表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/152

2章 42話 「油断? これは余裕と言うんだって話」



どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。

油断大敵という言葉があります。

油断すると物事は大概失敗してしまうことから、油断は恐ろしい敵ですよと言う意味です。

これを踏まえると、油断していると、実際に目の前にいる敵と油断という敵を相手にすることになり、一対二の状況が出来上がり大変不利です。

しかしながら、無敵状態なら敵が何人いようが関係ないですよね。




「ぐぅうっ!」


雨霰のように降り注ぐ銃弾と途切れる事なく続く銃声。

署長の号令にすぐに地面に伏せた俺が周りを確認すると、署長を盾にすることで王虎がなんとか凌いでいるのが見える。

未だ致命傷には至っていないが、署長よりも王虎の方がデカいので全てを防ぐことができず、どんどん傷を負っていく。

苦悶の表情と呻き声が王虎に余裕がないことを物語っている。


「いてぇ! いてぇっえ! ふざけんなクソっ!」


反して盾にされている署長は悪態を付いてはいるもののずいぶん余裕がありそうだ。

傷を負っている様には見えず、血を流してもいない。

みっともなくバタバタと暴れているが、逆にそれが署長()が健在であることを示している。


「振動はくんだよ、振動はよぉ! 響くだろうがぁ! いでぇ! 昨日の酒がまだ残ってんだぞこっちはよぉ!」


痛いで済んでいるのは異常ではあるが、どうやら本人は喚き散らしてその痛みを誤魔化しているようだ。対して王虎は頭と胴体を守ってはいるが足や腕から血を流しているのが見える。もはや呻き声を上げることもなく、恐ろしい形相で歯を食いしばっている。

銃弾をクソほど叩き込まれてミンチになっていない時点で王虎も異常だが、このままではいずれ地に倒れることになるだろう。ジリ貧だ。


どうやってこの窮地を脱するかを考えていると、またしても我々を窮地に追い込んだ本人の手によって窮地が終わりを告げる。


 「やめろ、やめろ、やめろぉ! 署長様に向かって発砲とか頭おかしいんじゃねぇのかクソガァ! いてぇんだよボケがぁ! 全員左遷してやろうか、あぁ?!」


自分で格好をつけて撃てと言っておきながら、みっともなく喚き散らす署長に、隊員たちは銃撃をピタリとやめた。

そして署長は王虎の手を払い除け突き飛ばす。

もはや限界状態にあったであろう王虎は抵抗できずに膝をついてしまう。

しかし署長は王虎の方を見ることもなく隊員たちの方に駆け寄ると、先頭にいた隊員に殴りかかる。


「オイコラ! テメェいてぇだろうが! 誰に痛い思いさせてんだこら! 署長様だぞ俺はよぉ!」


理不尽の極みとも言える署長の物言いにも隊員は抵抗することなく甘んじて殴られている。

一応と言わんばかりに数名がこちらに銃を向けているが、他の隊員は署長の暴挙を注視している。いつ何時自分にその矛先が向かんとも分からないからな。


学習能力がないのか、またも署長(アホ)のおかげでチャンスが訪れた。

俺は王虎の方に近寄り逃走を呼びかける。


「いやぁ、今度こそ無理そうだな」


しかし返ってきたのは、敗北宣言ともいうべき物だった。


「流石に足にしこたま弾丸をご馳走されたら、重みで歩けねぇよ」


自分の足をポンと叩く王虎は苦々しい笑みを浮かべながら言う。

近づいて見てみれば、王虎の脚は無傷な場所がないほど弾丸に蹂躙され、原型をとどめているのが不思議なくらいに穴だらけだった。


「なんで……千切れてないのお前の足」


痛々しいそれを見ていられず、つい軽口がついて出る。

それに王虎はまた苦笑すると肩をすくめながら答えた。


「師匠に教わった技のひとつでな。人の血には鉄が混じってんだから、銃弾くらい弾き飛ばすのは簡単なんだってよ。俺はまだ師匠ほどじゃねぇから、穴ぼこあいちまうけど、貫通されない程度には出来るのさ」


……なにそのトンデモ理論は?

師匠は弾丸跳ね返すの? それ人間? そんなことできるわけねぇじゃん。

そう言うと王虎は未だに隊員を叩いてストレスを発散している署長を指差していう。


「あそこにいる奴もできるみたいだぞ?」


その指差す方を向くと、いつの間にか手に警棒を持って、隊員に振り上げている署長が見える。その背中の衣服は銃撃により無惨に散っていたが、背中自体はアザが赤く出来てこそいるが、血は流れていない。


「あいつがあんなに傍若無人に振る舞えるのは、どうやら署長ていう肩書きがあるからじゃないみたいだな」


「あぁ、ただ単にそれだけの力があるから、だから傍若無人で署長なんだろうよ」


これも前世知識の弊害か。この力こそ全ての世界で、警察署長なんていうある種の力の象徴が弱いはずがなかった。

その軽率な態度や行動をみて、取るに足りない愚かなかませ犬だと思ってしまった。

前世と違って、無能なだけの人間が頭張れるほど甘い世界ではなかったのだ。

油断大敵。


「ラーテル……」


先ほど署長が言っていた元となる動物の名前が我知らず口から出る。


……思い出した。教育番組のマスコットキャラにいて、聞いたことのない動物だったから調べたことがある。

世界一怖いもの知らずの動物。

そんな異名を持ち、アフリカ大陸に生息する最強(・・)の動物。

その背中は分厚く硬くそれでいて柔軟な皮に覆われていて、ライオンの牙や爪を持ってしても傷つけることは叶わない。自身も鋭い鉤爪を有しており、その捕食対象にはライオンや豹、そしてワニなどが連なっている。

最強の動物を論じるときに上位に上がるであろう動物がラーテルにとってはくいものなのだ。ついでに蛇も捕食対象でコブラなどの毒にも耐性がある。


爪も牙もそして毒も効かない、ゆえに最強。


奴が今も敵である王虎に目もくれず、憂さ晴らしをしているのはただ馬鹿だからではない。

余裕のあらわれなのだ。

どんな相手でも跳ね返し食い破る自信があるから、無防備にこちらに背中を向けて戯れているのだ。

だが___


「ラーテルごとき。準備さえできればぶっ殺せるけどな」


そんな相手だったとしても、この窮地を脱さなくてはならない。

相手が強いからと言ってむざむざ殺されてやる道理はない。

相手が最強の動物ラーテルだって言うのなら、その特性を突いてやればいいだけだ。


「んんん〜? ん? ん? ん?」


俺の声が届いたようで、署長は隊員を殴る手をとめこちらを向いてくる。

挑発されればどんな大型動物でも攻撃してくる怖いもの知らず。

逆に言えば挑発されれば攻撃せずにはいられない。

それもまたラーテルの特性だ。


「銃弾のシャワーを浴びていたもので、耳が遠くなりましたかね? 今、ラーテルごときと聞こえたような? まさかそんなわけありませんよね? 新移民の人間ごときが、獣人様に向かって、そんな事を言う訳無いですもんね? いや、本当に」


口調こそ冷静な時のものとなっているが、握った警棒をギリギリと締め上げながら、額に青筋を立てており激昂しているのは間違いない。

馬鹿の一つ覚えみたいに同じ作戦の使い回しだが、怒って近づいてきたところをなんとか取り押さえるしかない。急所攻撃は効いたんだ、眼球を狙えばワンチャンいけるはずだ。

油断を誘え、冷静に判断させるな、自分から馬鹿をやらせろ! チャンスを作れ!

そう思って更なる挑発をしようと口を開きかけたところで、署長が手を挙げる。


「構えろ」


合図と共に隊員たちが一斉に銃をこちらに向けてくる。


「獣人に楯突く人間なんて、即処分でいいと思うんですが、上がね? 生かして連れて来いって言うもんですから。いや、本当に宮仕の辛いところです。なんとも思い通りにはいかない。いや、本当に」


ため息をつきながら、そう言う署長。

だが、やれやれと肩をすくめる表情からはまだ怒りは消えていない。


「しかしながら、指導は大事だと思うんですよ。いや、本当に。先ほども部下の指導に熱が入ってしまいましたが、部下の成長のためには必要なことなんですよ。そう思いませんか? 王虎君」


挑発した俺ではなく王虎へと声をかけるのは、子供相手にやりあうとみっともないと思ったからか? それとも一拍おくことで冷静になるためか?

そんなのは小細工を挟まなければ冷静になれないという証明だぜ。


「さて、どうだろうな? 自分の命令を実行してくれた部下を棒っ切で叩いたことがないから、その有効性については論じることができないな」


血をしこたま失って、意識を失っていてもおかしくはないはずなのに、王虎はその安いプライドを煽るかのように挑発する。

その発言に一瞬で顔を真っ赤に染め上げる署長。


「あぁ〜! イラつくなぁ! なんかさぁ! イライラしねぇ?! イライラするとさぁ! イライラしちゃうよなぁ!」


癇癪を起こしたように、いや実際に癇癪を起こしているのか? 腕をぶんぶんと振り回して駄々っ子のように叫ぶ署長。

このままならまた、こちらに突撃してくると思い身構えたところで、署長が動きをピタリと止める。ちょうど腕が顔の前にくる形だ。


署長は袖を捲って腕時計を見ると、長いため息を一つついて、突然投げやりに言ってくる。


「投降してください。……もう、遊びの時間は終わりました。ここからは逆転の目はありません。いや、本当に。時間もいい頃合いですので」


それは今までが余興であったかあったかのような宣言。

署長はもうこちらに興味がなくなったかのような目を向けてくる。

そこにはもう怒りもなく、なんの感情も読み取れない。

俺はそれを見て、何かが終わってしまうような嫌な予感を覚えるのだった。


お読みいただき誠にありがとうございます!


ラーテルの捕食対象については、なんだか諸説あるみたいで、大型動物は攻撃するだけで食べないとか、急所のみを噛みちぎるだとか色々あるみたいです。

まぁ、凄くきちんと調べないと正解が出てこないような事柄なので、その辺はファジーな感じでいいと思います!w

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ