襲撃
その日、その時がやって来たのだ。
「木村すみれへの面会」を希望した牛島杏樹が、シェルターにやって来た。
万が一に備えて、森下康彦は元警官の加藤と正木をシェルターのスタッフとして配備していた。
妻の森下弥生から「牛島杏樹さんがシェルターに!」というメッセージを見て、森下康彦はシェルターに急いだ。
「なるべく長くお前一人で対応しろ。俺が行くまでは、すみれさんを会わせるな。」と前もって話していた通りに森下弥生は牛島杏樹に告げた。
「申し訳ありません。今、お買い物に行って貰っているんです。」
「本当ですか?」
「ええ、小一時間ほどで帰られると思いますわ。
暫く待たれますか? それとも出直されますか?」
「待たせて貰います。」
「じゃあ、お茶を淹れ直しましょうね。」
「え……………茶菓子でも………。」
「要りません!」
「まぁまぁ、そう仰らずに、私に御付き合いくださいませ、ねっ。」
森下弥生は返事を無視するように、紅茶とマドレーヌを出した。
「これ、美味しいんですのよ。
さぁ、どうぞ………。」
「………頂きます。」
牛島杏樹がインターフォンを鳴らして直ぐに、すみれは森下弥生に言われたように事務室から自室で待っていた。
そこへ、森下康彦がシェルターに到着した。
「すみれさん、気持ちは変わらないのかい?」
「はい。」
「そうか………絶対に守るから!」
「はい。お願いします。」
「俺達は隣の部屋で待機する。
俺が隣の部屋に入ってからメッセージを送る。」
「はい。」
「そのメッセージが届いてから部屋を出て、応接室へ……いいね。」
「はい。」
すみれは恐怖で震える手を胸に当てて大きく息を吸った。
そして、ゆっくり吐いた。
ドアを開ける手が震えている。
勇気を出してドアを開けた。
そこに初めて会う牛島杏樹が居た。
すみれと牛島杏樹が会っている部屋の隣で、その部屋の様子を撮っているカメラの映像を森下康彦と加藤と正木が見ている。
すみれは応接室に入ってドアを閉めた。
勇気を振り絞って話した。
「私が木村すみれです。
私に何のお話でしょうか?」⦅声が……震える。⦆
「貴女ね……貴女が……妻なのね。」
「はい?」
「木村すみれ!」
「はい、そうです。」
「どうして離婚しないの!」
「離婚するかどうかは私達夫婦の問題で、貴女には関係ありませんよね。」
「………そんなこと言わせない。」
「どうして………。」
「離婚しなさいよっ!」
「それは私達夫婦が話し合って決めることです。」
「許さない!」
「えっ?」
「私達夫婦…………夫婦って何度も………許せない!」
「あの………。」
「死ねっ!」
「署長!」
「確保だっ!」
「はい!」
牛島杏樹は包丁を振り回しながら暴れて捕らえられるのを逃れようとした。
すみれは森下弥生が隣の部屋に連れて行き、怪我を見て、警察と消防に電話した。
「消防ですか? 救急ですか?」
「救急車をお願いします。
刃物で切り付けられて怪我をしています。場所は……。」
「こちら100番です。」
「刃物で切り付けられ事件が発生しました。場所は……。」
救急車で搬送されたすみれ。
警察官に引き渡されてパトカーで警察署へ連行された牛島杏樹。
救急車で搬送される時、すみれは森下夫妻に言ったそうだ。
「これで終わりますよね。
逮捕されたんだから、暫くの間、出られませんよね。」
いずれ裁判が始まり、量刑が決まるだろう。
⦅その為に何て無茶なことしたんだ……すみれ……。⦆
俺はそう思った。




