32話 『甘ったれをキャンと言わせる話』
こんにちは、キアーラ・カサッツァです。
人の話を聞かずに、間違った選択を繰り返して上で、勝手に自分には向いていないと諦める人間っていませんでしたか?
助言を聞いてくれればうまくいくはずなのにってヤキモキします。
話を聞いてもらえないのは、こちら側に一目置いていないからってことが多いです。
まぁ要するに舐められているわけですね。
じゃあ、どうするかというと、相手に認めてもらう行動をするわけです。
この世界では……わかりますよね?
___許されない
骨と骨がぶつかる鈍い音がしたが、構わず俺は全体重をかけて虎男の耳を引っ張りながら引き倒す。全身脱力したいた王虎は抗うこともない。
突然の痛みに、されるがまま前のめりに倒れてくる王虎の鼻面を先に着地していた俺の膝に再度叩きつける。
「あがぁっ!」
俺は冷静な思考で落ちていた机の脚を掴んで、痛みに仰け反り顔を手で覆っている王虎の側頭部に叩きつける。
冷静に全身を使って遠心力を乗せた上での一撃だ。
___許されない
度重なる急所への攻撃に王虎が呻いているのを確認した俺は、近くの椅子に乗り上がると飛び降りながら机の脚を王虎に振り下ろす。もちろん限界まで背筋を使って弓なりに力をためてからだ。
そして俺は冷静に王虎へ告げる。
「死んだこともねぇような若造が舐めたこと抜かしてんじゃねぇぞっ!
死んでも無理なんて戯言は蘇ってから吐きやがれ!」
俺の大音声の啖呵に、いよいよ何事かと店の入り口からフレド兄さんやポーラさんが覗き込んでくるが、もはや関係ない。
こいつと同じ夢を見て頑張れた奴がいるはずだ。
こいつがいるから馬鹿にされても耐えられた奴がいたはずだ。
こいつがいるから腹が減っても大丈夫だった奴がいたはずだ。
こいつの見る夢に生きる意味を持てた奴がいたはずだ。
それらを全部無駄にすると言うのか。
生きてきた意味も、死んでいく意味も全て無価値にすると言うのか。
前世の俺たちがそうであったように。なにもかも無価値にされてしまうと言うのか。
それなのに諦めるというのか。
まだお前は生きているというのに。
それは___許されない。
俺は王虎の胸ぐらを掴むとそのまま睨めあげながら、王虎に言う。
「お前が諦めたら、お前に希望を見た奴らはどうなる?
お前のために死んで行ったやつはどうなる?」
さらに頭突きを入れたあと言葉を続ける。
「死んでも無理だと?お前のために死んだやつ前にしておんなじこと言えんのかよ?あぁ?グレープフルーツみたいに頭かち割ってやろうか?」
再度頭突き。
「お前が諦めるってことは、そいつらを無価値にするって事だ。
過去の誰かも。未来の誰かも。そしてお前自身も。
全部無駄にして見捨てるってことだ」
その後には絶望と諦めだけが残る暗い道のりが続いていく。
何もかもが無価値になって無駄になる。
「全部無駄でしたって、あの世で先に死んでいった子供達に言うのかよ?
それでお前は地獄に行ってメソメソウジウジ罪を償うのか?」
王虎の体重と頭に血が上った所為でぶっ倒れちまいそうだがど根性で踏ん張る。
鼻の頭がくっつきそうになるくらいの距離で王虎の眼を覗き込みながら俺は続ける。
「ふざけんなよ?ダメなやつはちょっと上手くいかないとすぐ本来の目的を見失う。
お前の目的はなんだ?言ってみろ!」
度重なる痛みに多少は焦点の合ってきた王虎の眼は今度は混乱に激しく揺れている。
そしてしばらく考えるとボソリと呟いた。
「……わからねぇ」
俺の一喝に絞り出すように言った王虎の表情は迷子になった幼子の様で、泣きそうになりながら助けを求めている様で。その一言には王虎の弱さが全て込められている様に思えた。
なまじマフィアのボスなんかになっちまったもんだから背負う物が多すぎて、その重さで頭が下向いちまって足元しか見えなくなって、そんで目的地が見えなくなっちまったんだろう。
荷物を降ろすこともできずにそれでも歩かなくちゃいけなくて、目的地が見えないから足を止めるのも怖くて躊躇われて。
___だが、だからと言って俺は甘やかすつもりはない。
___俺と同じ轍を踏ませるつもりはない。
下向いて見えなくなった物があるなら、無理やり顔を上げさせて見える様にしてやるまでだ。
目的地がどこなのか。テメェの周りに誰がいるのか。
「て・め・え・がっ!仲間の墓前で誓った事を聞いてんだよ!」
俺はそう聞きながら顎に頭突きをかまして顔を上げさせる。
初心はどこにあったのか。なぜこの道を行こうと思ったのか。
グチャグチャ混ざり合ったもんの真ん中にある核となる部分。
追い詰められて訳分からなくなっちまって雁字搦めになっても、進み続けることができた原動力。
しばらく天井を見上げていた王虎はゆっくりと顔を戻して俺を見る。
その瞳はしっかりと俺をとらえている。
「……みんなを笑顔で過ごせるようにする」
そう王虎がポツリと呟いた。
___そこが王虎の目的地で原点。
俺が胸ぐらを放してやると、その弾みで尻餅をついてしまった王虎から数歩離れるとゆっくりと俺は王虎に言ってやる。
「多分さ。アンタの友達が言ったのはさ。寂しくて死んじゃうからみんなが笑って過ごせるようになるといいなって言ったのはさ。アンタのことを言ったんだぜ」
王虎が不思議そうに俺を見る。
「その誰かはアンタの代わりに願ってくれたんじゃぁないか?そこから先アンタが寂しくないように。笑っていられるように」
今から死ぬ人間が、死にゆく自分ではなく残された者のために。
最期の最期まで王虎の事を思って死んだんだ。
王虎が生きていることが何よりの証拠。
「アンタの為に死なせてくれって言ったのも、アンタに死んでもらいたくないからこそいったんだと思うぜ。そう言えばアンタはそいつの死を無駄にしない為に生きていくだろうから」
その誰かは王虎がバカな事を起こさないように楔を打ったんだ。
本当に優しい英傑だったんだろうと思う。
魂の抜けたような表情を見せる王虎に俺は続ける。
「全部が全部アンタの為に。それが本当の彼の願い。彼女の願い。アンタはただ生きていくだけでよかったんだ」
そう告げられた王虎は電撃が走ったように身体を一度震わせる。
声にならない声で時折、だから……とか、じゃあアレはと呟いている。
脱力して小さくなった身体に段々と力が戻っていく。
何か見えないものが王虎の身体に吹き込まれていく様に。
その度に王虎は誰かに答える様にウンウンと頷く。
そして強く強く顔をしかめ、歯をくいしばる様に眼をつぶり深く長く息を吸う。
その両手は何かを耐えるかの様にギシギシと音を立て硬く拳を形取る。
「死んだ仲間もアンタと一緒に行く。だから王虎。
肩に背負うんじゃなくて、肩を並べて行けばいい。
アンタは最初から夢のために生きてよかったんだよ」
そう俺が言うと、王虎は目をつぶったまま口をへの字に結ぶとゆっくりと鼻から息を出し、膝の上に手を置き正座をすると居住まいを正した。
そうすると、ただでさえ俺より頭が高いところにある王虎から重圧の様なものを感じる。
そしてすぐ近くにいる俺にも聞き取れないほどの小ささで何事かを呟くと、まるで礼をするかの様に俯き肩を震わせながら言った。
「夢のために生きるか……。難しいな。すげぇ難しい」
そういう王虎の声はもはや震えておらず、出会った時の様に芯の通った重低音であったが、その内容は裏腹に泣き言だった。
___この期に及んでまだ泣き言を言うのか!
そう思った俺は再度王虎の胸ぐらを掴み叫んだ。
「このマンモーニが!
あぁ! もう知らねぇ! ちくしょう!
夢だなんてなまっちょろい言い方が悪かった!
仕事だ! それは今からテメェの仕事だ!」
俺もぬるかったんだ。あまちゃんだった。
トラウマがあるとか、同情の余地があるとかもうしらねぇ!
「マフィアやってんだ、しくじればどうなるか分かってんな!
やり方は3通りだ正しいやり方、間違ったやり方、そして俺のやり方だ!
当たり前だが俺のやり方でいく、森を手に入れる!
分かったか! 分かっても分かってなくてもYESと言え!」
そう言い切った俺は王虎の顔を見て違和感を覚えた。
先ほどまでの弱々しさは一切なく豪放磊落を地でいく自信に満ち足りた顔をしている。
そして……笑ってる。
おん? また弱音を吐いたんじゃないの?
「……おっかねぇ子供だな。子供ってこんなにおっかなかったんだなぁ。
子供だってちゃんと考えて、ちゃんと生きてるんだよな。
俺が守るなんて烏滸がましいにも程があらぁな」
だんだん王虎の肩の震えが大きくなって……
「ガハハハハハ! あい、わかった! YESだ!
ガキにここまで啖呵きられて黙っていられるかよ!
俺は天下のバンビーニファミリーの首領王虎様だぜ? やってやるさ!」
俺がぽかんとしていると王虎は胸ぐらを掴む俺の手を掴み言ってきた。
「だが一人でやるには重い仕事だ。
だから、お前さんも一緒にやってもらう。
あんたがビッグボスでいいからよ」
……は?ビッグボス?
なにかの駄菓子かな?
しばらくバカ笑いする虎男を見つめている俺でした。
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