2章 41話 「深淵を覗くときは深淵もこちらを覗いているって話」
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
情けは人の為ならずという言葉があります。
これは人に良い行いをすれば、いずれそれが自分に返ってきますよ、人の為ではなく自分の為になるので人によくしておきましょうって言葉です。
これ善意だったら自分に返ってきてもいいですけど、悪意が返ってきた時はたまったもんじゃないですよね。
「はなせぇ! こんな事をしてただで済むと思うなよ! 俺は署長だぞ! 下賎なお前たちがふれっぐぅっ!」
「耳がぶっ壊れるかと思ったわ。どっから声出してんだ? 少し静かにしてろよ」
キンキンと甲高い声で喚き散らす署長。超音波が聞こえたらきっとこれくらい不快なんだろうな。至近距離で聞いたので、鼓膜がないなるかと思ったぞ。
王虎も同じように思ったらしく、顔を顰めて署長の首をキュッと絞めている。
抵抗することが出来ないようなので、やはり署長の戦闘力は大したことがないようだ。
それは俺の頭突きを回避できなかった事からも明らかだけどな。
「俺もお前の攻撃は回避できた試しがないけどな……」
そういえば、避けられたことがないかも?
俺の攻撃ってもしかして、必中がかかってる?
必中があるって事は、俺ってばスーパーロボット系だった?
それにしては装甲と火力がゴミなんですが? 最大改造おねしゃーす!
まぁ、実際のところ回避できない様にしてから殴る蹴るの暴行を加えてるんだけどな。
「スーパーロボットが何かはわからんが、先読みの達人先生はこの後どう動く?」
「セオリー通りならこのまま人質を盾にして逃走だけどな」
署長を絞め落とすか落とさないかのギリギリを攻めている、王虎の問いかけに一般的な模範解答で答える。
「素性がバレてるのにか?」
「それなんだよな……」
王虎が言う通り、素性がバレているのがまずい。
なりふり構わず被害を考えずに、ただ逃走するだけで良いなら、実はこんなに苦戦していないのだ。劇場にいるはずの観客のただなかに飛び込めば署長がどんなに馬鹿でも発砲を控えるだろうし、人質も取り放題なんだから。
だが、それはできない。
道徳観念だとかそう言った物ではなく、評判が下がるからだ。
マフィアが今更なにをと思うかもしれないが、今はまだ世間様と敵対するわけにはいかないのだ。商売上の理由で。
ただでさえ顧客が減ってきている今の状況で、商売敵のコンサートの観客を人質にとって逃走なんてした日にはもう、終わりよ。確実に商売上がったりだ。
ウチみたいな零細ファミリーは細々とした収益しか無いんだからお客様は大切にしないといけないのだ。
「ただこのまま逃走しても、恐らく黒幕は警察共を本拠地に送り込んでくるだけだ。状況は大して改善しない」
「なぜ警察に頼むなんてクソみたいな事をしてまで、俺たちを排除しようとしたのか、それを知る必要があるって事だな?」
そうだ。
まぁ、警察を頼るなんて回りくどい事をしたのは、バンビーニの武力がやばいからだと思う。普通は事務所にダイナマイト積んだ車を突っ込ませりゃいい話だが、バンビーニの奴らは生き残るかもしれない。そうなれば、仕掛けた方だけが人的被害を被るという超ハイリスク・ローリターン。
だから直接手を下さず、警察の力を借りることにしたんだと思う。
どんなに凄い腕力を持っていても、普通に逮捕されればそれで終わりだからな。
それはマフィアも変わらない。じつに世知辛い。
だが、相手も警察と接触したなら逮捕されるリスクがあるはずなんだよ。
ただ、俺たちを潰すことがそのリスクに見合うから実行しただけで。
つまり、俺たちを潰す事のメリットがリスクに見合わなくなれば、少なくとも警察を相手にしなくて済むってわけだ。
だから、そのためには相手の目的を知る必要があると。そういうわけよ。
「わかったぺこか?」
「うわ、きしょ」
俺が可愛く小首を傾げて王虎に問いかけたのに、この返し。
脛をめっちゃ蹴ってやる。ついでに署長の脛も蹴ってやる。
署長はうめくが、王虎は眉ひとつ動かさない。ちっ。
ひとしきり蹴って心を落ち着けながら、辺りを見回すと銃を構えてはいるが、多分撃つ気のない隊員たちが見える。署長に当たったら終わりだもんなぁ。ご愁傷様です。
署長の盾がとても有効的で、署長を蹴っても撃たれないと分かり、身の安全が確保できたところで、改めて冷静に考えてみる。
すると、なんか引っかかる部分があった。
なんとなく、今回の件はただのシマ争いとは毛色が違う気がする。
なにがおかしいんだろう……?
自分の直感に従って違和感の元を探っていく。
そして王虎を見てふと思い出した。
……そうだ。おかしいんだ。俺も一応マフィアのボスだから確認した。
だが日本のカルチャーではありきたりだから勘違いしていた。
「なぁ、王虎」
「おう、なんだ?」
俺が問いかけると王虎は強めに署長を絞める。
「マフィアと警察が仲がいいって普通にあり得る事なのか?」
署長が白目を剥いたのを確認してから、俺が思い違いをしていたであろうことを聞く。
「そんなわけあるかよ。普通はどこのファミリーだって、警察関係と仲良くすんなって、オルメタの最初の方に書いてあらぁな」
やっぱり! 苦虫を噛み潰したような顔で答える王虎をみて確信する。
日本では警察と悪の組織が懇ろなんてのはありきたりの設定だから勘違いしていた。
マフィアが警察に協力を仰ぐなんておかしい事なんだ!
バンビーニのオルメタにだって書いてある。俺も読んだ!
普通はあり得ない事なんだ! 警察とマフィアが手を組むなんて!
あぁそうか! だから王虎はさっき俺が今回の敵は警察と協力関係にあるかもしれないと
話した時に激しい嫌悪感を露わにしていたのか。
___腐った野郎の考えなんて分からないし、分かりたくもねぇ。
このセリフは人間性が腐ってるんじゃなくて、マフィアとして腐っているって意味だったんだ。
マフィアにとって警察を利用するのは一種の禁忌なのだ。
そりゃぁ、下っ端警官に金を握らせて利用する事はあるだろうが、今回は警察機構を使っている。
つまり相手はなりふり構わず、マフィアの体面を気にせず、禁忌を冒してまで仕掛けてきたと言うことだ。
いや……むしろ黒幕はマフィアじゃないまであるな? マフィアの常識的に考えて。
いやでも、そうなるともう解決策なんかさっぱり思い浮かばないぞ?
現状うちにできる事なんて武力制圧くらいなんだから。
「うーん! うーん!」
「なんだ? 今度は大きい方か? それは流石に世間体が悪いと思うぞ?」
「うるせぇ! 誰が漏らすか! お前だって小を漏らした時点で世間体は地に落ちてんだよ!」
俺が頭を抱えて唸っていると王虎がくだらんチャチャを入れてくるので睨みつけてやる。
ん? まてよ……? 王虎の顔を見てふと思い出したが、さっき俺が敵は政治家かと聞いた時に、王虎は同業だと答えなかったか?
どこか確信している風に。
マフィアが一番、警察と協力関係になる可能性が低いのにだ。
さっきは俺も今回の件は他のファミリーが出張ってくると思っていたし、サブカルのせいで勘違いもしていたから違和感を覚えなかったが、王虎がマフィアが相手だと断言するのは不自然なような……?
「なぁ、王虎? なんでお前は今回の相手がマフィアだと思ったんだ?」
「あ? そりゃぁ、お前……アイツが出がけに言っていたから___」
「ふむ。やはりその青ブダイの少女が件の少女なのですね?」
王虎が何かを言いかけるのに被せて気絶させられたはずの署長が声を上げる。
「お? 目が覚めたか? もう少し寝てろや」
そう言いながら王虎がまた署長の首を絞めるが、今度は気絶どころかうめき声ひとつあげない。
「あぁ、顔が酷いのは殴られた後ですか。酷いことをする人もいるもんです。いや、本当に」
それどころか、普通に会話をし始める。
「お? おう? てめぇ、なんの手品だ?」
なおも絞めていく王虎だが、殺すわけにはいかずそれ以上力を込められないため困惑している。
「手品? いえ違いますよ。タネも仕掛けもありません。いや、本当に。ただ単に私が優れた獣人であるというだけです。いや、本当に」
そう言いながら署長は体を揺すり、王虎の方に向かい合う様に動かしていく。
まるで王虎が署長を抱きしめているかのようだ。
「警察署の署長である私が優れた獣人であるのは当然の事ですね? いや、本当に。獣人は皆優れていますが、その中でも私は事防御力については抜きん出て優れているのです」
王虎に締め付けられながらも平然と話す署長に、王虎が離すか離さないか迷っている。
離せば銃撃の的だし、離さなければ何をするか分からない不気味さが今の署長にはある。
「ちぃ! ベラベラ喋ってんじゃねぇぞ!」
逡巡した結果、王虎の出した答えは中間。
署長の腕を掴み逃げられない様にしつつ、腕を振りかぶり顔面に拳を叩き込むという選択。
しっかりと腰が乗っていないと言っても、常人なら顔面が陥没すること間違いなしの拳だ締め落としが効かないならこの選択が正解。
はたして王虎の拳は署長の顔面にめり込みバチンという肉を打つ音が辺りに響き渡る。
そして___
「私はラーテルの獣人。私の分厚い皮膚の装甲はあらゆる攻撃を跳ね返す。私の前ではライオンだろうが豹だろうが、たとえそれが虎だろうが餌に過ぎん」
署長が自分の顔面に突き刺さったままの拳を気にもせず、逆にその腕を掴みながら続ける。
「そしてそれは銃弾とて変わらない。……という事で、いや、本当に本当に命令です」
まずい雰囲気を感じた王虎が手を振りほどき距離を取ろうとするが、逆に署長が詰め寄りタックルで膝を取る。倒れこそしなかったがバランスを崩す王虎。
署長の背中目がけ拳を振り下ろすが、肉を打つ音が響くのみで署長を引き剥がせない。
そしてそこで時間切れ。
「私ごと撃て」
署長が命令をくだし、命令され隊員は躊躇うこともなく引き金を引き。
幾度めかの銃声の嵐が辺りにこだまするのだった。
お読みいただき誠にありがとうございます!
実際にマフィア(ギャング)と警察の癒着なんて表立って行われることは無いと思います。
警察はマフィアのボスを捕まえようと躍起になってますし、マフィアはすぐ捕まえてくる警察が大嫌いですし。
日本はひと昔前までは割と懇ろだったんですけど、最近は世論のせいで全然接点が無くなっちゃいました。
そのせいで私の住んでいる街は、日本勢力が衰退して海外勢が好き放題しています。
害虫駆除をしたら逆に外来種に汚染されたといえばわかりやすいですかね?
何もかもをクリーンにすればいいというわけではないんです。




