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ライミカオアの風~継ぐ者の剣と永遠の愛~  作者: 藍華


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第1章 すれ違う想いと告白 【暗雲の影】

前回の更新からだいぶ時間が開いてしまいましたがいよいよ、ライミカオアの本編突入です!

今回のお話から一気に物語が動き出します。

ぜひ、お楽しみいただけたら嬉しいです!

昼間、中庭での仲間たちとの気さくな時間を過ごしたユーラ。


ワリスとは公に逢えない。

その時間を埋めるかのように城下町の賑やかな通りを過ぎた裏路地の酒場に

やってくるのが日課になっていた。


特殊部隊の部屋は城の内部ではなく外部にあるため、彼ら隊員は夜でも休日でも

外出は自由であり時間の拘束はない。

そのおかげでホライオも侍女をしてるミルルと休日を合わせて城下町でデートをしている。


ユーラは特殊部隊の時の服装ではなくお忍びだと目立つような派手な装いでもない

彼が普段、仲間たちと来る酒場とは違って気兼ねなく気を張ることもなく酒を味わっていた。


「ユーラ様、今日もまたそんな片隅でお酒を飲んで~」


そう言いながらユーラの隣に座ったのはこの酒場の歌い手であり、踊り子のノアラだった。

ノアラの顔を見ながら微笑みながら話す。


「おい……様はやめろって言っただろ……」

「ふふっ、ごめんなさい“ユーラ”。何でこんな片隅にいるの?」


ユーラの杯のお酒を注ぎ足して彼に寄り添うノアラ。


彼に逢えたのが嬉しさを隠さない彼女に、ほんの少しワリスが重なる。

決してどちらかを否定するわけではない。

長年お互いに想いを寄せあってきた親友の妹ーー

ワリスの存在が頭をよぎった。


彼女を想う気持ちに嘘はない。しかしワリスに似た儚さを感じつつ、

どこか違うノアラの部分に自らが惹かれ救われているのかもしれない。


「別に理由はないさ……今日の気分は片隅でノアラの歌声を堪能したい。ただそれだけだ。

それじゃダメか?」

「ううん、全然!でも、ここだと舞台からかなり距離があるから、

ユーラが遠くて寂しい気持ちになっただけよ。もちろん……地位は遠いのは分かってはいるけど……」


そう言ってノアラはユーラに微笑んだ。

彼もノアラに優しく頬を撫でながら愛おしそうに見つめる。


ノアラは城下町の裏路地の酒場にある踊り子兼歌い手。

対するユーラはライミカオア城の王族に仕える特殊部隊副隊長。

生まれも育った環境も、まるで違う二人の世界。


けれど寂しそうにするノアラに対し、ユーラは自身の気持ちも変わらないと温もりで応えた。


二人の空間を酒場の片隅で作っていたが酒場のマスターがノアラに歌のリクエストがあったと

言う言葉が響く。ちょっと不貞腐れながら返事をするノアラはユーラの手をギュッと握った。

手に渡されたものに違和感を覚えつつ、片手で頬を撫でる。


「ここにいるよ」


そう優しく告げ、ノアラを舞台へと送り出した。

彼女は名残惜しそうに身を翻(ひるがえ)し、向かっていく。


数ヶ月前、暴漢(ぼうかん)から救ったことがきっかけで出会った二人。

身分は違えどユーラにとってノアラは心の平穏を得られる大切な存在だった。

ステージに上がったノアラは客席の隅にいるユーラをみて悪戯っぽくウィンクを一つ見せる。


ポロンと楽器の音色を合図にノアラは歌を歌い出した。

やがて、ざわめく酒場に透き通るような美しい歌声が広がる。

ほぼ同時に酒場の裏部屋から何人かの男たちが出てきてそのうちの二人がユーラを挟むように座った。


心地よい歌声に耳を傾けながらユーラは先程ノアラが手を握ってきた時に

そっと手の中に残していった紙に目を落とそうとする。

だが、それを見ようとしたまさにその時ーー


「兄ちゃん、飲んでるか?」


ユーラの左側に座っていた男が話しかけてきた。

彼は返事をすることもなくその男の方を軽く見ると今度は右側に座っていた男が口を開く。


「うちの親戚の娘なんだ。いいツマミになる歌声だろう?」


ノアラの親戚を名乗る二人の男の言葉を無視しながら先程の紙を手のひらに戻すユーラ。

杯を取って酒を一口飲む。

飲んでるかどうかの言葉を無視したユーラに右側の男が顔を近づけてこっそり囁くように吐き捨てた。


「ノアラの歌声と酒さえありゃ、なんもいらねぇって顔してるな、特殊部隊の副隊長さんよ」


ユーラは自分の身分を言われ、不快感を隠しもせずに冷ややかな目線で男を軽く睨みつける。


「……何のことだ?人違いをしてるんじゃないか?俺はただの客として酒を楽しみにきてるだけだが」


非番の時間を邪魔された不快感を滲ませつつ、低く冷ややかな声でとぼけてみせるユーラ。

しかし、男たちは応じる様子もなく、嫌らしい薄笑いを深めるだけだった。


「とぼけなさんな。あんたがどれだけのお偉いさんか、俺たちはちゃんと知ってんだ。

王太子殿下の側近で特殊部隊の副隊長...…言ってみりゃ、国の動向すら動かせるお立場だろ?」

「……」


何も答えないユーラを見ながらもう一人の男は酒を流し込んだ。

右側の男は手に持った杯をゆっくり弄びながらさらに続ける。


「そんな偉大な副隊長さんなら、例えば……ライミカオアの不戦条約を変えることくらい

隊長でもある王太子殿下に打診くらいできるんじゃないか?」


ユーラは心底不快そうに眉をひそめ、さらに深く冷ややかな視線を男に向け口を開いた。


「バカ言うな、この国は不戦条約協定国だ。特殊部隊もそのために作られたわけじゃないし

俺たちはそれで稽古してる訳では無い。不愉快極まりない話だな、今日は失礼する」


椅子を蹴るようにして立ち上がり、男たちに背を向けて酒場の出入口に向かおうとするユーラ。


ステージ上で歌うノアラを見ながら酒場のマスターに酒代を置いて彼女に日を改めてと伝言を頼んだ。

ユーラの行動を見て左側にいた男が立ち上がり、そして彼に顔を近づけ耳元で囁いた。


「俺たちはライミカオアの条約を少し変えたいだけだ……それに……その条約改革にノアラが犠牲になったとしてもお前さん、無視できるのか?」


ユーラの足がピタリと止まる。


胸の奥にいるのはいつも支えてきてくれて一途に想い、思われ続けてきたワリスの存在だ。

しかし、ほんの束の間の癒しの存在とも言えるべきノアラへの情や少しづつの想いが

ユーラの心の中で確かな揺らぎを生んでいる。

このノアラの親戚だと名乗る男たちはユーラ自身も気づきかけているその弱みを完璧に把握していた。

しかもそれでは終わらなかった。


「ノアラだけではないぞ?トルフェ王太子殿下の妹姫君(いもうとひめぎみ)……」


その言葉を聞いてユーラはさらに睨みつける。


「ワリス王女と言ったか?その王女にまで危険が及んだとしても、あんたや王太子殿下はその【不戦条約】ってやつを頑なに守り通すつもりか?」


男の口から出た意外な名前にユーラの思考が一瞬真っ白になった。


「なっ……!」


怒気を含んだ声が詰まる。


ノアラだけでなくずっと胸の中で大切にしてきたワリスの名前まで出された。

片や心惹かれ始めた守るべき存在、方や自分にとって憧れ、大切にしてきた存在。

二人を天秤にかけさせるような卑劣な策に、ユーラは拳が白くなるほど強く握りしめた。


ワリスとノアラ。


二人を守るにはどうすればいい。

王太子であるトルフェに報告すれば不戦条約を巡る国の揺らぎを認めることになり、

ワリスにも危険が及ぶかもしれない。


かといって要求を呑めば国を売り、家族や周りに迷惑をかけることになる。

絶望な選択肢が頭の中を駆け巡りトルフェの右腕と言われている副隊長のユーラは金縛りに

遭ったように動けなくなっていた。


そんな彼の葛藤を見透かしたように、男たちは短く鼻で笑うとポンと軽くユーラの肩を叩く。


「まあ、今すぐに答えを出せとは言わねぇ、次に来た時でも構わない。不戦条約のための仲間は

集まってきている……いい返事を期待してるぜ、色男の副隊長さん」


男たちはさらに酒を追加し、投げやりな手つきで銅貨をテーブルに置くと

不信感と衝撃で立ちすくむユーラの肩をポンと叩いて、そのまま薄暗い酒場の奥へと消えて行った。


みんなノアラの声に聞き入っているので静まり返った酒場の隅でユーラは一人佇む。

耳に届くのは今も変わらず響いているノアラの透き通るような美しい歌声だけだった。


ユーラは固く握りしめていた拳を開き、去り際に手の中にノアラが残していった小さい紙に目を落とす。

指先でゆっくりとそれを広げるとそこに書かれていたのは彼女の切羽詰まった筆跡だった。


【ワリス王女と逃げて!】


ノアラはあの男たちの企みを知っていて自分を巻き込まないように

笑って出番へと向かう一瞬の隙を突いてユーラと彼の大切な人のことを守るため

この警告を託したことを知り、ユーラは息を飲んで舞台にいる彼女の姿を見た。


店内には変わらずノアラの美しい歌声だけが優しく響いている。

澄んだ旋律が、今のユーラには酷く胸を刺す毒のように感じられた。

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