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洞窟の番人

異世界人の出現位置はランダムでございます。

 エルフの森は大陸中のあちこちにあるらしい。それぞれ独立しつつ、互いに情報交換しあって有事の際は一致団結するんだって。いわゆるひとつのエルフネットワーク? みたいな。


 自然が多いアイン・マラハは、それに倣ってエルフの拠点も多くなる。人間とも魔族とも違う存在で、じゃあなんなの? って聞いたらビーちゃんは「私にもわからない」って。お共のエルフさんたちに尋ねても詳しい説明はなし。ただ「世界のおとし子」とだけ。なんだそのかっけーネーミングは。


「それで、ビーちゃんはあのあとすぐエルフの森へ帰ったんだ」

「ああ。アイン・マラハでの経緯(いきさつ)を含めて報告にな。その後、すぐニンフが現れて言ったんだ」


 ファミリアーリス山脈方面の林道を歩みつつ、ビーちゃんは前方を歩くふたりのエルフの背中に視線を向けた。


「世界が崩壊しようとしてる、とな」

「規模でけー」


 わたしは空を見上げた。

 でもって前へ、つまりダブルエルフさんを視界におさめる。


 酒場という名のメシ屋とは違い、今はダンジョン探検用の装備でいらっしゃる。緑か茶色。とにかく森に溶け込むようなカラーセンスを好み、服の素材はもっぱら植物を編んだ布。でもそこらのアーマーよりよほど防御性能がいいときた。


 方やそれプラスローブのようなものを纏い木製のクネクネした杖。もう片方はより丈夫そうな装備をベルトでピッチリ締めている。見た目は武闘派にもかかわらず、ビーちゃん曰く僧侶枠だそうな。


「ねえ、エルフって長寿なんだよね?」

「そうは言っても数百年くらいだぞ」

「あの子っていくつ?」


 僧侶の背中を指差し。いやぁね? 魔法使いのほうは金髪ロング青目長耳豊満ビジュアル良しとまぁ典型的なエルフウーマンなのですが、モンククラスのお方はまだ発展途上というか成長途中というか。


 ビーちゃんは難しい顔をした。


「いちおう成人らしい。たしか百年を越えてるそうだが」

「どーみても子どもじゃん」

「本人は気にしてるから言わないでやってくれ」

「なぁ、まだ着かねぇのか?」


 などと会話してたら後ろから割り込みが。声の主はやや枯れ木の気配漂う初老男子。


「なぜ付いてきた」


 ビーちゃんがマジでイヤそーな口調と顔と態度をとる。それにもめげず、うちのヤブ医者担当は声高らかあんどフレンドリーな返答。


「味方は多いほうがいーだろ? 回復役なら尚更(なおさら)さ?」

「僧侶なら間に合ってると言っただろう」

「ここは魔族の国だぜ? 人間やエルフじゃ対応できない毒だってあるかもしれないだろ。だよな? ベリー」

「えっ」


 いちばん後ろにてトボトボ歩くいやし系ビッグウーマン。ヨーデル歌ってそうな赤い服を着たベリーちゃんは、少し困ったようにやさしい垂れ目をさらに垂れさせてからうなずいた。


「うん」

「ムリしなくていーよ。っていうかサンダーさんまだお酒入ったままでしょ」

「安心しろ、抜いてきた」


 言って、中年末期が自慢げに小瓶を見せつける。そうこうしてるうちに前のエルフふたりが止まった。うるさいって注意されるかな? と身構えたら目の前には崖発見。そして視線を下げてみればベリーちゃんの二倍くらいの大きさの入口が。


 洞窟である。


「ここだ」


 魔術師エルフがつぶやく。杖をそちらに掲げ、先端から光の魔法を打ち出し洞窟の中へ放り込む。


「うわっ!」


 閃光に驚いたコウモリたちが一斉に飛び出した。


「小動物が棲んでいる……少なくとも、入口周辺に危険は無いようだな」


 足元を通り過ぎるウサギを見送り、魔術師エルフは洞窟の奥へ向け目を細めた。どういう理屈か、彼女が放り込んだライトは壁にぶつかり張り付いたままだ。


「行こう」


 ロリエルフが先陣切って洞窟に足を踏み出す。やや湿気があり、ところどころ水たまり。入口の安全を確認したはいいものの、その先に何が待ち受けているかわからないのによぅズカズカ入れるもんだ。


 それともエルフセンスかな? これなら前線タイプいらなくない? などとビーちゃんにロックオンアイすると、エルフフレンドリー異世界人はお手上げといった風に肩をすくめた。


「感覚が鋭いのもあるが、彼女たちは危機感が少ないんだ……普段一方的な狩猟ばかりしてるせいかな。だから私が制止する事も多い。もしもの時は頼んだぞ」

「あっそ」


 わたしは異空間から松明(たいまつ)を取り出した。






 しーんと静まり返った暗黒空間。たいまつが無ければわたしたちの視界はいっさい遮断される。天井から染み出した水がいくつもしたたって数々の水場を形成する。


「みんな付いてきてるー?」


 天然の岩場を進み、人ふたりくらいの段差を降りたところで振り返ってみた。


 ビーちゃんの助言により斥候を任されたグレースちゃんは、並み居る分岐を生来のカンとセンスとなんとなくでくぐり抜け、こうやって定期的に後ろの様子をチェックしてるのです。


「大丈夫なのか?」

「先程から迷いなく道を選んでいるようだが」


 魔術師エルフが不安の声を上げながら同じ段差を降りる。着地の音はふわりとやわらかかった。


 それに僧侶エルフが続き、続けて着地したビーちゃんは自身あり気に答えた。


「グレースはかの英雄、チャールズから直々にスカウト訓練を受けた。彼女は信頼できる仲間だ」

(うひょ)


 信頼できる仲間だなんていやぁねーもう!


「そうか。ビシェルがそう言うなら信じよう」


 背後にトスンという音。ベリーちゃんが高身長を活かしぶら下がって降りた音だ。


「んじゃいこーか」

「おい」


 上から不満気な声。


「だから付いてこないでって言ったのに」

「言われてねーだろ助けてくれよ」

「うん。つかまって」

「ありがとよ」


 ベリーちゃんにだっこされての到着。それから滑る足場に注意しつつ、サンダーさんは空間を下から上へ見渡していった。


「しかしスゲーなここ。鍾乳洞だっけ? こんなデカい洞窟初めてだぜ」


 その視線の先にあった石筍(せきじゅん)から水が滴り落ちる。そんなトゲトゲが上にも下にも広がって、広大な空間にピチョンと水音が滴る。


 それだけじゃない。


「川だ」


 洞窟に入って、少し進むと聞こえてきたごーごーという音。足場から見下ろすと、洞窟に染み出した水が集まって一本のふとい川が出来上がってた。よく見たら壁にできた穴からも水が吹き出してるし。え、なにこれ滝でいいの?


「もしかしてりゅーみゃく?」

「いや、龍脈であれば少なからず光を発するはずだ」


 ロリエルフが軽やかステップにて川へ接近。それに指先を差し入れ目を閉じ意識を集中させている。


「……かすかだが、龍脈のそれと近い波長を感じた。恐らく近くに龍脈があるかもしれない」

「そうか。グレースのカンは正しかったということだな」

(はわわ)


 ビーちゃんのナチュラルスマイル。この笑顔を見るためならおやすいゴヨーだぜ!


「この先はどうする?」

「うぅーんそうだなぁ」


 わたしは|グレースちゃんセンサー《たんなるやまかん》を発動させた。今までくねくねしてきたでしょ? んでおっきくて広いとこについたじゃん。そうしたら次は――。


「うえ」


 わたしは岩場そびえる先を示し、ビーちゃんは決意を新たにし、サンダーさんは肩を落とした。


「よし、行こう」

「あの崖を登るのか……」

「イヤなら付いてこなくていい」

「冗談よしてくれ!」

「だいじょうぶ。ボクが背負っていくから」

「あまりやさしくしないほうがいいよベリーちゃん」


 勝手についてきたんだしさ。


「そう言うなって。お前らはこんな段差ひとっとびなんだろうけどな、人間は自分の身長の段差すら乗り越えられないの」

「オジサンはできたもーん」


 ベリーちゃんに介抱される初老男子を受け流しつつ、わたしは異世界人の身体能力をフルに活かし斥候の役割を果たしていく。クネクネした道と分岐。すべてが同じ景色に見えつつ何かが違う。その何かをフルパワーで感じて、くんくんと地面の匂いを嗅ぎ、耳を澄まして川の流れを読み、六感すべてで目標(龍脈)在処(ありか)を求めていった。


「そしてついに見つけました」


 まっくらやみに光あり。

 その(みなもと)に水流あり。


 ふつふつとこぼれる雫。それは溢れ出したとたんに消え、決して清流をつくることはない。


 間違いない。アレだ。


(うぅーんイヤな記憶が蘇るぅ~)


 くっそあの白髪ガリガリクソやろうめ後で目にもの見せてくれる。


(そーいやあいつら今何やってんだろ)


 悪いことしてなきゃいいな。あの子のことも気になるし……名前なんだったっけ。


「きゃ……きゃ……そうだ、キャサリンだ」

「だれだ?」

「うぁあーオぅ!?」


 側面から低い男性の声が響いた。明らかにサンダーさんのそれでない、もっと若くてエネルギッシュで、でもその声自体に力はなくて。


「だ、だレですか」


 思わずカタコト。声の方へ振り向くと、そこには壁に腰掛けうなだれている人影があった。


(でっか!)


 こやつをベリーちゃん二号と名付けよう。いやそうじゃなくて、ん?


 暗がりに()の輪郭が浮き上がってくる。異世界人アイは暗いトコでもよく見えるんだぜ。


(ふさふさロング。まるでライオンさんみたい)


 髪の毛のことね。


「あのぉ……おにーさん? だいじょぶですかぁ?」

「……くる」

「へ?」


 なにが? そう問いかけようとした瞬間、この空間全体が殺気で覆い尽くされた。

エルフふたりの描写だけ。物語と関わり薄いので深堀りはないです(ないです


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