第31話「元社畜と現社畜、企む悪だくみ」
城の応接間。
赤い絨毯と暖炉の灯りが、場の空気を少し柔らかく見せていた。
そこに集まったのは、俺、勇者、リルベア、レイラ、ゼトス――。
全員が揃って椅子に腰を下ろすと、改めて互いに自己紹介を交わした。
「改めて、魔王ヴァルト・ノクスだ。一応、このダンジョンの……まぁ、管理者ってやつだな」
「勇者の神谷美月です。……といっても、あまり威張れる立場じゃありませんが」
「わらわはリルベア。今はヴァルトの眷属の元魔王じゃ」
「第一眷属のレイラです。よろしくお願いします」
「第二眷属のゼトスと申します」
軽く頭を下げ合うが、形式ばった空気はすぐに崩れる。
「俺は元人間ってのもあって、別に人間を好き好んで襲うつもりはない。あくまで、自衛なんだ」
俺は腕を組み、淡々と話し出す。
「このダンジョンの宝箱だって、少しでも楽しんだり喜んだりしてもらえればと身銭を切って設置している。それを取りに来るやつらが戦って死んでしまうのは……まぁ、仕方ないことだろ。リスクなしで全部得られるなんて、虫が良すぎる話だ」
その言葉に、リルベア、レイラ、ゼトスがうなずく。
「主の言う通りです」
「まぁ、元来ダンジョンとはそういうとこじゃしの」
「同意であります!」
美月は少し考え込むように視線を落としたあと、ふっと笑みを浮かべた。
「……納得できますね。私だって冒険者適性で勇者に選ばれただけで、休みなんてなくて毎日戦い詰め。あっち行けこっち行けでやってられないんですよ。戦わなくていいなら、それに越したことはないですね」
「ははっ……出身校が一緒だったのにも驚いたが、境遇まで似てるとはな」
「えっ、もしかしてヴァルトさんも……」
「「社畜」」
二人同時にハモってしまい、しばし見つめ合った後、堪えきれずに笑い出した。
眷属たちはその光景を、なんとも言えない顔で見ていた。
リルベアはこめかみを押さえ、レイラは無表情のまま瞬きを二度する。
勇者と魔王が、こうして笑い合っている――本来ならあり得ないことだ。
「……おぬしら、もう少し真面目に話し合ったらどうなんじゃ」
呆れたようにリルベアがため息混じりに言えば、レイラも「同意見です」と小さく頷く。
ゼトスはそんな二人を「まぁまぁ」と両手を上げてなだめる。
美月は咳払いをして、急に真剣な顔になる。
「では、お言葉に甘えて……真面目な話と行きます」
場の空気が変わった。
俺もリルベアも、レイラもゼトスも姿勢を正す。
「現在、地上では冒険者組合と各企業が連盟を結び、各地から他の勇者やSランク冒険者を集めて、魔王リルベアの討伐に向けた準備を進めています」
――やっぱりか。そこはおおむね予想していた。
「私はそのための偵察も兼ねていました。……まさか魔王が二人もいるなんて、思いもしませんでしたけど」
苦笑混じりに言う美月。
「そやつらは、どれくらいの規模で、いつここに来るのじゃ?」
リルベアが問うと、美月は「んー……」と考え込み、やがて口を開いた。
「具体的には難しいですね。連盟といっても、攻略後の利権で揉めているみたいですし。ただ……予想では一か月もないかと。規模としては、勇者が私を含めて3名、Sランク冒険者が10名でのレイドを想定していました。レイラさんとゼトスさんの戦力も考慮済みで」
「なるほどな。ひと月もないのか……」
一同が顔を見合わせ、眉間に皺を寄せる。
どう動くべきか――その考えが空気を重くしていく。
そんな中、美月のそれまでの真剣な顔が、ゆるりとほころび――ふっと笑みを浮かべた。
「ヴァルトさん、ひとつ提案なんですけど……私と一緒に、悪だくみしませんか?」
見た目にそぐわない、悪戯っぽい笑顔。
その一言で、応接間の空気が一変した。




