番外編 完璧と忘却、若しくは満足と決断
二章1に一緒にいたら、こんな風だったかもしれない。
もしくは、数年前の一コマかもしれない。
お気に入り、評価、コメントありがとうございます!
私生活優先なので毎日更新や定期更新でお応えすることが出来なくて心苦しいですが、早いところ展開していきたいと思います。
早く恋愛要素を!!←
夜空のような柔らかさもなく。眩いばかりに輝く宝石でもなく。
感情よりは無が見える。そんな瞳の色だった。
「この絵具はなにを使っているのだろうな」
広い広い王宮の広い広い後宮。その中にある広い広い階段を上ると自然と目に止まるのは、艶やかなハニーブロンドをまとめ上げ、小さく口元に弧を描いている妙齢の女性像。
セラフィーナ・レゲドズィーノ・ジンデル。今は亡き、現ジンデル国王の正妃。描かれている彼女の瞳は、星が輝く晴れ渡った夜空のような黒曜石だった。
対して、自分の瞳はくすんでいてとても澄んでいるとは言えない。端的に言ってしまえば同じ黒なのに、何故こうも違うのか。
民族性で見れば、珍しいのはセラフィーナの黒曜石で、自分の色は有り触れた色だった。それこそ、平民層にもごろごろ転がっているような。
セラフィーナの生家たるユルハ公爵家には、パルトロウ公爵家と違い家を代表するような色は特にない。敢えて言うならば、明るい色が出にくいというだけだ。にも関わらず、彼の家の者は誰も彼もが目を奪われずにはいられないほど深く妖しい色を携えていた。
それこそが、血の違いなのだろうか。建国以来王族として貴族社会の頂点に君臨してきた公爵家と、しがない侯爵家との――
自然と考えてしまっていた考えに、冷や汗が流れる。一瞬でも思ってしまった愚かな考えは、誰に知られるでもないのに罪悪感で胸をしめた。
そんな中、此方の胸の内など知らないとでも言うようにセラフィーナと同じハニーブロンドを持つ少年が口を開く。
「さぁ……絵なんぞ随分描いていないし、なにより私は絵心がないからか、特別美しいとは思わないが」
確かに美しい黒曜石ではあるが、と締めくくるかと思われた言葉の後に続いたのは、柔らかく甘美な響き。
「私はアドルフの黒玉が好きだな。落ち着く」
なんてことないようにそう言ってくれる護衛で側近で幼馴染で――唯一の家族。
王にも臣下にも見捨てられ、いないも同然と扱われている名ばかりの第一王子。それでも、せめて共に歩んでくれているお前に恥じないように全力を尽くすことを誓うから。
「そんな酔狂なことを言うのはお前くらいだよ」
どんなにその危うく妖しい色を欲しても、それだけは口にしない。翠玉の代わりに紫水晶を欲するなんて、そんな愚かな真似だけはしない。
それが、ジンデル王国第一王子の矜持。
セラフィーナ……黒曜石
イシュメル・イアン……紫水晶
コンラッド……紅玉髄
オフィーリア……翠玉
アドルフ[フィア・ジェリドフ]……黒玉
リーラ・リアム……煙水晶
ミック……太陽石
未だにアメシストかアメジストか悩みます。どっちでもいいのに。