2章 35話「弱り目に祟り目に蜂の踏んだり蹴ったりの話」
前回のあらすじ 追い詰められた館長がキキをボッコボコにしてもっこりした。
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
塞翁が馬という諺があります。
人の幸不幸はいつ何時訪れるか分からず予測できないということです。
しかし、幸せの方は割と予想可能だと思うのです。
というのも、幸福とは何かしらの行動の結果訪れることが多く、当然その行動は最終的にその訪れる幸福を目標としているわけで、進捗状況からいつ目標を達成できるか、いつ幸福が訪れるかというのが予測できると思うのです。
という事はいつでも予測できずに訪れるのは不幸ばかりということになるわけです。
「うへへぇ! うべぇへへぇ」
最早言語中枢いかれてんじゃねぇか。
聞くだけで夢に出てくるような悍ましい声音で、意味のない言葉を撒き散らしている館長に足を掴まれ、絶体絶命の俺。
こんなトラウマ確定のショッキングな人物が側にいるだけでも肌が泡立つのに、そいつが自分の貞操を狙っているとなれば恐怖もひとしおだ。
本来なら自殺もんだぞ?
まったくもって、あぶねぇあぶねぇ。パピヨンで済ませといてよかった。
よく言うじゃん? 犬に噛まれたと思って気にすんなって。
だから俺も気にしないことにするか。
そんなことよりどうやってこの野郎の息の根を止めようかなぁ?
やってる最中ほど無防備でガラ空きな時はないからな。
「うひゃヒャヒャヒャは!」
噛み付くにも前歯がないときついなぁとボンヤリ俺が考えていると、
『見るに耐えない。やはり男など悍ましいだけよな? ……今回だけだよ?』
そうルナの声が聞こえて___
___チリーン
どこかで鈴がなるような音がした。
「おいしぃそおぉおおおっ! じゃあ、いきまっ……」
今まさに腰を沈めようとしたところで館長の動きが突然止まる。
「あれぇ? 動けないぇっぶっ……!」
そんな間抜けな声がしたかと思うと、グシャッという音とともに甘暖かい物が顔にかかる。
うすらボンヤリしか見えないが___館長の顔がなくなった?
「あぁ?」
何が何だかわからないまま俺も間抜けな声を上げてしまう。
そして突風が吹いた時のような空気震えるような音がすると同時に、何かが折れる音とまたグシャッという音がしたかと思うと俺の前から館長が消えた。
なんだ……? 何が起こっている?
現状を把握しようにも上半身すら起こせない俺にはどうすることもできない。
それでも何とか視線だけ彷徨わせていると俺を覗き込む影。
「王虎……?」
ボヤける視界でも虎の顔はわかる。
そこにはデカイ図体の虎男がにいた。
「わりぃ。ヘマしちまった。まだ無事かよ?」
硬い声でたずねてくる王虎。
俺がズタボロになっている事に責任を感じているんだろう。
多分苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてるんだろな。
だが、王虎が責任を感じることはない。
今回のことは俺に責任がある。
___敵を見誤った。
これに尽きる。
段々と体が発し始めた激痛のシグナルを無視しながら努めて軽く答える。
「処女膜の話なら無事だ。体の話ならズタボロだ」
本当なら肩の一つでもすくめるんだが、あいにく眉も動かせねぇ。
「……へっ。元気そうじゃねぇかよ?」
「貞操の危機にあった幼女に言うセリフじゃねぇな……」
まぁ、こいつは俺を幼女はおろか女だとも思ってねぇだろうな。
じゃなきゃ、女で子供の俺がこんな形で、しかも襲われかかっていたらこんなに冷静ではいられないだろうからな。
「お前だって俺の尻に木の棒をぶっ刺そうとしたじゃねぇか」
自分だって貞操の危機だったと言わんばかりの王虎。
何かを手にとって中身を俺に振りかけてくる。
……さっき使ったポーションの瓶かな?
「そう言うアレで刺そうとしたんじゃねぇよ」
どんなプレイだ。上級者向けすぎるだろうよ。
そして振りかけられたのが底の方にわずかに残った数滴だったとしても、さすがはポーションさん。心なしか少し楽になったような気がするぜ。
「怖かったんだぜ?」
顔をしかめる王虎が確認できるしな。少しばかり視界も良好になったようだ。
「馬鹿言うな。俺の方が怖かったわ」
体を動かそうと試みるが、それはまだできないようだ。
「お前なら大丈夫だろ」
それを見た王虎は部屋の中を探索し始めゴソゴソと漁りだした。
「そんなわけあるか。こちとら幼女だぞ。トラウマ確定だわ。男性恐怖症だわ」
それを見ながら俺は抗議の声を上げる。
男だろう女だろうと、前でも後ろでも、あんなイカレた奴に狙われれば誰でもトラウマになるっちゅうの。男性恐怖症になるっての。
「別にいいんじゃね? お前フレアと同じ人種だろ?」
何でもないことのようにさらりと告げる王虎。
……周知の事実じゃねぇかフレアさん。
この時代ってまだそういうの理解がない時代じゃなかったっけ?
この世界だと寛容なの? ……フレアさんの痴態が許されていることを考えると、そうかも知れない。
「その言い方は色々語弊があるしフレアさんに失礼だが、とりあえず一緒にすんな」
俺はあそこまで突き抜けていない。
先日のパピヨンでの出来事はノーコメントとさせていただく。
「で? どう言う状況だ? ……ちっ。切られてやがる」
おそらく館長のものであろう、でかい机を漁りながら聞いてくる王虎。
多分切られているのは電話線かな? 外部との連絡は出来ないか。
俺は王虎が撃たれた後の事を教えてやる。
「ふん。だったら黒幕とやらは警察にコネがある奴だな」
明らかに嫌悪感を滲ませているな。
「ってことは政治家か?」
「そうかも知れないが、まぁ同業だろうな」
机の引き出しをあさっている王虎。
政治家かつマフィアかもしれないってことか?
それならいきなり警官が突入してくるのも頷ける……のか?
態々表の人間を使うメリットは何だ?
「警察と懇ろになれるレベルの奴か? なんだってまたそんな大物がウチなんかにちょっかいかけてくる? 言ってもうちは木っ端だろ?」
純粋な疑問をぶつけてみる。
俺らがやろうとしている最終目標は確かに大ごとで、国にも目をつけられる可能性はあるが、正直現段階では大した事はしていない。
でっかいところに目をつけられるような事はないと思うんだが。
「随分ひでぇ言い様だな。否定はできないが」
そうだろう? だって……
「アイドル活動なんて言ってみれば、たかだかショービジネスの一環だ。そんな大物がわざわざ警察を動かすほどのもんか?」
警察を動かせる大物なら難癖つけて営業停止にでも追い込めばいいんだからな。
態々荒事に発展させるメリットなど皆無と言っていい。
「さぁな。腐った野郎の腐った考えなんて分からないし、分かりたくもねぇ。だが腐った中で警察を動かせる奴となると、そこそこ限られてくるが……」
机の下を漁りながら吐き捨てるように言う王虎だが、突然立ち上がると辺りを確認しだした。
「……王虎?」
「おかしいな。暫く時間が経ったとはいえ、ドンパチやったのに周りが静かすぎる」
硬い表情を浮かべながら耳を忙しなく動かしている。
外の音を拾っているんだろうか?
「ち、やべぇかもしれねぇ。囲まれている? ……ほら。ポーションだ。飲め」
机を飛び越えて俺にポーションを飲ませてくるが、色々腫れ上がってしまったことで嚥下するのも一苦労な状態だ一気に煽ることもできずもたついてしまう。
しかし囲まれているというのは聞き逃せない不穏なセリフだ。
バキバキと体の中身が音を立てているのに恐怖を感じながら、目で王虎に問いかける。
「今の今まで気づけなかったって事は、俺らがくる前から潜んでいたのかもしれねぇ。……最初から全部が全部、あっちの掌の上かもしれんぞ」
ギリリと奥歯を噛みしめる王虎。
警官の方に視線を向け、館長だったものを一瞥すると断言するように言ってくる。
「この図面を書いたやつの目的は、俺にこいつらをぶっ殺させる事だ」
……なんだと? 殺させることが目的?
どう言うことだと俺は聞くが、王虎は答えずに立ち上がり窓の方を指差しながら言う。
「あそこから、すぐに此処を出るぞ」
俺の手を引きそちらに足を進めようとした瞬間、後ろから声がかかる。
「いや、そうはさせませんよ。バンビーニファミリーの王虎君」
後ろをふりむくと神経質そうな目をした細い体躯をした、メガネの背の高い男が入り口の少し外、廊下に佇んでいるのが見える。
そしてその男が気障ったらしく指を鳴らすと、俺たちが逃走経路にしようとしていた窓のガラスが割れる音と共に武装した何者かが飛び込んでくる。
「両手を頭の後ろで組んで跪け! 抵抗すれば即発砲する!」
そしてそちらに気を取られている間に、入り口の方からこれまた武装した奴らが入ってきていたようだ。おきまりのセリフを叫んでいる。
しかしその風体は……スワット?
この国にはこんな洗練された部隊が存在しているのか?
この世界はこと戦闘に関しては少し時代を先取りしているのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えている間に俺たちは完全に包囲されてしまったのだった。
お読みいただき誠にありがとうございます。
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