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示談書  作者: 清田伸治
12/23

信用

進は、西に沈む夕日に向かい飛び立っていくセスナ機を眺めながら、工場の最寄り駅である地下鉄八尾南駅へ向かって歩いていた。


工場では芦田課長を訪ねた後、同僚、工場長と頭を下げて回ったのである。


行く先々で進の事を心配してくれる声を掛けられるばかりで、誰一人として進を責めるものはいなかった。


こと、工場長の栗山にいたっては、警察からの進逮捕の一報に、

「進が轢き逃げなどするはずがない!もう一度よく調べ直してくれ!」

と、顔を真っ赤にして嘆願したそうである。

普段から温厚で感情を露わにしたところなど誰も見た事のない栗山の姿に皆驚いたという。

そんな栗山も、

「私も後一年で定年です。あまり問題を起こさないで下さいよ。」

と、言うだけであった。


進は、自分が思ってた以上に会社のみんなは進の事を認め、信じていてくれたんだと思うと自然と涙が溢れてき、飛び行くセスナが滲んで二機に見えてた。


思えば福岡の高校の卒業を控え、これと言って将来の目標も無かった進が大阪へ来る事になったのは、当時付き合っていた十河尚子が大阪の美容学校に行く事になった為であった。


進は尚子から突然大阪へ行く事を告げらた時、どうしようかと考えたが、福岡にいてもやりたい事も無かったので、進路指導の時に大阪で寮のある所をと紹介してもらったのが関西製パンであった。


福岡にいた時から浮気癖のある尚子には振り回されっぱなしだった。

大阪に来てからはさらにその癖に拍車がかかり、何度も別れようとしたが、進にとって初めての彼女であった為なかなか別れられずにいた。

結局大阪に来て二年が経つ頃、どちらともなく連絡を取らなくなり、自然消滅的に別れたのであった。


それからというもの、新しい出会いが無かった訳でもないのだが、なかなか女性が信じられず彼女は出来ないままであった。


そんなきっかけで勤め始めた会社であったが、仕事にはまじめの取り組み、気付けば八年経っていた。


進は、今まで会社における自分の存在価値など考えた事も無かったが、今回の事で自分の事を信じてくれる人がこんなにたくさんいたんだ、この会社に勤める事が出来て本当に良かった。

この信じてくれるみんなの為にも、今回の事故の全面解決に向けて誠心誠意取り組まなければと心に誓っていた。



進は、三日ぶりに自分の部屋に帰って来た。


二年前に会社の独身寮を出て一人暮らしを始めてからこんなに家を空けたのは初めてであった。


ドアを開けると足元に郵便受けからあふれ出した新聞が散らばっていた。


福岡にいた時から新聞を読む習慣は無かったのだが、ここに越して直ぐにやって来た強引な新聞拡張員に無理やり契約させられた物であった。


その新聞をまたぎ、部屋に入るとベランダの窓を開け、フローリングの床に直に敷かれた布団の上に座りほっと一息ついた。

そして、とにかく今日は会社には行けたので、明日には被害者のところへ行かなければと、大阪中央署の本田から教えられている被害者の父親に連絡すべく、意を決して携帯を手に取った。




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