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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百四十七話『命蓮寺の危機』

何事かと心配してみれば……やっぱり厄介事か!

 春も近いとある日。

 僕は命蓮寺に向けて飛んでいた。


 何故かというと、里の人達に様子を見てきてくれと頼まれたのだ。

 なんでも、先日聖さんが里にやってきて『危険ですから、しばらく命蓮寺には近付かないようにしてください』なんて言ったらしい。


 現代日本人より遙かに危険というものに敏感な幻想郷の人々は、その言葉を受け入れお寺の方には近付かないようにしていたらしいのだが……そこはそれ、どっかのグータラな巫女が管理している神社とは違い、市民権を勝ち得ている命蓮寺のことである。心配だ、そんな声が里の中で大きくなっていた。

 里の実力者がチームを組んで様子を見に行こうか、そんな話になっていたらしい。


 そこで登場したのが、幻想郷の異変に(不本意ながら)関わり続けてきた僕である。なんと言っても死なないし。

 これ幸いにと偵察を任され――今に至る。


「はあ~~、なんで僕が……」


 お寺が見え始めた辺りで、僕は愚痴を零した。

 傍目には特に異変は見当たらないが、しかし"あの"聖さんが危険だと断言したのだ。僕のような有象無象の命など、踏み入っただけで消し飛んでしまうような死地になっていないとも限らない。


 ……怖えーー! なまじ経験があり、色んな危険が想像できてしまうだけに怖さが半端ない!


「う……」


 とかなんとか言っても、僕も心配であることに変わりはない。

 ついでに里の人から報酬として、お酒呑み放題の約束も取り付けたことだし。いや、あくまでついでだよ?


 腰が引けつつも、命蓮寺に足を踏み入れる。慎重に、慎重に、いきなり理不尽な奇襲が来ても不思議じゃないぞ……


「おはよーございます!」

「ぎゃぁぁあああ!?」


 まーす、まーす、まーす、とエコーがかかる声に、心底ビビって僕は跳ね上がる。


「な、何奴――って、響子?」

「挨拶はきちんと」

「う、おはよう」


 何が起こるのかと警戒していた僕に声をかけてきたのは、命蓮寺の新参妖怪、幽谷響子だった。

 彼女は、所謂山彦という妖怪。音とかを反射させ、お経をリピートさせたり一人輪唱するのが得意技だった。


「挨拶も終わったところで、土樹、君なにか用なのかな? 生憎と、今の命蓮寺は普通の人間には危険だから早く帰った方が――ああ、いや、問題ないか。普通じゃないもんね」


 し、心外な。


「……それで、極めて普通を自負する僕にとってなんで危険なんでしょうか響子さん? 里の人達も心配してたから、僕が様子を見に来たんだけど」

「ああ、そういうこと。聖も詳しくは伝えなかったらしいね。あまり広めたくないからなんだけど」

「うーん、言いたくないならいいけど、今はみんな無事なんだよな」

「ええ。最近は頻繁に対策会議を開いているわ」


 対策? え、なんの対策?


 そんな僕の疑問を顔から読み取ったのか、響子が困った顔になる。


「土樹に話していいのかなあ。よくわかんないから、聖に直接聞いてみて。案内するから」

「そうか? そんじゃまあ、よろしく」


 響子の先導に従い、本堂の方に向かう。


「しかし、里の方に全然来てないみたいだけど、食料とか大丈夫なのか?」

「そこのところは大丈夫。蓄えはちゃんとあるし、いざとなったらそこらの獣でも捕まえるよ」

「いや、仏教徒が生臭は駄目だろ……」


 指摘すると、響子は今気付いたと言わんばかりに手を打って、


「ああ、そういえば」

「いや、仏門に入ったのが最近つっても、常識のうちだと思うぞ」

「まあまあ、いいじゃない。お経はちゃんとそらで言えるようになったんだしさ」


 それって免罪符になるんだろうか……なんて思っていると、鼻歌のように響子がお経を口ずさむ。

 音の妖怪だけあって、なんか妙に耳触りが良かった。何気に音を反射しているらしく、立体的な音になっている。


「どう?」

「いや、うまいけど……お経は歌じゃないと思うぞ」


 本人が満足なら、別に僕はいいけどさ。


「ふーん、子供たちには大好評なのに」


 なんか拗ねた。


「あーあ、早いところ解決してくれないかなあ。音が少ないと、やっぱり寂しいね」

「そっか」


 やはり、命蓮寺の妖怪はいいな。

 うん、なにが起こっているのかいまいち判然としないが、出来る限り早くここの人たちが里と再び交流できるよう、僕も祈っておこう。


「それに、子供が来ないと驚かすこともできない。あ、知ってる、土樹? お経ってさ、シチュエーションに拘ると、かーなーりービビらせられるんだよ?」

「台無しだよっ」


 所詮妖怪かっ。
















「どうぞ」

「あ。どうもありがとうございます」


 聖さんの書斎に通された僕は、差し出されたお茶をありがたくいただく。


「ふう……。良也さん、まずはご心配をおかけして申し訳ありませんでした。すべて私の不徳のいたすところです」

「ああ、いやいや。そんな。聖さん、頭上げてください」


 ふかぶか~と頭を下げる聖さん。

 いつもよりどこか憔悴した様子の聖さんにそんなことをさせるわけにいかず、僕は慌てて止めた。


「はい。あとで里の方々にも謝っておかないといけませんね」

「いや、里の人達も別に謝って欲しいわけじゃないと思いますよ? 単純に、聖さんたちが心配なだけで。だから、謝るんじゃなくて、お礼を言っておけばいいかと」

「ふふ、そうですね。全部落ち着いたら、そうすることにしましょう」


 やっとこさ少しだけ笑ってくれた聖さんに、僕は本題を切り出す。


「それで……ええと、なんで命蓮寺が危険だという話に? 正直、ここに来てから別に危険は感じないんですけど」


 うん、命蓮寺はいつも通り妖怪寺なのに清浄な空気に包まれている。聖さんだって、若干疲れた様子は見えるけど、怪我をしたりした様子も見えない。


「そうですね……良也さんならいいでしょう。お話しします」


 こほん、と聖さんは咳払いをして、話を始めた。


「そもそも、ですが、この命蓮寺がどうしてこの場所に建てられたのか、という話です」

「……あれ? 適当に里に近いところを選んだんじゃ。僕が紹介した覚えが……」

「ええ、それも勿論あります。でも、そうでなくとも、私たちはここに居を構えていたでしょう」


 なぜなら、と聖さんは続けて、


「この命蓮寺の建っている場所の地下には、大祀廟が眠っているからなのです」

「大祀廟……? ええと、廟って言うと、偉い人のお墓でしたっけ?」

「ええ。お墓です。大祀廟には聖人が眠っているのです」


 せ、聖人? またレアな種族が出てきたぞ。


「そして、まもなくその聖人が復活します。ここに来るとき、神霊に出会いませんでしたか? それが、聖人復活の兆候なのです」

「神霊……そういえば、神霊かどうかは知りませんけど、いつもより微妙に幽霊の数が多かったような気がします。

 ……でも、復活って」


 死者蘇生? 無茶すぎない? それとも、仮死状態とかだったのだろうか……

 まあ、リアル不老不死の僕が言うことでもないか。幻想郷では、大抵の不思議は起こりうる。そういうこともあるんだろうと納得しとこう。


「あれ? でも、聖人なんでしょう? 別に危険ってわけじゃ……」

「危険です。なにせ、うちは妖怪所帯ですから。それに、その聖人と共に眠っている配下は仏教嫌いで知られています。恐らく、争いになるでしょう」


 なにか確信している様子で、聖さんが呟く。


「……ええと、その、話を聞く限り、聖さんはその聖人とやらが何者なのか、ご存知の様子ですが」

「ええ、勿論。彼女を抑えつけるため当時の僧侶が封じたというのは、私の生きていた時代から、仏教界では有名なお話です」


 ほ、仏の世界って一体……


「彼女の名前は豊聡耳神子。聖徳太子として有名な偉人です」

「は……? 聖徳太子ぃ!?」


 あの、旧一万円札の!? え、女性だったの!? 僕の習った日本史と違う!


「やはりご存知でしょうね。ええ、その聖徳太子です。

 ……あ、そうだ。良也さんは異変に関わった経験が多いとのこと。命蓮寺の『聖徳太子復活対策会議』に参加してはもらえませんか?」


 驚愕の事実に、固まっている僕は、言葉の意味も届かぬままにコクコクと頷くのだった。


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