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不毛の地と魔族の由来

魔族の国カニス。地名や町はオオカミに、人はイヌ科動物に因んだ命名が主

 オジサンから聞いた話だと、魔族の国カニスは荒廃した土地が多かったらしい。


 枯れ木、イバラ、荒れ果てた土地。人から見たら不毛の世界。人間にとって見た目は重要で、だから魔族そのもののイメージ低下に繋がってた。もともとそんなイメージだった魔族と戦争することになって、いつしか人間は魔族をこう呼び侮辱するようになった。


 不毛な大地に生きる哀れな種族だ。

 我らの豊かな大地を奪いにきた蛮族だ。

 すなわち、ヤツらは魔族なのだ。


 魔族にとって土地の豊かさはそこまで重要じゃない。だって、魔族はマナさえあれば生きていけるもん。でも人間はその事情を知らないし知る術もなかった。だからオジサンは魔族を知ろうとして、交流して、いつしか終戦の立役者となっていた。


(ふーん……教わった通りかも)


 道端の枯れ木を見つめ、わたしはそんなことを考えていた。


 周囲を見渡す。ファミリアーリス山脈の麓はあんなに自然豊かだったのに、町ひとつ抜けた先はずっと荒野が広がっている。


 モースバッハ。このあたりはそう呼ばれてるらしい。より人間っぽく命名するならモースバッハ荒野といったところでしょうか?


「どう思う? あんずちゃん」

「いきなりなんですの?」


 マイベストフレンドは訝しげな視線をこちらに向けた。


「ううん、何も育たなさそうだなーって」

「でもマナは大量にあるわよ」


 虚空を見上げるドロちん。ブッちゃんも何か感じるものがあるようで、落ち着いた表情ながらも周囲を興味深げに見渡している。


「これほど濃厚だとは」

「え、なにが見えてるの?」

「アンタ探知(ディテクション)使えたでしょ」


 思わせぶりな表情。それは使ってみろということですかな?


「スキル、探知(かくれんぼ)!」


 ニンジャ、アイ発動。周囲に人影なーし、じゃなくて。


「なにも見えないよ?」

「もっと集中しなさい。そのスキルを使い込んでるなら見えてくるはずよ」

「ほんとにぃ? むぅぅ……」


 わたしは集中した。どう集中すればいいか知らんけど集中した。


(およ?)


 なんかちっちゃな光が見えてきた。ぽつぽつっとかわいい雪の粒みたい。それが空気中に広がって、舞い上がったり泳いだりしてる。


「ウチらは魔術の修練で自然と見えるようになったけど、そうでない人は探知スキルを使えば見えるはず。どう?」

「なんか見えた……この雪みたいなのがそう?」

「うむ、グレースにも見えたようだな」

「ちょっと、みなさん? 気になりますわ。わたくしにも見せていただけませんんか?」

「それはムリ。どうしても見たいなら、アンタもスキル習得をがんばりなさいよ、あんず」


 しょんぼりするあんずちゃんをよそに、わたしは舞い踊る雪を眺めていた。ふと鼻先にそのひと粒が降りてきて、ちょこんとすわってゆらゆら揺れる。


「んー、はむ」


 食べてみた。

 無味。

 わたしは自分の舌を味わった。

 と同時に、ドロちんが呆れ態度を顕にする。


「バカねぇ」

「言ってやるなよちんちくりん。それに意味が無いことも無いだろ? 自覚ないかもしれねーが魔力が回復したはずだ」

「ほんとに!」

「とは言っても、回復量はささやかなものだけどな」


 言って、サンダーさんはマナを手のひらに収めた。え、なにサンダーさんも見えてるの?


「医者ではあるが、その知見を広めるために魔術も少々な……ドロシーの言うこともわかるが、それでも人間にとって良い環境とは言えねーよな」


 言って、饒舌なヤブ医者はみんなと同じように周囲を見渡した。


「枯れ木、イバラ、荒れ果てた土。素人だが、とても作物が育つ環境には見えねぇ。これなら、人間の多くがバーグに留まってる理由もよくわかる」


 言って、彼はこちらに振り返った。


「少なくとも、人間にとって良い環境じゃねーな」

「そうですわね……カニスは閉ざされた大地が多いと聞きます。これからどんな旅路になることか想像もできませんわ」

「んもう、あんずちゃんは後ろ向きだなぁ。ダイジョーブだよ!」

「ジジイに片足突っ込んだ身として、その根拠無き前向きさが不思議でならねーんだがな」


 行き交うマナを手のひらに集めて、彼はそれを大空に打ち上げた。おお、そんなこともできるのか。あとでドロちんに教わろっと。


「それより、ずいぶんアッサリした別れだったじゃねーか。名残惜しくなかったのか?」

「ビーちゃんたちのこと?」


 こちらの問いに、サンダーさんは沈黙で返した。


「ヘーキだよ。だってゲンキなのわかったもん」


 そりゃさみしーけどね。

 ううんさみしくないよ!

 でも、ちょっと、まだ温もりがなつかしいっていうか。


「そうかぁ? ならいーけどよ」


 思わせぶりなセリフだなぁ。


「何かあるの?」

「いや、あいつら他の龍脈探すっつってたろ?」

「そだね」

「となると北方だろ? ファミリアーリス山脈の北は獰猛で素早いケモノが多いと聞いたことがあるんだ。ほら、あいつら接近戦弱そうだし大丈夫なのかって」

(え?)


 ぞわ。

 心の底に不安が生まれた。


 そんなわたしの不安をかき消すかのように、ほぼノータイムであんずちゃんが進言する。


「サンダーさん、考え過ぎですわよ。それを見越してのパーティーにしてるはずなのですから」

「つってもよぉ、あいつら前線タイプいなかったろ? もしかして、旅路の途中で犠牲になったとかありえねーか?」

(え?)


 どくん。

 不安が広がった。


 トドメを刺すかのように、緑コートの闇医者はことばを重ねていく。


「前線タイプが死にました、なんて言えねーだろ気ぃ使わせたくないだろうし。だが、もしそうだったらあいつらかなりムリしてるよなぁ……いくらエルフの使命のためとはいえそりゃあ」

「そこまでよこのヤブ医者ジジイ」


 饒舌に語るヤブ医者にロリっ子魔術師がピシャリ。


「可能性の話でグレースの不安を煽って何が楽しいわけ? ったく、ほら、アンタも少しはなんか言い返しなさいよ。その、ビーちゃん? ならヘーキだっていつものアンタなら……ちょっと?」

(うん、ドロちんありがと。わたしのこと気遣ってくれたんだよね)


 確かにサンダーさんのことばは一理ある。

 でもビーちゃんならヘーキだと思う。

 けどサンダーさんのことばが本当だったらどうする?


 ビーちゃんだったら、危険を承知の上でエルフたちのために戦うこともあり得る。もし自分がピンチだとしても、仲間を心配させたくないからって気丈に振る舞ってしまうかもしれない。


 どうしよう?

 どうする?


(うん)

「やっぱビーちゃんに付いてく」

「ちょ、グレース!」


 わたしは駆け出した。

 背中をつかまれた。

 身体が進まない。

 わたしの両足は、おなじ地面を虚しく蹴り続けるだけだった。


「うわーん! ビーちゃんといっしょに行くう!」

「こんのクソジジイ! テメーが余計なこと言うから!」

「まだジジイじゃねえよ! こちとらまだ五十代だ!」

「ドロシーさん落ち着いて! っていうかサンダーさんも反論するとこそこですの!?」

「まったく、たわけが」


 ちょっとそれヒキョーだよブッちゃんバフ付きのあんずちゃんとか重量級だかんね? あ、これは動かざること山のごとしって意味で決してあんずちゃんのウエイトがどうって意味じゃなくて、っていうかほんっと動かない離してわたしはビーちゃんを助けに行かなきゃなんないんだ。


「むきゅーはなせー!」

「かわいい声出してもムダですわ。グレース、ちょっと落ち着いてくださいな」

「いやだー! ゼッタイ行くの! って、うわっ!」


 唐突に拘束が解けた。その勢いあまって地面とおでこがごっつんこ。いたたと手のひらですりすりしつつ、わたしは起き上がってみんなに振り返った。


「ごめん! やっぱり放っておけないよ。今からでもビーちゃんを……あれ?」


 だれもいない。


「みんな?」


 腰に手を回してたあんずちゃん。

 パワーバフをかけてたブッちゃん。

 呆れ返った表情で見ていたドロちん。

 言い出しっぺのサンダーさん。


「どこ?」


 いつの間にか、辺りにはどんよりとした霧が立ち込めていた。

『土佐』Tosa

 日本、高知県原産の大型犬。土佐藩で闘犬として扱われていた四国犬(正式名:土佐犬)を元に、鎖国後の19世紀、大型化のため海外犬種を交配させ誕生した。ジャパニーズ・マスティフとも呼ばれ、高知県の天然記念物指定される。

 茶を基調に白、黒交じる短毛。垂れ耳で長いしっぽ、シワシワ皮膚が特徴。基本は従順、寛容、冷静だがスイッチが入ると上級者でも制御が難しい。国によっては規制対象


世界観、テーマ、設定などが煮詰まってきたので、そろそろ新装版をいちから書き直すかもしれない


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