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鴎は楽しく簒奪を行った。

初投稿ではないですが、よろしくお願いします。そのうち書き直したりするかも。

「陛下ああああああああっ!!陛下はどこにいいいいいいいいっ!?」




「あぁ、また始まったよあの人」

「本当に飽きないな……陛下に同情するよ」

「いくら慕われてるって言ってもあの調子じゃあねぇ」

「どんだけ忙しくてもあんな部下ならいらんわ……」


 どうしてこうなった。

 本当に、どうしてこうなった。

 数日前までは常に冷静沈着尚且つ政治の仕切り役として国中の尊敬を集めていたはずの宮廷魔導師長様が、尋常でない様子でご乱心だ。

 落ち着かせようと近づけば「邪魔するな」とばかりに火の玉が飛んでくる。軍隊を呼んできてとりあえず止めようとしても、その軍隊が怯えて尻込みする。ならば彼が大声を上げて探しまわっている「陛下」に助力を願おうにも混乱を極めている国を立て直すのに忙しそうで話しかけるのも憚られる。

 ……いったい、どうして、こんな事態になった。


 民は不安と混乱にざわめき、王城には血の臭いがたちこめる。軍隊は身の置き場のないように縮こまり、宮廷魔導師長はご乱心。

 ことの発端は、半月ほど前にここ海辺の小国、パルッキラ王国の王位が簒奪されたことにある。

 簒奪者たる魔族の圧倒的な力の前に、旧王国政府は成す術もなく倒れ伏した。無惨な肉塊と成り果てたかつての国王、そして新しく玉座に座った簒奪者の姿を最初に見たのは、この3日間陛下陛下と叫んでいる宮廷魔導師長アスモ・ヴァトレンであった。しかし、彼はかつての国王のことを想って吠えているのではない。むしろ死んでくれて清々したというクチだ。彼の言う「陛下」とは、簒奪者――メーヴォ・キルペライネンのことである。

 さして悪いことをしたわけでもないのに殺されてしまった王后や王子、王女達には申し訳ない話だが、宮廷に仕える者達のほとんどは、簒奪者の出現に対して安堵していた。宮廷魔導師長などはその最たるもので、かつての王だった肉塊を細切れにして笑うその姿に心の底から惚れたとまでほざく始末。


 新王メーヴォは、魔族達の頂点――魔王の庶子である。

 父たる魔王にチョコレートの砂糖漬けもかくやというほどに溺愛され、彼の配下たる魔族の国トーロの宰相、騎士、果てはメイドに至るまでにありとあらゆる才能の面を毎日のように磨きあげられ確たる自信と実力を兼ね備えた、魔族のなかでも指折りの強者。


 パルッキラの先王は嫌われていた。果てしなく嫌われていた。なにしろ先王ときたら、「有害無益」を絵に描いたような駄目君主。税は重いし依怙贔屓もするし、当然のように賄賂も受け取る。外交も下手くそでしょっちゅう近国といざこざを起こすし、どうしてこんなのが王になれたのかさまざまな方面から不思議がられる始末。更には民を憐れんだ魔王がわざわざ討伐隊を差し向けてくるほどだと言えば、その駄目っぷりも伝わるだろうか。


 簒奪騒ぎが終息したあと、先王の体でまともに原型をとどめていたのは首から上だけらしい。それ以外の部分はひき肉状態にされて肉食獣やら魔物やらのエサになったとか。

 城下の広場に晒し首が置かれたことで簒奪の事実が伝えられるやいなや、民衆は歓喜した。圧政の時代は終わるのだ。

 しかし、民衆の歓喜はすぐに絶望へと塗り替えられた。彼らは知ってしまったのだ。新しくパルッキラの頂点に座する者が魔族であることを。


 それは幾代にもわたってウケツガレテキタ、パルッキラの民にとっては当然ともいえる常識。

 曰く、「魔物及び魔族は忌避すべき存在である」

 曰く、「魔族に捕えられたら死んだ方がましなほどの苦痛を与えられる」

 曰く、「彼らは絶対悪であり、見つけたら速やかに排除せねばならない」

 民衆はもちろん、騎士も兵士も魔導師も、本当の意味で魔族を知らなかった。故に、彼らは恐れた。森や海にちょくちょく現れる魔物ならともかく、長らくオハナシの中でしか見たことのなかった魔族が唐突に自分達の前に現れたのだ。恐れるなと言う方が無茶な話だ。

 しかし――宮廷に仕えるもの達に限っては、そうでもない。

 簒奪という暴挙があったとしても、今の主は()のメーヴォ。いつまでもびくびくしていては仕事にならない。むしろ、旧王の家臣であった自分達にも仕事や身分を保証してくれてありがたいと思っているくらいだ。武官達などは、メーヴォが連れてきた魔族の兵士達と既に肉体言語で会話を交わしてすっかり打ち解けてしまっている。


 誰だって仲良くなろうとすればできるし、魔族と言っても嫌な連中ばかりでもないのだ。ヴァトレンはそう主張する。悲しいかな、長年の慣習は根深く、その言葉を信じてくれる国民はまだ少ない。


――いつかわかってくれればそれで良いのです。


 憤るアスモに、メーヴォはそう告げたという。



――願わくは、両種族が争うこと無く共存共栄できる国を。



 新たな時代の、幕が上がったのだ。

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