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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

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第30話「魔王と勇者、意外な共通点」

 わずかな沈黙が落ちた。

 お互いの呼吸音と、岩壁に反響する微かな魔力の唸りだけが耳に届く。

 

 勇者の視線は、まるで獲物を見極める猛禽のように俺を射抜いていた。

 その奥には、敵意だけでなく測るような光もある。


 やがて、彼女はハッとした表情を浮かべ、すっと後方へ跳んだ。

 その動きは無駄がなく、間合いを完全に切ることを目的としたものだった。


「……迂闊でした。私を油断させる作戦ですか」


 いや、違うんだけど。そんな器用な作戦なんて俺にできるわけない。


「残念だけど、事実なんだわ」

 

 俺は肩をすくめ、淡々と口を開いた。

 

「転生する前は黒川陣って名前だった。ハンターズマニアっていうダンジョン配信サイトのシステムエンジニアをやってたんだ」


 途端に、勇者の目がわずかに揺れた。

 

 “魔王”という肩書きからは絶対に出てこない単語の連続に、戸惑いを隠せていない。

 剣を握る手がほんの僅かに緩み、そのまま固まっている。


 まぁ、そう簡単に信じられる話じゃないよな。

 正直、戦わずに済むならそれが一番だが――


「……出身の学校は?」

 

 勇者が不審そうな顔で、しかし興味を押さえきれない様子で問いかけてきた。


「え? 浅間中央高校。ちなみに、58期生な」


「え……私、そこの68期生です!」


 俺と勇者、同時に目を見開く。

 互いに信じられないものを見るような顔になる。

 

 まさか魔王と勇者の母校が同じだなんて、誰が想像するだろう。


「……あの校舎、まだ残ってんのか?」

 

「ええ。外壁は塗り直されましたけど、形は変わってません」


 少し懐かしい気持ちになって、俺は続けた。

 

「もしかして、勇者ちゃんの時代ってまだあの浪平スタイルの禿げ教頭いた? 声が高くて結構口うるさかった人なんだけど」


「あー、あの人は校長先生になられましたよ!」


「は!? 嘘!? 出世したの!?」


 声が思わず裏返る。

 

 態度はでかいくせに気が弱く、俺らの間では“チワワ教頭”なんてあだ名で呼ばれていたあの人が、校長に……?

 

 脳裏に、休み時間ごとに廊下をパトロールし、見つけた生徒に延々と説教していた姿が蘇る。

 

 あれでよく昇進できたな……いや、もしかしてそういう小うるささが評価されたのか?


「朝礼の時も声が裏返るの変わってませんでしたよ」

 

「変わってないんかい!」


 思わずツッコミを入れる俺に、勇者が小さく吹き出しかける。

 戦場の緊張感が、ほんの少しだけ和らいだ瞬間だった。


 その空気を断ち切るように、リルベアがわざとらしく咳払いをした。


「おぬしら、敵同士だということを忘れ取らんか?」


 ピシリと場が引き締まる。

 

 俺も勇者も一瞬言葉を失い、互いに視線を交わした。


 勇者は短く息を吐くと、ゆっくりと剣を鞘に収めた。

 鞘口が金属音を立てるその瞬間まで、俺もリルベアも半信半疑で見守っていた。


「興が冷めました。それに――あなたの話を聞いてみたくなりました。ヴァルトさん」


 意外な言葉に、思わず目を瞬く。

 だがすぐに、俺も口の端を上げた。リルベアも微かに笑う。


「なら、ゆっくり話せるところへ案内するよ」


 そう言って、俺は十一階層の城に急いで応接間を作り上げる。

 深紅の絨毯を敷き、暖炉を配し、中央に長椅子とテーブルを置く。

 急造にしては上出来だと我ながら思う。


 続けて転移魔法陣を展開し、光が床に複雑な紋様を描き出す。


「……こんな便利なものまであるんですね」

 

 勇者がわずかに感心したような声を漏らす。


「まぁ、魔王の特権ってやつだ」


 三人は光に包まれ、その先の空間へと姿を消す。


 ――平和に和解できることを祈って。……できれば、だけど。

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