2章10話 「原因なんて分かるとなんてことないよねって話」
評価とブックマークありがとうございます!
あぁ、また予約時間間違えた……。
17日の12時分です。
本当に申し訳ありません。
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
物事は複雑に見えて実際には単純だったなんてことは往々にしてあります。
しかし、答えが簡単だからと言ってその物事自体が単純なわけではないと思うのです。
答えに至る道程が長ければ長いほどそこに思いは宿ると思います。
「どうぞ召し上がれ」
マダムの号令がかかり、周りの人達が思い思いに料理に手を伸ばしていく。
上品に食べる者、豪快に食べる者、小さい口でちょこちょこ食べる者など。
色々食べ方にも個性が見受けられたが、その中でもやはり目を引くのはこの人だった。
「ん〜♪ おいし♪」
ご存知、トントンさんだ。
嬉しそうに呟く彼女はまさにブラックホール。
眼に映る全ての食べ物を、その口という異次元ホールへと消し去っている。
多分美味しそうに食べているのだと思う。
だが食べる瞬間を俺の目は認識できない。
彼女の腕は動いていない様に見える。
彼女の口は動いていない様に見える。
しかし、いつのまにか彼女の皿上からは食べ物が消えているのだ。
隣に座るフレアさんがトントンさんの皿に料理を乗せた瞬間、シュゴゥッという掃除機がティッシュを吸い込んだときの様な音がしたかと思うと既に料理は消えている。
「あ、フレアちゃん次はそのグラタンがいいわ♪」
「はい、どうぞ」
シュゴゥッ!
「ん♪ おいし♪」
「こちらの骨つき肉はどうされますか?」
「あ、それもいただくわ♪」
シュゴゥッ!
……皿の上の肉が骨だけになった。
料理を食べたという結果だけが残った。
時間停止の魔法か何かかな?
『時間停止の魔術は確立されていないはずだね?』
心なしか驚いた表情のルナが補足してくる。
魔術じゃないならスタンド能力だな。
おい、お前も俺の側に立つ者なら時を停止めるくらいしてみろよ。
『完全に力が戻ったら出来るかもしれないね?』
え? 出来るの? すごいじゃん。
『君も止まるけどね?』
つかえねぇ。
ルナが使えないことを再認識したところで、俺はずっと見ていられそうなトントンさんの食事風景から視線を剥がしながら、改めて室内を見回した。
ここはパピヨンの食堂だ。
貴族が食事をする様なゴージャスな長机にデデンと料理が乗った大皿がいくつも並び、それを各々が自分の皿に取り分けている。座りながら好きなものを選ぶビュッフェという感じかな。自分から遠い料理を取るのが大変そうな方式だ。
……あとで中華料理のターンテーブルのアイデアを売りつけておこう。
今日は俺もいるのでお客さんはおらず、娼婦以外の従業員も一緒に食事をしているので、料理も大量。
公娼だけあって、なかなかの大所帯だ。
しかも、ここにおらず外に働きに出ているメンバーもいるというのだから、パピヨンの実際の所属人数はそれは多い事だろう。
その長たるマダムはお誕生日席に座り、そのすぐ横に俺が座っている。
お客様だからこの位置に座っているが、本来は売れっ子順にマダムの近くの席に座っていくらしい。
トントンさんも、本来はもう少しマダムから離れた位置で食事をするのが常だが、話をするために近くに座ってもらった。
そしてその横からは売り上げ順にパピヨンの娼婦達が並んで座っている。
正直そちらの方は俺の目に至福なので、あまり見ることはできない。
特に売れっ子ナンバーワンの牛の獣人さんをみた日には、俺の視線はある一点から動かなくなってしまうだろう。
世界は違えども、でかいは正義だってことがはっきりとわかんだね。
それはさておき、見るべき場所はきちっと見ておかねばならん。
食事の風景は見たが、ちと気になるところはあった。
お次は料理の内容だ。
まぁそれもトントンさんが端から平らげていたので、ある程度把握できたが。
見た感じ肉を中心にガッツリ系が多い。
そしてグラタンやミートソースのパスタ、山盛りのマッシュポテトなど。
腹にたまる脂肪と炭水化物のカーニバルといったところだな。
そして、昼間だからかワインなどの飲み物もない。
「確かに太りそうなメニューだし、これはもしかして……」
ふと思いついたことがあり、追加で質問をするため顔を上げようとするが、そこで違和感を覚えた。
食堂の喧騒が止まっていたのだ。
あんなに騒がしかったのに。
変だな〜変だな〜不思議だな〜と思いながらも俺は顔を上げた。
「っ!」
するとそこには沢山の目、目、目。
今の今まで賑やかに食事をしていた従業員達が、まるで感情が抜け落ちたかの様な無表情で虚ろな顔をして俺を見ていたのだ。
その目はドス黒くドロドロと濁っている。
そして各々がボソボソと呟き出す。
「太る?」
「太りそう?」
「太った?」
「私が?」
「私が太った?」
一つ一つは小さな呟きが何重奏にも重なり、唸りの様にあたりに響く。
それはまるで怨霊が怨嗟の声をあげる様で。
まずいっ! これは死……?!
キキちゃんの危機!
俺を守れ愚かなる悪魔ッ!!
『それはもしかして、僕のことかい?』
愚かな悪魔なんて、お前しかおらんやろがい!
はよ、守れやッ!
『だが断るよ?』
なんでじゃぁーい!
俺が自立思考型の扱いづらさと役立たずぶりに逃走を考えた瞬間、グイイッと肩を掴まれた。
大きく跳ねる俺の鼓動。
そして振り返る間も無く、すぐ耳元で聞こえる声に俺は不動。
「キアーラさん? モノを食べるときは、なんというか楽しくないとダメだと思いませんか?」
顔を動かさず(動かせず)に目だけで横を見ると、いつのまにか俺の顔のすぐ横にフレアさんの顔があった。彼女は俺の方を見もせずに正面を向きながら淡々と告げてくる。
「誰にも邪魔されず自由で豊かで……。
ですから、モノを食べているときに先ほどの様な発言は看過できません」
そう言って彼女は俺の肩に置いた手を、ゆっくりと這わせる様に首へと移動させてくる。
それに合わせて周囲の女性達がテーブルを拍子を取るように叩く。
ダン___ダン___ダン___ダン。
それはまるで処刑を促すかのように。
うぅおおおっ! ヤラレちゃう!
女性の体脂肪率に対し冒涜的な発言をしたため、絶対死亡しちゃう!
『そう言う反省の色が見えないところが君のダメなところだね?』
めげないことで有名な俺です。
考えろ俺! この場を切り抜ける優れたアイデアを!
「原因がわかったかもしれないッ!」
俺がそう叫ぶと皆がピタリと止まる。
その目は先ほどまでと違い、期待の色がうかがえる。
そしてお互いがお互いを牽制するように目配せを始めた。
微妙な緊張感と沈黙が続く。
俺の額から汗がポタリとテーブルに落ちた。
「それは……。今日の相談の話よね?」
そう最初に沈黙を破ったのはマダムだった。
横目で見るとテーブルに両肘をつけ顔の前で手を組んでいる。
俗に言うゲンドウポーズだ。
おっさんがやるとウザっこいポーズだが美人がやると絵になるな。
でもこのポーズは胸が隠れてしまうから評価はマイナスです。
そう俺が考えているとマダムの片眉が少し跳ねた。
あ、マズイ本当に怒らせちゃうかも。
そう考えた俺はキリッと表情を改める。
真面目になりましたよ〜?
だが、俺の真面目顔を見たマダムがため息をつく。
なぜだ??
『ふざけているように見えるからだと思うよ?』
まぁ、問題が太っただからなぁ。
本気の真面目って感じにはなれないよなぁ。
そんなに深刻な問題か?
「今回の問題はね、割と深刻なのよ」
俺の考えを読んだマダムが言葉通り深刻そうに言う。
「私たちは身体が商品なの。そしてこのパピヨンは一流の商品を取り揃えていると自負しているわ」
マダムの言葉に娼婦であろう女性たちが頷く。
「だからこそ、それを磨き上げることに関して努力を惜しまないし、労力も惜しまない」
そこには確固たる自信があった。
「常に私たちは、全力で自分たちが一番美しく在れる様に過ごしているわ。息をする様に歩く様に。それが私たちの生きると言うことだから」
それが当然だと言わんばかりに皆が胸を張る。
「この店の子は誰もがそうしているの。そしてそうできることを誇りに思ってる」
でも___とマダムは言う。
「全力でそうしているのに、今の私たちは一番美しい状態じゃない」
その言葉に何人かの女性達が涙ぐむ。
そうでない者も何かを耐える様にしている。
「これはね? 私たちにとって病にかかっているのと同じ事なの。それも生命を脅かされるほどの」
その言葉を聞いて俺は唖然としてしまった。
幾ら何でも大袈裟だと思った。
だが、俺を見る皆の目は悲痛にそれが自分たちの想いだとそう告げている。
……俺もどこかで見下していたのかもしれない。
この娼婦という職業を舐めていたのかもしれない。
過酷だろうと思っていた、辛いだろうと思っていた、そう同情していたのだ。
烏滸がましい。
なんたる傲慢か。
その心が彼女達の覚悟を見逃していた。
彼女達は全身全霊をもって娼婦という仕事についているのだ。
それを俺はわかっていなかった。わかった気になって理解があるつもりだった。
マダムの微に入り細に入る計算し尽くされた仕事部屋を見たのに。
トントンさんの技を見せてもらったのに、そこにある積み重ねられた努力を見ることができなかった。
そこに誇りがなければ到底到達できない場所に彼女達はいたのに。
それが強さが全てのこの世界での、彼女達の強さだったのに。
これからビジネスパートナーとして歩んで行く相手に対し、なんたる無礼な振る舞いだったのか。
彼女達にとって俺の発言は彼女達の努力に、生き様に唾する様なものだったのだ。
だが、彼女達は先ほどの茶番で俺を許そうとしてくれた。
傷つくことに慣れても痛いはずなのに。
理解されないのは仕方ないと思っているから。
___ならば俺のすることは決まった。
俺はフレアさんに腕を離してもらうと、皆の方を向き告げる。
「私は貴方達の誇りを傷つけた。
これから組む人間に対してカケラも理解を示さなかった。
謝って済む事ではないが、謝罪させて欲しい。
___申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
フレアさんにした許されるための謝罪ではなく、誠意としての謝罪。
自分が悪かったと表明する儀式。
そして、次にその誠意が本物であることを行動で示さなければならない。
「そして改めて、問題解決のために協力させて欲しい」
頭を下げたままお願いする。
許してもらう代わりにではない。
ただ詫びる気持ちからそうするのだ。
沈黙が支配する空間の中俺は頭を下げ続けた。
「頭をあげてくださいキアーラさん」
そして沈黙を破ったのはやはりマダムだった。
座っていた椅子から立ちあがり俺の側にやってくる。
「もとより貴方に私たちを知ってもらうためにお呼びしたのです。
ですからこれは必要なことでした。貴方なら私たちのことを理解してくれると思っていました。そしてやはり貴方はわかってくれた。私たちは貴方の謝罪を受け入れます。
そして___」
マダムが頭を下げる。
それにより整えられた長い絹糸の様な髪がサラリと溢れた。
「試す様な真似をして申し訳ありませんでした。
これから対等にお付き合いをする方にするべき事ではありませんでした。
そして改めてお願いします。どうか問題解決にご協力ください」
それに対して俺はもちろん
「頭をあげてください。私は貴方を許します」
そう答えた。
「ありがとう」
頭をあげそう微笑むマダムを見て、俺は初めて美しいと感じた。
客観的にではなく俺の主観としてそう感じた。
なるほど、やはりこの人も王虎と同じくカリスマを持つ人なんだと、暫くマダムを見つめていると、横から咳払いが聞こえてきた。
「あぁ〜、マダムもキアーラさんも見つめ合っていないで座ったらどうですか?
和解もなりましたし、ご飯も冷めちゃいますし」
さぁさ、と言いながらフレアさんが俺の背を押して着席を促す。
その顔は自分の主人と仕事先が和解したのに不服そうだ。
……嫉妬なの? エンヴィーなの?
フレアさん俺にガチ恋なの?
それって、どうよ??
いや美人に惚れられるのは嬉しいけど、今の俺幼女よ?
幼い女とかいて幼女よ?
心は男でもそれをフレアさんは認識していないわけで……。
『そういう倒錯的なのは感心しないね?』
うちの悪魔のくせに常識的なことしか言わない役立たずもこう言っている。
でも、なんだか面倒なのでスルーする!
時間が解決するさ!
『するかな?』
して欲しいな……。
難しいかな?
そんなことを思いながら、着席し問題解決にむけマダムにいくつか質問をする。
というかほぼ決まりだと思うけどね。
「なんでも聞いて?」
ここでスリーサイズを聞いたら怒られるかな?
「99,9・ 55,5・ 88,8よ?」
答えてくれたよ! って言うか男が求める理想体型かよ!
『心を読まれることはもう気にしないんだね?』
お前も読むし慣れた。
『普通は読めないんだよ?』
前世でも俺の血縁上の家族にはゴロゴロいた。
『普通じゃないね?』
「まず、いつも料理の献立はこんな感じですか?」
ルナはひとまず置いておいてマダムに質問する。
「そうね、だいたい同じね」
「肉類が多いのは?」
「ここの娘は、貧しくてお肉どころかご飯を満足に食べられなかった娘が多いの。
だからここでは今までの分を取り返してもらうためにも多めにしているわ」
「野菜が皆無なのは?」
「昔、道端の葉っぱを食べて生き繋いでいた娘とかが多いから、その頃の辛さを思い出さない様に出していないわ」
「水がないのも?」
「お腹が空いたら、お水だけで満腹感を得ようとしていた頃を思い出さないよいうに、あとたくさん食べられるように」
「芋類が多いのは?」
「だってお腹がいっぱいになるじゃない?」
「あと、気になったんですけど皆んなあんまり噛んで食べないですよね?」
「早く食べないと取られちゃうから、噛んでなんかいられない時代の名残じゃないかしら?」
「仕事のあと毎回お風呂入るんですよね?」
「汗もかくし綺麗になるじゃない?」
「そのあとお水は?」
「あまり飲まないわね」
ふむぅ。これは確定ですね。
トントンさんのお腹のしこりも分かりました。
俺は確信に至った。
「今回の原因は……」
「原因は……?」
勿体つける俺に皆が固唾を呑む。
あまり焦らしても悪いので俺は答えをサラリと告げる。
「便秘です」
お読みいただきまして誠にありがとうございます。
なんだか謎解き回の様相を呈していますが、結論だけだと数行で終わってしまうものを物語にした結果こうなりました。実はかなりの難産が続いております。
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つまらなくても★☆☆☆☆こう!していただけると励みになります。




