第2話「始祖のヴァンパイアが降臨したけど、ツッコミ厳しくない?」
眷属召喚――それは、魔王が初めて行う“配下作成”チュートリアルらしい。
核としての魔力が満ちきったタイミングで、世界の声が言った。
《それでは、眷属召喚を開始してください。意識を集中し、あなたの魔力を流し込むように》
いや、ざっくりすぎだろ。集中って言われても、こちとら石ころなんだぞ。
とはいえ、やるしかない。ぐっと意識を内側へ集中させていくと――
――ドクン。
何かが“脈打った”感覚があった。
そしてその瞬間、俺の核のすぐ目の前に、漆黒の魔方陣が浮かび上がる。
「おお……!」
空気が張り詰める。魔力の奔流が発生し、周囲の岩盤がわずかに振動する。
やがて魔方陣の中心から、ゆっくりと“それ”が姿を現した。
すらりと伸びた足、腰まで届く金色の髪。
肌は雪のように白く、目元は涼しげで――完璧なまでに整った顔立ち。
美人とかそういうレベルじゃない。もはや芸術の域。
ただし、その表情は終始無表情で、まるで石像みたいだ。
「……私の名はレイラ。始祖のヴァンパイアです」
静かに、でも凛とした声が洞窟に響く。
始祖の……ヴァンパイア?
すげえ。なんか強そう。
強いどころかラスボス寄りな雰囲気すらある。
だけど――
「……それにしても、魔王のくせに石ころとは。”これ”が主とは情けないですね」
「えぇ……。なんか思ってたのと違う、俺の身体と一緒でなんか思ってたのと違う……」
「言い訳をする姿も滑稽ですね。まあ……姿形よりも“核”の質の方が重要。私を呼び出せる程ですし、特別に良しとしましょう」
なんでこの美人さん、こんな毒舌なの!? 初対面でバッサリきますやん……。
《初期眷属とのリンクを確認しました。これより、ダンジョン構築の基本操作を開示します》
場の空気もクソもないタイミングで、またあの脳内ナビがしゃしゃってきた。
でもありがたい。こっちは素人もいいところだからな。
《魔王は、ダンジョンに侵入した者を討伐することで、経験値と拡張ポイントを獲得できます》
《討伐対象の強さに比例して獲得値が上昇します。討伐は、眷属・配下による撃破。罠による撃破でも同様にカウントされます》
つまり……配下をこき使って、強い冒険者を倒せば俺が強くなる――ってことか?
「つまり、ブラック企業と同じ原理ですね」
「あ、その言葉使わないで。泣きたくなるから」
「ならば、せめてボーナス制度を設けて――」
「俺も貰ったことねぇよッ!」
俺たちのやり取りを気にもせず説明が続く。
《次に、ダンジョンステータスを確認してください。“ダンジョンステータス”と唱えるとウィンドウが開きます》
言われた通り、唱えてみる。
「ダンジョンステータス」
ピコン、と軽快な音が響き、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。
──────────────────
【ダンジョンステータス】
名前:未設定(※初期値)
階層数:1
配下数:1(レイラ)
魔物数:0
罠設置数:0
拡張ポイント:10
経験値:0/100
──────────────────
ウィンドウを眺めながら、世界の声が続けざまにナビをしてくる。
《まずは、拡張ポイントを使用してダンジョンの階層を増設してください》
「よっしゃ、レッツDIY。迷路とかにすりゃ強いんだろ?」
《その通りです。地形を複雑化することで、侵入者の進行を大幅に遅延させることができます》
「じゃあ……こうして、こう。分岐を三つ作って、こっちに落とし穴、あっちに毒沼……」
ウィンドウ上の簡易マップを操作するだけで、岩盤がゴゴゴ……と音を立てて勝手に動いていく。
うん、これ楽しいな。ちょっと昔のゲームを思い出す。
社会のストレスをここにぶつけろって感じで、バリバリ罠を仕掛けてやるぜ……へへっ。
俺のイメージに沿って地形が変わっていく。
作り上げていくダンジョン構造を見ながら、なんかレイラが引き気味に目を細めているが気にしない、気にしない。
むしろ、その反応になんかちょっとテンションが上がる自分がいる。やべえな俺。
《罠の設置完了を確認しました。次に、初期魔物の召喚を行ってください。ゴブリンなど低ランクの魔物が推奨されます》
「じゃあ、ゴブリンで。とりあえず三体……っと」
またしても魔方陣が展開され、緑色の肌をした小柄な人型モンスターが三体、ぴょこぴょこと出てくる。
「グギャ!」「ギャギャギャ!」「オレ、ボス、マモル!」
うるせぇなコイツら。見た目も喋りもチンピラ感すごい。
「ん? まてよ。さすがに三体は少なすぎか?」
俺が思わず不安を口にすると、レイラが腕を組みながらちらりとこっちを見た。
「……心配いりません。私がいれば、それで十分です」
どこまでもブレない無表情。そのドヤ顔ゼロの自信っぷりが、逆に説得力を生んでるのが悔しい。
《補足します。レイラは“始祖のヴァンパイア”であり、魔族の上位存在――“魔人”に匹敵する戦闘力を有しています》
「えっ、そんな強キャラだったの!?」
「当然です。契約主が石ころでなければ、もう少し説得力もあったんですが」
「石ころでごめんね?!」
《あ、そろそろ初の侵入者がダンジョンへ進入します》
「えっ、はやっ!? 待って、まだこっちは石のまま――」
そのとき、入口近くの転移陣が光を放ち、足音が響いた。
ガチャリと扉が開く音――そして、若い男の声が洞窟に反響する。
「ここが、例の新規ダンジョンか……へへっ、悪いが先に攻略して稼がせてもらうぜ」
レイラが、ちらと視線をその方向へ向ける。
「ふふ、出番ですね。では、早速いってきます」
その姿は、闇の中へと音もなく溶けていった。
おいおい、こんなチュートリアルでいいのか?
まさか“初仕事”が、いきなり命懸けだなんて聞いてないんだけど……
やっぱり、どこまでいってもブラック企業じゃねーか!
俺は、何もできない“しゃべる石ころ”のまま、ただただ、血と闇が交差する戦場の幕開けを――見届けるしかなかった。
……うん、これは確実に労基案件だ。
◆
――“魔王”としての人生は、まだ始まったばかり。
だがすでに、予感だけはあった。
この世界の底で、俺――いや、“ヴァルト・ノクス”が、確実に爪を研ぎ始めているということを。




