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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百九十四話『月の姫と縁側でお茶を』

まあ、暇潰し位ならいくらでも付き合うけどさ……

 博麗神社にストックしてある二日酔いの薬が切れそうだったので、永琳さんのところに貰いに来たとある日のこと。


「あら~、良也じゃない」

「……ん?」


 呼びかける声にひょいと振り向いてみると、永遠亭の縁側でごろりと寝転がっている輝夜が、なんかダルそうに手をひらひらさせていた。


「……輝夜? なにやってんの、お前」


 知らない顔でもないので近付いてみる。


「なにかやってるわけじゃなくて、なにもやっていないのよ。かれこれ一月くらいこんな感じで、そろそろ退屈に殺されそう」


 いいご身分だな、おい。

 僕もこっちに来ている間はこう、かなりぐーたらな生活をしていると自覚しているが、このお姫様は一ヶ月と来た。


 輝夜は、無造作に置いてある菓子鉢に手を伸ばし煎餅を取り、寝転んだままボリボリかっ食らった。


「……食べかす落ちてるぞ」

「平気平気。うちのイナバの誰かがそのうちつまむから」


 言って、輝夜は煎餅をもう一口。


 ……その所作は、どこからどう見てもだらしのない駄目人間ではあるのだが、美人ってズルいと思う。そんなナリでも、どこか退廃的な色香が立ち上ってる。

 後、いつもは足先すら見えない長いスカート的なものがめくれ上がってて、足首が見えてる。露出度で言えばミニスカとかの圧勝のはずなのに、普段見えていないものが見えているというだけで、なんかエロい。


「……ほほう」

「なんだよ」


 とまあ、断じて見惚れていたわけではないのだが、そんな風に観察していたせいか、なんか輝夜が面白いものを見つけた顔になる。


「なに? 求婚する?」

「しねぇ」

「ふふふ。良也、貴方にはどんな難題を出してあげようかしら。かつての難題を越える新難題。あれがいいか、それともあれが」

「やらないっつってんだろ」


 せめてもうちょっとこっちに気があるとか、そーゆー風ならやる気がでないこともない可能性がなきにしもあらずだが、明らかに暇潰しの種を見つけたような顔で言われてもなあ。


「ふん、まあ、そうよね」

「そうだよ」

「あーあ、これが噂の草食系ってやつ?」

「噂って。ホント、お前らのその噂の出処って一体どこなんだよ……」


 なんでこう、無闇に時事ネタを仕入れてるんだろう、こいつら。また微妙に時期を逸している辺りもなんというか。


「昔は、それこそうちの屋敷の塀やら門の穴をほじくってまで、私を一目見ようとしていた肉食系ばかりだったのに」

「お前そういうのが嫌だったから難題とか言って無茶振りしたんじゃなかったのか?」

「しつこいのは嫌いだけど、ちやほやされるのは好きなのよね」


 ヒデェ。

 この女に求婚したという妹紅の親父さんも、何故にわざわざ輝夜だったんだ。確かに顔については、こいつ以上は人類の歴史上片手で足りる程度だろうが、こう性格とか内面の美しさ的なものを求めても良かったんじゃあ。


「だから、ちやほやしなさい」

「それだったら、里に行って愛想の一つも振り撒けば若い男が嫌ってくらいしてくれるぞ」

「それがねえ。幻想郷だと、強い力を持ってる相手への警戒心が先立つみたいでね」


 ああ、そうかも。んで、長年の信頼を築き上げているお雛さんとか、信仰の関係上、人間の味方である宗教の人とかが人気を集めているのだ。


「ったく、妹紅のやつも、こういう時こそ喧嘩売りに来ればいいのに」

「……ああ、そういえば。一ヶ月も暇ってことは、妹紅とその間やりあってないんだな。どうだ、これを機会に関係改善を……」

「嫌よ。ま、一ヶ月くらいならツラ突き合せないこともよくあるけどねえ」


 本当、輝夜と妹紅が仲良く――とは言わないが、せめてお互い殺し合いをしない関係になるのはいつのことやら。

 僕も微力ながらこうして仲良くしろーと言い続けてはいるんだが、全く持って改善の兆しすらない。


 ……まあ、時々、こいつらは親友同士以上にわかりあえている気もするが。


「そんなわけで、ほら、良也」


 ようやく輝夜が体を起こし、ぽんぽんと自分の隣を叩く。


「もうちょっと私の暇潰しに話に付き合いなさい。茶くらい出すから」

「……ま、いいけどさ」


 一応、立ちっぱの僕を気遣う程度はしてくれるらしい。


 どっこいしょ、と僕は永遠亭の縁側に腰を下ろし、一言断って輝夜の食べてた煎餅を一枚拝借した。

 ……む、中々美味い。






















 てゐの奴が頼んでもいないのに勝手に淹れてきた激辛茶を突っ返し、鈴仙が淹れてくれた焙じ茶を堪能する。


「ふぅ」

「ああ、やっぱり薬師だからかしら。鈴仙は焙じ方が上手いのよね」

「それって関係あるのかね?」

「薬草とかの扱いに近いんじゃない?」


 ああ、言われてみればそういうこともあるやもしれん。


「しかし、いざ改めて話を、って言われても。特になんも言うことはないんだが」

「話題の少ない男ね。だからモテないのよ」


 いや、まあ我が事ながら反論はできないが、


「じゃあ、外の生活。これなら、多少話し方が拙くても、珍しいから面白いわ」

「うーん、つっても、日中は普通に仕事して、帰ってからは適当にネットしたり本読んだりして、後寝るだけ以下エンドレスなんだけど」


 実に普通の独身男の暮らしだと思う。

 休日に幻想郷に来ているのが一際異彩を放っているが、まあそれは輝夜は知っているからナシとして。


「ねっと?」

「インターネットって言って……なんて説明すりゃいいんだろ。世界中の人と、機械で繋がる、みたいな。んで、色んな人が毎日文章書いたり、絵描いたり、動く映像を載せたり」


 あ、なんかすごく興味を惹かれた顔をしてる。


「なにそれ、面白そう」

「あー、まあ、退屈とは無縁になると思うが……」


 こ、こいつにインターネットを与えたらどうなるんだろう。


 永遠の若さと命を持ち、働かなくても部下が食わせてくれる(つーか食わなくても問題ない)お姫様。

 ……ニートになる素質はバッチリのような気がする。


 さっき、ちやほやされるのが好きとか言っていたが、輝夜がネットアイドルとしてデビューしたらアクセス数がトンデモナイことになるのは想像に難くないし。


「で、でもやっぱりアレだな。やっぱ現代の感性は、昔とはだいぶ違うし。輝夜が見て面白いかどうかは……」


 永琳さんの頭脳を持ってすれば、この永遠亭に光回線を引き込むことも不可能ではないかもしれん。

 そんな危惧が走り、僕は慌てて輝夜の興味を逸らすべくそんなことを言った。


「ふーん。まあ、外の本とやらも幾つか見たことあるけど、イマイチ分からない単語も多かったし、そういうもんかしら」

「そうそう、そういうもんだよ」


 よかった。割とあっさりスルーしてくれた。


「で、貴方の今の仕事って教師だっけ? とても人を教え導く人間には見えないけど」

「う、五月蠅いなあ。僕も、これでも頑張ってるんだよ」


 段々仕事には慣れてきたが、やはりまだまだ僕は若造の部類だ。他のベテランの先生方に比べると指導力が劣るのは否めない。


「というか、良也が何を教えるっていうの? 魔法? 見習いじゃなかったっけ、まだ」

「いや、英語。あー、っと、別の国で使われている言葉、かな」

「別の国ねえ。宋とか?」

「いや、今は中華人民共和国と言って……」


 輝夜の時代から数えると、あの国は一体何回国名が変わったんだろ。


「まあ、そっちとも違う、日本からもっと東のほうの大陸とかで使われている言葉なんだよ。今の時代、色んな国が交流しているんだけど、事実上の共通語的なモンで、だから子供にはみんな教えているんだ」

「ふーん。ああ、そういえば月から見たことあるかもね。確かに、静かの海よりでかい海を挟んで東側に大陸あったわ」

「月からかあ」


 僕も行ったが、んな景色を見る余裕はなかったなあ。月の都でしばらく暮らしたけど、あそこからは地球は見えなかったし。

 ちょっと惜しいことをしたかもしれん。


「……ん? でも、そういえば月の都でもフツーに日本語が通じていたような」

「一応、月の言葉もあるんだけどね。私のいた頃でも、もう日常会話じゃあ日本の言葉を使ってたっけ」


 いや、そもそも月って別に日本の一部じゃないよな。なんで月の都があんなに和風だったんだ?

 僕が知らないだけで、案外月の中も色んな国に分かれていたりするんだろうか。月の神格を持った神様って世界中にいるし。


「それより、どんな言葉なの? ちょっと喋ってみてよ」

「えー……。じゃあ、最初のほうで習うのから……This is a pen.」


 一応、英語教師として食っている以上、それなりに良い発音……のはず。


「なんて言ったの?」

「『これはペンです』という……あ、ペンっていうのは、要は筆みたいなもんで」

「それって、聞かないとわからないものなの?」

「いや、単なる例文だし、突っ込まれても……って、スペルカードとか、モロに英語なんだけど。後、一部の妖怪は英語のスペルカード名使ってるし、名前も英語風……」

「あら、そうなんだ」


 いや、そーなんだって……改めて考えてみると、幻想郷の言語は色々おかしいぞ。どこから外来語なんて入ってきたんだ。いや、どうでもいいんだけど、ちょいと気になる。


「ふう。あ、お茶がもうないわね」


 輝夜が急須を傾けるが、湯呑みの三分の一まで注いだところでなくなっていた。


「イナバー、お茶、おかわり持ってきてー」


 『はい、ただいまー!』という鈴仙の返事がした。


「ちょっと時間かかるわね。こういう時、あの吸血鬼のメイドがちょっと羨ましいわ」

「お前もやればいいじゃないか。『永遠と須臾を操る程度』の能力」


 イマイチよくわからんが、名前的に時間をどうこうできそうな気がする。


「私が淹れてどうするのよ」

「お茶くらい淹れたらいいだろ。暇なんだし」

「私に茶を淹れさせるとか、お金を取るわよ」


 実際、金を出してでも淹れて欲しいという人間がわんさかいそうで困る。

 ……まあ、僕的には輝夜より鈴仙の淹れたお茶のほうがいいけど。いや、うさぎ耳って理由だけじゃないよ? 単に、こいつあんまり上手くないだろうなあ、って思ってるだけ。


「それより、貴方がやればいいじゃない。何倍速かは行けるんでしょ」

「スゲー疲れるからやりたくない。後、今のんびりした気分だから。こういう時、加速率があんまり良くないんだよ」


 多分、相対時間で二倍が限界。


「のんびりって……この私が側にいるんだから、そわそわしなさいよ」

「しないって」


 菓子鉢から煎餅を一つ取り上げ食らう。

 あー、美味い。


「ほらほら、出来るだけでいいから」

「あー、もう。わかったよ」


 ふと思い立って、逆に時間を遅延させる。

 おお……なんか空を飛んでる鳥が異様に速くなった。ビュンビュン飛んでる。


 こっちの方が僕に向いているのか、負担もあんまりないぞ。


「ああ、成る程。こっちね」

「うん。やったら出来た」


 弾幕ごっこには激しく意味が無いけど。

 限りある一日を早めるなんて……例えば休日が体感十二時間で終わったら嫌だよね。


「あ、イナバ来たわよ」


 僕達からすると早足に見える速度で、鈴仙がこっちに向かってきた。


「お待たせしました」


 声が普通に聞こえるのはなんでだろう……

 と、疑問を抱きつつも時間遅延を解除する。


「ありがと、イナバ」

「はい。あ、姫様、良也のセクハラには気をつけてください」


 ……またセクハラとか英語を元にした言葉を。

 いかん、気にし過ぎると負けだ。


「むしろ、やって来たほうが面白いんだけどねえ。そしたら二、三回殺しても正当防衛じゃない? たまには妹紅以外を殺してみたいし」

「物騒なこと言うなよ!?」

「物騒? だって、私達は死なないし。ちょっと殺し合いするくらいいいじゃない」


 アカン、蓬莱人としての年季が違うせいか、死生観に絶望的な差異がある。年季の問題だけじゃない気もするけど。


「女体に興味が無いわけじゃないんでしょう?」

「ないわけじゃないが、命まで賭けたかないわい!」


 そういえば、竹取物語って極論するとそういう話でしたね!


「まったく、気概のない。はい、お茶」

「どうも。……あ、鈴仙もありがとう」

「別に、姫様の命令だから。まあ、精々ゆっくりしてきなさい」


 つい、と鈴仙は言って去っていく。

 ……一応、すぐ帰れとかは言わないのか。着々と信頼が積み重ねられているな、フフフ。


「お、今度は番茶か」

「あ、茶柱が立ったわ」


 ずず、と輝夜と二人、お茶を啜る。



 ……何百年か、何千年か。

 この先、この不死の友人とは、長い間たまにこうして話すことになるような。

 そんな予感がした。

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