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星に願いを

ざわめく宮殿の中で私は一人だった。

誰もこれはかくかくしかじかであり、それはうんぬんかんぬんだと、

ただの1センテンスも説明をしてくれはしなかった。


儀式は夏を迎える前にひっくり返って死んでいるアブラゼミのように、突如終わりを告げ、

もうこれ以上誰も続けようとはしなかった。

隣に控えた宰相は深く考え事しているように見えるが、その表情からは何も読み取れない。

自分がどこから、どこまでしゃしゃりでてもよいのか測りかねる。

事態は緊急を要するなら多少イレギュラーがあっても良い気がするが……

思い切って話かけることにした。


「ちっち、ち、父上、い、い、いったいなにが起きたのです」


緊張で声が上擦った。自分の声だとは思えないほどだ

自分の父親であるはずのその者は、息子であるはずの私に対して、向けることの必要のない眼差しを、なにか別の惑星の、別の生命体を見ているかのように突き刺してきた。

冷や汗が背中を流れ、手足が痺れるのを感じた。


「陛下、この場では私事は控えて頂きますようお願い致します」


それは、いかなる返答でも無かった。

答えているようで、なにも答えてはいなかった。

解読不能な文字の羅列、翻訳されていない耳慣れない言語が、口からたまたま発せられただけにすぎない。

空気を震わせてもいなければ、迷宮入りの事件を解決するヒントも含まれていなかった。


私は田舎から出てきて、首都襲撃を避けてやっと会えたと思ったら、敵を倒すために人造ロボットに乗るんだと、いきなり告げられる少年の気持ちを初めて理解した。


これからも続くであろう、常に顔色を伺いながら、怯えて過ごす日々を容易に想像が出来た。

私は傀儡の王として、じつに凡庸であったと人々に記憶されていくのだ。

それを思うと、とても怖かった。逃げたくなった。

なぜ私の隣には包帯で巻かれ、身体の線が強調されたプラグスーツを着た、髪が水色の少女はいないのだ?


そう考えれば考えるほど、怒りが湧いてきた。


なぜ、こんな数奇な生を送らなければならないのか?

なぜ、こんな理不尽を受け入れなければならないのか?


この場に底の見えないぐらいの竪穴があれば、声を枯らして叫んでいたことだろう。


ドンドンドン、隣人が頭を蹴り続けている。


ここは暗く、とても寒い。戦闘機が側で耳鳴りがする。

せまくて、苦しい。縞リスが私の脳を持って齧っている。

悲しみは常に後付けでやってくる。回転寿司のレーンに乗って。


「なにか楽しいことを考えるんや」


脳の中にいるおじさんは言った。


「好きなアイドルの握手会、好きなアニメを見ている時、好きなゲームをしている時を想像するんや」


彼のアドバイスに従って、必死で楽しかった時間を思い出すようにギアをシフトしようとする。

でも無駄だった。

楽しんでいたゲームは突如サービス終了となり、アニメは日曜18時に切り替わり、好きなアイドルは握手したその手で頭の中のおじさんの性器を握りしめていた。


「違うんや!」


おじさんは必死に抗弁をしようと試みていたが、性液を床に撒き散らしていた。

彼はひどく残念そうな眼差しを私に向けていた。


「違うんや」


私は彼の首を絞めていた。

するとどうだろう。なにやら楽しくなってきたではないか。

愉快といってよかった。こんな気持ちは久しぶりだ。

世界の啓示を聞いたモーセや、キリスト、ムハンマドも、きっと同じ気持ちを抱いたのだと感じた。


この世界は私のものだ


そのために


父を、あの男を殺さなくては


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