037 カレン
暫く休むって書いたんですが、意外に続きが書けたんで投稿します。
十層目のボスを倒した私たちは重たい体を引き摺って魔物の解体をした。
ボスのホブゴブリンの体内から出て来た魔石は今までの魔石と比べて大きく、輝きも増している。
ボス部屋の奥の扉を開くと、広間と階段が続いていた。
広間の床には幾何学模様の魔法陣が描かれ、これに乗ると地上に送還される。
階段を下れば、十一層目に続いていた。
私たちは迷わず魔法陣の中に入った。
全員が入ると魔法陣が輝きだし、光が収まると広い広場にいた。
周りにはがやがやと冒険者たちがダンジョンに入る準備をしている。
彼らは今まで私たちが見てきたスラム崩れの冒険者ではなく、しっかりとした防具と武器を持った一般冒険者だった。
彼らを横目に広場を出ると、そこはいつも入るダンジョン入り口ではなく、別の場所だった。
実はこのダンジョン都市のダンジョンは十階層ごとに転移陣が設置させていて、街の四か所にそれぞれ転移陣が設置されている。
ここは十層目に繋がる転移陣だった。
外は庶民層の店が立ち並び、今までの寂れてやさぐれた雰囲気とは大違いだ。
ギルドに行って、素材を換金したかったが、私の体力が限界でそのまま屋敷に帰ることにした。
屋敷で帰りを待っていたシーナは、ボロボロの私たちを見て驚いた。
三人とも傷だらけで、防具も所々壊れている。
私もマントやボロボロで、額に切り傷を負って血がこびり付いていた。
当分、休養しないといけないなと思いながらさっさと床に就いた。
十層目を突破したマイクとリックは晴れて、銅級冒険者となった。
ギルドで証明となるホブゴブリンの魔石を見せて、周りの大人たちを驚かせていた。
私はあれから寝込んでしまった。
幼い身体に魔力欠乏は良くなかったらしい。しばらく頭痛と倦怠感でベットから出ることが出来なかった。
その間に、マイクとリックは手に入れた素材で、壊れた防具や武器を新調していた。
***
「…それで、君たちは十層目の魔物を倒してしまったのかい」
「うん、これでマイクたちは銅級冒険者になった」
「君はなっていないだろう」
私と話しているのは孤児院のカレン。
体調は思わしくないがダンジョンに行かなければ支障はないので、文字を教わりに孤児院に来ていた。
すでにカレンから一年近く文字を教わっている。
大体の読み書きは問題なく習得していた。
しかし、カレンは博識で色々知っているので、無知の私には助かる。
魔法のことや小人族のこともカレンから知った。
何気ない会話にも知らないことが多く、私には助かることが多かった。
「しかし、やはりダンジョンは危険だな。アンはこんな怪我をして怖くないのか?」
カレンが見ているのは私の額だ。
ゴブリンに切られた傷は深くて、未だに手当てをしている。傷は残ってしまうだろう。
女の子としては致命的な傷跡が残ってしまったが、これについて私は特に何も思わなかった。
冒険者になると決めてから、怪我や傷を負うことは仕方のないことと割り切っている。
他の女冒険者を見ても平然としている。
「冒険者をするなら負うべきリスクだと思う。ただ怪我が怖くないわけではないよ。恐怖を感じながらもリスクを軽減する努力をするべきだと思う」
「しかしその傷は痛むだろう」
「傷が痛むのは大事なことだよ。痛みに鈍感になる方が危険だ」
机の対面にいるカレンは徐に手を伸ばして、私の額を触った。
小声で何か呟くと額が熱を持ち、傷の痛みが引いていく。
「これは……治癒魔法?」
「はっはっはっ、とうとう私もアンに唆されて冒険者になることにしたよ。
幸運にも治癒魔法の適性があってね、密かに神官様から治癒魔法の習得を習っていたのさ。
これで君たちは怪我を気にすることなく魔物と戦うことが出来る。
…今更パーティーに入れないとは言ってくれるなよ」
そう言ってカレンは睨んできた。
耳が赤いから照れてるのかもしれない。
正直、驚いた。確かに私はカレンに冒険者にならないか誘った。
教会は神の教えを説く他にも、孤児院や救護院も併設している。
教会にいる神官やシスターは治癒魔法が使える人が多い。
治癒魔法習得のノウハウが確立しているのだが、適性が必要で、誰でも治癒魔法が出来るわけではない。
だから教会も貴重な治癒魔法持ちを手放したくない。
孤児院なら教会の人から治癒魔法を習えるのではという算段もした。
しかし危険性と将来性のない職業であることは間違いない。
孤児の冒険者なんて、マイナスからのスタートと言える。
頭のいいカレンならそれらを吟味して、冒険者になるとは思っていなかった。
文字を習った後は、常識と知識を得るために通っていた意味合いが大きかった。
「……それはもちろん責任持ってパーティーに入れるけど、カレンは本当に冒険者になっていいの?
治癒魔法が習得できたなら、もっと別の職も紹介されたんじゃない」
「もちろん、教会に残らないかと神官様から言われたよ。
でも私はアンから色々聞いて、君のいるパーティーなら冒険者になってもやっていける可能性があると思った。
自由があるなら好きに生きたいと思うだろう」
冷静なカレンにしては博打な賭けだな。
だが、私としてはありがたい。
もちろん、喜んで歓迎した。
マイクたちも貴重な治癒魔法使いだったら、喜んでパーティーに迎えてくれるだろう。
カレンは今度の春には孤児院から出ないといけないから、その後は私たちの屋敷に住むようにエントに交渉しよう。




