プロローグ 重ね描いた面影【前編】秘めやかな溜息
数ある作品の中から目にとめていただき、ありがとうございます。
本作は執筆を始めた頃の作品を最近リニューアルした物です。
拙い部分もありますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
国王の私室
豪奢な応接室に満ちていたのは高級な茶葉の香りではなく、息が詰まるほどの重苦しい空気だった。
テーブルの上に並べられたのは美しく描かれた見合い相手の肖像画と恭しい手紙の数々。
さらに侍女やメイドたちが運んできた茶器や菓子の乗ったスリーティアスタンドが置いてある。
囲うのはこの部屋の持ち主でライミカオア王国の国王であるコルロとその妻である王妃サスナ。
そして2人の長男であり、王位継承権を持った第一王子トルフェであった。
彼の手には両親から受け取ったどこかの絵師が描いた貴族の娘の肖像画と
その娘の名前などが書いてある手紙がある。
「どうだ?相手の身分に不足はないし、良い娘ではないか?」
「素敵なお嬢様だと思うわ、トルフェ。あなたもそう思わない?」
名前を呼ばれた主は声の方をむかずにその手紙を読み、そして軽くため息をつき、絵を閉じた。
それを片方に放り出すかのように置いて口を開く。
「丁重にお断り致します」
息子の言葉にまたかと思う父とカップをソーサの上に乗せて困った顔をする母の2人。
その2人の姿を見て、いつもの光景だと思いながら飲み物が入ったカップを手にするトルフェ。
次に言うであろう2人の言葉も予想ついていた。
「一体、何が不満なの?トルフェ」
「もう国中には継承権があることを知らせてから2年が経っているではないか。
お前は余の後を継ぐ者として国民のみんなに知られているのだ。
王太子という立場を理解し、支えてくれる者が必要なのだぞ?」
これで何回目だろうか……。
そう思いつつトルフェはもう一度軽くため息をついて2人の後に話を続ける。
「国中にわたしが王位継承権を持つ者として、また父上の後を継ぐ者として知られているのも
充分承知ですがわたしは共に国を治め、生涯を支えてくれる伴侶は自ら決めたいのです。何度申し上げればわかって頂けるのですか?」
「誰かと思う人がいるのですか?トルフェ」
母の言葉に自分の内心を悟られないようにカップを口に運び、飲み物を飲む。
まるで自分の内心を飲み流すかのように。
「いえ……特には」
「トルフェ、お前の気持ちは分かっている、ならば貴族の娘に仕えている侍女でも女官でも……」
父の言葉をきいてからトルフェは口を開いた。
「それを言うのであればワリスの心情も分かってやって下さい」
「ワリスにもお前と同じ王位継承権があるのだぞ?」
「王位継承権はただの権利です。わたしやワリスがその権利を手放すと言ったら何の価値もありません。
そうしたらわたしとワリスただの人間です。王族である前に父上も母上も……
ですから婚姻相手のお話はお断り致します。抜きのお茶会でしたらわたしもワリスも喜んでお相手させていただきます。」
自分の気持ちをはっきりと告げてから飲み物を飲み干してから席を立った。
「では、お先に失礼致します」
トルフェは2人に深々と頭を下げて部屋を後にする。残された2人は揃ってため息をついた。
サスナはお茶のおかわりをお願いし、メイドはサスナのカップにお茶を注ぎ入れる。
2人の間に少しの沈黙が続いたが先に口を開いたのは国王コルロだった。
「一体、誰に似てあんなに頑固なのか……」
「トルフェもワリスもあなた似ですわ……それとも血筋なのかもしれませんわね」
サスナはとある人物のことを含みあるような言い方をする。
それに気がついたコルロも思い出したように黙った。
「自ら結婚相手を選ぶだなんて社交界にもそんなに表立ってでるわけではありませんのに……
どの貴族の娘さんも素敵な方々だと言うのに何がそんなにきにいらないんだか……」
サスナが寂しげに言う。
トルフェにお見合い話が出たのはかれこれ2年も前のこと。
王太子という立場上、彼には成人する前に伴侶を見つけてもらいたかったが、
トルフェにどんな貴族の娘を紹介しても彼は首を縦に振らないどころか自分で探すと言い出した。
「しかし、ワリスのことをトルフェに言われるとは思わなかったな」
「ワリスだって社交界や貴族、王族の教育は受けて来てるのですよ、あなた」
「わかっておるからトルフェに言われたことが過ぎるのではないか」
そういってコルロは用意された菓子に手をのばした。
両親の部屋を後にしてトルフェは特殊部隊の練習場に行こうかそれとも部屋に戻るか
中庭に来て立ち止まり考えていた。
ライミカオア城の中でこの中庭はあまり人を寄せ付けない雰囲気があって来る人は少ない。
それこそ、王族ではトルフェや妹のワリス以外の王族や侍女たちも限られた人しか来ない中庭だった。
行き届いてる花の手入れをしているのはおそらくトルフェの考えている人で当たっている。
休めるようにベンチが置いてあり、いわばトルフェとワリス以外の王族の人が来ない憩いの場所だった。
そのベンチに隠れるように座っている人物を見つけた彼は声を掛ける。
「ワリス」
その人物は名を呼ばれ、びっくりして立ち上がってトルフェを向いた。
彼のたった1人の妹でこの国の第一王女ワリスだった。
一国の王女であるが今のワリスはあまり目立つ服装ではない。
元々、ワリス自身が派手な物や装いを好まないのは知っているがトルフェは妹のその格好をみて
少し声の大きさを控えて話す。
「ユーラとの待ちわせか?」
「兄様……」
兄に見抜かれていたのでワリスも言い訳をしない。
先程トルフェが父に『ワリスの心情を』と言ったことの意味を理解できる。
彼女は兄や限られた友にしか言えない想い人がおり、身分差の内密な恋をしていてこの中庭は2人の密会場所でもあった。
ワリスの兄トルフェはそのことを理解していた。
「兄様、聞いた話でわたしは見てないから分からないんだけど……ユーラは最近、剣や弓の稽古を熱心にやりすぎてるって……」
「確かにやたら1人で訓練していることもあるな、居残ってることもあったな」
「ライミカオアでは一度も戦争が起きた事はないのよ?ユーラは一体どうして?」
妹の疑問を投げかけられて改めて考えるトルフェ。
ワリスが誰から聞いたのかはあえて聞かなかったが自分で見たことをそのまま話した。
それはトルフェの祖母に当たる先の女王が戦争を経験したことで苦しい思いはたくさんだという気持ちから
ライミカオアでは戦争に参加しないと条約を結んでいる。
王位継承権の儀式をした時、トルフェは自分の学生時代からの友人でもあり、父に仕える騎士の息子だったり階級は様々だったが特殊部隊を結成した。
それは自分の身の安全のためではない。
自分の国に住む人々が安全に暮らすため、諸外国から攻め入れられた時に自ら先頭に立ち人々を守るためでもある。
「ライミカオアは戦争をしない条約を結んでいる。こちらが他国に戦争をけしかけることは絶対にしない。そう信じているしそのための特殊部隊ではないよ。他国に攻められたら命を奪う争いにならないために人々を助けるために結成した部隊でみんなも俺と同じ気持ちでいてくれると信じている」
「ユーラは大丈夫よね……」
ワリスの心配そうな問いかけにトルフェは兄として優しく微笑んで頭をポンと撫でる。
「俺がユーラだったら恋人にそう思われていたと思うと悲しくなるぞ?」
「兄様……ありがとう!」
そう言って2人は笑い合う。
2つしか違わないからだろうか、トルフェとワリスは本当に仲の良い兄妹で特にトルフェも妹のワリスを
可愛がっていたしワリスもまた兄のトルフェには何でも話せていた。
ユーラはトルフェの学生時代の友人である。
そのユーラにワリスは心惹かれていつしかお互いが想い合い恋仲になっていた。
もちろんその事はワリスの侍女たちであり、子供の頃から仲の良かった友人には伝えていたが、
身分の差あるこの恋を応援してくれるのは同性の友人と兄と兄の友人であった。
「それで、兄様は?」
「え?」
「今日のお父様とお母様とのお茶会はもちろんだたのお茶会ではなかったのでしょう?」
「ああ、相変わらずと言った所かな」
「兄様の心の中にはもう決まっている方がいるのにね?」
ワリスが悪戯っぽく笑いながら言う。
彼女の言葉にトルフェは否定もせずに口を閉じ微笑んだ。
「兄様は想いを伝えなくて苦しくはないの?」
「公にはできない相手だからな。それを隠すように公務を務めているよ」
「兄様……」
トルフェの思ってる相手もやはり身分の差があるので公にはできていない。
先程の両親とのお茶会で内心を悟られないようにしたのはその理由もあった
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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