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パラレル会議 影の牢

地獄の執務室。静かな時間だった。


こはくは窓際。転生後清明はその隣。

転生前清明は書物を読んでいる。

道満だけが仕事をしていた。


珍しく平和。だったのだが。

転生前清明がふと顔を上げる。


「そういえば」


道満の眉がぴくりと動く。嫌な予感。


「お前、召喚されていない時はどこにいるのだ?」


沈黙。転生後清明も顔を上げる。

こはくは静か。道満だけが止まる。

 

「……何故そんなことを聞く」


転生前清明は普通だった。


「気になった」

「式神は待機場所があるのだろう?」

「屋敷か?」


転生後清明も少し興味を持つ。


「確かに」

「お前、普段どこにいる」


道満は深く、深くため息を吐いた。


「聞いて楽しい話ではないぞ」

「聞こう」


即答。最悪だった。

道満は筆を置く。

それから、妙に皮肉っぽく笑った。


「影の牢だ」


転生前清明が瞬きをする。


「牢?」

「こはくの内側にある領域だ」


静かになる。転生後清明がゆっくり顔を上げた。


「……内側?」


道満は淡々と続ける。


「召喚されていない時、俺はそこへ落とされる」

「自由はない」

「出入りも不可」

「時間感覚も曖昧」

「ただ主の内側へ沈められている」


転生後清明、停止。転生前清明も止まる。

道満は皮肉げに笑った。


「生前、力を求めた代償だ」

「黒炎を授かり」

「死後は式神となり、永遠を主へ差し出した」

「その結果がこれだ」


静かな声だった。

慣れている。受け入れている。だから余計に重い。

転生前清明がぽつりと言う。


「……近いな」


転生後清明も真顔だった。


「近いどころではない」

「こはくの内側?」

「そこへ永遠に?」


道満は肩を竦める。


「契約だからな」

「逃げ場はない」

「完全従属だ」


転生後清明、静かに固まる。

道満はさらに続ける。


「召喚されれば出てくる」

「命じられれば動く」

「終わればまた沈む」

「自由意思は残っているが、存在そのものは縛られている」


転生前清明が小さく息を吐く。


「……重いな」


転生後清明はもっと深刻だった。


「お前、それを平然と受け入れているのか」


道満は鼻で笑う。


「今さらだ、もう染み付いている」


沈黙。

転生後清明がこはくを見る。

静かな白。穏やかな空気。

そしてその内側に、永遠に沈められている道満。

想像してしまう。


「……熟年夫婦では?」

道満「やめろ」


転生前清明も真面目に考え始める。


「伴侶より近いのではないか」

「存在の保管場所が内側なのだろう?」 

「やめろと言っている」


転生後清明、さらに追撃。


「しかも永遠」

「死後も逃げ場なし、自由なし」

「主の内側」

道満「説明を繰り返すな」


転生後清明は本気で衝撃を受けていた。


「私は共にいたいと思っている」

「だがお前は、既に“こはくの一部”みたいになっているではないか」


道満、沈黙。

転生前清明が静かに頷く。


「なるほど」

「だからお前、“離れる”という発想が薄いのか」

「戻る場所が最初からこはくの内側なのだな」


道満は顔をしかめた。


「……好きでそうなったわけではない」


転生後清明が即答する。


「だが嫌ではないだろう」


沈黙。完全図星。 

道満は数秒黙ったあと、低く返した。


「……嫌ならとっくに壊れている」


転生後清明と転生前清明が同時に黙る。

重い。思ったよりずっと重い。

こはくは静かにそこにいる。何も言わない。

だが道満は、そんなこはくの近くで普通に仕事を続ける。慣れている。

永遠に縛られている男の顔だった。

転生後清明がぽつりと呟く。


「……私、意外と軽いな」

道満「比較対象がおかしい」


 

地獄の執務室。

先ほどの話題がまだ尾を引いていた。

転生後清明は完全に考え込んでいる。


「こはくの内側に永遠に縛られている……」

「召喚されていない時も……」

「自由なし……」


ぶつぶつ言っている。

道満はうんざりした顔だった。


「いつまで引きずる」


転生前清明は静かに言う。


「いや、かなり衝撃的だぞ」

「普通の式神契約ではない」

「伴侶より近い」

道満「その表現をやめろ」


転生後清明は真面目だった。


「私はこはくと共にいたいと思っている」

「だが、お前は既に」

「“帰属先がこはくの内部”なのだろう」

「重すぎる」


道満は深いため息を吐いた。


「……だから言っただろう」

「聞いて楽しい話ではないと」


転生前清明は興味深そうだった。


「影の牢、とはどんな場所だ」


道満は少し黙る。

それから皮肉げに笑った。


「静かだ」

「暗い」

「広い」

「逃げ場はない」

「主の気配だけがずっとある」


転生後清明、静かに息を飲む。


「……」


道満は肩を竦めた。


「我が主は束縛が強いのでな」


空気が止まる。

転生後清明、ゆっくり顔を上げる。

転生前清明も止まる。


「……束縛」

「強い」


道満は淡々としていた。


「式神などそんなものだ」

「契約とは首輪だ」

「特に俺は深く繋がりすぎた」

「だから逃げ場もない」


転生後清明、真顔。


「それを受け入れているのか」


道満は鼻で笑った。


「今さら何を拒む」


転生前清明がぽつりと言う。


「だが、お前その言い方少し嬉しそうだな」

道満「気のせいだ」


転生後清明が静かに頷く。


「分かる」

「嫌なら“束縛”などと軽口にしない」

「本当に苦痛なら、もっと憎む」

道満「分析するな」

 

転生後清明は本気で考え込んでいた。


「……なるほど、だからお前は余裕があるのか」

「私はまだ“傍にいたい”段階だ」

「だが、お前は最初から戻る場所がこはくの中に固定されている」


道満は顔をしかめた。


「余裕などない」

「むしろ逃げ場がない、永遠に主の気配の中だぞ」


転生後清明、数秒沈黙。そしてぽつり。


「羨ましいな」

道満「は?」


転生前清明も少し驚く。転生後清明は真顔だった。


「どれだけ離れても戻る場所が決まっている」

「主の内側に居場所がある」

「完全帰属だ」

「かなり理想に近い」

道満「お前の理想は危険だ」


転生後清明はさらに続ける。


「しかも主はこはくだ」

「静か」

「落ち着く」

「気配が穏やか」

「永遠にその中」

「悪くない」

道満「お前は本当に駄目だな」


転生前清明は静かにこはくを見る。

それから道満を見る。


「……なるほど」

「お前が熟年夫婦みたいになる理由が分かった」

道満「ならなくていい理解をするな」


転生後清明は真面目に頷いた。


「長年連れ添った重みを感じる」

「やめろ」


すると、こはくが静かに道満の近くへ来る。

いつものように自然。

道満は何も言わない。だが空気が緩む。

転生後清明、それを見る。


沈黙。そして静かに呟いた。


「……完全に飼い慣らされているな」

道満「誰がだ」


転生前清明がぽつり。


「道満」

道満「貴様ら本当に好き勝手言うな……」

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