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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百三十話『アリスと人形』

交渉は続けるつもりです

 微妙に痛む肩をさすりながら、外の世界と幻想郷の境界を越える。


 外とは打って変わって小奇麗――というには若干落ち葉とかが気になるが――な博麗神社の境内。あら、と箒を片手に鳥居に背中を預けてサボっていた霊夢がこちらに気付いた。


「良也さん、いらっしゃい」

「おう」


 とりあえず、どん、と肩に掛けていた荷物を地面に下ろす。たまに使うこのバッグは、容量が大きくて重宝するが、ギリギリまで詰めると肩が痛くなって仕方がない。


「ん? なに、今日は宴会じゃないわよね。里でなにかあるの?」

「んにゃ、違う」


 普段、僕はあくまで余裕のある金額分だけお菓子を買って売りさばいている。ただ、たまに里の富豪の人から纏めて注文を受けたり、ちょっとした催しものとかで外の食材を提供するために大荷物を持ってくることがある。勿論、一番多いのは、霊夢を初め幻想郷の人外連中の宴会への差し入れなのだが。

 自分も参加する宴会ならばともかく、個人からの大量発注の場合、僕の懐具合と相談して断ったりもする。


「それじゃあ、私へのお土産かしら」

「……違う。どうしてそういう結論になる」

「だって、私、良也さんをお世話しているじゃない? そのお礼かと思って」


 ツッコミは入れない。こういう時は無視するのが一番だ。


「っておい、勝手に開けんな」

「なに、卑猥なものでも入ってるの? 艶本?」

「今回はそうじゃな――いや、待った! 今のなし」


 霊夢の目があからさまに蔑みのそれに変わるのを見て、僕は慌てて手を振った。

 た、確かに! たまーに、里の恵まれない男どもに頼まれてその手の本を持ち込むこともあったりなかったりするがっ、しかしですね、僕はどっちかっつーとデジタルデータ派なので持ち込んでも中身は確認程度しかしてないんですよっ! 『使って』ないから!


 言い訳にならねえ。


「ま、良也さんも男だし、それくらい別にどうでもいいけど。女の子に無理矢理見せるのはいい趣味じゃないわよ」


 と、霊夢は嫌な顔になって開けかけの鞄の口を閉じる。


「無理矢理見ようとしたのはお前だろうが……。大体、そんな変なのじゃないっつーの。ほれ」


 鞄の中身を霊夢に見せてやる。

 別に全然やましい品ではない。ほら、霊夢もみるみるうちに顔を顰めて――あれ?


「別に人の趣味に口出しする気はないけど、その年でお人形遊び?」

「……これはアリスから頼まれた、外の世界の人形用品と、サンプルの人形だ」


 ……最初からはっきり教えとけばよかった。














 事の起こりは先週である。

 里でアリスに捕まった僕は、彼女から外の世界の人形グッズの仕入れを頼まれた。


 なんで? と聞いてみたら、アリス曰く、


『最近、研究が行き詰まりかけているからね。外の世界のものがヒントになればと思って。最悪、気分転換位にはなるし』


 とのことであった。


 なんだかんだでアリスにも世話になっているから引き受けたかったのだが、その手の品がどのくらいの値段かの知識は僕にはなかった。が、アリスの求める水準の品となると結構なお値段になることは充分予想できたので、最初は断った。

 しかし、金の問題については、アリスが人形の装飾用に所持していた宝石を譲ってくれたので解決した。宝石の換金には苦労したが(簡単に出来ると思ってた)、ちょいとしたコネを使ってなんとかそれなりの金額を手に入れ、こうやって種々の人形関連の品を持ってきたのである。


 ちなみに、アリスから受け取ったダイヤは大きいし傷もないしカッティングも見事だしで、予想外の高値で売れた。

 ひとまず、アリス貯金として預かっており、次の注文はこれを使う予定である。今回持ってきたのは割と雑多な素材やらサンプルやら本やらで、絶対に『次』があるので。


「…………」


 そのアリスはというと、ひとまず素材は置いておいて、僕の持ってきた外の人形――適当に高いドールとかぬいぐるみとかAIB○的なペットロボットを持ってきた――を見聞していた。


 アリスは真剣な目で一つ一つ丹念に調べ、バッテリーが充電してあるペットロボットがいきなり動き出したのにビクッとなり……僕が見ているのを思い出して、コホンと咳払いをする。


「これ、止めてくれない?」

「あいあいさー」


 弾みでスイッチに触れてしまったらしい。予想外に生物的な動きを見せるペットロボットに僕自身も少し驚きつつ、説明書にある手順で動きを止める。僕が止めた時、アリスがほっと溜息をついたのには気付かないふりをしてあげた。

 普段冷静なくせに、戸惑った辺りは若干可愛かった。言ったら怒られるから口には出さないが。


「ふぅ、ん。こっちの人形は、私のほうが余程いいのが作れるけど……やっぱり、凄いのはこの絡繰ね」


 感心したように、金属製のペットロボットの肌を撫でる。

 あー、そうだろうねえ。基本的に高価なドールとかぬいぐるみとかって、手作りのイメージがあるし。それなら、アリスに勝てる外の職人はあまりいないだろう。


「そういえば、あれはないの? ええと、美少女ふぃぎゅあだったっけ?」

「勘弁して下さい」


 ああいうのを買うのは、僕にはハードルが高いです。買ったことないから。通販ならいいかもしれないけど、しかし普通に考えて、アレがアリスの参考になるとはとても思えない。


「そ。まあいいけどね。……しかし、この人形はどうやって動いているのかしら? 魔法ではないし、貴方が糸で操っているわけでもないわよね」

「そりゃバッテリーだ。電気……つってもわからないか」

「電気くらい知っているわ。明かりをつけるやつでしょう」


 あれ? 知っているんだ。聞いてみると、アリスは澄ました顔で、


「都会派を舐めないで頂戴」


 ……いや、そのくらいで都会とか言われても。

 現代の東京とかを目の当たりにしている僕としては苦笑いしかない。いや、しかし都会ではなく『都会派』ってことなら頷けるか。アリスは同じ魔法使いの魔理沙辺りよりなんか洗練されている空気があるし。魔理沙は田舎っ子、アリスは都会っ子、うむ、実に納得出来る。


「とにかく、電気で動いているのね? ふぅん……香霖堂の本で読んだことがあるけど、外の世界の魔法も中々のものね」

「魔法じゃないんだけど」

「? 似たようなものでしょう」


 え? 幻想郷の認識ってそんなもんなの?

 そういや、森近さんも、パソコンのこと式神とか言ってたっけか。苦労して誤解を解いた覚えがある。


「いやいや、ぜんぜん違う。えーっと」


 口下手なので、あまり上手い説明が出来ないが、なんとか理解してもらえるよう話してみることにした。


 しかし、説明してみると、そこは流石に熟練の魔法使い。おつむの出来は僕の遠く及ぶところではなく、僕のたどたどしい説明でも、要点を問題なく掴んだようだった。ペットロボットの説明書を見て、ふんふんと頷いている。


「……で、参考になりそうか? 個人的に、人形を動かすならアリスの技術の方が上だから、あんまり参考にはならないかと思うけど」


 買って来といてなんだが。


「そんなことはないわ。確かに自由度では私のほうが上だけど、これは電気さえあれば誰でも使えるっていうメリットがある。それに、糸を繰る必要もないしね。動きを制御しているのは……こんぴゅーたーだっけ? その仕組みも、興味深いわ」


 うーむ、実は人工知能とかその辺の話は詳しくないので、全部一緒くたにコンピューターと説明したのだが、間違っちゃいないよな?


「魔力を貯めておく仕組みと人工精霊か何かを組み込んで上げれば似たような……ああ、でも人形とは言えないかな。試作してみるくらいなら」


 ぶつぶつぶつと自分の世界に突入していくアリス。時折聞こえる言葉から推測するに、僕なんかじゃ逆立ちしたって実現できないような実験をやろうとしている様子。


 ……邪魔するのも何だ。


「じゃあ、僕はこれで……」

「待ちなさい。もしかしたら聞きたいことが出来るかも知れないから、少しお茶でも飲んでて。上海」


 パチン、とアリスが指を鳴らすと、部屋の棚に並んであった人形の一人――いつも見る上海人形だ――が立ち上がり、ぐわ、と両手を上げアリスの命令を待つ。


「彼にお茶を。ああ、それとこの前作ったクッキー出してあげて」

「クッキーってアリスの手作りか?」

「人形が作ったものよ。……なに、その期待の篭った目は」


 いや、アリスが操ってるんだから、アリスの手作りで良くない? うん、そう脳内補完しておこう。女の子の手作りお菓子とか、うん、憧れてもいいじゃないかいいじゃないか。


「それじゃ、応接間の方で待ってて」

「あいよ了解」


 それきり考察に耽るアリスの邪魔をしないよう、僕は上海の先導に従ってゆっくりと部屋を出るのだった。



















「うーむ……」


 僕はバンザイの格好でティーポットとカップ、茶請けのクッキーの乗ったトレイを運んできた上海を見て、思わず唸る。


「?」

「ああ、いや、なんでもないない」


 その声に反応して、上海がなんですかという風に顔を向けてくるが、手を振って否定した。


 上海人形はテーブルにトレイを置き、その身体に対してやたらでかいポットから紅茶を注いでくれた。


「……相変わらず、どうやって操ってんだこれ」


 アリスの人形繰りの基本は糸だ。今だって、魔法の糸で上海人形を操っているはずだが……全くもって訳がわからない。ある程度は自動化しているとは言っても、こんな人間っぽい対応できるもんなのか?

 自立した人形の制作がアリスの目標だから、その成果の一部が還元されてるのかとも思うが、しかし一体なにをどうしたら魔法でこんなことが出来るのか。ホムンクルスみたいな人工生物でも使い魔でもないはずなのに。


 うーん……


「?」

「いや、飲む飲む」


 一向にお茶に手をつけようとしない僕に上海が首を傾げる。僕は慌てて紅茶を口に運んだ。

 ……仕方がないじゃないか、僕だって一応魔法使いなんだから。先達の技術にはそれなりに興味がある。興味があるだけで、自分で覚えようとはそこまで強く思わないけどさ。


 まあ、この上海人形もアリス以外には使えないようだけど……しかし、さっきの話からして、誰でも使える系の人形が誕生する可能性がある。そうすると、オトコノコの夢、メイドロボも誕生するかも?


「……いいなあ」


 そうしたら、是非売ってもらおう。ニヤニヤしている様子を、上海を通じてアリスに知られているかも、と危惧しつつも、素敵な未来予想図は止まらない。

 今だってこれだ。お茶を飲み干すと、すぐさま『おかわりどう?』と言わんばかりにポットを手に首を傾げる上海はこんな可愛いのだ。アリス謹製のメイドロボとか、僕は全財産をはたいてもいいぞ。


 ……でも、考えてみると、上海をアリスが操ってるってことは、この可愛らしい仕草もアリスがやってるってことだよな。


「プッ」


 人形に日々可愛い動作をさせるアリスを想像して、ちょっと吹いてしまう。


「なに笑ってるの」

「うおっ!?」


 だぁっ!? いきなり後ろから声をかけられ、思わずガタタンと椅子を鳴らしてしまう。

 恐る恐る振り向いてみると、呆れた様子でアリスが立っていた。……気配感じ無かったんですけど。妄想に浸り過ぎで。


「……良也。貴方、魔法使いのくせに落ち着きがないわね」

「そ、それは僕より魔理沙に言ってやってくれ」


 ふ、ふう、しかし、なんというタイミングで来るんだ。僕の不埒な考えが読まれたのかと思った。……読まれてないよね?


「あの子は騒がしいように見えるけど、貴方みたいに動揺はしたりしないから大丈夫よ」

「む……」

「ま、それはいいわ。貴方の師匠が言うべきことだから。それより、あの手のロボットって他にもあるの?」

「あー、あると思うけど、あんま詳しくない」


 どっちかというと、子供の玩具だしな。アシ○とかは……流石に手に入れるのは難しいし。


「そう。じゃあ、なるべく集めてくれる? あと、技術書があればそれも」

「……玩具くらいならともかく、技術書の類はスキマが五月蝿いんだけど」

「一般に流さないなら、あの妖怪もなにも言わないわよ。大体、結界を管理しているのは確かだけど、だからってあんなのに従う謂れはないわ」


 いや、あのね? アリスは良くとも、僕は下手に逆らったら言語化出来ないようなお仕置きをされかねないんだけど。『あんなの』扱いしてるし。

 ……んー、まあ一応持ってくるだけ持ってきて、そんで途中で止められたら諦めるしかないか。そうアリスに提案してみると、『まあいいわ』と頷いてくれた。


「代金はまた宝石でいいかしら? 錬金術は苦手だからあまり在庫はないんだけど」

「いやいやいや、この前貰った分でまだ十分余ってるから」


 錬金で作ったのかあれ。多分、僕も作ろうと思えば多分作れると思うけど、粗悪品しか出来ない上、実際に買う以上の費用がかかると思われるのでやらないほうがいいだろうな。


「それじゃあよろしくね」

「はいはい。アリスも一緒にお茶飲むか?」

「そうね」


 んで、その日はアリスと一緒にお茶をして過ぎていった。







 後日、それとなくメイドロボの作成を促してみると、とてもイイ笑顔でランスを持った上海をけしかけられた。

 いいじゃんよぅ……

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