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プリズムマッスル☆鬼邪殺戮怒≪キャサリン≫におまかせっ! 4・君去りし後

 パンデモン王国の首都、ゾンバイア。

 初代国王の名前からその名を取ったそこは最新の建築技術でもって整備された大都市で、中心部に荘厳なるゾンバイア王宮は建っていた。


「100万ドルの夜景」と言う表現に相応しい光景を窓から眺めていた一人の女性、王女ネクラン。

 王女としてこれを見られるのはあと一週間もない。

 それ以降は名実ともにあれが自分のモノとなるのだ。

 戴冠式典の準備で慌ただしい日々が続くが、支配者にもたまには感慨に耽るだけの時間と言うのも必要なのだ。


 ここに至るまで、数々の物を犠牲に捧げてきた。

 そのあらゆるものがネクランの脳裏に浮かんでは消える。

 実の兄弟姉妹の排除にさえも手段を選ばなかった。

 最早後戻りするつもりはない。


 その時ふと、彼女は気付いた。



「何かしら・・・やけに静かね」



 これは気のせいではない・・・彼女の直感がそう強く囁きかけていた。

 この逃してはならぬ虫の知らせや勘を信じて従ってきたからこそ、ネクランと言う人間は王位継承争いで最後の一人に残れたのだ。


 ・・・とは言え、それで出てきたのが自身の能力や全存在を以てしてもどうにもならないと言う事もあるもの。

 今がまさにそれだった。



 煌びやかな夜景に突如走る幾条もの赤い光の線。


 数秒後、豪華な装飾の為された窓のある側の壁が赤い筋の痕に沿って切断、滑らかな断面の瓦礫となり一面が纏めて崩落した。

 轟音と共に吹き込む突風に思わず屈み、手で頭を覆うネクラン。

 風がほぼ止んだのを見計らい顔を上げると・・・。


 緩やかに吹き込む風に艶やかな髪とスカートをなびかせ、手には赤い光を宿した剣。

 年の頃は中学生に上がるかどうか位であろうその少女は、宮廷で開かれる正式な晩餐会のような完璧な笑顔を湛えていた。



「・・・デスノ!」


「お久しぶりですね、ネクラン叔母様」



 上品な淡い色のパーティードレス姿で現れたその少女は、次期パンデモン女王がこの世で畏れる最後の一人だった。

 ネクランが慌てて壁のボタンを押すと壁や天井が開き数門の機関砲が飛び出て、また同時に王宮警備隊も素早く登場した。

 警備隊はパワードスーツを採用しており、大火力の銃器を携行していた。

 反動ゆえに生身では撃てないものだ。

 隊が展開した時にはもう、ネクラン本人はシャッターの様に降りて来た分厚い防弾ガラスで外側と隔てられた。


 誰が叫んだのか「次期女王陛下を守れ!」と言う言葉と共に、空間丸ごとを揺るがすような斉射が開始された。

 標的は人体、それも異常な登場をしたとは言え少女一人相手だ。

 オーバーキルどころではなく、ミンチさえも残らない破壊力は防弾ガラス越しの音だけでも確信可能なレベルだ。


 しかし煙が収まった光景に、ネクランや警備隊には戦慄が走った。



 いつの間にかデスノの前に立ち塞がっていた三人の黒服が、妙にスタイリッシュなポーズで握り込んでいたそれぞれの両手を開いた。

 人に向けることが許されない大きさの弾丸が、床にボロボロと落ちた。



「ご挨拶ですね。でもそんな案山子の様に突っ立っていて宜しいの?」



 夜景を背にする少女の言葉と同時に、警備隊の間を縫うように何らかの影が広い室内を素早く駆け巡った。

 そしてさっきまで居なかった老紳士が、少女の横で従順さを示すのとも少し違うポーズで片膝を突いていた。

 手にはステッキ、よく見ると仕込み杖である。


 刀身が鞘に完全に納まる「キン」と言う澄んだ音が響いた。


 部屋備え付けの回転式多銃身機関銃、警備隊の携行ライフルが輪切りになってその場にごとごとと落ちた。

 次いで警備隊のパワードスーツ、そして防弾装備の制服やシャツが小間切れになって全員パンツ一丁になった。

 最後に軽い呻き声と共に、全員その場に倒れた。



「ご安心召され、峰打ちにございます。しかし久しぶりの対面にガラス越しは些か無粋と判断致した故、出過ぎた真似をしたかも知れませぬ」



 執事然とした老紳士の言葉に呼応するように、ネクランとデスノの間にあった分厚い防弾ガラスに切れ込みが入りそのままごとりと落ちた。



「今更・・・一体何の用なのかしら?薄汚い血の混じった小鼠が」



 最新鋭にして必殺の軍団が圧倒的にコテンパンにやられたというのにまだこれだけの口を利けるのは、やはり女傑の類と言える。



「別に?女王就任のお祝いをしに来ただけですよ?ただ貴女のお名前に『陛下』と付けるのは私の心情的に憚られるので、少しばかり早参する事にしましたの」


「・・・ふざけないでッ!」


「ふざけてはいませんが、用はもう一つあります。結構前からの話なんですが、王位なんかに興味のない小娘である私やその周辺を嗅ぎまわる()()()が出没して困っていますの。何とかならないか、こうして叔母様にお願いに上がったのです」


「ふん、野良犬ですって?知らないわね」


「そうですか。ではこの様に()()()お願いに上がらないといけませんね」



 その言葉と共に再び赤い剣が振るわれ天井の一部が切り取られた。

 威勢を保っていたネクランも流石にたじろいだ。



「ああ因みにですが、私達を止めるのは核如きでは無理ですよ?そんな可愛らしい程度のもん、うふ、そんな・・・うふ、うふふふふ」



 デスノを中心に黒服、老紳士らが一斉に光の無い瞳で乾いた笑いを上げ始め、ネクランは今度は違う意味で恐怖を覚えた。



「・・・失礼、まあ兎に角です。女王就任のお祝いに手ぶらではいけませんので、プレゼント代わりに捕まえた野良犬を持って参りました。エントランス前で大人しくしていますのでご安心ください。野良かと思ったら血統書付きでしたので、きっと気に入って頂けると思いますよ?」



 既に窓の体を為していない空への穴に、少女を中心とした一団は歩み寄った。

 そこに最後の矜持を振り絞り、ネクランは叫んだ。



「ま、待ちなさいよ!こんな事してただで済むとでも!?」


「今後何かあった場合、()()()()()()()()()()()()()()だと相当懇切丁寧にお教えしたはずですけどね?では、もう二度とお会いする機会が無いようお互いに祈りましょう。もしそんな事があったら、こちらも手を抜くのを()()()()()()()()やめないといけませんので」



 一団は音もなく飛び降り、後には静寂とパンツ姿で倒れる警備隊、そして今になってへなへなと腰を抜かした一週間後のパンデモン女王が残された。


 それでは、私も忙しいのでごきげんよう。

 悪魔の残した最後の挨拶と表情が、彼女の脳裏に幾度もリフレインしていた。






 王都ゾンバイアの沿岸道路を疾走するリムジンの中、執事がデスノに尋ねた。



「あれで、よろしかったのですか?」


「おじい様・・・現国王陛下が父様と母様をコッソリ保護していなかったら、あれで済ましはしなかったわ。先月は夫婦そろってアリゾナで隕石掘ってたって連絡あったし、来年あたりは気が変わって南氷洋の生物に関する論文でも書くんじゃないかしら?」


「・・・お二方も変わりませんな」



 道路の前方や後方を警戒しながら、黒服の一人が報告した。



「追跡者は居ないようです」


「流石に薬が効いたのかしらね、そうじゃないと困るけど。・・・ま、利に敏くて身内に甘くて、その身内に全パンデモン国民が入ってるような人だから、悪い王様にはならないんじゃないの?競争相手や外国人の血は例え親類縁者でも身内に含まないみたいだけど」



 そうこうしているうちにリムジンがガードレールをドカッと突き破り、宙を舞った。

 手元のスイッチ類を弄りながら、王宮への挨拶に同行していなかった黒服の運転手が何の事は無い様子で言った。



「亜音速小型移動要塞≪犬小屋(ケンネル)≫偽装モード解除、35秒後に着水します」



 黒塗りのVIP用高級車が空を飛び何やらガシャガシャと変形、魔法の力を前提とした奇妙な円盤型の真の姿を現した。

 巨体や速度を考えると奇跡的なほど小さい水しぶきと共に海に落ちたそれは、勢いを全く減じずに水上を駆け出した。


 最早この国に何の未練もないとでも言うように。




~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 リムジンから降りた私の姿を見て取り、青空の下真新しいぶかぶかのセーラー服の少女二人が手を振っていた。



「遅いよデスノちゃーん、入学式に遅刻する気?」


「わー・・・やっぱり似合ってるね。あたしとは大違い」



 せにあちゃんとぺぷこちゃん、私の友達だ。

 せにあちゃんの方は見た目は出会った時からあんまり変わらないけど、ぺぷこちゃんはくりくり眼鏡からコンタクトに変えて髪も伸ばし始めた。

 ふと、私は思い出した。



「あ、そうだ。前に二人からうちの黒服連中にもらったバレンタインのお返し遅れたけど、後で家の方に送っておくね」


「・・・前みたいに銀座の予約専門の何とかって高級店のやつじゃないよね?お母さんが腰抜かして大変だったんだから」


「大丈夫大丈夫」



 ちょっとみんなしてうちのシェフに鍛えて貰って、お金取れるレベルの太鼓判が出るまで頑張っただけだから。

 アレに比べりゃ温い温い。



 背がちょっと伸びた以外に見た目の変化があんまりないせにあちゃん。

 でもその内面は大きく変わっている。

 転生者ではなくなったらしいのだ。

 記憶もあるし、魔法なんかの能力も普通に残ってはいる。

 但し、転生者としての事を思い出す時「テレビとかスマホの画面越しに見ているような、自分じゃない感じ」らしい。

 傍目から見ても、以前は年不相応に思えた言動や立ち振る舞いなどから感じる雰囲気も12歳的なそれに変わっていた。

 転生者じゃない本来のせにあちゃんはこちらなんだろう。


 そして、これからも私の一番の友達である事に変わりはない。


 鬼邪殺戮怒(キャサリン)師匠はあの圧倒的な存在感を失った――例の肉体や戦闘力はそのままにせよ――いちザコポンとしてプリフェア界に帰り、ロボミンもフワミン的な人格に戻って(その状態を私は知らないけど)一緒にあちらに行ってしまった。



 温かさの中に芯のような冷たさの混じった春の風が吹き、私は青空を見上げた。

 この青空は、世界中どこにでも続いている。

 でもあなたたちの所には繋がっていない。


 いつかまた会える日が来るんだろうか?

 もしその時が来たら、胸を張って会える自分でいたい。





                  第七部


               ユウジョウ!エンド

Q:転生した連中が帰還した後、残された世界はどうなるの?

A:こうなるの。

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