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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百九十五話『妖精小戦争』

不覚!

 光の三妖精。

 そこらで群れてる一般妖精に毛が生えた程度の実力しかないが、悪戯に最適な能力をそれぞれ備えているため、時には霊夢とかも痛い目に遭わされることがあるらしい。


 んで、基本三人セットである。

 それぞれ光にちなんだ出自のためか、分かれて行動することはあんまりない。


 だっていうのに、


「……なに一人でかかってきたんだよ、サニー」

「っさいなあ」


 晩御飯のおかず用に山菜を摘んでいた僕に、後ろから悪戯を仕掛けようと近付いてきたのだ、こいつは。

 僕も、元々他の妖怪や獣が来ないよう周囲は警戒していたので、後ろから来られても音や気配で何かがいるというくらいはわかる。


 とっくに僕が見える位置にまで来たのに、声をかけもしないことから、友好的な相手だという可能性は除外して不意打ち気味に弾幕をぶっ放した。


 そして、その結果が口を尖らせ、地面にへたり込んでいるこいつである。

 他の二人が伏兵として襲い掛かってくることも警戒したが、そんなこともなく、僕は不貞腐れているサニーを前にさてどうしたものかと腕を組んだ。


「つーか、いい加減懲りろよ、お前ら。僕もそろそろ慣れてきたんだぞ」


 少なくとも、警戒している時ならこいつらの悪戯には引っかからない。それくらい、そろそろ学習して欲しい。


「だって、私一人でやれる獲物で、一番得点高いのがアンタなんだもん」

「得点……?」


 あっ、とサニーは手で口を塞ぐが、そうは問屋が卸さない。

 吐け、と僕は手に霊弾を作り、にこやかに脅迫した。


 ……絵面が、どう見ても幼女を虐める悪い大人にしか見えないのは、気にしても仕方がないだろう。


「え、ええとね。その、私達の中で誰が一番悪戯するのが上手いか、でちょっと喧嘩になって。白黒はっきりつけようってことで、今日はみんな一人でどんだけ人間への悪戯を成功させたかで競争しようってね」


 ……悪戯の腕前が上手いか下手かで口論になるんだ。はた迷惑な。白黒つけるなら映姫のところにでも行けばいいのに。


「霊力持ちの人間は十点、普通の大人は五点、子供は一点! 幻想郷縁起の英雄伝に載ってる奴らは五十点!」

「……それで、僕か」


 何故か僕も載ってるからなあ。なお、森近さんとかも掲載されているので、別に戦闘力が高い必要はないのだろうが、あれはどういう基準で選んでるんだろうか。


「そ。良也はボーナスキャラ。幻想郷に今日いるかもわからなかったし、色んなとこふらついてるから見つけるのも大変だけど、私達一人ずつでもイケそうな奴だしねー」

「そりゃ霊夢や魔理沙と比べりゃな」


 森近さんは森近さんで、あの人長生きだから妖精の悪戯を返り討ちにするくらいは楽勝でやる。


「折角見付けて勝った! って思ったのに……。あーあ、二人は今頃里でやりまくってるんだろうなあ」

「……はあ」


 妖精の悪戯くらい、里では日常茶飯事であるし、行き過ぎるようなら慧音さんによってメッ!(物理)されるだろうが、聞いて放置するのもな。

 ふむ、注意喚起くらいはしておくか。


「さて、サニー。僕はこれから里に行って、今日はお前らの悪戯に気をつけるよう周知するつもりだ」

「なによー、勝手に行けばいいじゃない。ふんだ。どうせもう私は追いつけないし、いいよ」


 ああ、競争に勝つ目がなくなったから、不貞腐れてんのか、こいつ。


「阿呆。お前も行くんだよ。目ぇ離したら今度は駄目元で霊夢辺りに突っ込みそうだ。成功しても失敗しても、あいつ機嫌悪くなるからな。……霊夢のご機嫌取り、大変なんだぞ、この野郎」

「うわ、なんか情けなっ!」

「うるさいよ!」


 ほーれ、きりきり飛べー、と目を離さないようサニーを急かして、僕は里へと飛んだ。
















「む、なんだ良也くん……え? 妖精の悪戯? いや、別に今日は特別多いという話は聞いていないけど」


 と、人里で何か事件があれば、まず相談されるであろう慧音さんを訪れてみると、そんな風に言われた。


「光の三妖精……ああ、そういえば、そっちの子はいつももう二人とつるんでいるな。……うーん、競争? もしかして、飽きて帰ったんじゃないか? 妖精は悪戯好きだが、それ以上に飽きっぽいから」


 成る程、と僕が手を叩くと、連行していたサニーは『あの二人~~!』とぷりぷり怒っていたが、しかし、里で悪戯が増えていないのなら何よりである。


 まあ、念のため目についた知り合いに訪ねてみたところ、今日起こった妖精の悪戯というと、畑の野菜が幾つか盗まれたり、歩いている人が足を引っ掛けられたり、対局中の将棋の駒が目を離している内に動かされていたりと、まあ日常の範疇であった。


 どうも、話を聞くに、スターとルナの仕業臭いが……このくらいの悪戯ならば、里の人も騒ぎ立てたりはしない。


「んで、大穴を狙ったお前の一人負け、ってとこか」

「むむ……」


 唸るサニー。


 別に悪戯を推奨するわけじゃないが、自分にちょっかいをかけようとした相手にこんくらいの嫌味は許されると思う。


「あーあ。もう帰るトコだったのに、里にとんぼ返りしたからもう日が落ちるじゃないか」

「太陽が落ちちゃうとねえ。私、一応日の光の妖精だから、夜はルナとスターの方が有利なのよねえ」

「あっそう。んじゃ、お前もういいよ。僕はもう、晩飯作るの面倒だから、適当に呑んで帰るから」


 しっしっ、と追い払う。


「あー! 一人で呑むなんでずるっこ! 私にも奢ってよ!」

「あの、ズルいってなんだよ。……ていうか、よく堂々とタカれるな、お前」

「だって、悪戯勝負に買ったら二人の奢りで飲み放題だったのに、あんたのせいで負けちゃったんだから。一杯くらいご馳走してよ」


 ……はて、これは僕、怒ってもいいのだろうか。いや、怒っていいはずだが、ここまで臆面もなく言われると、ああそうなんだな、という気がしてくる。


「……ん?」


 ふと。

 本当に偶然に気付いたのだが、今、大通りの喧騒が少し静かになった気がする。

 日が落ち始めているこの時間。人通りは多いはずなのに、音が小さく……


「ふむ」


 僕にしては珍しく直感が働き、『自分だけの世界に引き篭もる程度』の能力の範囲を広げる。


 果たして、音は戻ってきて、ぐるりと周囲を見渡すと、左後方から近付こうとしていたルナを発見した。

 僕と目が合うと、『うえっ!?』とルナは顔を引き攣らせる。……そして、その手には何故か蒟蒻が。あれか、肝試しの定番と言いながら、実際にやっている所を見たことがない、あのぺたっと貼り付ける奴か。


「……お前、里のど真ん中で音だけ消してうまくいくと思ってたのか」

「えー、っと。そのー」


 ルナが視線を彷徨わせる。

 ……どうやら、こいつは別に悪戯勝負を降りたわけではなかったらしい。


「さよならっ!」


 そして、ルナは転身し、逃げ出そうとして……ずべっと転んだ。

 ……なんかちょっとかわいそうになってきたぞ。


「あー、ルナ? 続けるか?」


 適当に助け起こしながら、砂まみれになった蒟蒻を取り上げる。

 ルナはというと、もう諦めたのか項垂れていた。


「ちょっと、ルナ! 折角私が囮役やってあげてたのに、なに失敗してるのよー!」

「ええ、囮!?」


 あ、サニーこれ適当に言ってるな。


 軽くサニーにゲンコを落としておいて、さてどうしたもんかと僕は腕を組む。


「……ま、どうでもいいか」


 いつぞやの妖精大戦争とやらのように大掛かりな騒ぎになっているわけでもない。しかも、三人集まっても大したこと出来ない連中が、一人一人動いてても大それたことはできないだろう。ここまで里で大した騒ぎになっていないことがその証拠だ。


「んじゃ、僕呑んでくから、お前らもさっさと帰れよ」


 さってと。今日はどの店にするかなー。















「ひっく」


 馴染みの店で散々飲み食いして、少しふらつきながら僕は博麗神社へと飛んでいた。


 今日は月も星も明るくて、よく向こうまで見渡せる。


「おー、いい夜だ」


 夜風も涼しく、アルコールで火照った体に気持ちいい。

 酔いで少し体がダルイが、もう少し散歩……飛んでるから、散飛? して帰るのもいいかなあ、とも思ったが、酔った状態で妖怪に出くわすと逃げ切れない可能性があるのでやめておくことにする。


 しばらくすると博麗神社が見えてきて、その境内に着地。

 母屋の方にはまだ明かりが付いているので、霊夢も起きているようだ。


 ふんふん、と自然に漏れ出る鼻歌を歌いながら、僕は母屋への第一歩を踏み出し、


「ぬお!?」


 突如背中を襲った衝撃に、たたらを踏んだ。

 振り返っても、衝撃の原因となるようなものは見えない……いや、


「うお!?」


 前方二メートルのところに突然現れた光弾を慌てて回避する。


「……ええい、なんの真似だ!」


 と、いうところで大体正体は知れた。

 能力範囲を拡大し、光の屈折により姿を消していた三妖精の姿が顕になる。


 ……今度はちゃっかり三人揃ってやがる。


「ふふん、ようやく気付いたのよ」

「……なにに」


 正面でどんっ、と自信満々に胸を張るサニーに、僕は嫌々ながら先を促す。


「私達は、一つ一つは小さな火だけど、三つ合わされば火炎となるってことよっ!」

「意味がわからねぇ!」


 元ネタはわかるけど、どうしてお前らが知っているのかがさっぱりだ!


「というわけで、リベンジよ!」

「私の晩御飯の蒟蒻を取り上げた恨み、忘れないわ!」

「私はまあ……ついで?」


 いやいやいやいや! っていうか、ルナ、あれ食うつもりだったの!?


「っこの、返り討ちに……」


 一歩前に踏みだそうとすると、足がふらついた。

 そ、そうだ。僕、しこたま酔っ払っているんだった。


「そんだけ呑んでれば、私達にも勝てるわ! 行くわよ二人共。突撃~~!」

「こ、この。舐めるなよ!?」


 弾幕を撃つことに支障はない……支障はないのだが、全然狙いが定まらねぇ。

 あ、吐き気もしてきた。……これアカンわ。










 そして、僕は三妖精に敗北を喫することとなった。

 ぐぅ、畜生め。

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