第6話「進化の兆しと、新たなる“仲間”の予感」
画面の奥には、俺の“ダンジョン”の全体図が浮かび上がっていた。
その地図を眺めながら、俺は腕――いや、正確には核だから腕はないけど――まぁそういう感じで考え込む。
やるなら、徹底的にやってやろうじゃねぇか。
「まずは階層を増やす。これだけ侵入者が増えてるなら、ワンフロアで収まるわけがないしな」
そう呟きながら、構築開始。
今ある空間の下層に、新たな階層を次々と追加していく。
しかも、ただの迷路じゃ芸がない。
ニ層目は錯視を利用した視覚トラップ中心の構造。
三層目は浮遊床と重力反転のギミックダンジョン。
四層目は光を遮断した真っ暗な空間に、音と振動を頼りに進む構造……。
やってやるぜ。元社畜のプライドにかけて、めちゃくちゃ効率的でえげつないダンジョンを作ってやる。
「主、どこまでやるつもりですか?」
背後からレイラの声。無表情だけど、若干引いてる気がする。
「まだまだだ。あともう一押し、コアルームも拡張しておかないとな。俺の居住空間がこんな殺風景なままでいいわけがないだろ?」
石造りの四角い部屋――それが“俺の部屋”だった。これを機に、もう少し過ごしやすいようにしておく。
そして、ふと思いついた。
「レイラ、お前にも部屋を作るわ」
「……え?」
「いや、だって頑張ってくれてたし。個室ぐらい欲しいだろ? あとお風呂とキッチンも追加するぞ。女の子だし、さすがに不便だろうからさ」
「……主」
レイラが微かに目を見開いて、そっと口元を抑える。
ほんの一瞬、あの無表情に柔らかな陰影が差した気がした。
「……ありがとうございます。嬉しいです」
おー……、なんか素直に喜ばれると照れるな。
と、とりあえず作業に戻ろう。
拡張ポイントを使って、シャワー付きのバスルーム、最新型キッチン(っぽい調理室)、そしてレイラ専用の部屋を作成。
家具や寝具は、レイラと一緒に画面を眺めながら選んだ。
「この赤い椅子、ちょっと派手すぎません?」
「いいじゃん、悪のダンジョンっぽくて」
少し不服そうにしつつも、椅子に腰かけるレイラ。
「この椅子、座り心地が良いですね!」
「ベッドはどうする? ふかふか? 硬め?」
「中間でお願いします。沈み込みすぎるのは、寝返りがしにくいので」
……すごい現実的な理由だった。
ひとしきり作業を終えたころ、俺の“身体”に微かな違和感が走った。
「……ん?」
視界の端に、自分の表面――そう、核の石の一部に、細かいヒビが入っているのが見えた。
「主、そのヒビ……。少し前から広がっていますよ」
「あー……まぁ、大丈夫だろ。特に痛みもないし、機能不全もないし」
「ですが――」
「だーいじょーぶだって。こういうのは気にしすぎると逆に悪化するんだよ、な?」
俺はごまかすように笑って、再び操作画面を開く。
「さて、ダンジョンの基盤も整ったし、そろそろモンスターの再配置といこうか。今度は限界数に気をつけながら、慎重にいくぞ」
召喚魔法陣を起動し、各階層にモンスターたちを配置していく。
ゴブリン、スライム、コボルト、トラップ専門のインプ、視界遮断型のモンスター……。
慎重に、絶妙なバランスで分布を調整。
「完璧……これで文句ないはず」
そう呟いた瞬間だった。
《魔王ヴァルト・ノクスの格が上がりました。レベルアップに伴い、形状の変化と行動制限の解除を行います》
「――は?」
世界の声。例の、あの無機質なやつ。
と思う間もなく、俺の“身体”が光に包まれた。
ヒビの入った核が眩く輝き、その光が徐々に輪郭を変えていく。
「お、おい、ちょっ――!」
光が収まったとき、俺の身体は――石ではなかった。
黒曜石のような質感の球体に、中央に巨大な一つ目。
左右にはコウモリのような黒翼が生えて、ふわりと宙に浮いている。
漆黒の身体は硬質な光を帯び、覗く一つ目には禍々しい魔力が揺らめいていた。
「……なにこれ、俺、めっちゃ浮いてる!?」
重力の縛りがない。視界はクリア、動きも自由。
そしてなにより――
「魔法、使える……!」
闇のエネルギーが掌――じゃないけど体内から滲むように溢れ出す。
俺はついに、核から“魔王”っぽい形状へと進化したのだ。
感動していると、再び声が響いた。
《格が上がったことにより、新たに眷属を増やすことが可能になりました。眷属召喚を行いますか?》
え……? マジで? 次の眷属?
それってつまり――
――俺に、仲間が増えるってことか?




