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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第一章 しゃべる石ころ、魔王になる

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第2話「始祖のヴァンパイアが降臨したけど、ツッコミ厳しくない?」

 眷属召喚――それは、魔王が初めて行う“配下作成”チュートリアルらしい。

 核としての魔力が満ちきったタイミングで、世界の声が言った。


《それでは、眷属召喚を開始してください。意識を集中し、あなたの魔力を流し込むように》


 いや、ざっくりすぎだろ。集中って言われても、こちとら石ころなんだぞ。


 とはいえ、やるしかない。ぐっと意識を内側へ集中させていくと――


 ――ドクン。


 何かが“脈打った”感覚があった。


 そしてその瞬間、俺の核のすぐ目の前に、漆黒の魔方陣が浮かび上がる。


「おお……!」


 空気が張り詰める。魔力の奔流が発生し、周囲の岩盤がわずかに振動する。

 やがて魔方陣の中心から、ゆっくりと“それ”が姿を現した。


 すらりと伸びた足、腰まで届く金色の髪。

 肌は雪のように白く、目元は涼しげで――完璧なまでに整った顔立ち。


 美人とかそういうレベルじゃない。もはや芸術の域。

 ただし、その表情は終始無表情で、まるで石像みたいだ。


「……私の名はレイラ。始祖のヴァンパイアです」


 静かに、でも凛とした声が洞窟に響く。


 始祖の……ヴァンパイア?

 すげえ。なんか強そう。


 強いどころかラスボス寄りな雰囲気すらある。


 だけど――


「……それにしても、魔王のくせに石ころとは。”これ”が(マスター)とは情けないですね」


「えぇ……。なんか思ってたのと違う、俺の身体と一緒でなんか思ってたのと違う……」


「言い訳をする姿も滑稽ですね。まあ……姿形よりも“核”の質の方が重要。私を呼び出せる程ですし、特別に良しとしましょう」


 なんでこの美人さん、こんな毒舌なの!? 初対面でバッサリきますやん……。


《初期眷属とのリンクを確認しました。これより、ダンジョン構築の基本操作を開示します》


 場の空気もクソもないタイミングで、またあの脳内ナビがしゃしゃってきた。

 でもありがたい。こっちは素人もいいところだからな。


《魔王は、ダンジョンに侵入した者を討伐することで、経験値と拡張ポイントを獲得できます》


《討伐対象の強さに比例して獲得値が上昇します。討伐は、眷属・配下による撃破。罠による撃破でも同様にカウントされます》


 つまり……配下をこき使って、強い冒険者を倒せば俺が強くなる――ってことか?


「つまり、ブラック企業と同じ原理ですね」


「あ、その言葉使わないで。泣きたくなるから」


「ならば、せめてボーナス制度を設けて――」


「俺も貰ったことねぇよッ!」


 俺たちのやり取りを気にもせず説明が続く。


《次に、ダンジョンステータスを確認してください。“ダンジョンステータス”と唱えるとウィンドウが開きます》


 言われた通り、唱えてみる。


「ダンジョンステータス」


 ピコン、と軽快な音が響き、視界に青白いウィンドウが浮かび上がった。


──────────────────

【ダンジョンステータス】

名前:未設定(※初期値)

階層数:1

配下数:1(レイラ)

魔物数:0

罠設置数:0

拡張ポイント:10

経験値:0/100

──────────────────


 ウィンドウを眺めながら、世界の声が続けざまにナビをしてくる。


《まずは、拡張ポイントを使用してダンジョンの階層を増設してください》


「よっしゃ、レッツDIY。迷路とかにすりゃ強いんだろ?」


《その通りです。地形を複雑化することで、侵入者の進行を大幅に遅延させることができます》


「じゃあ……こうして、こう。分岐を三つ作って、こっちに落とし穴、あっちに毒沼……」


 ウィンドウ上の簡易マップを操作するだけで、岩盤がゴゴゴ……と音を立てて勝手に動いていく。

 

 うん、これ楽しいな。ちょっと昔のゲームを思い出す。

 

 社会のストレスをここにぶつけろって感じで、バリバリ罠を仕掛けてやるぜ……へへっ。


 俺のイメージに沿って地形が変わっていく。


 作り上げていくダンジョン構造を見ながら、なんかレイラが引き気味に目を細めているが気にしない、気にしない。

 

 むしろ、その反応になんかちょっとテンションが上がる自分がいる。やべえな俺。


《罠の設置完了を確認しました。次に、初期魔物の召喚を行ってください。ゴブリンなど低ランクの魔物が推奨されます》


「じゃあ、ゴブリンで。とりあえず三体……っと」


 またしても魔方陣が展開され、緑色の肌をした小柄な人型モンスターが三体、ぴょこぴょこと出てくる。


「グギャ!」「ギャギャギャ!」「オレ、ボス、マモル!」


 うるせぇなコイツら。見た目も喋りもチンピラ感すごい。


「ん? まてよ。さすがに三体は少なすぎか?」


 俺が思わず不安を口にすると、レイラが腕を組みながらちらりとこっちを見た。


「……心配いりません。私がいれば、それで十分です」


 どこまでもブレない無表情。そのドヤ顔ゼロの自信っぷりが、逆に説得力を生んでるのが悔しい。


《補足します。レイラは“始祖のヴァンパイア”であり、魔族の上位存在――“魔人”に匹敵する戦闘力を有しています》


「えっ、そんな強キャラだったの!?」


「当然です。契約主が石ころでなければ、もう少し説得力もあったんですが」


「石ころでごめんね?!」


《あ、そろそろ初の侵入者がダンジョンへ進入します》


「えっ、はやっ!? 待って、まだこっちは石のまま――」


 そのとき、入口近くの転移陣が光を放ち、足音が響いた。

 ガチャリと扉が開く音――そして、若い男の声が洞窟に反響する。


「ここが、例の新規ダンジョンか……へへっ、悪いが先に攻略して稼がせてもらうぜ」


 レイラが、ちらと視線をその方向へ向ける。


「ふふ、出番ですね。では、早速いってきます」


 その姿は、闇の中へと音もなく溶けていった。


 おいおい、こんなチュートリアルでいいのか? 

 まさか“初仕事”が、いきなり命懸けだなんて聞いてないんだけど……

 やっぱり、どこまでいってもブラック企業じゃねーか!

 

 俺は、何もできない“しゃべる石ころ”のまま、ただただ、血と闇が交差する戦場の幕開けを――見届けるしかなかった。


 

 ……うん、これは確実に労基案件だ。



 ◆



 ――“魔王”としての人生は、まだ始まったばかり。


 だがすでに、予感だけはあった。


 この世界の底で、俺――いや、“ヴァルト・ノクス”が、確実に爪を研ぎ始めているということを。

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