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魔王の側近

つえーよ? 戦闘メイドってあこがれるよね

「どうした? 人間はまず名を名乗るところから始めるのだろう? 貴様らも名乗ったらどうだ?」

「……敵意はある。だが」


 ブッちゃんが、その身体で背後に隠していたドロちんに言う。手で制して、その仕草は彼女が生み出した魔法を消すよう命じていた。


「悪意は無いようだ」

「敵意はあるんでしょ」


 ドロちんはそれに反抗する。いつでも炎を放てるよう準備し、あんずちゃんはそれを横目に冷や汗を流していた。


「貴方が、わたくしたちに幻覚を見せていたのですか?」

「名前は?」

「失礼しました。わたくしはあんずと申します……改めてオーサイトさん。これは貴方の魔法によるものだったのですか?」

「知ってどうする?」


 淡々と、そして堂々とオーサイトは佇んでいた。


 身長はわたしとおなじくらいだろうか。エルフほどじゃないにしろ耳がピンと立っていて、ややウェーブがかった髪は、黄褐色と白のコントラストを描きながら腰まで伸びている。


「それとも続きをご所望か?」


 灰色に近い黄褐色の肌。オーサイトは、それらと同じようなカラーリングの瞳を薄めて怪しげな笑みをうかべた。


「おいおい、また戦うのか? 勘弁してくれよ」

「安心してくださいサンダーさん、無用の戦いなどしませんわ。わたくしたちはただ、急に降り掛かってきた火の粉を払っただけですもの……みなさん」


 目配せ。対話を望む双方の姿勢に合わせ、わたしもブッちゃんも臨戦意識を改めた。


「拙者の名はブーラー」

「わたしはグレースだよ! そんでこっちの子は」

「子どもじゃない……ドロシーよ」


 ひとりだけ憮然とした表情。やられたらやり返したいドロちん思考。ちょっと今回はこらえてください彼女が仕掛けてくるまでは。


「で、攻撃してきた理由を聞いてないんだけど?」

「魔王の側近が、魔王に近づく者を排除して何が悪い」

「つまり……お主は魔王直属の部下ということか?」

「そういうことだ」


(うせやろ?)


 カニスに足を踏み入れ早々、いきなし大物に絡まれたのですがそれは。


「要件はなんだ?」

「ようけん?」

「とぼけるな。魔王の命を狙う蛮族どもめ」

(え、ちょっとまってこの子思考回路飛躍しすぎじゃない?)


 という気持ちの代弁者現る。名前はあんずちゃん。


「待ってください! わたくしたちはただ魔王にお渡ししたい書簡があるだけですの」

「そう言って魔王に接近し、その剣を突き立てるつもりだろう?」


 女魔族の周囲に霧が立ち込め、慌てたあんずちゃんはブッちゃんにリクエスト要求。問題解決アイテムを税子(インベントリ)にて引き出してもらい、それをババン! と女魔族に提示した。


「この紋所が目に入らぬですか! ですわ!」

「いきなりどした? あんずちゃん」


 いつもならあんずちゃんが言うべきセリフを言わせていただきました。


「なんだそれは」

「ですから、魔王に届ける書簡です」

「……」


 疑わしく、けど女魔族はトコトコあるって手に取った。いっしゅん「素性の知れぬ魔族にやすやすと渡しちゃってええの?」と思ったけどスルーの方向で。だってみんな指摘しないし。


 が、その判断がまずかった。

 ぴりっ。


「あっ!」


 そんな音をたてて書簡の封が破られたのである。

 っていうかちょっとまって。


(あれぇーおかしーなぁ)


 超強力な魔封なんだよね?

 ドロちん特製のフルパワー超絶全力絶対開封できないロックだったんだよね?

 指先ひとつでパチンなんですけど?

 どーゆーことよドロちん?


(あっ)


 振り向いた。

 ドロちんがいた。

 あんぐりおくち開けてた。

 やだードロちんげひんー、じゃなくて。


「ちょ、ちょっと待ってください! それは魔王への大事な書簡で――」


 などとあんずちゃんが訴えるも、その叫びは虚しく空気に消えてくだけ。オーサイトはそのまま内側の封もピリッと剥がしその中身をチェッキング。しばしの黙読タイムとなりました。


「ドロシー、書簡には封印魔法が施されていたのでは?」

「ええ。それもウチが知る限り最強の封印魔法を重ねがけしてね」

「えっと、じゃあつまりあの女魔族さんはドロちんよりも強いってこと?」

「グレース! そんな、ドロシーさんを煽るようなこと言ってはダメですよ」

「うっさいわね! ええそうよそのとーりよザコで悪かったわねこれで満足かしら!」

「ひゅう! すげーなあの女魔族。キレイだけじゃなくて魔法もつえーのか。ますます惚れちまうぜ」

「「「サンダーさんは黙ってて!」」」


 女子三人組の合唱。涙目になるサンダーさんを一瞥もせず件の女魔族の読了を待ってみた。すでに攻撃の意思はなくなっていて、周囲に立ち込めていた霧はウソのように晴れ晴れとしている。


「では、魔王に仇成す存在ではないということか――そうか」

「ッ!」


 しばし考えこんだオーサイト。それから黄色の鋭い眼光をこちらに向けて、それらを元の書簡に戻し、こちらへと手渡す。そして――。


「めん」

「え?」

「ごめーん!」


 ビターン!

 そんな効果音と共に女魔族の姿が消えた。

 と思ったらいたよ下に。


「早とちりだったのぉぉお! だってどこの馬の骨とも知らないニンゲンが魔王に会いたいなんてゼッタイなんかあるでしょ! って思うじゃーん!」


 先程と打って変わって甲高い声色を添えた、これ以上ない立派なジャパニーズ・ドゲザである。まさかの日本文化にみなみなが感心してるところ、この世界の住人であるサンダーさんは絶賛ドゲザ中の女魔族のそばにしゃがみ込んで囁くような声を出す。


「つまり……お前さんは俺たちを魔王の命を狙う不届き者だとカン違いしたのか」

「え、つまりカン違いで殺されそーになったの? わたしたち」

「ッ!」


 女魔族はシュバッと頭を持ち上げ、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔面のままサンダーさんに懇願した。


「ほんっとごめん反省してる、いえしてます! お詫びに魔王城まで案内してあげるからゆるしてくださぁーい! この失態がバレたら今度こそ側近から外されちゃうのぉお!」


 さっきの態度から落差激しくね? っていうか涙で池がつくれるんだなぁ、じゃなくて。えーなに、この場面どーゆーコメントが適切なの? などと考えてるうちにおよそ不適切っぽいチョイスをしたのがドロちんでした。


「ざっけんじゃないわよ! じゃあなにか? カン違いで殺されそうになったってこと? マジであたま腐ってんじゃないのこのクソ犬が!」

「い、いぬだけどいぬじゃないもん!」

「まあまあ落ち着いて」

「うきー!」


 暴れるドロちんを保護者モードあんずちゃんが抱きかかえる。やがて甲冑の影に見えなくなったドロちんを背に、会話のタイミングを図っていたブッちゃんが落ち着いた声色を響かせた。


「魔王の側近という言葉に偽りはないのか?」

「ほんとです! 本当に魔王の側近なんです! あ、側近といっても戦ったり作戦たてたりする人じゃなくて身の回りのお世話というか掃除洗濯なんでもするっていうか、メイドさんみたいな感じ?」

「メイドがウチの魔法を簡単に割れるかー!」


 怒りが収まらない魔女っ子さんが、まだ遠くで抗議の声をあげている。ブッちゃんは気にしないよう手で示しつつ、その先をうながした。


「い、いまの魔王城は人手不足なんですぅ。だから戦闘要因もそちらにまわらなければならなくて、で、でも慣れない仕事だからみんな失敗してて……うぅぅ」


 とつぜんの涙。涙の上にまた涙である。もはや涙の滝が形成され床には涙だけでつくられた川が流れていた。


 そんな姿を不憫に思ってか、サンダーさんはよしよしと彼女の背中を撫でいた。ついでに手を下へ回そうとしてたのは全力で阻止させていただきました。それ以上手を下げたらどうなるか、わかってるよね?


「苦労してたんだなぁ……それで、なんで魔王城じゃなくここにいるんだ?」


 サンダーさんが冷や汗と苦笑いを混ぜて尋ねる。サンダーさんの慰めあって、女魔族は涙を流すのをやめ、ぐずりながらもゆっくり口を開くのだった。


「だって、だってすごくタイクツだったんだもん。そしたらケイラックちゃんがおもしろいニンゲンに出会った。今はバーグにいるっていうから」

「ケイラックちゃん? もしかしてお知り合いさん?」


 女魔族はこくんと頷いた。


「知り合いというか上司というか――それで、魔王さまにお休みもらってバーグに来てみたら、魔王さまを狙ってるニンゲンがいるって話じゃない」

「狙うって、どうしたらそんな話になるんだ」

「なるほど。我々を襲ったのはそれが理由か」


 サンダーさんは呆れ返り、ブッちゃんは納得したように頷いた。


「なるほどなぁ。でも安心していいぜ。俺たちは魔王を殺そうとかそんな大それた事ぁ考えてねえ」

「ちょっと、コイツの言うこと信じるつもりなの?」

「あ、ちょっとドロシーさん!」


 ロリ再登場。そのうしろにロリを御しきれなかったおねーさんが付いてきた。


「俺は信じるぜ」

「罠の可能性だってあるのよ!」

「だったら今ヤられてだろーよ。なんだっけ、お前が施した封印魔法? それをアッサリ破れる技量を持ってるのに仕掛けてこねーんだから、少なくとも敵意はないと考えたほうが自然じゃないか?」

「封印魔法? ああ、さっきのアレですか。単純な魔法を重ねがけしてるだけなので解除はかんたんでしたよ」

「ンなあッ!?」


 ドロちんがビクッてなった。こーれは地雷踏みましたよ女魔族さん。


「ど、どのヘンが単純な魔法ですって? アレは著名な魔術師が残した高レベルの魔導書に記されてたものなのだけど?」

「高レベル? でもアレ百年くらい前の魔法なので言うほど高レベルでも――解錠方法だってとっくの昔に確立されてますし」


 と、女魔族は首をかしげながら言った。

 まるで「そんな高レベルなことですか?」とでも言いた気に。

 古いカギは簡単に模倣できる。物理でも魔法でも同じなんだね。


「へ、へえええそうなの! それじゃコレはどう?」


 ドロちんの眉間にシワ発生。同時になんかの木箱をズイッと女魔族の目前へ。わたし見たことあります。アレはドロちんがなんか秘密にしてるっぽいナゾの本が入った箱だ。あのオトコの人同士が絡まってる表紙のヤツだ。


「はい」

「ふぇ?」


 パカッて。

 バサッて。


「ふぁああああああ!!!!」


 地面にばら撒かれた本をかき集めるロリっ子魔術師。


「お? なんだこの本は見たことないな」

「さわるなあああ!」

「ヘブゥ!」


 魔法の拳がヤブ医者を昇天させた。次の町までまだたくさん歩かなきゃいけないのに、今からそんな体力使っちゃってだいじょぶなのかなぁ、と思って、ちょっと思い出して、わたしは同じくらいの身長の女魔族さんに聞いてみた。


「ところでオーちゃんさぁ」

「おーちゃん?」

「そう、オーちゃん」


 同じくらいの身長ならこれもうオトモダチっしょ。


「さっき魔王城まで案内するって言ってくれたよね?」

「え?」


 オーちゃんの目が泳いだ。


「あ、えと、勢いでそう言っちゃったけどさすがにいきなりよそ者を魔王城ってのはちょっと難しいかなーって、ほら、いろいろな許可とか登録とか必要でしょ?」

「じゃあ許可得られればおっけーってこと?」

「それは、まあ……うん」

「じゃあおねがい」

「えーいやーいきなりそんなこと言われても、て、ん?」


 オーちゃんの服からピピピピピって。これなんだっけ、よく聞いたことがあるような音色。そうだ、でんわだ!


「もしもし?」


 オーちゃんは懐から透明な薄い板みたいな電話を取り出し、こちらに背を向けた。それを耳ではなく自分の目の前に掲げる。つまりテレビ電話だ! かっけー。


「え、センパイ!? い、いったい何の御用でしょうか!? 本日はお休みをいただいており――あ、はい、はいそうです。いまバーグに来てて、それで――はい――え?」


 チラリ。オーちゃんがこちらを振り向く。


「いいのですか? ――ッ!」


 ビクリと身体を震わせた女魔族。次の瞬間挙動不審になりあちこちに視線を巡らせてる。まるで、自分を監視してるだれかを探してるかのように。


「わかりました。ではそのように致します。はい、はい、失礼します――ふぅ」

(あー、なんだろ)


 出会い頭は悪の女幹部感。

 フタを開ければドゲザガール。

 その実態は先輩からの電話に戦々恐々とするドジっ子メイド。


(我が家のダンナもそんな感じだったなぁいつもごはんくれるいー人なのに……ん? ダンナってだれだ?)


「センパイからの命令ですので、魔王城まで案内します」

「ホントに!」

「不本意ながら……どうぞ、ここに入ってください」


 言って、彼女は小さな小瓶を取り出した。

『ウィペット』Whippet

 イギリス原産の中型犬。走る姿が、ムチ(Whip)を打たれたウマの如く見えるため名付けられた(諸説あり)。古くは獲物を素早く捕まえる様などからスナップドッグ(Snap Dog)と呼ばれ、大型ハウンドを飼えない家庭の経済的な狩猟犬として活躍していた。

 加速力全犬種トップレベル。とにかく走りたい猟犬気質。最高速度50キロ超えとも。遊び好きだが控えめな性格。ウィペットのドッグレースは必見だよ!


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