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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百四十三話『命蓮寺の教育』

もしかして、あの中から次世代の霊夢や魔理沙が生まれるのだろうか

「ん、あれ?」


 人里でお菓子を売って、昼ご飯を蕎麦屋で済ませて。

 さて今日はどうするかな、と考えながらお店の暖簾をくぐると、里の子供たちが、二十人近く連れ立っているのを見つけた。


 そして、その先頭にはなぜか命蓮寺の陸に上がった船長ことムラサの姿が。……うん? どういう集団だ? あの子たちを船員に仕立て上げて一旗上げるつもりか?


「ん、ありゃ、良也さん。どもども」


 と、僕に気づいたムラサが愛想よく挨拶し、


「あー、リョウだー!」

「良也くん飴頂戴、飴!」

「売れ残りよこせ―!」

「ごでばのチョコくれ!」


 躾の悪いガキどもが、『お菓子をくれるお兄さん』こと僕に群がってきた。『あああ~ちょっと』とムラサはその子供たちを宥めようとするが、まるで止まらない。


 僕は慌てず騒がず、迫り来る子供たちの数を数える。総勢十八名。その場にいた子供全員だ。……うん、ポケットに入っている飴じゃ足りないな。


「今日は持ち合わせがない!」


 つーか、ちょっとは遠慮を知っている奴はいないのか。里の子供教育について一言物申したほうがいいのかもしれない。


「はあ……ええと、こんにちは、ムラサ」


 ぐちぐち文句を言う子供たちを尻目にムラサに挨拶する。相変わらずの水兵服。背中に背負った錨がなければちょっと変わった女学生でも通じるだろう。


「人気ですねえ、子供たちに」

「ぶっちゃけ、こんなに群がられるとウザいけど」


 菓子は持っていないのに、『じゃあ遊ぼうぜ―!』と足にじゃれついてくる男の子を引き剥がす。


「それで、ムラサは子供を集めて何を?」

「ああ、それは命蓮寺の勉強に来る子たちです。読み書き算盤はここの上白沢さんが教えているんですが、一人じゃ限界がありますからね。うちでも少し教えているんです」


 へえ。いつの間にそんな協力体制が。でも、お寺って確か、昔は教育機関の側面もあったんだっけ?


「ほらほら、みんな。良也さんに迷惑かけないの。今日は聖がおはぎをこしらえてくださってますからね。頑張って勉強をしたら、おやつの時間にはみんなで食べましょう」

『はーい!』


 うわ、素直だ。まあ、このくらいの子供で大人の言うことに逆らうのはあんまりいないだろう。そういう反抗期はもうちょっと大きくなってからだ。

 そして、だというのに僕の言うことはさっぱり聞かないのは、舐められてるのか、それとも親しみを感じてくれているのか。


「あ、ええと、じゃあ私はこの子たちを送って行かないといけないので。これで」

「っと、ごめん。邪魔しちゃったか」


 そうかそうか、お寺まで近いとは言え、子供たちだけでは不安だ。野犬や攻撃的な妖精、まかり間違えば妖怪も出てくるかもしれない。

 だからムラサが引率してるんだな。


 子供たちに囲まれながら歩いて行くムラサを見送って、ふむ、と考える。


「……ま、別に予定があるわけでもないし」


 米と野菜でも寄付がてら、様子を見に行ってみようか。命蓮寺の寺子屋ってのも興味あるし。


 と、僕は米屋に向かうのだった。






















 両腕にズッシリ来る食べ物を抱えながら命蓮寺へと飛ぶ。

 いやはや……買い揃えるのに、ちょっと時間くっちまった。


「おじゃましますよー、っと」


 日中はいつも開け放たれている命蓮寺の門の前まで来ると、子供らしい声でお経が唱えられているのが聞こえてくる。

 読経かあ……なんかいかにもお寺っぽいな。


 お経を上げる声を聞いて、妖怪や幽霊にも効くかなー、とちょっと思ったが、この幻想郷に念仏を唱えたくらいで退散させられる軟弱な妖怪がいるとも思えなかった。


 想像してみて欲しい。そうだな……目の前に人間程度は相手にしないが、怒らせると滅法怖いと噂の幽香さんがいるとする。そんな彼女の目の前で僕はこう唱えるわけだ『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、もひとつおまけに南無阿弥陀仏!』。

 ドヤ顔で勝利を確信する僕。そして、幽香さんはそれはそれはいい笑顔で弾幕を放つ、と。


 ……そのまま僕がお陀仏だわ!


 うん、やっぱりお経は駄目だ。そのまま回れ右して逃走を図るほうがマシなレベル。そりゃあ、ちゃんと修行した人が唱えれば使い物になるかもしれないけどさ。


 嫌な想像をして顔を青くしていると、僕ほどではないが浮かない顔のぬえが庭に出てきた。


「ん、あれ? 良也じゃん」

「よお、ぬえ。またサボりか?」


 成り行きから聖さんのところに厄介になっているぬえだが、よく任される仕事をサボっている。そして、里に正体不明を振りまき恐怖を煽るのだ。

 最近、ちょっとした芸扱いされつつあり、恐怖を食べられないと嘆いていたりするが。


「そうじゃないよ。たくさんお経を唱えられると気分が悪くなる。だから退散してきたのさ。我慢してたけど、そろそろ限界だ」

「あれ、意外。念仏とか効くんだ」


 ぬえは、こう見えても意外に強者だ。こんなもん、屁の突っ張りにもならないと思うが。徳のあるお坊さんが唱えているのならまだしも子供だぞ。


「いや、聖に説教された後はよく読経させられるから……」

「そんな理由かよ」


 トラウマか。鵺には虎は含まれていたが、馬はどうだったかね。


「そういうあんたは……寄進かい」

「まあ、米とか野菜だけどな」

「いいさ、十分だ。ふむ……今日は精進揚げとか食べたいなあ」


 じゅるり、と涎を垂らすぬえ。行儀わりぃ。


「っていうか、お前は人間の恐怖を食べて生きているんじゃなかったのか」

「そりゃあ、私は人間をビビらせることで心の飢えを満たす妖怪だけどさ。普通の食べ物もそりゃ食べるよ。昔に比べて、ずいぶん美味いものも増えたしね。

 まったく、人というやつは食べることに関しての欲求なら妖怪の追随を許さなさいねえ」

「そんなもんか」

「そうさ。酒だって、私が世を騒がせていた頃は今みたいに質のいいのは少なかったからね」

「……いや、お前、一応仏門だろ」


 命蓮寺の人たちは普通に呑んでるけどさ。


「あーあー、聞こえないなー。なに、いざとなれば私の力で正体不明にして『これは酒じゃない。正体不明のナニカです』って言い張れば仏さんだって見逃してくれるだろう」

「……まあ、僕はいいけどな」


 宗教にはあんま興味ないし。


「じゃ、私は行くよ。そろそろ聖も休憩に入るだろうから、会いに行って大丈夫だよ」

「ああ、ありがと」


 ぬえを見送って、僕は命蓮寺の中に入る。うーん、無断侵入? でも、今読経の最中だしなあ。邪魔するのも……


「って、終わったか」


 お経を唱える声が収まり、代わりに子供たちのわいわい騒ぐ声が聞こえてくる。……こんなすぐ終わるなんて、ぬえは逃げ損……あ、いや!? あんなこと言って、実はサボりたかっただけか!?


 見事な逃走の仕方に驚いていると、講堂の扉を開けて聖さんが姿を見せた。


「あら? 良也さん、こんにちは」

「ああ、聖さん。どうも」


 手に持った袋を二つ聖さんに掲げる。


「ちょっとした寄付を持って来ました。どぞ」

「ああ、これはありがたいです」


 男の僕でも、持ち運ぶのに難儀するほど詰めてきた米と野菜を、聖さんはなんなく片手で受け取った。

 身体強化の魔法を得意とする聖さんは、何気に腕力は最強クラスに位置する。嘘か真か、鬼とガチで腕相撲出来る程だとか。


 ……本当に元人間か、この人。戸○呂弟の親戚か何かじゃないだろうな。


「今日は子供たちが勉強しに来て、これからおやつの時間なんです。宜しければ、良也さんもおはぎ食べていきますか」

「はは……実は、里でムラサに聞いて。ご相伴に与りたいなあ、とちょっと思ってました」


 うむ、実はおはぎ好物なのである。

 運が良ければー程度だけど、ちょっと下心があった。


 そんな僕に気を悪くするでもなく、聖さんはたおやかに笑って、


「そうですか。じゃ、そこで子供たちと一緒に待っててくださいね」

「わかりました」


 と、台所かなにかに向かっていった。


「……よっしゃ」


 ぐっ、とガッツポーズをした。






















「ふぅ……ご馳走様でした。どうも聖さん、美味かったです」


 お茶を飲んで一服する。

 聖さんお手製のおはぎは、とても美味かった。ガキンチョどもは、我先にと貪るように食ってた。


 人数に対して、食べ切れんのかこれ、という量だったが、終わってみればあっさりなくなっている。今は意地汚い男子がお盆に付いたあんこを舐めようとして聖さんに怒られていた。


「はい、お粗末さまでした」

「片付け手伝いましょうか?」

「いえ……今日はぬえが『お手伝い』してくれる予定なので」


 ……そのぬえはとっくにいない。そのことには気付いているのだろうに、聖さんは子供たちの前では表情は崩さない。

 多分、後で説教コースだなこれ。


「じゃあみんな。少し休憩したら、練習をしますからね」

『はーい!』


 元気な返事。


 ……さて、しかし練習? なんのことだ? 運動の時間……じゃないだろうな。幻想郷の人間の普段の運動量は、外とは比べものにならない。子供の遊びは大抵が体を動かすのだし。わざわざ命蓮寺でやる必要は……


「あ、そうだ。良也さんも手伝ってくれませんか」

「へ? えーと、構いませんけど、一体なにを?」


 聞くと、聖さんは瞑目して、厳かに話し始めた。


「私は考えました。人と妖怪が対等に付き合うのはどうするべきか……妖怪側もそうですが、人間側も歩み寄る必要があります」

「そ、そうですね」


 唐突になにを……


「妖怪にとって共通の価値観は力です。人間が今より強くなれば、一目置くようになるでしょう。そこで命蓮寺では、『弾幕ごっこ』について、みんなに教えているのです」

「……は?」


 な、なにを言い出すんだ、この人は?


「霊力を高める段階の子が八名。霊力の弾を撃つ練習をしているのが五名。空を飛んで弾幕を撃つ、実戦レベルの子が五名。ぜひ最後の五人の相手をしてあげてください」

「え、えーと……」

「良也さんは、子供たちの分かりやすい目標としてちょうどいい強さの人ですから」


 え、えー? それって、僕が子供にとって『ちょっと努力すれば届く程度の実力』ってことですか?

 いや、この場合はここの子供のレベルがおかしいのか?


「ほら、そこの五人ですよ」

「はあ」


 見ると、こっちを不敵な目で見ている女の子が五人。

 ……あれ? 男はいないの?


 聞いてみると、聖さんは困った顔になって、


「残念ですが、男の子はようやく霊力を外に出せるようになったのが数人いるだけです。うーん、霊能に男女差はないはずなんですが」

「……いや、差はあると思いますよ?」


 僕がここで出会った連中を考えるに、ないほうがおかしい。

 子供たちのうち、男連中に目を向けてみると、なんかバツが悪そうだった。まあ、不貞腐れるよな。


「じゃ、良にい、よろしくっ。すぐ落ちないでよねー」


 五人の中で特に元気のいい女の子が、バシバシ、と僕の背中を叩く。

 痛い、地味に痛いからやめろ。


「それじゃあ、イ組のみんなは星先生と瞑想ね。ロ組のみんなは私と一緒にお庭で霊弾の練習。ハ組は、良也先生に稽古をつけてもらって」


 パンパン、と聖さんが手を叩いて、子供たちがそれぞれ組に別れる。

 ……そっかー、僕が相手するのはハ組かあ。


「じゃ、行きましょ、『先生』」

「……僕、本業は英語の教師なんだけどなあ」


 からかうように先生を強調してくる女の子に、僕は諦めてついていく。


 ……まあ、これでも散々幻想郷の強者と渡り合って来た身(嘘じゃないよ?)。ちょっくら揉んでやるか。















 ……ちなみに、僕は粘ったが、最終的に落とされてしまった。

 五対一は卑怯だ。アレか、戦隊物のノリなのか、あいつら。合体技まで出してきやがって。

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