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30話 『ここまでやらねば叶わぬ話』

やっぱり長いです。


どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。

自分の事は、案外自分でもわかっていない事が多いです。

言語化される事で具体的に明確に指針が定まるなんてのは、ざらにある事です。

そのために会議をしたりするんですけどね。



俺が感じた王虎の想い。

正しいかを問いかけると王虎は重々しく頷く。


「そうだ。俺は奪われない奪わない、誰もが笑っていられるようにしたい」


そう深く頷く。


「だったら、やっぱりこの二つは同じようで大きく違う」


俺がやろうとしていた事はそんな崇高なことではない。


俺がやろうとしているのは弱者自身を弱者ではなくする活動で、王虎のは弱者のままでも許される社会作りだ。


「どう違う?」


俺が既に同じような事をやろうとしていた事に、興味が湧いたのか王虎が聞いてくる。


「前者はスラムの俺たちが勝手に商売をやるだけで誰も何も失わない。

仕事は賭け事だから少し利権が絡むだろうが、上納金で解決できる。

だがあんたがやろうとしていることを成した場合、誰もが何かを失う」


「失う? 誰が何を失う?」


王虎が矢継ぎ早に聞いてくる。


「平等は富を持つものの優位性を失う。

みんなが同じだけ富めば相対的に自分の持っているものの価値が下がり損をする。

マフィアの金貸しなんかもそうだ。富の平等化が起これば借金をする食い詰め者が減りその分利益が減る。この辺は困窮しているものがいるから成り立っているところがあるから間接的に大きな打撃になるだろう」


王虎は拍子抜けしたような顔をする。


俺の(・・)敵が弱って都合がいいように聞こえるが?」


多少皮肉が込められているがもっともな質問だ。


「そいつらがそのままであることを良しとするわけないだろう。

損した分だけ商品の値段や利率を上げるだけだ。そうして割りを食った一般の人間は結果的にその分の財産を失う。

さらに相手の地位が低いから許されていた低賃金での雇用も出来なくなりコストが増えるだろう。経営者に恨まれるかな?」


途端に王虎の顔が険しいものになる。


「……そこかしこから相当恨まれることになるな?」


自分の掲げるお題目がどういう結果をもたらすのか改めて目の前に提示され王虎が呻くように言う。


「そうだな。直接関係ないのに間接的にみんなに負担を強いる。

この違いは天と地ほどの違いだ。

人は持っているものを失くすことをこの上なく嫌う。他人のために人間が手放せるものはそう多くない。

ましてやそれが今まで切り捨てていったスラムの住人(弱者)のためとなれば一塩だろうな」


「それで得をするのは俺たちばかりか……」


どんなに綺麗なご高説を謳っても民衆は自分が損をするなら認めてはくれない。

平等はその思想とは裏腹に血塗られた道だ。

あらゆる人間の利害得失がその行く手を阻む。


だが皆の手放せるものが多くないからこそ、今まで歩んできたその積み重ねが値千金の大きな実りとなる。


「差別をなくすにはあらゆる立場の人間の協力がいる。

俺たちだけではなし得ない。大量の協力者、仲間が必要だ」


今まで当然と思ってきたことをぶっ壊して、新しい価値観を受け入れてもらう。

それはどれほどの困難なことだろうか?

とてもじゃないが俺では、それを成す事ができないだろう。


「そしてその仲間たちに平穏を金を権力を、そして場合によっては命を賭けてもらうことになる」


「……命もか?」


心なしか震える声で王虎が聞いてくる。


「政治家にはとてつもなく邪魔な思想だからな。

損失を嫌った奴らから排除の対象になるだろうな。

権力がある奴が仲間になればそれだけで地位を追われるかもしれん。

仲間になっただけで殺される可能性だってある」


話が進むごとに王虎の表情が曇る。

見えてきたんだろう。

何を相手にしなくてはいけないのか。


「……そりゃぁ、随分と難儀だな。

俺らの仲間になっただけで死ぬのか?

今のままでも死ぬし、進んでも死ぬと。

この期に及んでまだ、仲間の命を差し出してもらわなければならないわけだ。

今の仲間にも未来の仲間にも」


王虎が吐き出すようにいう。

きっと今までの苦難を思い出しているのだろう。


「そうだ。しかし今いる仲間だけではまだ足りない。

もっともっと仲間が必要だ。その為に森を手に入れる」


___森を手に入れる。

もし実現可能ならそれは国を一つ手に入れるに等しい。

なぜならこの国の資源のほとんどがそこからきているのだから。

前世の地球で言ったら油田か金鉱を抑えているに等しい。


「損とか得とか、そんなもんを全部ぶっ飛ばせるだけのインパクト。

全ての人類に希望を見せるだけのどデカい夢を見せてやるんだ」


様々な妨害があるだろう。

それをはねのける為にいろんな奴らの協力がいる。

今より更に長く苦しい時期が続くだろう。


それでも不条理を容認できないならやるしかない。


長い沈黙。

王虎はその間も俺から視線を逸らさない。

そこからは様々な葛藤が読み取れる。


誰もが無理だと断言するであろう荒唐無稽な狂人の夢。

自ら火の中に飛び込むが如き愚の骨頂。


そんな道を提示され迷わぬはずがない。


「……アンタには、なんかしらの青図が書けているんだろう?」


だが王虎は貪欲に可能性を探ってくる。

ならばと俺もない頭を振り絞って応える。


「……ゴールは遠大だがそこに至るまでの道筋は既にアンタが切り開いている」


王虎がマフィアであると言うことがそこに光明を見出す。

マフィアになるまでに積み重ねてきたものが、その言葉に真実の重みを与える。


マフィアにはオルメタの掟と言うもがありファミリーはそれを守る。

破ったものには制裁が下され、その命で贖われる。


そのマフィアがオルメタの掟の元、森の開拓を約束すればそれは絶対に遵守される。

出来るかどうかはではなくヤル。

そこに他の奴らは本気のスゴ味を見るだろう。


「マフィアが誓約すれば、森の開拓は夢物語ではなく真実味を帯びる事となる。

イかれた酔っ払いの戯言から、出来るかもしれないリスクの高い事業に変わる」


マフィアは利益にならないことはしない。

逆説的にマフィアが手を出すならそこに利益があると、そう思わせることができる。




「損をするかもしれない。命を落とすかもしれない。

だが見返りが膨大だったらどうだろうか?

ハイリスクハイリターンなら乗って見たいと思うやつはいるんじゃないか?

そして大前提である魔物への対抗手段があんたと言う目に見える形で提示されているなら、あんたと一緒に戦えばやれるんじゃないかとそう思う奴もいるんじゃないか?」


普通なら大幅なマイナススタートのところを、ゼロスタートなんならプラススタートで始められると言うことだ。

損と得を天秤にかけられるところまで一気に持っていける。


普通なら冗談と取られるか、正気を疑われるからな。


「そうすれば、スラムをなくせるのか?」


王虎が聞いてくるが、俺も無責任なことは言えない。


「……道程が長い。あんたが言ったようにあらゆる妨害がある。

あらゆる人間が敵になる。沢山の闘争がある。

その過程で全滅すればそこで終わりだ。

……さっきはああ言ったが簡単に仲間は増えないだろう。

実績がないからだ。森と戦えるという実績がいる。

まずは今ある手札でことに当たらなければならない。

マフィアなんか目じゃない化け物と命のやり取りをする必要がある」


生きたまま喰われるかもしれない、嬲り殺されるかもしれない。

死んだ方がいいと思うような目に会うかもしれない。

森とはそういう場所だ。


だがそこまでやっても仲間が増えるという保証はない。

理解を得られるかどうかわからない。


___だがそれらを乗り越えられたなら。なくせるかもしれない。


「……どんだけの犠牲が出る?」


「クッソ沢山だ」


俺が即答すると王虎が俯く。

過去の犠牲を思っているのかもしれない。


前世だって開墾は多くの犠牲と隣り合わせだった。

化け物どもが闊歩する森の開墾ならその比ではないだろう。


「そんな出来るかどうかもわからない、不確かなプランにのる奴がいるか?」


「いる。間違いなくいる。アンタがやるならその価値がある」


俺は即答する。

俺が見た王虎の中の輝きはそれだけ大きい。

だから俺は断固として告げるのだ。


「あんたなら命を賭けるに値する夢をみさせることができる。

あんたにみんながついてくる」


誰だっていつだって、どこの世界でもそうだ。

未知に挑むのに確実なことなんてありはしない。


そんな中でも先人は常になにかを失う覚悟で挑戦し続けてきたんだ。

それはこいつだからついて行きたいと思うだれかがいたからだ。


王虎がやるなら。

そう思ってついてきた大勢の誰か。

そしてこれからも、座して死を待つくらいならと賛同者も増えることだろう。


「王よ。虎の王よ。俺はあんたなら出来ると信じる。

アンタになら命をかけられる、アンタにならついていけると、短い間でそう俺に思わせるアンタだからこそ。王のように傲慢に虎のように気高く茨の道を行け!」


もう理屈じゃない。

出来ると思ったから。


俺はそう思ったから、だから俺は王虎の背中を押してやるのだ。


俺は王虎を睨みつけるようにしながら断言する。


「さぁ!このクソッタレた世界をぶっ壊すにはこれしかない。

男なら全部いこうぜ! アンタの敵は全員全部!

老いも若きも男も女も!

偉人変人凡人奇人!世界まるごと全部敵!」


小さい世界から外に出ろ。


「だからなんだ! だからどうした!

ルールも仕組みも理不尽も!

全部まとめてぶっ壊せ!」


___産み出すためにぶっ壊せ。さぁ、覚悟を決めろ。


「アンタと仲間が命を賭ければこの世にできないことなどあるものかよ」


例えその先が血塗られた修羅の道だとしてもやれると思うから背中を押すのだ。


俺からはもう伝えることはない。

そう思い王虎の言葉を待っていると、その表情をクシャリ歪め叫んだ。


「まだ賭けなきゃダメかよ……。

これでもまだ足りねぇのか! 失くさねぇように強くなった!

無くさねぇように仲間も増やした! 亡くさねぇように金も手に入れた!

これでもまだたりねぇってんなら死んでいったやつはなんだったんだ!

そんなに難しいことなのかよ!

俺たちが人並みに生きていくことがそんなに悪いってのか!

世界はそれを許さねぇっていうのかよ!」


王虎が机の残骸にまたも拳を叩きつける。

今度は机の脚が折れて完全に残骸は平らになる。


王虎の感情が爆発したって仕方ない。

心情は察するに余りある。


いくつもの悲劇を目の当たりにしてきたんだろうと思う。

思い通りにならないことばかりだったろう。


仲間をスラムを助けたいと思って俺のところに来てみれば、解決する為に更に犠牲を出せと言う。


王虎には俺が悪魔のように思えることだろう。

くそみたいな勧誘をする俺は確かに悪魔に向いているかもしれない。


だがやるならとことんだ。

どんなことをしてでも、更なる屍を乗り越えてでも先に進んで欲しい。


きっとこれまでに散っていった仲間もそう思っているはずなのだ。


王虎が見る夢ならきっとその価値がある。

命を賭けてもいいと思えるだけの価値が。


前世の俺がそうだったから。

暗闇の中から俺を拾ってくれた、社長の為なら命を賭けてもいいと思えたから。


だから俺は王虎に烏滸がましくもそいつらの思いを代弁しなければならない。


「それでも進めよ。それでもやらなきゃならない。

アンタは希望の光(・・・・)なんだから」


俺がそう言うと王虎が、惚けたような顔になり……そして糸が切れたように膝から崩れ落ちて手をつきうなだれ、そしてそのまま動かなくなった。


「どうした?」


突然のことに俺が戸惑い問いかけると王虎が声を震わせ言ってくる。


「無理だよ。無理だ。不可能だ。

出来ない。やれない。出来っこない。」


___あぁ?


「あぁ?」


つい心の声が漏れる。


こいつ今なんつった?



お読みいただきありがとうございます。


キキがプランのデメリットを提示し、感情で営業をクローズしようとしたところ、

王虎がそのリスクは飲めないと感情的に拒否した話です。


キキ「できます!御社ならやれます!王虎社長なら大丈夫です!」

王虎「無理やって……。出来んて……」


デメリットの対処法も提示せず、自分の目的のために他人に危ない橋を渡らせようとする主人公がいるらしい。

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