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示談書  作者: 清田伸治
13/23

父、伸二

伸二は、自身の経営する会社で最後の決裁書類に目を通し判子を押していた。


その時、二台持っている携帯電話の一台が鳴った。


伸二は、一台は仕事用、もう一台はプライベート用と使い分けていた。

ちなみに、プライベート用は家へ持って帰っていなかった。


鳴ったのがプライベート用である事を確認すると瞬時に時計を見た。

午後六時であった。

伸二は、この時間に鳴るのは行きつけのキャバクラの子からの同伴出勤の誘いだろう、今日は誰からかな、と少し浮いた気持ちになったが、さすがに一昨日愛娘が事故で大怪我をしている為、マリアちゃんクラス以外は断わらねばと思い着信者を見た。


すると、そこには番号しか出ていなかった。

という事は、登録外の人からの電話である。


伸二は、また酔ってどこかのキャバクラで名刺を渡してしまったのかと思い、とりあえず出て、今後の為に名前だけでも聞いておこう思った。


「はい、川崎ですが、」

一応ハードボイルド風に出た。

すると、


「あの、お忙しいところ申し訳ありません。私、佐々木と申しますが・・」


と、思いもよらぬ男性の声が聞こえてきた。


伸二は、はて? と考えた。

仕事用ならともかく、プライベート用に男性から電話が掛かる事など無かったからである。

もしやキャバクラで、いろいろちょっかいを出している女の子の誰かの男からか、と少し構え、

「はー、どちらの佐々木さんですか?」

と、今度はソフトタッチな声で答えた。


「はい、あの、私は昨日事故を起こした佐々木というものです。」

と、思わぬ相手からの電話だった。


伸二は、ほっとしたのも束の間、事故の犯人からの電話とわかると、

「なんだ、お前いきなり電話など掛けてきやがって!何の用だ!用があるなら顔を見せろ!」

と、次は強く言った。


「はい、申し訳ありません、そのつもりです。とりあえずお会いしてお詫びがしたいので一度お時間頂けないでしょうか?」

「ばかやろ!お前の顔など見たくもないわ!」

次も、強く言った。


一方の進は、さっき顔を見せろと言われたように思うのに、次は見たくも無いと言われ、どうしようかと思ったが、とにかく会ってお詫びがしたいと強く願い出た。

「はい、本当に申し訳ありません。どのようにお詫びしていいかわかりませんが、とりあえず明日の土曜日に病院へお見舞いに行きたいのですが・・」


伸二は、いきなり娘の所へなど行かせられないと思い、

「ばかやろ!娘はお前のせいで寝たきりになっているんだぞ!そんなところへのこのこお前が来ることなど許されるわけないやろ!どうしてもと言うなら俺が会ってやる。」

と、言った。


「ありがとうございます。では明日どちらへ伺えばよろしいでしょうか?」


「そうだな、お前は病院は知っているんだな、では病院に来なさい。そして着いたら私に電話してくるように。時間は二時だ。」


「わかりました。明日二時に伺います。」


「絶対私に会う前に病室へ行くような事は無いように!」


「はい。では明日二時に。」


「あっ、ちょっちょっと待て!明日から掛けてくる番号はこの番号では無く今から言う番号に掛けてくるように。090・・・わかったか?」


「わかりました。」


伸二は、電話を切ったあと、いきなりプライベート用に掛かってきた電話に動揺し、つい明日会う約束をしてしまったが、もう少し経ってから会うべきだったかと少し後悔していた。


一方の進も、まだ見ぬ被害者の父を想像し、当たり前のように怒っているだろうと思い明日が急に怖くなっていた。





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