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ネオニートの日常は魔科不思議。  作者: 如月奏
第一章 エルフが転移してきた。なので土台を固めようと思う。
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第十二話 歓迎されないお客様


 ⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯。

 気持ち悪い⋯⋯あと頭痛え⋯⋯。

 何かよく分からないが、揺れている⋯⋯地震か?

 そんなことはどうでもいい。

 もう少し寝ていたい⋯⋯。


「おい⋯⋯煌夜⋯⋯」


 ネタルか⋯⋯うるさいな。何だよさっきから。


「起きて煌夜!!」


 ネタルが張り裂けんばかりの大声を出し、煌夜はようやく目を覚ます。


「何だネタル⋯⋯もう少し寝かしてくれよ」


 何でこんなにネタルはうるさいんだ?指差したところに何があるって⋯⋯⋯⋯え?

 

 煌夜が見たものは、3mはあるだろう金属でできた人型の何か。ゲーム等に出てくるゴーレムよりも人に近い形をしており、スマートな体型だ。アイアンゴーレムとでも言うべきだろうか。その『何か』は金属でできているとは思えないようなスピードで誰かを殴り続けている。よく分からない半透明な壁に守られているので無傷のようだが、その誰かは⋯⋯


「⋯⋯ロア?」


 アイアンゴーレムに攻撃されているのは、ロアだった。煌夜はふらふらと立ち上がり、ロアの方へ向かおうとするが、体に力が入らず座りこんでしまった。


「魔力の使いすぎによる副作用的な何かが、煌夜にも残ってるみたいだね」


「⋯⋯そうみたいだ。手助け⋯⋯は邪魔になるだろうから無理だとしても、逃げることさえ出来ないとはな⋯⋯」


 おそらくロアは、俺達を庇ってくれているのだろう。しかし俺達は、立ち上がれないほど体調が悪い。逃げることなど不可能だろう。さて、どうするべきか⋯⋯。

 煌夜とネタルが途方にくれていると、ロアが二人の方を一瞬だけ見た。少しだけ微笑んでいた気がした。すると二人に不思議なことが起きた。


『コーヤ、ワタル。ようやく起きたみたいだね。事情は後で説明するから、這いつくばってでも逃げて〜』


 脳内にロアの声が聞こえるのだ。これには二人とも驚いたが、混乱するほどの体力はないためすぐに落ち着いた。


「⋯⋯え?ロアだよね?」


『うん、ロアだよ〜。早く逃げて。私のすごい魔法の流れ弾が飛んでくるかもだから〜』


 冗談が混ざっているのは、ロアなりに落ち着かせようとしているのだろうな。しかし⋯⋯


「悪いが、立ち上がる体力もねぇんだ」


『⋯⋯だったら絶対にそこから動かないで。認識阻害の魔法をかけているから』


 今度は真剣な声のトーンが脳に響く。二人は「分かった」と言った。それから声は聞こえなくなった。

 流石エルフの隊長だ。この状況で俺達に指示を出せるのは、判断力が高さゆえだろうな。

 煌夜はロアを見直した。


 煌夜が目を覚ましてから五分はたった。始めは互角に見えた戦いも、徐々に疲労が蓄積されていき、ロアが劣勢になってきた。

 理由としては、準備不足。ロアだけではなくエルフ四人全員が、この世界に魔物が出現するかもしれないという可能性を考えていなかった。勿論煌夜とネタルもだ。よって魔力を増幅させるアクセサリーを、部屋に置いてきてしまったのだ。それはなければかなり戦闘で不利になってしまう。体内に多くの魔力を蓄積させ空気中の魔力を取り込みやすいエルフであり、その隊長であっても、専用のアクセサリーが無ければ、魔力を取り込むのに時間がかかってしまう。よって、需要と供給のバランスが取れず、どんどん魔力が減っていってしまう。

 少し前までは半透明の壁で防御しながら、炎と氷の魔法を交互に打ってアイアンゴーレムのボディを壊そうとしていたが、今は防御だけしか出来ていない。魔力が少なくなっているのだ。


「はあ、はあ、あとどれくらい魔力が残っているのかな⋯⋯?かなり無理して使っちゃったから、反撃するのは⋯⋯キツイかも⋯⋯」


 ロアの疲労は限界に近く、防御をするのもギリギリになってきた。そのせいで弱音しか出てこない。

 ここまで追い詰められたのはいつ以来だろうか。情け無い自分のせいで部下を三人も死なせてしまった時以来だろうか。

 暗い過去がロアの記憶の底から這い出てくる。

 もうあんなのはゴメンだ。


ーーパリン


「⋯⋯え?」


 シールドが破られてしまった?

 しまった、嫌な記憶のせいで⋯⋯


「⋯⋯!!ぐぅっ、がは⋯⋯」


 その一瞬の隙にアイアンゴーレムは、ロアの溝落ちと腹部に鋭いパンチを放った。反射的にバックステップをして溝落ちへのダメージを少なく出来たが、次のパンチをまともに食らってしまった。ノックバックの魔法を腕に込めたのだろうか。ロアは15mほど吹き飛んだ。


「うう⋯⋯げほっげほっ⋯⋯痛たた⋯⋯⋯⋯戦闘の続行は、不可能かな⋯⋯」


 血を吐き、骨を折り、木の幹に叩きつけられ、動くことが出来なくなったロアは、すでに戦意喪失していた。

 ロアに思い浮かぶのは『死』だ。何でこんなところで死ぬのだろうという思いが何度も脳内を駆け巡る。次にあの二人が死ぬ。ロアが死ねば認識阻害の魔法は消滅する。あんな状態では逃げることなど不可能。

 なんて自分は情け無い。


「ロア⋯⋯?もう駄目だ。死んじゃう⋯⋯ロアが⋯⋯」


 ネタルの顔が青ざめていくのが簡単に分かる。

 助けたい。だがそんな力なんてどこにもない。逃げる体力すらない。

 ふざけるなよ。なんで見殺しにしか出来ないんだよ。

 ふざけるなよ。なんでロアは死にそうになってんだよ。

 あの鉄の塊を⋯⋯ぶっ壊してやりたい。


「煌夜⋯⋯?」


 ネタルが煌夜を見る。煌夜の全身が震えている。そして、恐怖を感じるほど殺意を持っている。一般人でも分かるぐらい。


「煌夜⋯⋯だめだよ⋯⋯無理なんだよ⋯⋯」


 ふざけるな。

 何が無理だ。出来ない訳がない。やってやるよ。

 あの鉄屑をボコボコ⋯⋯グチャグチャにしてやる。


「煌夜、立ち上がれるの?⋯⋯嫌だけど、ロアの言う通り、逃げないと⋯⋯」


 だからなんでそんな発想になるんだよ。今からぶっ潰しにいくんだろうがよ。

 煌夜の眼中にはアイアンゴーレムしか映らなくなった。


 マッテイロヨテツクヅ。

 

 ナンダ?


 ナニカキコエル。


『運命に抗え』


 ドウデモイイ。


 ⋯⋯グチャグチャニシテヤル。


 タノシミダ。


お読みいただき、ありがとうございました!!

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