第二十七話『人形と宴会とみんな』
森近さん……アンタ、漢だ。ものすごく方向を間違えているけど
「ああ、良也さん。私がやりますから」
「いや、妖夢は今日はお客さんだからな。お茶くらい、僕が淹れるって」
台所に来た僕を追いかけてきた妖夢がそんなことを言うが、無視して作業を進める。
ここは神社。そして、神社に来た限り、妖夢もお客様なのだ。
茶葉を急須に入れ、お湯を沸かす。お湯が良い具合の温度になったところでおもむろに注ぐ。
ここまでの作業に淀みはない。茶にうるさい霊夢に鍛えられた結果だ。
「いや、あの。良也さんも、神社の人間じゃないという意味では同じでは?」
「ん? ………………はっ!?」
確かにそうだ。
僕は、あくまで部外者。ここの住人といえるのは霊夢だけで、本来ならば茶を入れるのも奴の役割のはず。
くっ……最近、八割方家事を押し付けられているせいですっかり忘れていたっ!
「だから私が……」
「それは駄目」
妖夢に淹れさせるくらいなら僕が淹れる。
以前、白玉楼に厄介になっていた時期は、家事の一切を任せていたのだ。僕だって、やればできるというところを見せ付けなくてはいけない。
「というか、もう終わったし。ほらほら、行くぞ」
「は、はい」
九月に入り、そろそろ夏の暑さも和らいできた(ら、いいなぁ、と皆さんは思っているだろう)ある日。
僕や妖夢他、何名かが、森近霖之助さんの誘いで、博麗神社に集っていた。
「それで、なんなのよ。霖之助さん。改まって」
霊夢が神社の階段のところに腰掛け、足をぷらぷらさせる。
「……今日、集まってもらったのは他でもない」
そんな声に答える事もなく、森近さんは集った面々を見渡した。
集まったのは、霊夢、魔理沙、妖夢、幽々子、アリス、レミリアに咲夜さん。
とりあえず、暇そうな連中に声をかけたのか?
連中は、面白そうなことには目がないらしく、全員、目が生き生きしているた。
「僕はこの三週間あまり、良也くんの協力を得て外の世界の文化を研究していた」
まあ、そうかな。
森近さんに請われるまま、外の世界のことを話した。歴史とか経済とか、最近流行っている歌とか。
オタク趣味については、ついでのついでだ。
「特にその中の『萌え』について、僕は理解を深めようとしたんだ」
んなこと、堂々と言わないで欲しい。僕まで変態扱いされるから。でも、ついでのはずなのに、どうしてそれだけピックアップするんだ。
「しかし、残念ながら、僕にその概念を理解するのは無理だった。……やはり、彼のような訓練された人間でないと駄目らしい」
「べ、別に訓練とかしたわけじゃあないんですけど」
どんな兵士を思い浮かべているんだ、この人は。
「そこで、君たちに、僕が『萌え』を理解するために作った資料を渡したいと思う」
言いながら、森近さんが取り出したのは……あ、あれ? ふぃ、フィギュア?
アリス、なんか目を背けているし。
「な、なんなんだ、それ」
魔理沙が顔をひくひくさせる。気持ちはわかる。
あまりに意味不明なのだ。なぜあのフィギュアは魔理沙を模しているのだろう。
「まだまだあるぞ」
取り出したのは……ここに居るメンバーの、フィギュアの数々。
……あ。あの咲夜さんはちょっと欲しいな。
「これは、彼に教えて貰った『萌え』という概念……その一つの形だ」
「訳がわからないんですけど」
妖夢が困惑した顔でその人形を見る。自分がモデルになったそれを。
「僕にもわからなかった。だから、モデルになった君にこの人形を進呈しようというんだ。この、『1/8妖夢たん人形』を」
たんっ!?
ど、どこの誰だ、あの人にあんな言葉を教えたのは……
「って、ここの僕かぁっ!?」
頭を抱える僕をちらりとも見ず、森近さんは話を進めた。
「僕が持っていても良いんだが、こういう人型はしかるべき手順を踏めば本人とリンクする。術か何かに使えるかな、と思ってね。譲るよ」
言っていることは真面目っぽいんだが、その実、渡そうとしているのは本人がモデルの美少女フィギュア。
嫌がらせか何かにしか思えない。
「おっと」
ふわり、と悪戯な風が吹いた。
それは、普通の布らしい人形の衣服を捲くり上げ、
「―――――!?!!」
あ、森近さん、鞘でぶっ叩かれた。
まあ、当然か。あんなの作られて、気分が良いわけないだろう。集まった面々も微妙な表情になっているし。
あーあ、フィギュア、散らばっちゃって……あ、何人かのが、スカート捲れてらぁ。
「りょう、や、さん?」
「は、はい?」
そして、なぜか僕に向けられる険悪な瞳の数々。
……あれぇ? 僕、なんの責任もないよねー?
「待て、みんな。話を聞い……ぐはぁっ!?」
集まった人たちの、数々の弾が僕を襲った。
んで、気絶。
……んもぉ、みんな過激なんだか、らぁ。
「本当に、信じられないわね。本人に断りもなく、こんなん作るなんて」
「いや、霊夢。なんで僕が責められるのかがわからない」
自分のフィギュアを弄りながら、霊夢がぐちぐち文句を言う。
「なに言っているの。教えたのは良也さんでしょう?」
「いや、だからね? そういうものがあるということは言ったけど、実在の人物をモデルにするなんて……」
大体、これを作った森近さんの理由が理由だ。
架空の人物より、実在の人物を人形にした方が、より理解しやすいとかなんとか。
んー、空想のキャラと、本物の人間を一緒くたにするのは、危険だと思うんだけどなぁ。
「それに、それ実際に作ったのはアリスだし」
「心配しなくても、そっちはそっちで仕置きしているわ」
……あ、やっぱりあれ、そうなんだ。
いや、ね? なんか隅っこの方でぷすぷす煙を上げているアリスが、気になってはいたんだ。
「んでも、なんで宴会になっているんだ、これ」
そう。
目が覚めると、なぜか集まった連中は、宴会に興じていた。いつの間にやら現れた鬼も一緒になって、やんややんやと騒ぎ立てている。
「せっかく集まったんだし」
「……それだけ?」
「それだけよ」
準備もしてなかったくせに。
でも、ま。こういうのが、らしいっちゃあ、らしいのかもしれない。
「良也さんも呑む?」
「いただくよ」
渡された盃をぐいっ、と煽る。
「いい呑みっぷりね」
「もう一杯」
「はいはい」
注がれた酒をもう一度一気。
「ぷはぁ」
「私にも頂戴」
と、一升瓶が渡された。
注いでやると、霊夢も一気飲みをする。
「……いつも気になっているんだが、霊夢は本当、何歳なんだ?」
「そこそこよ、そこそこ」
「もしかして、自分でも数えていないのか」
「そこそこ、って言っているじゃない。なんでそんなに気にするのよ」
そりゃあ、色々と気にはなるさ。酒は二十歳からだし、
僕の見立てでは、おそらく十三~十六のどれかだと思うんだが。
「女性の年齢を、あまり詮索するものじゃないわ」
「……出たな、隙間妖怪」
酔っているせいか、普段心の中だけで思っている呼称が勝手に口から飛び出た。
というか、本当、どこからでも現れるんだな、この人。
「それにしても、フィギュアねぇ。あまり妙なものを幻想郷に持ち込まないで欲しいのだけれど」
「持ち込んでいないって。作ったのはアリスだし」
「そういうものがあるって事を教えたのは貴方でしょう」
そうなんだけどね。
「幻想郷も、少しずつ変わっている。それは避けられないことではあるけど……こういう方向性はないでしょう?」
「ないなぁ」
まぁ、隙間さんの言うことももっともではある。
でも、やっぱり僕の責任じゃない、はず。
「それより、お酒だ。つまみも」
ふらふらと起き上がり、食べ物と酒を求めて宴会の中心に向かう。
……ああ、結構強い酒だったんだな、あれ。二杯でも、けっこう酔っている。
酔っ払いながら、もう夜なのにやけに明るいことに気がつく。
空を見上げると……今日の月は、やけに明るいようだった。




