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2章 31話「船頭多くして山登る話」


こんにちは。私は……俺はキアーラ・カサッツァです。

朱に交われば赤くなると言います。

付き合う人間によって善にも悪にも染まっちゃうよ的な諺です。

まぁ、違う色だから染まっちゃうんでしょう。

でも元の色と混ざったら赤じゃない気がします。

それこそ純真無垢な白でもない限りはね。


「はぁはぁ」


いくら息を吸っても酸素が足りない。

自然と震える手を制御する事ができない。


「うっ……うぇ」


胃から逆流する胃酸を抑え込むたびに涙で視界が曇る。

すぐに行動を起こさなければならないのに、体が言うことをきかない。

ただ敵を排除しただけだと言うのに。


___俺はどうしちまったんだ。


前世で、子供の頃から敵と対した時は躊躇なく徹底的に排除するように育てられてきた。

子供にそんな教育を施すなんてイかれた家だと思うが、あいつらはそうやって一族を繁栄させてきたのだ。

完膚なきまでに叩き潰して、屈服させて、服従させて、支配していた。


そして前世の俺もそれが当然の事だと思っていた。

敵対者には一切の情け容赦なく、機械的に排除する。

そこには利害しかなく感情はない。あるのは一族に繁栄をもたらすかどうかだ。


それが異質な事だと気づく頃にはもう遅い、深く刷り込まれた価値観は俺から払拭されることはなかった。それは社長に拾われたあとでもだ。

カビのように俺の深くまで根付いた呪いのような価値観。

利益になるか敵か否か。


その価値観に従って俺は目の前で倒れている警官どもを拳銃で撃った。


だが、そんな呪いを子供にかけるようなイかれた家でも、殺人という手段は取らなかった。

倫理的な理由ではない。ただ単に日本で殺人を犯すことのリスクが大きすぎるためだ。

だから排除の方法はそれ以外が推奨されていた。

当然俺も殺人を犯したことはない。


だがキアーラ・カサッツァ()は今殺人を犯した。

ドルネオ父さんとクレア母さんに育てられ、貧しくも幸せに育ってきたこの手で、人を殺した。


ぼやける視界で倒れている警官たちを見る。

手足の感覚がなくなってきた。

全身の血流が止まっているかのように身体が痺れている。


「あぁ……」


息と一緒に意味のない声が溢れる。

クレア母さんの困ったような顔が脳裏に浮かぶ。

彼女がこのことを知ったらどう思うだろうか。


何故そんな事が頭に浮かぶのか……。

人を殺した程度(・・・・・)で何故俺はこんなに動揺しているんだ?


『君のご両親は大したものだね?』


いつの間に現れたのか、ルナが俺の前に立っていた。


『君の魂が悪魔に向いているといったのは、お(ため)ごかしや社交辞令じゃなかったんだぜ?』


……なんの話だ?


『あの日あの空間で、悪魔()を相手に躊躇なく殺害という手段をとった君は間違いなく、善性というものからは程遠かったよ?』


何故そんな話を?


『君の考えの通りさ。本来の君なら人を殺したくらいじゃあ、こ揺るぎもしなかったはずさ。そういう風に教育され、そういう風に育った』


だけど、俺は実際に童貞小僧のように震えている。


『だからさ。君のご両親は大したものだと言うのは』


ドルネオ父さんとクレア母さんのことか?


『前世から魂に刻まれた価値観はそう簡単に変わりはしないんだよ?悪人は生まれ変わっても悪人なんだ。だから悪魔は世界が悪人で溢れないように、魂を別の世界に飛ばしてバランスを取るんだ』


……でもお前は自分の目的の為に俺を転生させたんじゃ?


『僕はちょっと特別なんだよ。その話はいいだろう? 今は君が人を殺しても何とも思わない悪人だって話だよ』


今の話に違和感を覚えるが頭が良く回らない。

何か甘い匂いがする?


『あぁ……。魅了も効いてしまうんだね? これは計算外も計算外だ』


ルナが嘆くように天を仰いでいる。

なにかまずいことをしてしまっただろうか?

ルナを困らせるような事をしてしまったのか?


『もう! しっかりしてくれよ!』


「あいてっ!!」


突然、額に痛みを感じて俺はおでこを手で押さえる。

ルナの野郎がデコピンしてきやがった!


「なにしやがる!」


俺がルナに飛びかかると、ひらりと避けやがった!


『はぁ。曲がりなりにも契約中の僕が君にデコピンとは言え、攻撃を加えられるなんてよっぽどのことなんだぜ?』


なにが不服なのか肩をすくめながらルナが言ってくる。

不服なのはこっちだぜ!

なんだってんだ!


『時間がないから端的に説明するよ? 本来の君なら人殺しに忌避感なんて抱かない。僕の魅了は君の魂には響かない。本来なら僕は契約(ゲーム)中の君に危害を加えられない』


端的と言っておきながら、またわかりにくて遠回りだな。


『うるさいよ。……では何故そうなったのか?』


それがドルネオ父さんとクレア母さんのせいだってのか?


『そう。君の魂に良識と善意という楔を打ち込んだんだよ。たった10年やそこらでね? 凄いことなんだぜ? 刑務所に入ってたった10年で改心する極悪人が何人いる?』


誰が極悪人だ。

それに善人になるならいいだろうが。


『そうはいかないから、わざわざ説明しているんだよ? 君の魂に打ち込まれた善意の楔の名前はキアーラ・カサッツァ。君は君の今世の両親によって本当の意味で生まれ変われさせつつある』


はぁ? ちょっとなに言ってるのかわからん。

今の俺はキアーラ・カサッツァだが?


『生まれ変わっても魂は君だったんだよ。そして僕が欲しいのは前世から続く君の魂だ。人間なのに悪魔をも無感情に殺す救いようもない無自覚な悪意の魂だ』


ディスりが過ぎるな。

俺が稀代の極悪人のように言うが、前世の家族に当たる奴らの方が極悪だろうが。


『彼らはもはや人間ではないよ。一族を繁栄されせる機械さ』


あぉう……。

突然明かされる驚愕の事実。

人間じゃねぇと思っていたら、本当に人間じゃなかったらしい。


『そっちは珍しいことじゃないけどね。狂信者とかに稀によくいるからね?』


稀なのかよくなのか……。


『うわぁ、つまらないツッコミだね? その時点で君が本調子じゃないのがわかるね?』


ツッコミでコンディションがわかるって、俺はどこ興行の芸人だよ。


『そうそう。その調子だね? あ、本当にもう時間がないから結論を言うよ?』


端的とはなんだったのか?


『今の君にゲームで勝っても、持っていけるのはキアーラ・カサッツァちゃんという良い子ちゃんの魂で価値がない』


はぁ?

誰が価値なし魂だ!

ぶっ殺すぞこのやろう!


『だから今ゲームに勝っても旨味がない上に、まだ僕は受肉しきっていないから今ゲームが終わると、この世界に来た意味がまるでなくなってしまうんだよ?』


こちらを無視してきた上に、顔は聞き分けのない子供を諭すような顔だ。

ムカつく。

ん? ……今ゲームが終わると?


『そこで倒れてる警官たち。まだ死んでないけど、このままだと死ぬよ? そうしたら君の負けだ』


は? まだ死んでない?

俺の負け?


『うん。君も死ぬね?』


意味わからんよ……。

どうなってんだ?


お読みいただきまして誠にありがとうございます!!


私、いままでは一応何話かストックしている状態で連載していたんですけど、先月体調を崩してストックが尽きちゃったんですよね。なので、こう、締め切りがガチ締め切りになった感じがして、やばいですw


そんな作者のやる気アップボタンが上下にありますので、ブックマークと評価ボタンをよろしくお願いいたします!

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