38話『恐怖と不安の話』
ああ、また予約投稿をミスってる……
話数も間違えてるし、ほんとすいません。
どうもこんにちわ。キアーラ・カサッツァです。
王虎に英雄の輝きを見ましたが、世にはまだまだ傑物がいるようです。
主人公のような、そんな存在が……
俺はマダムの話をフレアさんから聞いて強く興味を引かれた。
この世界に生まれてから十余年。
弱者は搾取され迫害されるものであると言うルールをまざまざと何度も見せつけられてきた。
スラムの子供が賃金をもらえずタダ働きさせられるのも、街の人が気づいたらスラムの住人になっていることも。
知り合いの女性がアザだらけで仕事から帰ってくることも日常茶飯事だった。
でも誰もがそう言うものだと受け入れていた。
本人ですら。
仕方ないから、どうしようもないから。
弱者に堕ちるのは自己責任だから。
弱いことは罪。
そう言う世界なんだと嫌でも分からされた。
だから俺はハリボテでもハッタリでも弱者のレッテルを貼られぬように立ち回ることを選んだ。俺は強くないから。
家族のため。妹のため。
スラムの子供を使って病弱なポーでも生きていける道を模索した。
どうすれば弱者を脱却できるのか?
新移民という大きなマイナススタートをどう覆せばいいのか?
そう考えた俺はスラムの子供を集めて群れてみた。
数は力だと思ったから。
群れのみんなの見てくれを取り繕った。
人は見た目で印象が決まると思ったから。
金を得るために旧移民やマフィア相手にスリをした。
奴らに一泡吹かせられるし自分の能力を使ってみたかったから。
旧移民に娯楽を提供して金を得ようとした。
お遊び程度の娯楽なら目をつけられないと思ったから。
街の住民から信用を得るためにボランティアの真似事もした。
そうすれば差別もマシになると思ったから。
___どれもこれもガキがイキがってやるおママごとみたいなもんだ。
抗っている振りをしているだけの茶番だ。
たまたま前世の知識があったから普通のガキより上手くイキがれた。
誰かの真似事だからそこそこ上手くいった。
前世というアドバンテージがあってなお、ガキみたいな事しか出来なかった。
世界のルールはとても強大で、俺は何の力もなく弱いから真っ向勝負が出来なかった。選べなかった。
そんな時に現れたのが王虎だ。
俺には選べなかった道を行こうとする男。
衝撃だった。
驚きと憧憬。
この世界にあって真っ向勝負を試みる男。
王虎と話していくうちにきっと王虎は選ばれた人間で、七難八苦を物語の様に乗り越えてきた主人公なんだと思った。
俺とは違う種類の人間。
だから俺には出来ない選択を出来るのも選ばれたからだ。
___そう思った。
王虎が弱音を吐くのを見て、俺は自分のことは棚に上げて高説を披露した。
烏滸がましくもこの得難い人物を導こうと思った。
ここで終わって欲しくなかったから。
俺には出来ないが王虎ならやれると思ったから。
主人公だからできると思ったから。
だが今マダムもまたその道を行くと聞かされた。
戦っているのは王虎だけではないらしい。
マダムと言うからには女性だと思う。
この世界で女性が立身するのは並大抵のことではない。
だと言うのに娼館とはいえ国から認められた仕事をして、さらには国を出し抜いて仲間を家族を守っていると言う。
だけど……そんな二人でも守りきれない。
王虎はスラムと奈落で命を落とす子供を嘆いている。
マダムは娼婦を生業とする事を選べる一部の女性しか守れない。
汚泥のなかでもがく二人でもそうなのだ。
彼らに劣る俺にできるだろうか?
小賢しく立ち回ってリスクを取らない俺に家族は守れるだろうか?
___怖い。
「それで?マダムは俺に何を望んでいるんです?」
俺は内心に渦巻く感情をおくびにも出さずフレアさんにたずねた。
「望む……? マダムはキアーラさんとの友誼を望んでいます」
俺の物言いに一瞬疑問符を浮かべたフレアさんだったが、先程と同じ回答をする。
すっとボケているのか、マダムの言をそのまま信じているのか。
……後者な気がするが一応確認してみる。
「ただお友達になりましょうって事ですか?」
「はい」
フレアさんが即答してくる。
何も考えずに言われたことをそのまま鵜呑みにしているのか……。
「なぜ……俺なんかと? ただの子供ですよ俺は」
自分の主人が突然子供と仲良くなりたいと言ったら疑問に思って然るべきだ。
「いえ! キアーラさんはただの子供などではありません!
スラムの子供たちをまとめ上げ、身なりを整え奉仕の精神を学ばせました」
フレアさんがキラキラした目で俺を見てくる。
確かに一部だけを見ればそうかもしれないが、その後こうしてイベントを行なっているのを見れば奉仕活動でないことくらいちょっと考えれば分かりそうなものだが。
「それに何より! 奈落の子供たちを血吹き病から救ったとか!」
ぐぅ。フレアさんでも知ってるのかよ。どんだけ知られているんだ……。
一応バレないように俺が直接ケール汁を配ったりはしていないんだがなぁ。
「あの……それをどこで知ったんですか?」
王虎ならテリトリーの出来事ということで理解できるが娼館の人がなぜ知っているのか疑問に思った俺は直接聞いてみた。
「え? マダムに教えていただきました」
きょとんとしながら答えるフレアさんは何故そんなことを聞くのかという顔をしている。
「一応隠していたつもりなんですけどね?」
まるで当然のことのように言われ俺は苦笑いを禁じ得ない。
「俺も……気になるところだな。なぜマダムは知っている?」
王虎が厳しい顔でフレアさんに問う。
「うちにはスラム出身の娘も沢山います。生きるために周りの情報を収集するのは当然では?」
またも横から口を出されてムッとするも今度は毒を吐くことなく自重して答えるフレアさん。
でも顔が苦虫を噛み潰し多様な表情をしていたら意味ないですよ……。
「その情報収集の方法を聞いているんだがな」
王虎も自重して再度たずねる。ただし頰をピクピクさせて腕の筋肉をギシギシとならしている。相性悪いなぁ。
「身を守る手段のタネを明かすことはできません」
そんなこともわからないのかと顔に書いてあるが口には出さないフレアさん。
だが、今後の動き方が変わってくるのでここは俺も聞き出したいところだ。
「私もスラムに住む女の子ですが、それでも教えてもらえませんか?」
幼い子供が不安そうにたずねる風を装って聞く俺。
どの口で女の子とかいうのかっ! さぶいぼが立つぜ……。
「うぅ……。しかしパピヨンに所属していないと……」
すまなそうな顔をしながら答えるフレアさん。
そういうところはきちんとしているのか。
「おともだちに……なってくれるんですよね? おともだちじゃダメですかぁ?」
バ美肉したつもりになって全力の媚び!
腕にしがみつき上目遣いで追撃する。
実際に美少女に受肉したわけだけれども。
「あわわわ……可愛いですけど、可愛くてもダメなものもあってっ……可愛いっ」
顔を赤らめながら若干鼻息荒く弁解するフレアさん。
んん?この人もしかして……?
まぁいいや、もうひと押しっぽい。
俺はグイグイフレアさんの腕を引っ張ってしゃがんでもらうと耳元で囁やく。
「お・ね・が・い・チュッ」
前世ではあざとすぎて失笑と嘲笑を受けること間違いない旧石器時代のぶりっ子ムーブ!
だがこの世界ではまだ新しいはず!多分!
「はにゃぁ……」
よし! やったぜ! 効果は抜群だ!
俺のお耳キッスに腰が砕けたように座り込んでしまうフレアさん。
やはりな! この人は百合入ってる!!
その証拠に目がなんだか潤んでいるもの!
俺にはVtuberの素質があるかもしれんっ!
斯様におっさんの精神を持ちながら美少女の如き立ち振る舞いを致したるとは!
マリア様もご笑覧あれ!
「ね? おしえて?」
俺はしゃがみこんだフレアさんの頬を優しく撫でながら再度頼む。
もはや勝利は目前かと思われたがフレアさんが俺の肩を掴み引き離す。
首を大きくそらしてそっぽを向いてはいるが目線は俺の唇に釘付けだ。
「いけません! マダムにもキツく言われているのです!」
ぬぅ。突破できなかったか。
流石にマダムのお側付きだけあって身持ちは硬い。
ん?だったら何故さっきは……?
「何故、それなら先ほどの話はしてくれたのですか?」
マダムにとってアキレス腱ともなり得る重大な情報を何故フレアさんは俺に漏らしたのか?
「先ほどの話? あぁ仕事を斡旋している話ですか。それはマダムからキアーラさんになら教えて良いと言われていたからです」
……教えて良い?
どういうことだろう?
極秘にすべき情報と思ったが勘違いだったのか?
人材派遣も国公認のことだったのだろうか?
いや……弱者や新移民をゴミとしか思っていないこの国が福祉?ありえない。
奴らにとって福祉とは強者の特権と同義だ。
弱者は搾取されるべきものでわざわざ仕事を与えたりしない。
では、マダムが国を黙らせることができるほどの権力を持っている?
これも薄い。それほどまでに力があるならこそこそせずにカバンを掲げればいい。
「質問ばかりで申し訳ないが、もう一つ教えて下さい。
マダムは何故俺には教えて良いと言ったのでしょう?」
いくつかの答えを思い浮かべつつフレアさんにたずねる。
「マダムのお考えは私には考えも及びませんので分かりかねますが、マダムが教えて良いと言った方には教えていますよ」
「つまりそれは建前上で実際には公然の秘密ということですか?」
「いえ、知っている方はごく一部です」
だからなぜその一部に俺を組み込むんだ……?
不思議に思って聞いたりしないのか?
フレアさんはマダムの指示だとそこで思考が停止して疑問にも思わないらしい。
「なぜ俺には教えていいんだと思いますか?何故俺と友誼を結びたいのですか?」
最早わけがわからなくなってきた俺は直球で聞くことにした。
「さぁ? 私には分かりかねます。でもマダムが言うことですから間違い無いと思いますよ?」
彼女の目には一欠片も曇りがない。本気でそう思っているのだ。
至極真面目な顔をしていうフレアさんに俺は少しうすら寒いものを感じた。
そしてそう感じたのは俺だけではなかったらしい。
「お前……そんなんで大丈夫かよ? ちゃんと考えてるか?」
先程までいがみ合っていると言っていいほど険悪だった王虎も心配した顔でフレアさんにいう。
王虎に何か言おうと口を開いてたフレアさんだが俺をチラリと見て口をつぐんだ。
……どんな罵詈雑言を言うつもりだったんだ。
しかし少し以外だ。王虎がフレアさんを心配するとは。
俺のそんな思いを込めた視線に王虎は気づくとバツが悪そうに言ってくる。
「いや、さっきはああ言ったが一応は旧知でな、昔はもう少しマシだったと思うんだがいつの間にこんなに頭お花畑になっちまったんだか……」
「誰の頭がお花畑ですか! 私はマダムの言うことを信じているだけです!」
我慢できなかったのか結局王虎に食ってかかるフレアさん。
「それにしたって限度がある。いいか?
いくらマダムを信じていると言ってもちゃんと考えて行動しなきゃダメだぞ?」
「またそうやって子供扱いして! 私はもう大人です!」
「いや、大人とか子供とか関係なくなぁ」
諭すように言う王虎にそれがまた気に入らないのか益々ヒートアップする。
「大体あなたは昔から気に入らないのです!
そうやっていちいち口を出して! 私は出来損ないといえど猫です!
特性が全然出ていなくてもそれは変わらないのです!
束縛されるのも誰かに命令されるのも真っ平ごめんです!」
感情的に叫ぶフレアさん。人間味が有り余っている様に思える彼女だが……。
「……マダムの命令でここにきたのでは?」
「マダムはよいのです」
俺の質問にムフゥと鼻息荒く得意げに言うフレアさん。
二律背反の言葉に胸を張っている。
……猫の様に気ままな人でも信頼して従うほどの人物と言えば聞こえはいいが、フレアさんの言葉の裏には依存と盲信を感じ取ることができる。
前世で俺の血縁上の父にあたる人に従う血縁上の家族たちと同じ匂いが仄かにする。
血縁上の父が黒と言ったら黒。そう信じて疑わない血縁上の家族。
例え白いものだったとしてもその有り余る才能と力で黒く染めてしまう。
そうする事が当然と言わんばかりにだ。
思考停止と言うよりも思想停止。
彼の思想が自分の思想。
___それは要するに都合にいい人形じゃないのか?
彼女が特別にマダムに依存しているのか、それともパピヨンの家族がみんなそうなのか?
「あなたはあたかもマダムに従うのが悪いかの様に言いますが、全然違います。むしろいい事だらけですよ。例えばキアーラさんにだってそれは当てはまります」
俺たちの沈黙をどう捉えたのか言い聞かせる様に王虎にフレアさんが言う。
「……どんないいことがあるんだ?」
どんな回答が飛び出すのかと恐る恐る聞く王虎に当然の様にフレアさんは言う。
「キアーラさんは恐れていますよね? 自分の無力を。
それこそマフィアのボスであるこの男と渡り合う以上に恐れています」
___。
絶句。
なぜ___?
「きっと無力な自分が何もできないのが恐ろしいのでしょう?
だから今も私からマダムの情報を得て少しでも有利に立ち回れる様にしているのでしょう? そうしないと不安だから」
断言する様に言う彼女に俺は息を飲む。
額に汗が滲み手が震える。
……侮った。彼女の言動からポンコツだと油断した。
実際にポンコツな部分はあるのだろう。
だがそれと彼女が優秀かどうかは別だった。
今までの会話で相手をプロファイルしていたのは俺ではない……彼女だ。
「でもそれは仕方のない事です。
私たちの様な力のないものはいつも恐怖と不安を抱えて生きていかなければなりません。でもずっとそうして生きていくのは辛いです」
いっそ優しげな表情とこちらの安心を誘う様な柔らかな声音。
じわりとこちらに染み込んでくる様なそんな声だ。
「でもそんな恐怖も不安もマダムの言うことを聞いていればそれを克服して安心を得ることができます」
そしてフレアさんはこちらに手を伸ばしてくる。
「だからキアーラさん。キアーラ・カサッツァさん。
私と一緒にマダムのところに行きましょう?」
その言葉には甘い響きがある。実際に手を取ってマダムのところに行けば安心を得ることができると感じさせる何かがある。
この恐怖から逃れられるのか?
無力な俺が感じているこの恐怖を取り除くことができるのか?
家族を守るための正解を提示してもらえるのか?
そんな風に思い、今にも手を取ってしまいそうな俺の視界の隅に王虎がうつる。
旧知の存在が見せた突然の変貌に唖然としている。
……なんて間抜けヅラだよ。
俺は震える手をぎゅっと握りしめ、そして無理やり笑う。
きっと不細工な引きつった笑顔だろう。
だがさっきまで王虎という英雄を炊きつけていた俺がかっこ悪いところは見せられない。
そう思って王虎を見ると視線が合う。
王虎もニヤリと笑う。
俺は一つ息を吸ってこう言った。
「だが断る」
ハッタリとカッコつけができなくなったら男の子じゃなくなっちゃうだろ?
そこのところがわかっていない彼女に分からせてやる必要があるな。
「俺はそんなにわかりやすくないぜ姉ちゃんよ」
お読みいただき誠にありがとうございます!
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