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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百二十五話『帰還』

なんかこう、本筋から取り残された感がひしひしと

 とうとう月を去る日が来た。

 荷物の最終確認をしながら、今日までの月の日々を思う。


 若干未練がないとは言わないが、地上が僕を待ってるゼ。具体的にはそろそろ味の濃いファーストフードとか、やっすい第三のビールとかが恋しくなってきたところだ。


「……んで、幽々子。お前は一緒に帰らないのか?」

「そうねえ。早く帰ってお茶をしたいのは山々だけど、もう少し、ね」


 何故かまたもや僕の部屋に侵入している幽々子に聞いてみると、そんな返事が返ってきた。妖夢が『ええ!?』って顔をしているのが印象的だ。

 ……本当に、幽々子の奴、なにを目的にしてんだか。


「それより、今日帰るのよね?」

「……そうだけど」

「なるほどなるほど」


 うんうんと頷いている幽々子。


「なあ、妖夢。お前の主人は本当、なに企んでいるんだ?」

「え? さ、さあ……。私が教えて欲しいくらいです。聞いても、自分で考えなさい、と」

「聞けば何でも答えが返ってくるわけじゃないからね。妖夢はその辺を改めないと」


 言っていることは正論っぽいんだが、しかしこんな訳の分からない状況を自分で推論しろってのも無茶な話。苦労するな、妖夢も。


「はあ……もう僕は知らないぞ? 月の人に捕まっても」

「あら、だからここに隠れているんじゃない。流石に客人の部屋を監視するような真似はしていないみたいだし」

「それでかよ!?」

「勿論、それだけじゃないわ。ま、すぐにわかるわよ」


 あー、もう、いいや。突っ込むのも面倒臭くなってきた。

 ……荷物もちゃんと揃ってるし、来た時より綺麗にとまではいかずとも部屋は掃除したし。よし。


「じゃあ、僕は帰るけど……本当に一緒じゃなくていいんだな? つーか、帰れるの?」

「問題ないわ」

「ほ、本当に大丈夫なんですよね、幽々子様」

「あら、妖夢は私を疑うのかしら?」

「そんなことはないですが、しかしここが月だと聞くと流石に……」


 うっわ、帰りのことまで従者と連携が取れていないらしい。まあ、最悪自分から捕まれば帰れることは帰れるだろう。幽々子も子供じゃないし……ないよな?


「なにか失礼なことを考えていない? 良也」

「……ほんっと、油断するとすぐにこれだ」


 おちおち不埒なことも考えられない。


「それじゃ、僕は行くよ。帰ったら教えてくれ」

「ええ」


 荷物を担いで、僕は宛てがわれた部屋に心の中で挨拶をして、依姫さんたちとの待ち合わせ場所に向かう。

 部屋を出る直前、幽々子が『さて、と』とか言ったのが聞こえた気がしたが……気のせいか?














 帰還するために待ち合わせていた場所に着くと、既に僕以外の人間は集まっていた。

 豊姫さん、依姫さん、レイセン。そして一緒に帰る予定の霊夢だ。


 いかん、遅れたかな。時間は待ち合わせの時間ぴったりなんだけど。五分前に来るつもりだったけど、幽々子の相手してたからなあ。


「遅いわよ、良也さん」

「ごめんごめん。ちょっとな」


 適当に誤魔化す。幽々子と会ったことは一応秘密なのだ。言ったらどんな目に遭わされるか分かったものじゃない。


「良也、これ貴方のお土産ね」


 そういや、静かの海からサルベージしたリュックに土産を詰めるスペースが無いから豊姫さんに入れ物頼んでたんだった。

 ……のは、いいんだけど、その、なんだこれ。


「依姫さん? なんですかこれ」

「見て分からないかしら? 葛籠よ。さて、ここには大きい葛籠と小さい葛籠があるんだけど、どちらがいい?」

「ちょっと待ってください。どこの昔話ですか」


 ええと、舌切雀だっけ? 大きい方には確か虫とか入っていたはず。


「……小さいほうで」

「成程、欲がないのね。じゃあ、これはおまけの玉手箱。開けちゃ駄目よ」

「何の嫌がらせですか!?」


 いやいや、と豊姫さんは笑う。


「水江浦嶋子のことが御伽話になっているみたいだから、今度もそういうお話になればなあ、と思って」

「……水江?」


 え? 御伽話? 浦嶋って、浦島太郎のこと?

 ……ええー?


「まさか竜宮城って……」

「龍はいないけどね。ちなみに、老化させる『もの』が詰まっていた玉手箱は私では再現できないので、その中に入っているのは単なるお饅頭ですが」


 なんという驚愕の事実。竜宮城の正体は月の都だったっ!

 ……うん、正直どうでもいい。


「良也さんいいわねえ。なんで私にはお土産の一つもないのよ」

「はあ……。侵略者の癖に、図々しいですね」

「良也さんもそうじゃない」

「彼は最初からそんな気はなかったそうですし、貴方達の撃退にも力を貸してくれましたから」


 霊夢と依姫さんが言い合っている。なんだかんだで、あの二人は相性がいい気がした。


「あー、レイセンも。世話になったな、ありがとう」

「いえいえ、なんのお構いも出来ませんで」

「いーや、飯は美味かったし、色々世話してもらったし……。そんなことないって」

「はい、ありがとうございます」


 照れるレイセン。あー、可愛いな。これ、お持ち帰りしちゃ駄目だろうか。博麗神社で霊夢の世話とかして欲しい。僕がいない間、あいつがちゃんと家事とかしているかどうか不安なんで。


「さて、名残は尽きないけれどお別れの時間ね」

「はいはい。ちゃっちゃとやっちゃって」


 豊姫さんが宣言し、霊夢が茶々を入れる。……もう少し大人しく出来ないもんか。


「良也さん、貴方の能力を解いてもらえるかしら?」

「あ、すみません」


 そーだ、そうだった。豊姫さんの『海と山を繋ぐ程度』の能力は、僕の能力の範囲内では使えないのだ。

 ……我ながら、そろそろこの能力のヘンテコさを理解したほうがいいかも知れない。近い将来、しっぺ返しを食いそうだ。


 慌てて能力を切ると、豊姫さんが優雅に一礼する。


「それでは、地上のお二人。御機嫌よう」

「次来るときはリベンジするからね」

「ばっ、余計なことを――」


 言うな、と霊夢に忠告するその最中に景色が歪み、一瞬後には僕たちは博麗神社の境内に立っていた。

 前も思ったけど……この能力反則じゃね? 地球と月を一瞬で行き来出来るとか、チートってレベルじゃない気がする。いや、他の連中の能力がチートじゃないかって言われると、そりゃチートなんだが。


 空を見上げると、先程までいた月が真円を描いている。あんなところに行ってたんだよなあ……我ながら、とんでもない体験をした。


「とにかく……ま、お疲れ様だな。後、霊夢。リベンジはやめとけ」

「はいはい。とりあえず、お茶の一杯も飲みましょうか。久しぶりに私が淹れてあげる」

「お、そりゃありがたい」

「茶請けは……漬物でいいかしらね。ちょうど今くらいにいい浸かり具合になっているはず」


 しかも漬物キタ。霊夢の漬物は、漬け方は超適当なくせに何故かすごく美味いのだ。


 あー、でも、境内けっこう散らかってんな。長いこと留守にしてたし、明日掃除せにゃいかんな。今日はもう疲れたし夜だから、茶だけ飲んだら寝るつもりだけど。

 なんて考えながら、母屋に向かうと、


「あら、お帰りなさい」


 僕は再び、膝を屈することになるのだった。


「ど、どうも」


 と、挨拶をする妖夢の声も、どこか遠い。


「……なあ、幽々子。お前、一体なにがしたいわけ?」

「なに、と言われてもね。私は単に、貴方達の見送りの為にあの姉妹の目が逸れたから、」


 と、当たり前のように博麗神社の母屋の前にいた幽々子は、胸元から瓶を取り出す。


「こうして、お酒を失敬してきただけだけど?」

「お前どこから出して……いや、それよりなに盗んでんだよ……」


 頼めば、お酒の一本くらい分けてくれたろうに。っていうか、今僕が持ってる葛籠の中にもあるぞ。


「良也さん? もしかして、幽々子たちも月にいたの?」

「いたんだよ……。なにをする気かと思えば、単なるこそ泥じゃないか」

「あら、それは違うわ」


 ……今度はスキマかよ。黒幕登場ー、ってか。


「なにが違うって?」

「だって、永遠亭のが私のうちのお酒を持っていったじゃない。これは借りを返しただけよ」


 そーゆーもんか? でも、悪いのはどう考えても先に攻撃したこっちだと思うんだけどなあ。


「もうすぐ永遠亭の連中が様子を見に来るわ。来たら、この月のお酒で一杯やりましょう。ふふ……今回は私の完全勝利よー」


 いえーい、と言わんばかりに拳を突き上げるスキマ。

 つーか、相変わらず訳がわからない。一体スキマがなにをしたかったのか。単に酒をせしめたかっただけか? それとも、他になにかあるのか。しかし、目的はどうあれ、なんかいいように利用された感じがあって、非常に不愉快だ。


 なので、仕返しがてら悪態をつく。


「……年甲斐もなくはしゃぎやがって」


 いや、小さな声で言ったんだよ? 本当に小さな声。スキマ相手に面と向かってそんなこと言えるほど僕は命知らずじゃない。


 しかし、言った途端、上空からなんかが落ちてきて、僕の頭をグシャ、と潰した。






















「――ちょっと。ねえ?」


 ……むむ、


「おはよう」


 声をかけられて、なんとかむっくり体を起こす。

 あー、なんだっけ、スキマに歳のこと言って潰されたんだっけ。


 一体なにが、と見てみると、僕の頭を潰したのは、なんかデカイ墓石だった。ご丁寧に『土樹良也、ココニ眠ル』なんて彫ってある。無駄に芸が細かいスキマめ……

 月に行っても死ななかったのに、幻想郷に帰るなりこれかよ。実は僕って幻想郷と相性悪いんじゃないか?


「あー、鈴仙? ただいま」


 僕に声を掛けたのは、月でもおなじみのウサミミを付けた少女だった。しゅた、と手を上げて帰還の挨拶をする。


「師匠が帰ってきた、って言うから来てみたら……月に行ってもいつも通りね、貴方」

「待て! コレがいつも通りだって言うのには断固反論するぞ」

「してもいいけど、説得力はないわよ」


 ……えー、そんなことないよねえ? 確かに、僕が余計なこと言って仕置きを食らうのは割とあるが、そんないつも通りなんて言うほど頻繁じゃないはずだ。うん、そのはずだ。


「あれ? 鈴仙だけ?」

「姫様と師匠は、貴方を無視してさっさと母屋に入ったけど」


 うっわ、薄情だ。……ていうか、鈴仙がスルーしなかったのも、それはそれで不思議なんですけど。


「……なによ?」

「いや、別に……」


 も、もしかしてとうとう待ちに待ったデレ期が来たのか? と思いつつも、しかしはっきりさせないうちに喜ぶわけにはいかない。どうせぬか喜びになる。


「まあ、どうでもいいけど……。ところで、綿月様たちは元気だった?」


 ほら、どうせこんなこったろうと思った。


「あー、元気元気。依姫さんは玉兎をシゴいてたし、豊姫さんは桃食ってた」

「そう。よかった」


 やれやれ……。なんか宴会が始まったような声が聞こえるし、僕もとっとと母屋に入ることにしよう。


「鈴仙、酒が無くなる前に行くか」

「ええ」


 およ? 意外に素直……はっ、もしかして!?


 いやいや、ループはやめておこうぜ。










 んで、結局最後は僕が土産でもらってきた酒と、幽々子がチョッパってきた酒で宴会だった。

 ……スキマと永琳さんが、どちらもスゲェ裏のありそうな顔で微笑み合っていたのが印象的だった。

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