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「リアムの番ね」
あれから進行兼審判の先生に呼ばれて、リアムは下位貴族クラス用の競技場へと降りて行った。
黄色い館の一つ――教養科用の学習棟の一部を占める巨大な競技場は、本来は鍛錬場を必要とする他三科でないと持たない。だが、高等部一年は強制的に教養科で一年間学ぶ。その中で実践を伴わない攻撃魔法などありえない。
競技場を更にそれぞれのクラス毎に分け、同時進行で三人ずつ魔法を魅せる。当然、見学は魔力保有量が多いとされる高位貴族に集中する。だが、リアムが下位貴族用の競技場に姿を現すと、あからさまに見学者もそこに集中した。
元から平民用と下位貴族用の間に陣取っていたフィアたちは苦笑する。
「まぁ同級生でもないと見たくても見れないからね」
「俺も楽しみだよ。リアムがどんなものを魅せてくれるのか」
ミックは恐縮しながらもリアムの重ねての言葉に「それでは、お言葉に甘えまして」と言ったきり、リアムとリーラに対しての敬語は外した。それどころか、フィアに対してと変わらない雑な言葉を投げてくる。
「まぁリアム、ほどほどにね」
そんな中で、リーラは興奮など欠片も見えない普段通りの笑みを浮かべていた。
競技場に上がったリアムの姿に、女生徒から黄色い声が上がる。いくつか太めの声も混ざっていたのは気のせいだろう。
首元と手首に土器色のラインが走っている褐返色の上着をきっちり着込み、薄群青色のスラックスを揃える。普段からの制服そのものである軍服が、有事にいつでも対応できる軍服に準じているため実習だとしても変わることはまずない。野外実習など、作戦の主体として余裕があるときは更に防御力も機能性も高いものに着替える。
「【埋白】」
口を閉ざす間もなく、リアムの口から略詠唱が放たれる。見学者たちが慌てて口を閉ざしたときには、そこは一面の銀世界だった。白と青で埋め尽くされる中に、ぽつんぽつんと黒に近い灰色がうつる。皆、言葉を無くし静寂が満ちる。
白より深い銀色で埋め尽くされた世界は、本来は魔力を持たないとして嫌われる。にも関わらず、リアムはまさしく魅せた。胸が締めつくされ、自分自身すら曖昧になりそうな銀色に包まれる。
そうしてどのくらいの時が経ったのか。ゆるゆると端から銀世界が元の味気のない競技場に戻っていく。なにが起こったのか理解していないものが多数を占める中で、フィアはポツリと声にはせず呟いた。
(――幻覚魔法)
ないものをあるように見せる魔法。情動に関わるそれを扱える魔術師は数えるほどしかいない。
だが――違う。視覚情報通りの埋め尽くされるような雪は、わずかに積もった。それを全体に見せて大きな違和感を抱かせなかったが、幻覚魔法ではない。かと云って、素直に氷魔法でもない。それでも、見た白さと感じた寒さ。
生徒はもとより教師からも賛辞を受けながら此方に戻ってくるリアムを見ながら、フィアはリーラとミックの呼びかけにも答えずに考え込んでいた。
スラックスって元は女性用ズボンのみを指していましたね。




