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2章 33話 『信じるものが救われない話』



どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。

勧善懲悪という言葉があります。

これは善いことをお勧めしましょう、悪いことは懲らしめましょうという意味です。

あと、物語の場合だと意味合いが少し変わって、正義が悪人を懲らしめるストーリー展開のことを指したりします。

前世の話だと水戸黄門とかですね。

しかしだんだんと流れは変わっていき、悪側にも悪事をなす理由があり、主張があるのというふうに変わっていきました。勧善懲悪の物語はご都合主義として忌避され、個々の正義がぶつかり合う物語が好まれるようになったわけです。

みんな事情があって、立場によってみんな善人になったり悪人になったりするんだよってね。私的には仮面ライダーBLACKくらいの勧善懲悪が好きなんですけどねぇ?



『確かにこのままだと、人類が君の仲間になることもありえるかもしれないね?』


悪魔(ルナ)が困ったように眉毛を八の字にして言ってくるが、困るのは俺だ!

俺が仲間を裏切ったら、ゲームセットというルールがある状況で、見ず知らずの人間も仲間入りされたら、もうそれは詰みだ。

だって、どんな相手が悪人だったとしても、排除という手段をとったらルール上は俺の裏切りになってしまうのだから!


『そうだね? このままだと詰みだね?』


なにやら含みのある言い方だな……?

いや、待てよ? だがしかし、確か……。

そうだ! 仲間の定義に俺がそいつを信頼するという条件もあったはずだ!


『うん。仲間の定義は君が信頼して志を同じくした場合だね?』


ほら! それなら見ず知らずの人を信頼しようがないんだから、問題ない!

全人類仲間計画は早くも終了ですね!

いやいや、さらに待てよ?


「だったら、俺はこいつらを信頼していないぞ! つまり仲間じゃない! そもそも俺は他人を信用しないタイプなのだから!」


言ってて悲しくなるが、本当のことだからしょうがない。

なんなら、俺に仲間なんていないまである!


『確かにね、君は人を信頼しないタイプだったよ? 長い間家族に無用の長物として扱われてきたからね? 自分が信頼されるに値しないと思っているから、他人はいつでも自分は裏切られると思ってる。ある意味そう信頼している』


唐突なディスが熱い。突然俺の繊細な部分に踏み込んでくるルナにガンを飛ばしてやる。

まるで見てきたかの様な言い草だな?


『まるでじゃなく見てきたよ? 最近は君の前世を覗くのが僕のトレンドだね? おかげで少し前世の君の考えが理解できたかな?』


プライバシーって知ってるか?

人の日記を覗き見るみたいな事してんじゃねぇぞ?


『まぁ、今更だね? それはともかく、そんな君がもし人を信頼して、そしてその人間に裏切られた時の絶望は計り知れない。 そしてその絶望が君の魂を僕好みにするんだよ? だからこそこのゲームに意味がある』


……なんだか悪魔みたいな物言いだな。

絶望に染めてやろうって? お前はどこの片翼の天使だよ。

だがしかし! 思うところはあるけれども! 俺が悪魔にもお墨付きをもらえるほどに人間を信頼していないならば、やっぱり俺はこの警官どもを信頼していないわけで、こいつらが死んでも敗北条件に当てはまらない!

無駄にポーション使わせやがて!

こりゃちょっとやそっとの、パイタッチじゃ済まないぞ!


『でもそれは前世の君だね?』


……なに? 前世の俺? 今も昔も俺は俺ですよ?


『これも君の両親の教育の賜物だろうねぇ? 君の人間不信は魂に染み付いていたはずなのにね? あの空間でむき出しになった魂を僕が間違いなく確かめたのに。今の君はそうじゃない』


へぇ、あの真っ暗な空間にいた時はむき出しの魂状態だったんだ。


『キアーラ・カサッツァは性善説を信じている。ひいては人間を信じている』


……真面目な顔して何を言うかと思えば、どうしちゃったの悪魔さん。

そんなわけあるか。人間は生まれ持っての業を背負ってるんだよ? 本質は悪だろうが。

子供でも知ってる当たり前のことだぞ。

そう言ってやるとルナは肩をすくめる。


『人間の本質は悪。生まれながらにして悪。僕もそれには賛成意見だけどね?』


そうだろうそうだろう。わかってもらえて嬉しいぜ? それでこそ悪魔ってもんだ。

この世界だって差別に次ぐ差別の温床だ。

一部の特権階級が利益を独占する、弱肉強食の修羅の国だぜ?

善人なんていないまであるぜ。


俺はまた悪魔らしからぬ説を提唱するルナを鼻で笑ってやる。

だがルナは逆にニヤリとわらう。


『それは君の家族でもかい?』


…………。


『スラムの子供達は? 娼婦の女性達は? みんな君にとって悪かい?』


…………。


『その沈黙が答えだね? 君がキアーラ・カサッツァとして生まれてから、君の世界に善人が溢れてる。善意にさらされ続けた君は無意識に人間を信頼するようになった』


犯人のアリバイを突き崩し、証拠を突きつけるかの様に断言するルナ。

……俺が人間を無意識に信頼しているだと? そりゃ言い過ぎじゃないか?

確かに悔しいがルナの言う通りだ、俺は人に信頼してもらえる様な人間じゃない。

足りないだらけで、出来ないだらけだからな。

そんな俺が人を信頼するなんて押し付けではないか? 烏滸がましくはないか? そう言う思いはある。

人を信頼することは恐ろしいことだ。そう思う。

そんな俺が無条件で人間を信頼する事ようなお花畑なことはありえない。


『だけどさ? 君が人間を信頼していないというなら、この世界を変えようなんて言わないだろ? だってそれは人間が変われるって信じていなきゃ、可能性があるって信じなきゃ無理な話だろう?』


そうなんだろうか?

俺はほかの奴らが変われるって信じているのか?


『それにさ、前世と違って君が人間の善性を信じてなければ、こんな短期間に仲間を増やせるわけがないだろう? 劣等感の塊みたいな君がさ? 10年やそこらで気の置けない仲間がいることがその証左なのさ』


……確かにその通りだ。何故いままで違和感を覚えなかったのか?

前世で社長を信頼するのも数年かかった俺だ。

その上で社長が信頼するからと、時間をかけてほかの職場の人間も仲間だと思うようになったんだ。

潜在的な敵勢力は時間をかけないと見極められない。人は利害の不一致から突然敵に回ることもあるのだから。


「いつからだ……? いつから俺は?」


自分の掌を見てみる。

小さい手だ。

小さい女の子の手。


___いつから俺はこんなお人好しに?


『最初の方からじゃないかな? 君の前世の最期の願いは必要としてくれた人に報いるだからね?』


俺はハッとしてルナの顔を見る。


『今の君は望まれてこの世に生まれてしまったからね? 世界に認められたように感じているんじゃないかな? 世界に必要とされているみたいな?』


見上げたルナの顔はうんざりしたような顔をしている。


『最初僕は君が仲間を増やすのはもっとずっと後だと思っていたんだ。ゲームに勝つために、家族すら信じずスラムで一人生きていくことを選択すると思っていた。だから事故では君が死なないようにした。スラムでの生存率は著しく低いからね? どうやら過剰なサービスになったみたいだけどね?』


家族から離れる……? そんな選択を考えもしなかった。

確かに言われてみればゲームに勝つためには人間との接点はなるべく減らしたほうがいい。

仲間が少ない方がルール的に有利だから。いつから仲間を増やし始めた?


___ゴロッリオだ。

あの時ゴロッリオが狼男に虐げられているときに、俺は自分から彼に手を差し伸べた。

そして必要でもないのに自分のチートを見せている。


___あり得ない。

いくら人手が欲しかったからといって、出会ってすぐの人間に自分の特殊能力を見せるなんて愚の骨頂だ。手札は最後の最後まで伏せているのが当たり前だ。前世ではそう教わった。


では何故俺はいきなり手札を切ったのか?

ルナの言う通りだ。

きっと俺は無意識にゴロッリオが裏切る筈がないと思い込んだんだ。

大丈夫だと判断したんだ。

前世で裏切られてその一生を終えたと言うのに。


『ねぇ? このまま君がただの善人になって悪意に鈍感になってしまうと、ゲームが破綻してしまうよ? 敵と味方をきちんと区別してほしいね?』


そう言ってルナが俺の後ろを指差す。

俺がそちらを振り返ると、館長が起き上がっていた。

身を守るためか? はたまた近くにあったから無意識に持ったのか。

手には銃がある。


「一体これは……? なんで警官も倒れているんだ?」


キョロキョロとギラついた目で辺りを見回し、そして最後に俺のところで視線が止まる。


「もしかして、お前がやったのか?」


その手には未だ銃が握られており、銃口はこちらに向いている。

震える手で握られ、引き金にかかった指は今にもそれを引いてしまいそうだ。


『彼は君の公演を邪魔したことで君の敵対者となっているね? だから彼が撃った弾丸が君を貫こうとも事故とは言えない。だから君を守ることはできないよ?』


「おい! なんとか言ったらどうだ!」


俺が黙っていると館長が焦れたように声を荒げる。


『さっきも言ったけど、今の君の魂はいらないんだよ? って、あぁもうダメかな?』


またパンという音がして、そしてピカッと光った。

今度はそれは俺の方を向いていて。

やっぱり赤くなった。



お読みいただきまして、ありがとうございます!


話進めたいのに進まない……。

モノローグタイプの書き方だと、独白が増えて文字数増えるやんな?

仕方ない。うん、仕方ない。(作者自ら主人公の嫌いな言葉を使っていくスタイル)

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