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2章 11話 「結局は商売に繋げないとねって話」

 

 どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。

 異世界転生における知識チートと言うのは、どれだけ浅い知識をもったいつけられるかにかかっているかと思います。TVでいうCMの後でと言うやつです。

 これは何も悪いことではなく、切り札は最後まで取っておくと言うのに似ていると思うのです。

 その札がどんなに弱くても手持ちで最強なら切り札でしょう?



「それで、その便秘が原因というのはどういう事なのかしら?」


 あれから、便秘の話を食事中にするのも憚られた俺達は、取り敢えず食事を済ませて、俺とマダム、トントンさんとフレアさんの4人でマダムの部屋に戻った。

 そして部屋に着くや否やマダムから発せられたのが先の質問だ。


 一息入れもせず本題に入るとはマダムらしくない。

 まぁ、それだけ今回の問題を憂慮していたという事か。

 ある程度信頼を得られたが故の遠慮のなさとも言える。はず。


「それを説明するのに、まずは食べるという事について話さなければなりません」


 その信頼に応えるためにもこの件には真面目に取り組む所存。

 俺は座っていたソファで佇まいを正した。


「お願いするわ」


 早く結論を聞きたいだろうに、マダムは急かすこともなく続きを促す。

 俺自身も今回の件で不思議に思ったことがあるのだ。

 その事について整理したいと思っていたので助かる。


「まず、人間はなぜ食べるという行為をしなければならないのか。

 わかりますか? フレアさん」


 突然の質問に驚いた顔をしたフレアさんだったが、少し考えて答えた。


「食べなければ死んでしまうからです」


「そうですね、正解です。ではなぜ死んでしまうかはわかりますか?」


 フレアさんは続く質問に、何かを思い出すように目をつぶった後答えた。


「……お腹が減った苦しさででしょうか?」


 軽い気持ちで質問してしまったが、返ってきた声は重苦しさを伴っていた。

 吐き出すように紡がれた言葉には真実の重みがあった。


 たしか、彼女もスラムの出だと言っていたな。

 多分、昔に死ぬほどの飢餓を体験したことがあるのだろう。

 きっとその時の彼女は只々辛い苦しいと思いながら迫る死に恐怖したに違いない。

 そうでなければ苦しさで死ぬなんて答えは出てきはすまい。


 ……嫌な事を思い出させてしまったかな。


 俺が自分の軽率さを反省しているとフレアさんが口を開く。


「この間、1日食事を抜いた時には筆舌に尽くし難いほどの苦しさでした。

 次の日に三回お代わりしてしまうほどです」


 いまも断食をしている最中かのように、辛そうな表情でフレアさんは言う。

 今しがたご飯を食べたばかりだというのに。


 ……昔、辛い思いをしたかもというのは違ったかもしれない。

 一人でシリアスになって恥ずかしい……。


「違います。不正解。 トントンさんはわかりますか?」


 照れ隠しで圧強めの結果発表。

 正解でないことにフレアさんは驚いたが、スルーして質問先をトントンさんに切り替える。


「力が出なくなっちゃうからよ」


 まぁ、あってる。

 でも、間違いではないが大正解ではないので追加の質問。


「そうですね、何故力が出なくなるのか、わかりますか?」


「ご飯を食べていないからよ?」


「いや、そうなんですけど」


 小首を傾げて可愛らしいですが、どうどう巡りじゃないですかそれじゃ。


「それは、何故ずっとご飯を食べないでいると、お腹が減って喉が渇いて、目の前が暗くなっていって体が動かなくなるのかと言う質問なのかしら?」


 トントンさんとコントの様なやり取りをしていると、マダムから確認の声が上がった。


 ……随分と具体的な確認だな。

 まるでそれを実際に体験したことがあるかの様な……。

 今度こそシリアスな雰囲気。


 しかし、マダムの過去か。

 気になるけど教えてはくれないんだろうなぁ。

 いい女には秘密がつきものだっていうし。

 女の過去を詮索するのは良くないっていうしな。


「そうですね。何故そうなってしまうのかと言う質問です」


 なので当たり障りのない返事をしておく。

 できる男はこう言うところで、そつなくこなす。ドヤァ。


「食べなければ命を取り込めないからよ」


 ……思いのほか重い回答が来た。取り込むときたか。

 確かに、いただきますと言う挨拶には、いただく命に感謝すると言う意味があると言う説もあるとかないとかだったし、血肉とすると言う言葉もあるし、合っているのかな?


「人は他の命を取り込んで生きていくの。そして沢山の命を取り込めるものが、更に強く強大になっていく」


 なんか宗教観みたくなってきたが、合ってるような気もする。

 沢山食べれば強い肉体になるし間違いではない。

 間違いではないんだけど、ちょっとしっくりこない感があるな。

 まぁ、いいか。今回はその辺の価値観は追々で。後回しとも言う。


「ほぼ正解です。ただし今回、私が説明するのは命や魂といった概念的なものではなく、もっと物理的な栄養と言うものです。」


「……栄養?」


 マダムが初めて聞くと言う様な表情をした。


 やっぱり、栄養と言う言葉で引っかかったな。

 食事風景を見て気になったんだ。

 美しさの維持に最新の注意を払っているはずなのに、食事の内容が偏っていると思った。


 しかしさっきの価値観を聞いた事で原因も分かった。

 強い命を取り込む事で、美しさを保とうとしたんだ。

 だから肉ばかりが食卓に乗っていた。

 おそらくこの世界では、まだ栄養と言う概念が浸透していない。

 理由は知らんけど。


「はい。人間が何故食べ物を食べないと生きていけないのか、マダムが言っていたように、この栄養と言うものを他から摂取しないと、体を動かすための力が作られないからです」


「命とは違うのですか?」


 ニュアンスの違い程度に聞こえたのだろう、何が違うのかフレアさんが聞いてきた。

 あと、マダムの答えを正解にしなかったのでムッとしている。


「命そのものが必要という訳ではないんですよ。

 例えばその辺に生えている草にも命はありますが、それを食べ続けていても生きていけませんよね? それは草に栄養が少ないからなんです」


 例題を上げたがフレアさんは納得しない様だ。続けて聞いてくる。


「人間には草の命では力が弱いからでは? 強いものを食べればその分、長く生きられます」


「まぁ、強い奴はだいたい栄養を豊富に宿してますけど……」


「そうですよね! ということは、やはり必要なのは命なのでは?」


 してやったりと言う顔をしているけど、植物の生命力半端無いからね?

 下手な動物なんて余裕で超えてくるからね?

 と説明すれども納得せず。ふくれっ面継続のフレアさん。


「ん〜そうですね、例えば俺の腕を切り落としたとします。……いえ例えばです」


 腕を切るとの言葉に、ふくれっ面終了で心配顔をされる。

 忙しい人だなもう。


「その腕には命があると思いますか?」


 無いと答えるだろうと思っての質問だ。

 きっと命は体とか頭にあると認識しているだろうからな。

 NOと返答されたら、じゃあそれを食べても力になりませんよねでフィニッシュよ。


「はい。命のかけらがあります。ですので一部を頂いたとしても力になるのです」


「……そうですか」


 計画通りに行かなかったよ……。


「はい。それに先ほど草の話をされましたが、草だけで生きている動物もいます。

 それはどう言う事なのでしょうか?」


「「……」」


 しかも追い討ちされちゃった。

 純粋に疑問に思ったって言う感じがまた効くぜ。


「本日のお話を終わります……」


「いやいやいやいや! まだ始まったばかりよ!

 頑張ってキアーラちゃん!」


 意気消沈した俺にトントンさんが励ましの声援を送ってくれる。

 だが俺には届かない。なぜなら。


「なんか……フレアさんに言い負かされたのがショックで。もういいかなって」


「どういう意味ですか!」


 憤慨するフレアさん。両手拳をブンブン振っている。


 だってねぇ? フレアさんにだよ?

 そりゃ凹むよ。


「もうちょっと俺って賢いかと思ったんですけど、そんなでもなかったみたいです」

 自省の念に囚われ告白する俺。


 すいません調子乗ってました。

 知識チートTUEEしようとしてました。

 そんなに賢く無いのに。

 だってしらねぇよ?! なんで草食動物が草だけで生きられるのかなんて!

 動物博士じゃ無いもの。 前世運送屋だもの!


「よく考えたら、俺幼女なので難しいことわからないです」


 そう言いつつソファに横たわる俺。


「キアーラちゃん拗ねないで?!」


 きっと光の消えた目をしている俺を、身を乗り出して心配してくれるトントンさんには悪いが、テンションがいと下がりけり。やる気がマイナス値を振り切った。


「拗ねてないです。ちょっとアホの娘に言い負かされて自尊心が崩壊しただけです」


 そのせいで砂浜に打ち上げられた魚よりグッタリしちゃっただけです。


「誰がアホの娘ですか! 私はマダムが仰ったことが正しい事を証明しただけなのに!」


 フレアさんがアホを否定するが、アホじゃなきゃ白目向いて床に落ちてたりしないよ?

 あぁ、俺はあんな姿をする娘に敗北したのか……。


「ようじょ正しくなかったので帰りますね?」


 悲しくなったので席を立って帰ろうとすると、後ろからフワリと抱き上げられる。


「もう、仕方ないわね」


「はわぁ〜」


 マダムだぁ。柔らかな感触と何だかいい匂いとですぐに夢心地。


「さぁ、元気を出して、その栄養の話を続けて?」


「はわぁ〜。えいよ〜。つづけまふよ〜」


 抱っこされたままで、いつかの様に膝の上に乗せられ再びソファへ。


 耳元で息がかかるほど近くで、囁かれたら断れないです〜。

 なんでも説明します〜。

 だから暫くこの感触を堪能させてくださーい。


「ハァハァ」


「そういうところだと思うな♪」


 正面でまたハァハァしているアホの娘と呆れ顔のトントンさんが見えるけど、今は背中の感触に集中だ。


「ゴホン。では続けます。人間が生きていく上で栄養が必要なことは分かってもらえたと思います」


 暫く天国の感触を堪能した俺は気を取り直して説明を再開する。

 残念ながらマダムは自分の席に戻っていった。


「え……?」


「分かってもらえたと思います」


 アホの娘が蒸し返そうとするのでスルー。


「では、必要な栄養とはなんなのか? これは沢山の種類があります。

 タンパク質、脂質、糖、ビタミン、鉄分、カルシウム、炭水化物、ミネラルなどなどです」


 前世なら小学生が家庭科の時間に習う様な内容を偉そうにいっているが、これらの単語も存在していない可能性があるしな。

 もちろんお婆ちゃんの知恵袋的な経験則で分かっている事もあるだろうけど。


「そんなに沢山あるんですか?」


 案の定驚くフレアさん。

 ふふん。良いよ良いよ?

 若い子がおっさんの話で驚いてくれると自尊心が満たされるよ?


「大まかな括りなので、細かく言えばもっとあるはずですね」


 まぁ、それ以上となると俺もよくは知らない。

 確か糖は必須だったりなかったり、たんぱくしつの中でも、必須アミノ酸があったりとか深夜の健康食品のTVショッピングの内容を聞きかじった程度の知識しかない。


「生きていくのに、それらは全て必要なのかしら?」


 マダムから質問がくる。

 自分たちがそんなに数多くの栄養を摂取しているのかと思ったのだろう。


「生きていくだけなら全てを摂取しなくても生きていけます。

 ただ、栄養の不足は体に不具合を起こします。例えば風邪をひいたり、簡単なことで骨が折れたり」


 前世でも偏食だけど普通に生活していた人だっていっぱいいたし、全部の栄養を取らなきゃならないってことはないだろうけど、摂取が皆無だと問題があるはずだ。

 例えばビタミンが過剰に摂取しないと___


「……例えば血を吹いたり?」


 そう。たとえば壊血病になったりだ……。


「あぁ〜。ソウデスネー? アルカモデスネー?」


 俺の手札が一枚マダムにばれちゃったよ?


 ……優秀なのは分かっちゃいるけど、イキナリ一足飛びに結論までたどり着かれるとびっくりする。

 マダムほどの人間なら、栄養という概念と栄養不足と言う概念だけで、俺が奈落のみんなに飲ませたケール汁にたどり着くだろうけどさ。


「なぜ?」

 マダムが不思議そうに聞いてくる。

 この何故はどうして、そんな重要な情報を教えてくれたのかという意味だ。

 なぜなら現段階で奈落を救った方法と言うのは秘匿されるべき技術のはずだからな。


 ちゃんとワザとだってわかってもらえて嬉しい。

 これがマダム以外の人物だったら俺もこの手札を晒したりはしない。

 だが、マダム相手なら切っても良い札だ。


「……まぁ、一応下心はありますよ? 」


「どんな?」


 切った札の強さに少し警戒を見せるマダム。

 少し眉間を寄せている表情もグッドですね。

 まぁ、大したことでもないんだけどね。


「美しさに磨きをかけるため、食べるものを考える。

 食べることで健康になる薬膳というものに興味はないですか?

 私なら便秘を改善するお手伝いができます。」


 美容って金になると思うんだけどどうだろうか?

 もみ手をしながら俺はニッコリと笑顔を見せるのだった。


お読みいただきありがとうございます!

この話を生み出すことが全然できずに、いっそのこと1話から書き直してやろうかと思うほど難産でしたw


頑張ったので、下の☆☆☆☆☆を★★★★★こう!してくださると励みになります。

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