EPISODE04. ゴヨハミンハンギョル。
2025年1月21日。
白い雲が浮かぶ、澄み切った青い空。その下、灰色の街を長く横切るアスファルトの上を、白と青のミニバスが走っていた。
古びたミニバスの後部には、黄色い背景に黒い文字で「ゴヨハミンハンギョルヘジン」と書かれ、その横には粗末な緑色のロゴ、K3Hと書かれたステッカーが貼られていた。
お尻に黄色いステッカーを貼ったミニバスは、そうして刺激的な煙を吐き出しながら、街の上を懸命に走っていた。
ミニバスの運転席には、相変わらず黒い肌と丸々とした体つきを誇るハミンが座っていた。
体はハンドルにぴったりと張り付き、頭はハンドルの上に傾いていた。太い左腕は曲げられ、胴体とハンドルにぴったりと密着しており、右手はシフトレバーの上に載っていた。
ラジオから流れるオールドポップを、味わい深い発音で口ずさんでいた。
「オール・ソー・グレイト・ブリッジ・イン・トゥ・ザ・ハーツ~」
歌い疲れたハミンの声が途切れる頃、静まり返ったミニバスの中にニュースが流れ込んできた。
[アンダーグラウンドシーンでは異例の記録です。]
[あるインディーズバンドの曲が3週連続でチャート1位を維持しています。]
[シンガーソングライターであり作曲家でもあるハン・ギョル氏に直接会い、受け取った曲だという……]
「こいつ、調子いいな?」
ミニバスが一時停車した隙に、ハミンは助手席に立てかけてあるギターケースをちらりと見た。黄色いバンドのステッカーがびっしりと貼られ、黒い革がほとんど見えないギターケースをしばらく見つめたハミンは、嬉しそうな表情を浮かべて叫んだ。
「走れ、ヒルデ。私のミョルニルを乗せて!」
白と青のミニバスが、ガタガタと音を立てながら道路を走った。
***
同日、午前11:00
「プロデューサー。一体、来るというセッションはいつ来るんですか?」
紫がかった黒の長いストレートヘア、広い額、跳ね上がった眉、そして大きく見開いた目。誰が見ても「ミュージシャンだ」と声をかけるような外見の女性が、腰に手を当ててコンソールの前に座る男にぶつぶつ文句を言った。
コンソールをじっと見つめていた男が顔を上げた。無表情な顔で女性をじっと見つめた。
「それは申し訳ないけど、わざわざセッションの演奏を見ようという意図は何ですか?」
「いや、上手いか下手か見なきゃいけないでしょう。」
男性の無表情な言葉に少し戸惑った様子の女性が言った。
「ねえ、カン・セリンさん。このセッションについては完全に私の仕事だし、あなたがあれこれ口を出す問題じゃないでしょう。」
男性が上着のポケットからタバコを取り出した。
女性。セリンのそばに立っていた男性が慌てて動き、ライターを点けて火をつけてやった。
男はタバコの煙を深く吸い込み、すぐに吐き出した。指を立ててセリンの顔の前に差し出した。そして左右に小刻みに動かした。
「君はただ、俺が渡す曲を受け取って歌うだけでいい。アンダースタンド?」
***
セリンがぶつぶつ言いながらマネージャーを連れて去った後、男は静まり返ったスタジオを満足げに見渡した。
近くの机の上には冷めたコーヒーが入ったマグカップがあり、その横にはタバコの吸い殻が山のように積まれて溢れそうなガラス瓶が一つあった。
男は口に含んだタバコの煙を吐き出した。しばらくタバコの煙が散っていく様子を眺めると、すぐにまたモニターへと視線を戻し、波形を注視した。コンソールのレバーを操作した瞬間、スタジオのドアに付いたロック装置に暗証番号を入力する音が聞こえてきた。
男は振り返って入り口を見た。ドアが開き、黒い肌で丸々とした体型の男性がスタジオの中に入ってきた。
「うわっ、タバコの臭い。ハンギョル、この野郎、換気でもしろよ。これって人が住む場所か?」
退屈そうな表情を浮かべていた男の顔に、明るい笑みが浮かんだ。
「やあ、ハミン。どうした?」
ハンギョルがハミンに拳を差し出した。
ハミンはハンギョルの拳に自分の拳をポンと当てた。すぐに互いの手を軽く握って一度振り、腕を曲げて肩をぶつけ合った。
「よ~い、ボーイ。アイム・ワサップ!」
ハミンはニヤニヤと笑った。
***
ハミンが顔をしかめた。
「おい、でも独り身の臭いが半端ないぞ。」
ハンギョルがハミンを見つめながらニヤニヤした。
「そりゃ独り身なら独り身の臭いがするだろ、独り身の女の臭いがすると思うか?」
「おいおい。お前、好きな女がたくさんいるだろ。なんで独り身なんだ?」
「俺のことが好きだってことか?金、曲、人気があるってことだろ。」
「お前、この野郎。金も曲も人気もあるってことを遠回しに自慢してるのか?」
「まあ、それは当然のことだし。」
ハンギョルは肩をすくめた。
「おい、ちょっと換気でもしようぜ。」
「ストップ。ダメだ。」
窓辺に近づこうとするハミンを、ハンギルが立ち塞がった。
「ダメだ。寒い。」
指を立てた。
「指が凍る。」
立てた指でコンソールを指さした。
「機械が壊れる。」
ハミンは首を横に振った。
***
ハミンはガラス越しに録音ブースを覗き込みながら尋ねた。
「僕が演奏するのはどれ?」
ハンギョルは画面を指さした。
「ここ。このトラック。」
ハミンは波形を一瞥してうなずいた。
「ギターはいつも使ってるやつでいいよ。」
「うん。」
ハンギョルは少し言葉を切り、言った。
「気をつけて。あれは君の体より高いんだぞ。」
ハンギョルはクスクス笑いながら言葉を続けた。
「大事にしろよ。大切にして。恋人よりも。」
ハンギョルの言葉に呆れた表情を浮かべたハミンが、ぶつぶつと文句を言った。
「俺も、お前も、同じじゃないか。」
「おい、それでも俺はあれを君に四つはあげなきゃな。」
「いや。」
ハミンは首を振りながら皮肉っぽく言った。
「君も俺も恋人がいないのは同じなのに、恋人より大事にしろなんて、それって理にかなってるのかよ。」
ハンギョルの黒い瞳の奥に、深い挫折の渦が渦巻いていた。
***
たった二回のテイク。録音は瞬く間に終わった。久しぶりに集中しているハミンを見て、ハンギョルは笑った。
録音が終わったという合図を送ると、ハミンはハンギョルを見つめてニヤリと笑った。
片手でギターのネックを掴んで揺らした。すぐにまた演奏を始めた。
目まぐるしく上下する音。コードを押さえることなく、左手は容赦なく動いた。ピックを握った右手は、それとは対照的に非常に遅かった。
荒々しい電子音が録音ブースの中で容赦なく跳ね上がった。
ピックアップの横に伸びた金属棒を掴み、長く、荒々しく引いた。
音が長く伸びたり、途切れたりすることを繰り返した。
ハンギョルは内部に通じるマイクをオンにして叫んだ。
[おい、このクレイジー野郎、それ高価なやつだぞ!]
***
録音ブースから出てくるハミンに、ハンギョルが缶コーヒーを手渡した。
「お疲れ。これ飲め。ご褒美だ」
「カフェの店主さんに缶コーヒーを勧めるなんて、一体どういうこと?」
「食いたくなきゃ食わなきゃいいさ。」
「いや、ありがとう。このハンギョルめ。」
「ドーパミンが過剰分泌してる奴が?」
***
ハミンは持ってきたギターバッグを背負い、ハンギョルをじっと見つめた。
「おい。」
「何?」
「お前さ。」
ハミンは似つかわしくないほど躊躇しながら、もごもごと言った。そんなハミンの姿を見て、ハンギョルはくすりと笑った。
「ママが世界で一番好き?」
「うーん、ハニじゃないよ。」
ハンギョルが大声で笑った。
「おい。俺たち、また一緒にバンドやろうよ。」
聞こえてくるハミンの声に、ハンギョルの笑い声が収まった。ぎこちない動きで、顔を向け、ハミンを見つめた。
「僕たち? 君と僕?」
「君と、僕と、ヨハンまで。」
「ヨハン?」
ハンギョルはハミンの顔をじっと見つめた。
黒い顔。
白い白目、その中にまた黒い瞳孔。
口は固く閉ざされていた。
普段見慣れない、硬い表情。
ハミンが珍しく真剣な表情を浮かべていた。
ハンギョルはくすりと笑うと、顔を背けて口を開いた。
「考えてみるよ。」
言葉が終わるやいなや、ハミンの声が聞こえた。
「悩むなよ、坊や。」
躊躇する気持ちとは裏腹に、言葉は自然と飛び出した。
「俺、こう見えても高価な身なんだぜ。」
少しふくれっ面した声が聞こえてきた。
「俺も高価だ。」
顔を向けてハミンの顔を見ると、口が数センチほど突き出していた。
「おい、お前今、あの日本の顔してるだろ?顔が赤くなって口がぽっこり出てるやつ、あれみたいだ。」
ハンギョルの言葉に体をパッと向けたハミンが、手を上げて振った。
「じゃあ行くよ。来るって信じてる」
ハミンが出入り口のドアを開けて外へ出て行った。
「うん、遊びに行くよ。」
ドアの外に出ようとしたハミンに、ハンギョルが言った。
「ああ、できれば平日に来てくれ。来て売上を上げてくれよ。」
ハミンが出て行き、静まり返ったスタジオで、ハンギョルはふと呟いた。
「静かだ。退屈だ。寂しい。」
ふと、高校時代に友達と一緒に賑やかに過ごしていたあの頃が思い出された。
***
2013年4月。春。
昼休み。
食事を早く済ませて戻ってきたハンギョルは、教室で一人、ぼんやりと座っていた。
耳に挿したイヤホンから、軽快なジャズが流れてきた。
「…ギョル。」
イヤホンから流れる音楽の音をかき消すように、声が聞こえてきた。
澄んだ声。
ハンギョルは顔を上げ、声がした方を見た。
少し女性的な、青白い顔。
広い鼻が印象的な黒い顔。
一ヶ月で学校の名物として浮上した二人の問題児。
ヨハンとハミンだった。
「で、何の用?」
ハンギョルはイヤホンを耳から外し、二人の招かれざる客を見つめた。
「うーん…俺たち、バンドをやるんだ。」
ハミンは妙に言葉を伸ばしながら、体をくねらせた。
「はっきり言えよ!」
ヨハンがハミンの後頭部を叩いた。後頭部を叩かれた手のひらが痛かったのか、すぐに顔をしかめた。
「だから、お前は俺の仲間になれ。」
後頭部を叩かれてもニヤニヤと笑っているハミンが言った。
ハンギョルは、間抜けな笑みを浮かべているハミンと、その背後でハミンの後頭部を睨みつけているヨハンを見つめた。
「お前ら、ついて来い。」
体を起こして席から立ち上がった。
190cm近くもある巨体に、ハミンは少し身構えた。
「ここでやってもダメかな?」
ヨハンは両拳を軽く握り、自分の顎の下にそっと当てた。ボクシング雑誌で見たようなファイティングポーズ。
「挑戦はいつでも歓迎だ。」
ハンギョルが爆発した。
「そういうことじゃない。この問題児ども!」
三人の子供たちが音楽室に入ってきた。
音楽の先生は席を空けていなかった。
「お前ら、演奏してみろ。」
ハンギョルが隅に置かれたクラシックギターに顎で示した。
「あれで。」
ハミンがため息をついた。
「あれで? 俺はエレキギター担当なのに?」
「基本だけ見るから。」
ヨハンが顔をしかめた。
「俺、クラシックギター弾いたことないんだけど?」
「とりあえず弾いてみろ。俺が判断するから。」
ハンギョルはヨハンにそう言いながら、音楽室のアップライトピアノの蓋を開けて座った。
「とりあえず、二人の中で誰がギター?」
「二人とも?」
「いや、バンドメンバーが二人いるのに、二人ともギター?」
ハンギョルは呆れたように首を振った。
「じゃあ、ボーカルは誰?」
ヨハンはびくっとすると、手を挙げた。
「いい子だね、手も挙げるなんて。じゃあ、ハミン、君からやってみて。」
ハミンに合図を送ったハンギョルがピアノの鍵盤を押した。
鍵盤が押され、鍵盤の奥にあるハンマーが弦を打った。ガラスが割れるような澄んだ音が広がった。
ハンギョルの指が本格的に動き出した。鐘の音を思わせる澄んだ音が響き渡った。
演奏していたハンギョルの指が止まった。
体を回して後ろを振り返り、しかめっ面をして言った。
「なんでやらないの?すぐに追いかけてくるべきでしょ。」
呆けた表情で見つめていたハミンが、頭をかいた。
「知らない曲だよ。」
「あー…知ってる曲って何?」
「メタリカの『ガンズ・アンド・ローゼズ』?」
「それまた何だよ。」
「アンソニー・ビルの『愛の序曲』?」
「この野郎が?」
ハンギョルの眼差しが険しくなった。
「いっそ楽譜をくれ! 俺、楽譜は読めるんだ。」
少し悔しそうな表情でハミンが言った。
「なんでダメなんだ? 俺、こう見えても英才教育を受けたんだ。母さんに殴られながら。」
ハミンがニヤリと笑った。
ハンギョルの表情が少し和らいだ。
「よし、合格。」
ハンギョルはハミンとの演奏を終えて叫んだ。
「次はヨハン、お前やってみろ。」
ヨハンはギターを手に取りながら頭をかいた。
「俺、楽譜読めないんだけど?」
「……」
「その代わり、ベートーヴェンの『歓喜の歌』なら知ってる。」
ハンギョルは意外そうな表情を浮かべた。
「玉ねぎみたいな奴なのに?」
ハンギョルの指が再び華麗に動いた。音の波が音楽室の中で渦巻いた。一拍、二拍、ギターの音はついてこなかった。
ピアノの音が止んだ。
「お前、これ知ってるんだろ?」
「歌詞は知ってるよ。」
「……」
ハンギョルは無言でヨハンを睨みつけ、再びピアノを見つめた。
指が再び動いた。流れるピアノの旋律の上に、美しい歌声が乗った。
「Freude, schöner Götterfunken~」
指が止まった。音が消え、ハンギョルの目が丸くなった。
「なんで演奏を続けないんだ?」
ヨハンがハンギョルを見つめながら尋ねた。
ハンギョルは顔を向け、ヨハンを見つめたかと思うと、すぐにハミンを見つめた。
「こいつら、使えるんじゃないか?」
ハンギョルは二人の間抜けを見つめた。
「これからはハミン、お前がギターだ。」
人差し指でハミンを指さした。
「ヨハン、お前がボーカルだ。」
ヨハンを指差した。
「そして俺がリーダーだ。」
「ところで、バンド名は決めたのか?」
ハンギョルのカリスマ的な姿にすっかり怯えたハミンが、もごもごと言いながら答えた。
「元々は『静かなるハミン』だったんだけど…」
「で?」
「これからは『ゴヨハミンハンギョル』?」
「……。」
しばらくハミンを見つめていたハンギョルは、ただ笑った。
「お前ららしいな。よし、そうしよう。」
***
2015年12月30日。密陽。
ステージを終えて宿に戻る道は辛かった。辛かったけれど、やりがいがあった。
ふとヨハンの声が聞こえてきた。
「10年後、君たちは何をしていると思う?」
ある者はカフェのオーナー、ある者は冷徹な金融マンになるだろうと言った。
ハンギョルは笑って答えた。
「僕はたぶん、楽器を弾いているんじゃないかな?」
「もしかすると、曲を作っているかも?」
そしてヨハンが言った。
「俺たち、30歳になったらまたここに来よう。今、すごくいいだろ?」
30歳になるまで一緒に音楽を続けようという意味だった。
「もちろんさ。」
ハンギョルは笑った。君は最高の楽器だから。
***
2015年12月31日。海雲台。
ハンギョルは前の3人の友人を眺めた。
一番前のヨハンの首筋に血管が浮き出ている。ギターを斜めにかけ、スタンディングマイクを両手でしっかりと握りしめていた。
口の中に飲み込むかのようにマイクに口を近づけて歌っていた。
鍛え上げられた声帯から溢れ出る力強い声。声変わりした少年の声だと言うにはあまりにも美しい声。
あの声に魅了されて、自分がこれをやっていたのだろう。
ヨハンの両脇には、ギターを弾きまくるハミンと、いつも通り正確な拍子でリズムを刻むヘジンがいた。
トムとジェリー。
ヘジンがトムで、ハミンがジェリー。いつもぶつかり合いながらも仲の良い二人。
今も二人は向かい合って笑いながら演奏している。
一緒にいるのはいつも楽しかった。
ギターの音が止んだ。
突然、ハミンが背負っていたギターを放り投げ、前へ駆け出した。
ハミンが走っている先には、倒れて血を流しているヨハンがいた。
***
ハミンのカフェがリニューアルを終え、再オープンした。
黒かった外観は黄色いペンキで覆われていた。
赤を基調としたダサかった看板は、洗練された立体型の看板に変わっていた。なんとカフェの名前まで変わっていた。
「ゴヨハミンハンギョルヘジン。」
通りすがりに足を止め、カフェを眺めていたヨハンがクスクスと笑った。
「クレイジーな奴…」
カフェの店内は緑と黄色で埋め尽くされていた。
「おい、お前のお母さんが内装をやり直したんだろ?」
「俺のデザインセンスがどこから来たと思う?」
ハミンは色っぽく笑い、体をくねらせながら、ヨハンに答えた。
ヨハンが拳を握りしめた瞬間、ドアに吊るされた鈴の音が聞こえてきた。
「いらっしゃい…」
カフェの入り口を見つめて挨拶していたハミンの目が丸くなった。すぐにカウンターから飛び出し、走っていった。
「よ、ブラザー~ ワッサーップ~!」
「よ、ブラザー~。」
サングラスに毛皮のコートを着たハンギョルが、拳を握った片手を差し出し、満面の笑みを浮かべていた。




