31話『真面目な奴ほど自分の能力に疑問を抱くよねって話』
3000文字以下になる事は今後あるのだろか……?
こんにちは、キアーラ・カサッツァです。
諦めたらそこで試合終了ですよと言った名監督がいましたが、諦めるという選択肢が残っているうちはまだ邪念があると思うのです。
ガチャも当たるまでやれば、提供割合100%なのです。
覚悟を完了していれば後は歩くだけです。
ちょっとよくわからない。
俺の耳は王虎がこぼした言葉を理解するのを拒んだようだ。
「今なんつった?」
もう無理って言ったのか?
冷静な俺の思考とは裏腹に、俺の口は随分と低い声で音を発した。
虚ろな目で王虎がノロノロと俺を見上げてくる。
「奇跡だと思ったんだよ。やっとあいつらに報告できるかもしれないって思って……。
なのに、もう死なせるのは無理だ……。もう……無理だよ」
両手で顔を覆い震える声で王虎が告げる。
報告……か。
王虎はこの世界で弱者救済を望むことができる英傑だと思った。
一人でそんな高みまで登れる人物に憧憬を抱いた。
だがたった一人なんて事はなかったのかもしれない。
その大それた夢は、過去に死んでいった誰と一緒に見ていたものだったんじゃないか?
英傑は他にもいたんじゃないだろうか?
この男をここまでの存在に至らせた誰か。
そう思った俺は王虎に聞いてみた。
「……アンタがスラムをなくしたいと言ったのは誰かとの約束のためか?」
王虎はびくりと身体を震わせたが弱々しく頷いた。
「そうだ……」
なるほど。
……その約束を果たすため。
その誰かの墓標に花を飾るため。
それが王虎の原動力。
王虎をそうあれかしと定める根幹。
その根幹が今揺らいでいる。
何故やるべきことが定まったのに諦めるようなことを言うのか理解できた。
やるべき事と約束との整合性が取れずに苦しんでいるのだ。
気になった俺は王虎にどんな約束だったのかを聞く。
「自分は寂しいと死んでしまうから、……みんなが笑って過ごせるようになるといいなって。
そう言ってあいつは……死んじまった。俺が弱いから……死なせちまったんだ……」
そう言ってまた王虎は手で顔を覆ってしまった。
王虎はスラムの出身だと言っていた。
みんな……おそらくはその時一緒に過ごしていたスラムの仲間たち。
スラムの子供たちのことだろう。
スラムの子供のたどる道はろくなものではない。
生きることがどれだけ大変か。この世界ならことさらだろう。
だが、死なせちまった……ねぇ。
責任が自分にあるかのような言い方だな。
「アンタが強ければそいつは死ななかったのかよ?」
「そうだよ! 俺はみんなの希望だから!
みんなを笑っていられるようにしなければならない!
そう頼まれたんだ! それがあいつの、みんなの願いなんだ!」
王虎が吠えるようにいう。
___しなければならない。
___みんなの願い。
なんか……イライラで右の瞼がビクビクしてきたな。
しかし冷静に、王虎の言い分も聞かなくてはならない。
「それで? そいつはなんで死んじまったんだ?」
俺はなるべく冷静に王虎に問いかける。
「……マフィアのクソどもに彼女達が連れて行かれるのを止めようとして……、あいつらにやられた」
「仲間を守ろうとしたわけだ」
「そうだ! あいつは暴力なんてからっきしで……なのに命がけで子供達を守って!
……立派なやつだったんだ。だから、俺もスラムの子供達を守らないといけないんだ!」
守らないといけない……。
いけねぇ……今度は左の瞼もビクビクしてきた。
冷静に……。
つとめて冷静に俺はいう。
「みんなを笑っていられるようにしなきゃいけない。
子供を守らなきゃいけない。みんなの願いだから。
子供の彼を死なせちまったから。子供の彼と約束したから」
___だから
「子供を死なせちゃいけない」
俺が王虎の目を見ながら言い放つと、王虎は顔を両手で覆う。
……不自然な点はいくつもあった。
スラムの子供を救いたいなら自分のファミリーの傘下に収めてしまえばいい。
ファミリーでなくても下っ端のチンピラとして囲えばいい。
そうすればチンピラとしてシノギができる。
だが王虎はそうしなかった。
なぜそうしなかったか?
答えはマフィアになってほしくなかったから。
マフィアの抗争に子供を巻き込みたくなかったから。
今回わざわざ王虎自ら俺のところに訪れたこともそうだ。
いくら俺が奈落の奴らを治療したとて、俺のような子供相手にマフィアのボスがわざわざ出向いてくるだろうか?幹部の一人でも寄越せばいい。
ではなぜそうしたか?
答えは俺が子供だったから。
もし今回の奈落の一件が俺らスラムの子供達だけではなく、裏で誰かが図面を引いているなら危ない橋を渡らせないように、俺ら子供に手を引かせるため。
こちらは杞憂だったが。
「そうだ。子供は笑ってなきゃいけねぇ。
だから死なせるわけにはいかねぇ。あいつに頼まれたんだ」
___本当にそうだろうか?
この世界に生まれて、まだ子供の身でありながら、自分のことを優先してしかるべき状況で身を呈して仲間を庇える奴が、そんな優しい人間が王虎にそんなこと難しいことを願うだろうか?
そんな約束で王虎を縛り付けるだろうか?
寂しいと死んでしまうからみんなが笑っていられるように……。
今から死ぬ奴が死ぬ時の事を憂うのか?
目の前に仲間がいるのに寂しがるのか?
違うとしたら……寂しいのは誰だ?
その時笑っていなかったのは誰だ?
今から死んでいくそいつだろうか?
俺は違うと思う。何故かそう確信できる。
じゃあそいつが本当に笑ってもらいたいのは誰だ?
「そいつがそう言ったんだな?
そいつが言葉に出してオマエにみんなを笑って過ごせるようにしてくれと頼んだんだな?そうしなければならないと、そう言ったんだな?」
念を押す俺に王虎は俺を見上げるとやけになったように言う。
「だからそうだって言ってるだろう!」
嘘だよ。
「違うだろ。よく思い出せよ、そいつが最期になんて言ったか。何を頼んだのか」
わかってきた。
王虎の心を縛る鎖。
コイツが先に進めなくなった原因。
「なぁ。もう一度思い出してくれ。そいつは最期になんて言ったんだ?」
俺の懇願にも似た問いかけに王虎が目を閉じて長く長く沈黙した。
そうして……言った。
「……僕たちを君のために死なせてくれ。……そう頼まれた」
スラムの子供のためにマフィアにまでなるほどの男が容認できないもの。
仲間の命そのもの。
助けられたかもしれない子供だった仲間の命。
「俺はそんなこと望んじゃいなかった……。死んでほしくなかったんだ」
誰もが当たり前に思うだろう事を当たり前に思う。
「みんながいればそれでよかった。帰ったらまた笑っていてくれているだけでよかった」
天を仰ぎながら王虎が思いを告げる。
「それが叶わないなら、せめて……せめて一緒に……」
だが王虎は生きている。
生きるのを諦めればすぐにでも死神に魅入られるこの世界で未だ生きている。
諦め切れない何かがあるからだ。
何かがこの世に王虎を繋ぎとめているからだ。
「俺は不思議に思ったんだ。なんでやっと光明が見えたのに、やるべきことが定まったのに諦めるのかって。……なんでだい?」
問われた王虎は掠れた声で答える。
「だ、だから……これ以上の犠牲は……」
「今だって犠牲は出てる」
「……犠牲の数が多すぎる」
「少なきゃいいのかよ?」
矢継ぎ早に質問される王虎は言葉詰まる。
「そうじゃねぇ。そうじゃねぇけど……」
そして混乱している。自分で自分がわからなくなっている。
「アンタが俺の計画を無理だと断念し諦めた本当の理由。
それは自分の贖罪に子供を巻き込みたくなかったからだ」
それが今王虎を苦しめている理由。
目の前で仲間を失ったことがトラウマになっている。
子供を死なせたくないのに、自分のせいで子供が死ぬ。
その矛盾に心が持たなくなってきている。
「そう……だな。そうだ。
俺は……上流階級の旧移民にとって変わることで贖罪を果たそうとした」
「だがアンタは仲間がまた死ぬのは耐え難い。だからできない。」
「奈落を救ったあんたなら仲間が死なずに実行できるかもしれないと思った」
「だが俺は復讐に意味がないと切り捨てた。その代わりに森に手を出すべきだと提案した」
「俺はもう仲間が俺のせいで死ぬのは耐えられない。だからできない」
そう。そこが間違っている。そして兎の彼が懸念したことでもある。
だから俺が彼に代わって訂正してやる。
「アンタのせいじゃない。アンタの為にだ」
「同じことだ」
「全く違う」
「何が違う?」
「死ぬのはアンタの夢を叶える為だ。」
誰が尻拭いのために命を賭けるかよ。
「……なに?」
突然呆れたように肩をすくめる俺に王虎は不思議そうに言う。
俺は王虎の目を見ながらしっかりと伝える。
「誰かに言われたからじゃない。許しを請うためでもない。アンタがみんなに笑顔で過ごしてもらいたいとそう夢見ているんだよ」
決して後ろ向きな理由ではなく、自分自身の夢のため。
それでこそみんな王虎についていこうと思うのだ。
「俺の……夢?」
「だってそうだろう。アンタの仲間はアンタの生き方に注文をつけてやしない、ただ俺たちは死んだとしてもアンタについていく。そう宣言しただけなんだから」
じゃあ王虎の生き方を決めたのは誰だ?
「アンタの生き方を決めたのはアンタ自身だよ」
俺がそうきっぱりと告げてやると王虎は反論しようと口を開くが言葉が出てこない。
「どうせ自分なんかが夢を見るべきではないとか考えているんだろう?
だけど、どうしても諦めきれないんだ。だから贖罪だと自分に言い訳をしてる。
贖罪だから仕方ないんだ許してくれとウジウジと」
もしここに王虎の幼馴染がいたらひっぱたかれているだろう。
「許すも何もないんだよ。最初からアンタの為に死なせてくれって言ってるだろう?
最初から死ぬのは織り込み済みなんだよ。どいつもコイツも」
俺は手が痛いから殴らないが言うべきことは言ってやる。
「ようするに犠牲がどうの言っているのはアンタだけって事だよ。
勝手に重荷に思って、何様だって話なんだよ」
少なくともままで死んでいった奴らはそう思っている。
だから御託はいいからあとはやるだけだ。
「あぁそうか。今までやってきたことは、俺のわがままだったのか。
俺の……弱さだったのか。そうだな。
仲間が死ぬのが怖くて進めないのを約束のせいにして……。
強くなきゃいけねぇのに、認められなくて。
そうか……。じゃあ、もう……いいか……」
王虎は独り言のように無表情でつぶやく。
……おいおいおい。
まさかこいつまだ納得できてないのか?
諦め入ってんのか?
「みんなのためにと思っていたが、自分の独りよがりだったとはな」
焦点の合わない目で俺の方を見ながらも、どこか違うところを見る王虎が発するつぶやきはボソボソとうわごとのようだ。
何いってんだコイツ?
マジわけわからねぇ。
いや、まぁ待て。
冷静に冷静に。
「俺の夢でこれ以上子供が死ぬのは許せねぇ。耐えられねぇ。
俺は希望の光なんかじゃなかったんだなぁ。
あいつも俺には無理そうだから夢を託さなかったんだろう。
……勝手に夢を継いだ気になって。……バカみてぇだ。」
ハハハと渇いた声をあげるが表情は変わらず無表情。
右手で顔を覆うとするが、震えながらカクカクと動くその姿は映画のコマ送りのようでいっそ滑稽だ。
結局途中でそれ以上腕が上がらなくなったかのように動きを止めると、脱力したようにぼとりと腕を投げ出す。
椅子の背もたれにもたれかかる様に全身脱力した王虎は、重力に逆らう事すらできぬ様にゆらゆらと首を揺らす。まるでその姿は壊れた人形の様だ。
冷静な俺が奥歯を噛み締めている間にも王虎が続ける。
「どうやら俺には死んでも無理そうだ。俺にはすぎた夢だった」
そう王虎が諦めの笑みを浮かべようとしたところで、冷静な俺はゴロッリオの肩から飛び降りると、王虎の顔面に膝から着地した。
お読みいただき誠にありがとうございます!
キキはプロジェクトがもう走っているのに、発案者が勝手に勘違いでしたやめましょう!って言ってるので怒っています。もうその人だけの案件ではなくなっているのにです。
企画倒れはダメ!絶対!
すでに支払われているものがあるならなおさらです。




