2 ベッケンバウアー魔法学園
ジンデル王国王都ベッケンバウアー。
ブルィギン公国を始め、全主要機能が王都に集まっている周辺国の首都に対し、あくまで【国王】の為にある都。政治の要ではあっても、貿易の、医療の、軍事の要ではない。それでも、王都が誇る国立ベッケンバウアー魔法学園は学園都市カペル魔法学校と並ぶ名門校だ。
学園と王宮。それしか目玉がない王都の観光名所たる片方。豪奢な模様遣いをされている二つの青い館に三つの鍛錬場、五つの黄色い館が集結するは王都の一方。
ベッケンバウアー魔法学園。私は今、其処にいる。
黒く長い髪を靡かせて乗り合い馬車を降り、重たい荷物を抱えながら門を潜って緑に囲まれた荒れ道を進む。
土の荒れ道なら慣れているが、ここは大小様々な石が転がっている砂利道だ。歩き難くてつい【転石】と【風舞】を使いそうになったが、溜息を吐きながら止めておく。
此処は【王都】の【魔法学園】で、私は今日からそこの【生徒】だ。これからの三年間を過ごす処。
何度も自分に言い聞かせ、足元が覚束無い道を歩き続ける。
木々を抜けて目に入ったのは、石造りの白磁の館――高等部第二女子寮。夕食の時間なのか、普段は少女たちの声で賑やかであろうロビーは静まり返っていた。
「どなたかいらっしゃいますか」
守衛室に声をかけると、少ししてから白のジャケットを羽織った壮年の男性が出てきた。胸元に学園、寮、警備の三つの紋章はそのままベッケンバウアー魔法学園第二女子寮守衛を示している。守衛は私を視界に入れると、大きく目を見開いた。
「へぇ、随分な別嬪さんだなぁ」
間延びしながら言われたことに苦笑する。
「本日よりお世話になります。入寮手続きをお願いします」
「はいよ」と軽い調子で了承した守衛は一度守衛室に戻ると、数枚の書類を持って戻ってきた。
「ここらの寮則や案内を読んだら、改めて俺の目の前で誓約書に署名してくれ。そしたら部屋に案内する」
鞄からペンと保護者のサインがある誓約書を取り出しながら、指定された書類に目を通す。特に目新しいことは書いていなかったのであっという間に読み終わり、誓約書の隅に名前を書く。
それを手に取って、守衛は目をしばたたかせた。
「新入生録には目を通していたが、まさかお前さんが留学生だとは思わなかったよ」
スペアキーの山から一つ取り出された鍵は、守衛の手からわたってきた。柄には【026】と掘られている。
留学生に見えないと言われ、傷つくでもなく内心で当たり前だと苦笑しながらも、表には笑みを浮かべる。
「申し遅れました。ブルィギン出身のフィア・ジェリドフと申します」




