第5話「再起動した“核”、動き出すダンジョン計画」
……眩しい。
まぶたの裏に差し込んできた柔らかな光に、ゆっくりと意識が引き戻されていく。
なんだろう、この感覚……眠っていた? 俺が?
まるで数日間、何もかもを忘れて眠っていたかのような――。
「……ぐぅ、すぅ……むにゃ……」
ふと耳に届いた微かな寝息に目を開けると、視界の端に見慣れた金色の髪が映った。
空間の片隅。石造りの壁際に座り込んでいるのは、我が眷属・レイラだった。
相変わらずの無表情……って、寝てる!?
驚きつつも、その寝顔が妙に整っていて少し見入ってしまう。
だが、それ以上に俺の目を引いたのは彼女の姿だった。
服や肌にうっすらと汚れ。傷は見当たらないが、かなり戦った跡が見て取れる。
そのことに気付いた瞬間、俺は慌ててダンジョンの状況を確認した。
《ダンジョン監視インターフェース》を起動。現在の構造、魔物の数、侵入者のログ……。
驚いたことに、魔物の数は半分以下になっていた。だが――
「……強くなってる?」
どの魔物も、動きがキレてる。スピードも、連携も、まるで最初とは別物だ。
なんだこれ、ゲーム的に言えば“レベルアップ”ってやつか?
さらに侵入状況を確認して、思わず絶句した。
「うわ……マジか。常に誰か入ってきてるじゃん」
定期的に、複数のパーティがこのダンジョンに挑んできている。
ログの量から察するに、この数日間、連日連夜で冒険者が入り込んでいたらしい。
「やば……俺、不在中にめちゃくちゃ忙しかったんじゃ……」
慌てて拡張画面を開いたその瞬間、俺の目に異様な数字が飛び込んできた。
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【ダンジョンステータス】
名前:未設定(※初期値)
階層数:1
配下数:1(レイラ)
魔物数:42
罠設置数:18
拡張ポイント:1630
経験値:3204/8200
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「は!? なんで!? 拡張ポイントが……1000超えてる!?」
思わず叫ぶ。脳内にエコーかかったかと思うレベルの驚愕だった。
「おはようございます、主」
静かに目を覚ましたレイラが、まるで何事もなかったかのようにそう言った。
「お、おう。おはよう……って、いやいや! レイラ!? なんでこんなポイントたまってんの!?」
「結構たまりましたね」
「いや、だからそうじゃなくて! 原因だよ、原因!」
「主が意識を失っている間、毎晩のように冒険者が侵入してきていましたから」
「……マジで?」
思わず画面を二度見する。
その数値が嘘じゃないと分かった瞬間、胸にじわっと温かいものが込み上げてきた。
「……ありがとう、レイラ。俺がいない間、お前が守ってくれたんだな」
照れたそぶりも見せず、「当然のことを」と返されると思った。
だが――彼女は一瞬、視線を逸らす。
「いえ、それも私の役目ですので」
その横顔が、ほんの少しだけ照れているように見えたのは、気のせいじゃなかったと思う。
そして、彼女は続けて言った。
「それに、主が設計されたダンジョン……思っていた以上に冒険者たちを苦しめてくれているようです。魔物たちも戦いやすそうでした」
「てことは、上手く機能してたんだな!」
俺は促されるまま、ダンジョン内の様子を監視画面に映し出す。
そこに映っていたのは、複数の冒険者パーティと、それに挑む魔物たちの姿――
しかしその魔物たちは、かつてのような頼りない存在ではなかった。むしろ、堂々たる戦士のように戦っている。
「……なんか、動きがどことなく……お前に似てる気がする」
「まぁ、私が訓練と指示をしていたので」
「訓練までしてたの!?」
信じられない。こっちはただの“石ころ”だったのに、ちゃんとダンジョン運営が回ってた……。
思わず脱力して笑いそうになった瞬間、ふと、脳裏に一つの案がよぎった。
……待てよ? このポイントと、このモンスターたちの成長……それに冒険者の流入数……。
これ、上手くやれば……いや、やるしかない!
「主? どうかなさいましたか?」
「あ、いや。なんでもない。それよりさ――こんだけポイントもあるし、ちょっとぐらい贅沢してもいいよな?」
俺の言葉に、レイラは少し怪訝そうな表情を浮かべたが、それを気にせず俺は操作を始めた。
《ダンジョン改造モード》起動。
ふふふ……始めようじゃねぇか、新しいプロジェクトを。
いったい俺が何をしようとしているのか――それは、まだ誰も知らない。




