第4話「ダンジョンを再設計したら、俺がダウンしました」
ダンジョンの最深部――俺、ヴァルト・ノクスの“核”が鎮座するこの空間は、相変わらず静かだ。
目の前に立つのは、相変わらず無表情で毒舌な美女、眷属のレイラ。
静寂を破ったのは、そんな彼女の淡々とした一言だった。
「……それにしても、あの冒険者、思った以上に弱かったですね。反応も遅いし、攻撃も単調で」
いやいや、普通に強かったと思うんだけど?
俺の罠とゴブリンくんたちなんか“秒殺”されてたぞ。
「弱くはないと思うんだけどなぁ。ほら、召喚したゴブリンくんたち瞬殺されちゃったし」
「あの程度の冒険者にも勝てないなら、元から必要なかったのでしょう」
いやほんと、あの世で一回ぶん殴られてこい。
「レイラ。短い時間だったけど、一応、仲間だったんだからそういう言い方はダメだよ?」
俺は元人間だから、魔物?魔族?側の感情とか思考回路とかわかんないし、本来は俺が合わせるべきなんだろうけど。
どこまでいっても、ここでは俺が王様なわけだし、俺が言うことがルールでもいいよな?
「……はぁ。では、“気の毒でしたね”」
「まるで慰霊碑の前で言うような言い方やめなさい」
わかってもらうには、まだまだ時間がかかりそうだ。
……まあ、それはさておき、今後の方針だな。
あの冒険者の遺骸がダンジョンに吸収されるのを眺めながら、俺たちはダンジョンの構成を見直すことにした。
問題は拡張ポイントが足りないってことだよなぁ。
現状、初期の10ポイントはほぼ使い切ってる。追加階層も、特殊ギミックの設置もできない。
これ以上何かを足そうにも、材料がないのだ。
ポイントを稼ぐには、冒険者を倒すしかない。となれば、今ある構造を活かすしかない。
低コストで高効率な、殺戮特化型のルート設計を――。
そんな俺の考えを察したのか、レイラがわずかに眉を動かす。
「そんなに心配なさらなくても大丈夫です。ある程度のことは私がなんとかしますから、主は好きなようになさってください」
え、なにこの子。急に優しくするじゃん。惚れそう。
――なんて言ってる場合じゃないな。
雑念を払い、まじめに考える。
今のダンジョンは、複雑とは言えない。
素人だからというのもそうだが、ポイントの制約のせいで出来ることも限られている。
これじゃ、踏破されるのも時間の問題だ。
でも俺には、“社畜時代の知識”という一番の武器がある。
どんなクソ仕様でも“工夫”でどうにかしてきた、あの誇り高きエンジニア時代を生きた俺にかかれば、どうとでもなる!
俺は迷わず再構築に取りかかる。
残りの拡張ポイントはすべて迷路に投入。細い通路、分岐、行き止まり、デッドエンド――とにかく、ぐっちゃぐちゃにしてやる。
これで地図なしの冒険者は確実に混乱するはずだ。
そこに後で大量のモンスターを配置する。格下でも、数の暴力で押せば消耗は免れない。
スタミナを削り、精神をすり減らし、じわじわと追い詰める……これぞ社畜式持久戦。
「おっし、こんな感じかな」
「迷路の複雑化に数の暴力、ですか。……悪くない案ですね」
作り替えていくダンジョンマップを見ながらレイラが呟く。
反応を見る感じ、そんなに悪くなさそうだ。
「そして……」
仕上げに、最奥部に“偽の階段”を設置する。そこに辿り着くと、自動的に“外”へ放り出される仕組みだ。
一見すると、攻略達成のご褒美に見えるが、実際にはリセットポイント。再突入時には罠もモンスター配置も微妙に変動させて、ルートも変えておく。
気づかれなければ、それはもう“無限迷宮”。
「外に出してしまうのですか?」
「ああ。突破したと思わせておいて、実際は強制送還。で、また最初からやり直し。しかも、次に来たときは罠やモンスターの配置が微妙に変わってて、ルートも変動」
「……なるほど。配信されることも加味すれば、攻略のための人寄せにもなりますね」
「その通り。ほんとの次階層へ繋がるルートは、別に用意しておくけど、“隠し扉”扱いにする。ギミックを解かないと現れないようにね」
自分で言うのもなんだけど、めっちゃ悪どい。
でも、こういう“工数ゼロで成果最大”みたいなやり方は、前世で腐るほどやってきた。ブラック企業で生き抜いてきた人材は、ダンジョンでも強いのだ。
「石ころのわりには考えましたね」
「石ころいうなッ! まじで人型になったらぶっ飛ばしてやるからな?!」
「おっと、失礼しました。つい本音が」
ムカつくけど、何も出来ない今の自分が余計にムカつく!
絶対そのうち、主として崇め奉りたくなるような存在になってやるからな……!
こうして、俺たちのブラック企業仕込みのダンジョン改革が始まる。
――ダンジョン構成の見直しを終え、残りのポイントを使って再構築。
ある程度の準備が整ったところで、俺はさっそくモンスターの召喚作業に取りかかった。
魔方陣を次々と展開し、罠や通路の要所に魔物を配置していく。
効率、心理効果、見た目――全部考慮済みだ。完璧な布陣に仕上げてやる。
だが、異変はその最中に起きた。
魔力が、引き絞られるように減っていく。何かがおかしい。いや、明らかに“限界”を超えている。
……あれ? ちょっと待て、これ……。
視界が揺れ始め、音が遠ざかる。
召喚の手を止めようにも、もはや制御すら効かない。
ダンジョン内の魔素は枯れていた。
代わりに使われていたのは、俺自身の魔力。
それすら尽きて――今は、体力までも変換され始めている。
これは、さすがにマズい。
息が詰まりそうな感覚。脳が痺れ、意識がぐらつく。
やばい、ほんとに落ちる――
思考の最奥がそう叫んだ、その瞬間。
意識が完全に途切れ、俺の視界は、真っ暗な闇に沈んだ。
そして。
核石の表面に、黒い亀裂が走った――。




