもしれないけど。

 でも、普通はお互い出会って一緒に生きて、そこで信頼関係というか、絆を作るのだと思うんです。

 だからこそ、お互いを一から認識してはじめるほうが正しく感じます。

 ねえさまは、私に教えてくれました。今日は婚約者とこんな話をした、喧嘩した、笑った。

 そうやって二人の絆を作っていったと。

 私はその絆を切りたくないんです。

 番の糸よりも自分たちで作った絆の糸を大切にしたいんです」


 そのとき、扉を叩く音が聞こえた。


「もう時間ですね」


 扉が開いて、みんなが入ってきたのだ。


「あれ、イーフェ、先に来ていたの?」


 兄さまがうずくまる私の手を引いて立たせてくれる。

 天使さまは、いつのまにか祭壇の前に立ってみんなを迎えていた。


 そうか、間に合わなかったのか。


「ほら、席につくぞ」


 兄に連れられて、私も礼拝堂の席に着席した。


「それでは婚約式をとりおこないます」


 教会の神父さまが婚約式の開催を告げる。


 これからねえさま達が入場してくる。

 もう終りだ。

 思わず天使さまを睨んでしまう。

 私の視線に気が付いたのか、天使は私を見て口元に軽く笑みをうかべた。


 背後の扉から二人が入場する音が聞こえる。

 親族がおめでとうと声をかける。

 二人がだんだん近づいてくる。


 私の横を通りすぎて、二人と目があった。

「ねえさま、おめでとう」という兄の声が聞こえる。

 ねえさまと彼がほほえんで、こちらを見ていた。

 そして次の祝福の声に視線を向けて、祭壇前にゆっくり歩いていった。


 彼は私をちらと見ただけで、それ以上の反応はなかった。

 どういうこと?


 え、もしかして番じゃなかった?うそ私の勘違い?ええええ、やばやばん、私のあほってこと?

 番じゃなかったんかーい。


 祭壇で、婚約式がはじまる。

 天使が中央に立ち、その前に姉さまたちが並ぶ。


「今日このときをもち、二人の番の糸を断ち切り、新しい糸を結びます。よろしいですか?」


 二人は互いにはいと答え、微笑みあっている。

 天使が右手をあげると、天使と二人の周りに丸い光の円が浮かびあがった。

 光は天から円柱状に降り注ぐ。


 その中を見ると、ねえさまたちの胸元から赤い糸が出て、まるで水の中のようにその糸が揺れているのが見えた。


 ねえさまの糸は胸元で切れた状態だった。それをねえさまは少し哀しげに見ている。

 彼の糸はつながっているのか、胸元から円柱の光の外にぴんと張っているのが見える。

 天使は彼の糸をつかむと、もう片方の指で軽く押すしぐさをする。

 すると、糸が切れて、円柱につながっていた糸が消えてしまった。

 おおと、会場にどよめきが響く。


「やっぱり番の糸が切れるのは、見たくないわね」

 後ろのおばちゃんの声が聞こえて、それをしっと咎める声もする。


 天使はねえさまの糸を持ち、二人の糸を結びつけた。


 かるく、ふんわり、一重結びだ。


「私は今軽く糸を結びました。これでは簡単にほどけてしまうかもと思う方もおるやもしれません。しかし、結び目はあなたたち次第なのです」


 結ばれた糸は波にただようように、ふわりと揺れて浮かんでいる。


「あなた方はこれから互いに慈しみあい、絆を深めていくでしょう。その心が結び目を強くしていきます。やがてそれは”結び芽”となり、自らの力で糸は太くつながっていくことでしょう」


 いつかそこから花が咲くかもしれませんね。


 糸が淡く白く光る。


「ここに新たなる番が生まれた。二人に祝福を」


 天使の声に円柱の光が答えるかのように瞬き、そして消えていった。

 新たなる番の二人に、みんながおめでとうと祝福の拍手と掛け声を贈る。

 それに応えるように、ねえさまたちは軽くキスをするのだった。


**********


 今、私は、婚約式後のガーデンパーティ会場にいます。

 ねえさま達は幸せそうです。


 ねえさま達におめでとうって伝えたら、二人ともうれしそうだったな。

 私の従姉妹よ。妹みたいなのって紹介してくれて。

 エステルから聞いてるよ。これからは僕もよろしくねって、優しく話してくれて。

 私はねえさまの式に感動して、泣きっぱなしってことになっている。


 涙が、止まらない。


「ねえさまああ、しわわぜになっでねえええ」

「鼻水ふけや」


 兄には迷惑かけてすまんが、今日はこのまま許してほしい。

 これは感動の涙だ。決して番を失った悲しみなんかじゃない。

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