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まだまだ高等部一年生です。
応援本当にありがとうございます!
なんだか最近恐ろしい数を頂いているので、gkbrしてはいますがマイペースに頑張ります。
最も初めの記憶は、焼かざるを得ない虚無だった。
視界が焼かれるほどの光の粒子に塗れ、だけどなに一つその目は輪郭を認識は出来ない。呼吸が苦しい。喉が痛い。頭が割れるほどの爆音を耳が捉える。
そんな中で、飛びぬけて大きな音が追い打ちをかけた。
「奥様、奥様。お子様はお元気ですよ! 聞こえますか?」
それを言葉と認識することは、当時の私にはできなかった。それでも、周りが大きな喜びと――だけどそれを上回るであろう悲しみにおおわれていることもわかった。その理由も、今世に諦めがついた頃には理解していた。
私には、母がいなかった。
私を産む際に亡くなられたらしい。そのことに悲しみを抱けないことを心苦しく思う。同情だとか、子から親に抱くにふさわしくない感情ならばあったが。
母はいなくとも、特に悲しくなかった理由は他の家族が愛情を注いでくれたことも大きい。祖父母は柔らかく惜しみない愛情を注いでくれた。父は戸惑いながらも生きるに必要なことを自ら教えてくれた。使用人にしたって、こんなにも誠意を持って仕えてくれている理由が不思議なほどに、優秀で親切丁寧だった。
そして彼らに共通して言えるのは皆、私を見て笑いながら泣きそうな表情をしているということだ。
最初は、母の面影を子に見ているのだろうと思った。当然だと。寧ろ、彼らの妻で義娘で女主人である母の命を食らうようにして生まれてきた私は疎まれても仕方がないと。
だが、彼らが私の中に見ているのは母ではなかった。
「我らには、娘がいた」
思い出して悲しみに浸りながらも、その思い出の暖かさに複雑な表情の祖父が唐突に言った。私が五つになった日の晩餐でのことだ。
五つにしては大人びすぎている私に、それでも彼らは優しかった。だからこそ、理解できるものとして話し始めたのであろう。
祖母は、泣いていた。父は、苦しそうに顔を歪めていた。数少ない使用人も主たちの前で必死に涙を、やり場のない怒りを堪えていた。
「美しく、賢く、優しい娘だった……あの娘を愛さずにいられる者などいるのかと思うほどに」
身内の欲目と笑うには、彼らの放つ雰囲気は重すぎた。
見えない筈の闇が、近寄ってくる。
「お前の母も、あの娘がいたからこそお前の父に嫁いだ。あの娘の義姉になりたいと、ただそれだけで他にはなにもいらないと。地位も、身分も、権力も、財産も――ただ、我らの娘を義妹に欲しいと」
あんまりな理由に冗談だろうと父を見ると、笑っていた。苦々しくもなく、ただ懐かしくて仕方ないと穏やかな目で。
「それでも彼女は私を愛してくれていましたよ。ただ、結婚相手を私に選んでくれた最大の理由がそうだっただけです」
濃く淀んでいる闇が、首に纏わりつく。
なんだ。なにが言いたいんだ。私に、早くに亡くなったであろう叔母の復讐をしてくれとでも言うつもりか。
来るであろう言葉を想像したら、スッと冷気が体の芯を駆けたのがわかった。
私は、嫌だった。こんなにも暖かな家族から負の感情を押し付けられることが。なによりも、今の私は嫌だった。
だが、祖父が口にしたのは予想とは違うものだった。
「お前は、あの娘によく似ているよ。生き写しかと思うほどだ」
そう言った祖父は、私を見るときによくしている泣き笑いの――だけど、それを超えるほどの愛を持って見ていた。
「髪も、瞳も、姿かたちはなに一つ似ていない。あの娘はわが一族の中では珍しい色を持っていたし、お前は顔立ちとしては母親に瓜二つだ」
その自覚はあった。肖像画の中の母は、自分が成長した姿そのものであると疑いもしなかった。
「だが、醸し出す雰囲気が怖いほど似ているよ。よくわからんが……傍にいるだけで此方まで優しくなって、笑えるような。同時に、どこで泣くのか心配になるような。そんな、雰囲気が、な」
ガツンと、頭を殴られた気がした。
上手く隠していた筈なのに。適度に悲しみ、適度に悲しんで――普通の子どものフリをしていたのに。
どう誤魔化すのかを咄嗟に考え、だが言葉は出ないでいると「別にいい」と祖父は苦笑した。
「自分の弱みを見せられるのが、血縁でなくてもいいだろう。あの娘も、弱音を吐くのは儂らにではなかった」
そう言った祖父は、それでも少し悲しそうな表情をしていた。細かな皺がいくつも入った瞼をおろし、「だから、な」と絞り出すような声を出す。喉に絡みつく涙を堪えるように。
「頼むからお前は、あの娘と同じ過ちを犯してくれるなよ」
そう言った祖父の表情は、遠い日の記憶の一枚とピタリと重なった。
「なぁ、セシリアよ」
最も終りの記憶は、刻まざるを得ない失望だった。




