第十三話 遅れて来るのは救世主
遅れました⋯⋯
「ふざけるな!!」
煌夜は叫び、アイアンゴーレムの前まで走った。おかしいぐらいの速さで走った。地面はえぐられ、草は潰される。
ネタルはアイアンゴーレムと同じぐらいの恐怖を感じた。いや、それ以上かもしれない。
「こんなところで死ぬなんて⋯⋯最悪⋯⋯」
ロアは木に叩きつけられ、痛みで身動きが取れない。悔しさで地面を殴ろうとするが、腕すら動かない。ぼやけていた景色も、はっきり見えるようになってきた。
アイアンゴーレムが殴りかかってきた。
諦め⋯⋯ロアに目に映っていたそれが、変わる。
「この鉄屑が!!」
刹那が如く時間、視界に一つの人影。
コーヤだ。いつもとまるで雰囲気が違うコーヤだ。
何やってるんだ。なんでそんな力があるならもっと早く使わないんだ。
ロアは少し安心した反面、苛立ちも感じた。
鐘を鳴らしたような音が周囲に響いた。その大きな音でたくさんの鳥が飛び立っていく。
アイアンゴーレムのパンチは、煌夜の左腕によって防がれていた。
「たいしたことねぇな。鉄屑よ?」
アイアンゴーレムは、自分のパンチが簡単に防がれたことに戸惑っている。その隙に煌夜はアイアンゴーレムに向かって回し蹴りをした。空中で三回転し、六回のキックを繰り出した。
また低い音が響く。
アイアンゴーレムはその衝撃で地面に叩きつけられる。しかし傷一つ付いていない。煌夜はそれにイラつき、倒れ込んだアイアンゴーレムの頭を何度も蹴った。
起き上がろうとしていたが、1分程蹴り続けると頭が凹み、動かなくなった。
「⋯⋯⋯⋯!?」
好き放題暴れていた煌夜は、我にかえったかのように辺りを見回した。アイアンゴーレムが動かなくなっているのを見ると、安心したかのように息を吐いた。
「大丈夫かロア?」
いつもの口調のコーヤが話しかけてきた。
「ぜ、全然大丈夫⋯⋯じゃないよ。体が動かない⋯⋯」
多分コーヤだ。そうだ。違いない。
ロアは自問自答した。
「そうか⋯⋯じゃネタルにも手伝ってもらって、もっと安静にできるところに移動させた方がいいか。その後に、アリシアにでも連絡してここに来てもらうか⋯⋯」
コーヤはあり得ないほど冷静だ。ワタルはかなりビクビクしている。いや、あれが普通なのだろう。
私は二人に草が多いところへと運ばれた。かなり痛かったが、硬い地面と木から移動できると考えたら、ギリギリ耐えられた。
「僕⋯⋯疲れた。煌夜がアリシアを呼んで」
ずっと恐怖に縛られていたネタルは草の上に寝転がった。
「仕方ないな、俺が呼ぶ。ネタル、ロアを見ていてくれよ」
煌夜はそう言うと、持って来た鞄からスマホを取り出すために立ち上がった。
その瞬間、機能を停止させたアイアンゴーレムの目が赤く光った。
「おいおい嘘だろ?」
煌夜は地面にあった石を蹴り飛ばした。
「ロアもネタルも寝ちまってるし⋯⋯しかもさっきみたいに戦える気がしねぇ。マジか⋯⋯」
煌夜は絶望的な状況に愚痴をこぼす。恐怖心を感じない為、この状況から脱出出来るような方法を考えるが、思いつかない。
「さて⋯⋯どうするか⋯⋯あ!?」
煌夜が考えごとをしているとアイアンゴーレムが急に動き出し、強烈なパンチを繰り出した。
煌夜は反射的に左腕で守ろうとしたが、所詮は『人間』だ。鉄の塊が猛スピードでぶつかってきて、防げるはずもない。煌夜は左腕と胸部を殴られ、数メートル先まで飛ばされた。呼吸がしづらいく、気をぬくと意識がなくなってしまいそうな状態だ。
「はあ、はあ、そりゃそうか⋯⋯ふざけるなよ⋯⋯」
向かって来るアイアンゴーレムに向かって悪態をついた。
すると、何故かエンジンの音が聞こえてきた。こんな山の中でだ。
一般人か⋯⋯こっちに来たら死ぬだろうな。
煌夜はそんなことを考えた。
トドメを刺そうとアイアンゴーレムがパンチの動作をしようとすると⋯⋯⋯⋯数回の発砲音がして、アイアンゴーレムの頭の一部が吹き飛んだ。
アイアンゴーレムは、またしても地面に倒れこんだ。
煌夜が発砲音のした方向を見ると、大型の黒いバイクに乗った見慣れた二人組がこちらに突っ込んでくるのが見えた。
「俺参上!!」
とバイクを運転している芽依が叫んだ。
「汚物は消毒だ!!」
と言いながら、後ろに乗っているダイアーが二丁の拳銃を持って、またしてもアイアンゴーレムに向かって乱射した。
「やっぱ拳銃の威力はすげぇな。メイ、これ欲しいんだが⋯⋯」
そんなダイアーの願いは速攻断ち切られた。
「姉さん⋯⋯ダイアー⋯⋯」
何故この場所が分かったのか、何故拳銃を二丁も所持しているのか等、聞きたいことが山ほどあったが、そんなことが聞けるほど煌夜の胸の痛みは和らいでいなかった。
「うりゃああ!!」
ダイアーが叫ぶと、アイアンゴーレムの胸部が爆発し、ぽっかりと穴が空いた。アイアンゴーレムは、もう動かなくなった。
死闘を繰り広げた煌夜にはあまりに呆気なかった。
「まずは⋯⋯ロアと煌夜の治療をしないとね。ダイアー、頼んだよ」
「⋯⋯実は回復魔法はかなり苦手で、擦り傷ぐらいしか治せないんだが⋯⋯」
芽依に期待を込められたダイアーだったが、回復魔法が苦手な為に役に立てなかった。
「こんな時にアリシアが居てくれればな⋯⋯」
回復魔法が得意なアリシアが来ることを考えたが、不可能な考えだった。
しかし、その考えが可能になった。
「ロアさん、コーヤ、大丈夫ですか!!」
「二人ともすぐ治療するから!!」
アリシアとアンヘルが、こちらに走ってきた。なんという幸運だろうか。
アリシアは、すぐに治療を始めた。ダイアーから受けとった魔石による高度な回復魔法の治療で、煌夜とロアに命に別状はなかった。
「ロアさんもコーヤも、大丈夫そうですね。コーヤはワタルとロアさんを守るようにして倒れてましたし⋯⋯少し見直しましたね。これなら信用しても良さそうです」
特にやることのないアンヘルが、小さな声で言った。
「アンヘル、何か言った?」
と芽依が聞いたが、
「何も言ってませんよ」
としか言わなかった。
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