令嬢の話術
そして、ヴァンによる説教の翌朝。私たちは、国境にある関所へとたどり着いていた。この関所を抜け、森を過ぎると祖国であるナイメリア国になる。良かったと安堵のため息を漏らした私に、予想外の出来事が待ち受けていた。
「え、出国出来ないってどういうこと?」
「ん~、なんかね、警備強化中だとかでどこの誰なのか身分を明かさないと通れないんだってさ」
私の疑問にカインが困ったように答えてくれる。
カインの話によると、身分を明かすために、身分を証明出来るものを本人が提示する必要があるとの事。普段ならば、従者が通行手形を見せることで関所を通ることができるのだが、それでは通すことが出来ない。つまり、私探しの手がここまでのびているということになる。急いでいたつもりだったが、どうしても馬車と早馬とでは差がうまれてしまうのだろう。ヴァンやカインが追っ手をどうにかしてくれていたのは知っていたが、相手側がこういう手に出てくるとは思わなかった。というよりも、相手側にとっての悪手でしかなかったので思考の外に追い出していたのだ。
しかし、今更嘆いていたところで、状況は変わらない。密出国するのではなく、正々堂々と関所から出国したいと言ったのは私だ。ならば、私がここを切り抜けるのは当然だろう。
「私、関所番に話をつけてくる」
「「は」」
私の一言にヴァンとカインが同時に反応する。仲いいなと思っていると、ヴァンがため息混じりに口を開いた。
「あのねぇ、そのまま捕えられたらどうするの?その可能性は考えてないの?」
「こんなことをする人たちだから、ないとは言いきれない。でもね、守ってくれるんでしょ?」
私を見つめるヴァンを私も負けじと見つめ返す。少しして、ため息とともにヴァンの視線が私から逸らされた。
「あはははっ!ヴァンちゃんこれは一本取られたね~。リアの勝ちだよ」
「じゃあ…!」
「挑発して相手を逆上させないこと」
「いい?」と、確認してくるヴァンに何度も頷いてみせる。武器を扱えない私にも出来ることはあるのだと、認めてもらえたような、信頼してもらえているような気がして嬉しくなった。
◆◇◆
馬車を降りてヴァンとともに関所番の所へいくと、ガラの悪い関所番の男が2人いた。私を見るとニヤニヤと馬鹿にしたように笑いながらコソコソとおしゃべりをし始めたので、私は大きな声で2人に話かけた。
「すみません、ここを通りたいのですが」
「なんだぁ?嬢ちゃん、さっきの男にも言ったが、身分を証明してくれなきゃあ通せないんだよぉ。女には難しいか?くくくっ」
2人のうち、長身の男が少し離れた所にいるカインを指さしながらそう言った。
「身分を証明できればいいのですね?」
「だからそういってんだろ」
「では、これを」
私が言質は取ったぞと言わんばかりに、再度確認するともう片方の背が低い男が少し面倒くさそうに答えたので、私は首から下げていたペンダントを取り外して目の前の男達に見せつけた。
「私はエミリア・スカーレット。生まれはナイメリア国スカーレット公爵家。これは、我がスカーレット家に代々伝わる家紋が彫り込まれたペンダントです。どうぞご確認を」
はじめは嘘つくなよと馬鹿にしたように、ペンダントを覗き込んできた彼らだったが、本物と分かると急に態度が変わりだす。
「まじかよ!?…そういえば、特徴が合ってるような…?」
「じゃあ、この女があの?」
ペンダントを胸元にしまう私をよそに、彼らはこそこそと話している。やはり、この関所には追っ手からの知らせが届いていたのだろう。証拠に彼らはスカーレット家の家紋を知っていた。関所の門番をするぐらい身分の低い者が、自分の地元ではない領地の、ましてや他国の公爵家の家紋を知るはずがないのだ。
「これで身分は証明できましたね。では、私たちはこれで失礼します」
やるべきことはやったと、私が馬車へと戻ろうとすると男たちが声をかけてきた。
「すまんなぁ、貴族の嬢ちゃん。ここをあんたに通らせるわけにはいかねぇんだわ」
「お迎えがくるまでここで大人しくしていてもらおうか」
またあの見下すような笑みである。…数分前の自分の発言さえ忘れてしまうほど彼らは馬鹿なのだろうか?
「失礼ですが、あなた方は身分を証明できればここを通すと仰いましたよね?」
「ああ、そうだよ。だがな、ちと事情が変わったんだ」
「もしかして、エンフィオネ国は前言撤回をするのが当たり前のお国柄なのでしょうか」
「なんだと!?」
おっと、少し挑発しすぎたみたい。後ろのヴァンから、怖いオーラが振りまかれている。私は咳払いをして、話を続けた。
「私はこの国に賓客として招かれました。ということは、なんの罪も犯していない私の身柄を捕らえることは出来ないはずですよね?…王からの命令がない限り」
「そ、それは…」
「エンフィオネ国王の命令というのであれば、従いますが、そうではないのでしょう?騎士団も近衛兵も動いていませんしね」
関所番の彼らが言い淀む。私の発言はどうやら的をいていたようで、彼らは反論を口に出せないでいる。
ここでもう一押し、と私は彼らにニッコリと微笑みかけた。
「ということですので、通っても構いませんね?」
「「ど、どうぞ……」」
「ありがとうございます」
社交界で培った話術を舐めないでよね?




