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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第四十八話『仲を取り持つもの』

第四十八話『仲を取り持つもの』

 輝夜と妹紅の殺し合いは留まるところを知らない。

 お互い、血で濡れながらも、笑みなんぞを浮かべて弾幕を撃ち合っている。


「やめろっ! マジで洒落にならないってっ!」


 飛び出したくなるのをこらえる。

 そんなことをしても犬死するだけだってくらい、残念ながらわかってしまう。


「熱心だねえ。無駄なのに」

「やかましいっ!」


 いつの間にか隣に立っていたてゐの言葉に、怒鳴って返す。


 喧嘩とか、嫌いなんだよ僕は。

 そりゃあ、妖怪に襲われたら身を守る位するし、ほとんどスポーツ感覚の弾幕ごっこまで止める気はないけど。


 でも、これは明らかにいきすぎだろう。


「放っておきなさい。あの二人は、別に死んだりしないわ」

「だからっ、死んだり……って、スキマ!?」


 掛けられた言葉に反射的に反論してから、その言葉の主に気がついた。


 隙間妖怪こと八雲紫。霊夢も一緒だ。

 いつの間にか現れて、二人揃って宴会の料理や酒を食い散らかしている。


「貴方たちを招待した覚えはないんだけど」

「あんなのを押し付けておいて、ご飯も出ないわけ?」


 永琳さんの抗議に、霊夢は妹紅を指し示して反論した。

 ……あんなの?


 もしかして、ちょっと前のでかい火柱は……


「ちょっと焦げちゃったじゃない」

「そうね。私も、お気に入りの日傘が煤けちゃったわ」


 霊夢はスカートの端を、スキマは日傘をそれぞれこれ見よがしに見せる。

 それに、永琳さんは大きなため息をついて、お好きにどうぞ、と言った。


「……おい、さっきまで妹紅とやりあってたのって、お前らなのか?」

「そうよ。ったく。なんで私があんなのとやりあわなきゃならないのよ。面倒くさいったらありゃしないわ」


 このくらいの報酬は当然よね、と霊夢は酒を傾ける。

 ……好き放題だな。いや、それより。


「どうも、妹紅が怒っているのはお前らのせいらしい。止める気は?」

「ないわよ。あれは、あいつが喧嘩したいだけでしょ」

「霊夢の言う通り。大体、あんなのは喧嘩とも弾幕ごっことも呼べないわ。もっと幼稚で、楽しいお遊びよ」


 どうにも、僕とそれ以外の連中との温度差が激しすぎる。


 僕の眼には、今にも死にそうな二人が写っているが、みんなにはあれが『きゃっきゃ、うふふ』みたいな場面に見えるんだろうか。


「まあ、どうしても止めたいんだったら、貴方一人で頑張りなさい」

「……わかったよ。やってやる」


 スキマのからかうような声に、僕は頷く。


 紅魔館で伊達に修行していたわけじゃない。少しは連中を大人しくさせるための方策がある。

 庭に出て、上空で激しく争っている二人に声をかける。


「輝夜っ! 妹紅! いい加減、やめないと、実力行使するぞっ!?」


 予想通り、無視された。

 いいだろう……僕とて、あまり乱暴な真似はしたくないが、これ以上やって本当に取り返しのつかないことになったら大変だ。


「水符」


 スペルカードを取り出す。

 こいつで、少し頭を冷やすがいい。


「『アクアウンディネ』!」


 水弾を作り出す。

 大を二個。

 一抱えもありそうな水の弾。威力は期待できないが、頭を冷やすにはうってつけだ。


「いけっ!」


 それを飛ばす。

 二つの水弾は、狙い違わず輝夜と妹紅に向かい、


「あ」


 じゅっ、と妹紅に向かった方が一瞬で蒸発した。

 特別守りがなかった輝夜のほうは、びしょ濡れ。


 ……睨んでる。輝夜が睨んできてるよオイ。


「ひ、人の言うことを聞かないお前が悪いんだぞ!?」

「…………」


 無言は逆に怖い。それに血濡れで怖さは倍率ドン。


 でも、最初期待したように頭が冷えて冷静になる、ということはなかった。

 きっと、輝夜だけにかかったからいけなかったんだ。両方に当てれば、お互い冷静になるだろう。


「土符『ノームロック』」


 なら、次は土符だ。

 多少威力もある弾だけど、この際仕方がない。


 地面の土を固め、岩弾とする。

 これまた一抱えもありそうな岩。まともに当たったときの威力は、水符とは比べ物にならない。


 スピードがないのが欠点だが、二人とも弾幕を躱すつもりはないみたいだし大丈夫だろう。あれだけ弾幕を喰らって平気な人間が、僕の弾が当たったからってどうにかなるとも思えないし。


「いけっ!」


 岩を飛ばす。

 今度こそ――!


「あ」


 輝夜は、二度目で懲りたのか、ひょいと躱した。

 妹紅に向かった方は、近付いた途端融解して、マグマ状になった岩が妹紅にかかった。


「あっち!?」

「だ、大丈夫か!? 火傷したか!?」


 心配するが、元々炎を纏っていた妹紅には大したことはないらしく、顔に真っ赤になった液状の岩をべったりつけて、こちらを睨んできた。

 それと同時、二人の弾幕が止む。


 ……いや、その。二人とも、なんか喧嘩を中断してくれたのは嬉しいんだけど、なぜにこちらを睨んでいる?


「なぁ、輝夜。ちと休憩して、あっちのおせっかいにお礼でもしないか?」

「そうね。ここまで心配してくれるなんて感激。是非にお礼をしないとね」


 声が平坦だよっ、二人とも!?


 庭に下りてきた二人は、僕が逃げないよう視界の端に捉えながら、わざとらしい会話を始めた。


「さて。水も滴る良い女、とは言うけど、この季節だと少し寒いわね。暖めてくれる? 妹紅」

「いいよ。丁度、燃やしやすいのがいるしな」

「あら、素敵。人の脂って燃えるのかしら?」

「試してみるか?」


 ぽっ、と妹紅の指先に火が灯る。

 え、えーと。……僕は焼いても美味しくないぞっ!?


 というか、本当は仲良いだろお前ら!?


「ああ゛~~~~!!」


 そして、永遠亭に僕の情けない悲鳴が轟いたんだってさ。




「やれやれ、お人良しなのか、阿呆なのか」

「愚問ね。阿呆なお人好しなのよ」


 余計なお世話だ。胡散臭いコンビめ。
















「ほれ、妹紅。ぐいっといけ」


 結局、僕が少し髪の毛を焦がした程度で、その場は納まった。

 永琳さん曰く、どちらも死なずに輝夜と妹紅の争いが収まったのは奇跡らしい。


 ……んな奇跡いらねぇ。僕の髪の毛を犠牲にするような奇跡は。あとで散髪に行かないと。


「あ、ああ。しかし、なんで私まで参加しているんだ?」

「仕方がないじゃない。主賓が言うんだもの」


 妹紅の疑問の声に、憮然とした輝夜が答える。

 ああ、そういえば、僕って主賓だったっけ? そんな扱いされてなかったから、すっかり忘れていたよ。


「いいだろ。どうせ、これだけあったら余るんだし」

「ふん。まあ、今日だけはこの屋敷の敷居を跨ぐのを許しておいて上げる」

「お前はまた、そんな喧嘩腰に……」


 どうどう、と隣の輝夜を諌める。

 やるっていうなら相手になる、と言わんばかりに眼を細める、逆隣の妹紅も抑えた。


 ……いやまあ、なんというのか。

 この二人、まさしく水と油らしく、近付いたらすぐ喧嘩を始めるらしい。

 なので、緩衝地帯として僕を真ん中に据える、というのが永琳さんの意見なのだが……ごめん。はっきり言って、止められるとは思えない。


「ほ、ほれ。乾杯」

「……乾杯」


 わざとらしいなー、と自分でも思いつつ、妹紅と乾杯する。


「ほれ、輝夜も」

「そいつと間接的にでも乾杯だなんて、御免被るわ」


 と、輝夜のほうは自分の盃をさっさと空けてしまい、手酌した。

 ……っとーに、仲悪いんだな。一体なにがあったんだ、この二人に。


「モテモテね、良也さん」


 勝手に宴会に参加して、我が物顔で振舞う霊夢がからかってくる。


「……霊夢。そこでやきもちでも焼いてくれたら、僕も少しは救われるんだが」

「残念。私の心のお餅は、今ストックがないの」

「つーか、お前は作ったこともないだろう?」

「まぁね」


 こいつに、色恋沙汰が今までにあったとも思えない。


「私の出番かしら」

「いや、あんたはいいから」


 名乗り出たスキマを抑える。

 この人が出張って、物事が良い方向――というより、僕にとって都合の良い方向に行くとは到底思えない。


「ほれ、良也」

「あ、ありがと。妹紅は意外と気が利くな」


 いつの間にか、盃が空になっていた。

 そこですかさず妹紅が注いでくれる。


 なかなかのタイミングだった。言うなればグッド・タイミング・モコー。


「…………」

「ん? どうした、輝夜」

「別に、とっとと空けなさい」


 な、なんだ? やけに急かすな。

 慌てて酒を呑み干すと、すかさず輝夜が酌をしてきた。


「ふふん。殿方に気分良く呑ませるのも、女の器量よ。どうやら、気が利くのは私のほうね」


 そして、妹紅になにやら意味ありげな笑みを送り……


「クッ」


 妹紅が引きつった笑いを漏らす。


 あ、あれ? これ、やばくね?


「おい、良也。次は私が注いでやる。さあ、呑め」

「いや待て、流石にこんだけ一気はキツ……」

「なにか? お前も、私が輝夜より劣っていると言うつもりか?」


 いや、言ってないし思ってもいないっ!

 僕は単に、僕をダシにして張り合うな、と言いたいだけであって……!


「つまり、熱燗が好みなんだな?」

「わかったよっ! 呑むから、火ぃ出すな!」


 これ以上燃やされたら、僕ハゲになっちゃいますよっ!


「ほら。私が入れたほうが美味しいでしょう」

「いや、まて輝夜。これ以上はマズ……」

「不味いって言うつもり?」


 僕、なんかしたか?


「なかなか珍しい光景ね」


 そこ、永琳さん。んなどうでもいい感想を持つくらいなら、僕を助けてくれ。


「ふっ、輝夜の注いだ酒なんぞ、一気でもしないと呑めたもんじゃないだろう? ほれ」

「おっと、手が滑った」


 わざとらしく、輝夜がお銚子を放り投げ、妹紅に中身をぶっ掛ける。


「お、お前ら……食べ物を粗末にするんじゃ……」

「やる気か?」

「喧嘩を売ってきたのはそっちでしょう」


 だから、間に挟まれる僕のことも……うっ、ヤバ。また喧嘩になりそうだ。


 ――こうなったら。


「…………吐く」


 口元を押さえて、そんな風に言ってやると、両者引きに引きまくった。

 ふん。少しは仲良く呑めってんだ。


 ……あ、ヤバイ。一気させられたせいか、本気で気持ち悪くなってきた。

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