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禁色の闇姫  作者: ときおう慧実
二章 駿才の第一王子
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12才になりました。

 ベッドと枕元に水の入った硝子瓶だけしかない、質素極まりない部屋でいつもとなんら変わりない目覚めを迎える。だだっ広い部屋にポツンと置いてあるベッドから下りて隣室に行くと、侍女は既に控えていた。なにも言わずに支度を整えると、少し早いが予定通りの時間に居室を出る。後ろで「行ってらっしゃいませ」と義務的な声が聞こえたが、特になにを言うでもない。

 ただ黙々と緩やかな角度の螺旋階段を上り、ある一室の前に足を向ける。部屋の前では近衛騎士がいつもと同じように困った顔をしていた。

 それでもいつもと同じことを言うと、近衛騎士も同じように困りながら侍女を呼ぶ。

 騎士から侍女、侍女から部屋の主へと言葉がまわっている間にぐるりと辺りを見回した。

 金山でも隣にあるのかと皮肉を言いたくなるほど、廊下や壁と云った建物本体、そしてもちろん家具や小物に至るまで金色で埋め尽くされている。


 この国で最高位にある色は、金。最下位は銀。金を超える色は一つだけであり、その色はほんの一握りの人間しか持つことが許されない。現在は、唯一人。


 全体的に豪華絢爛と評されるであろうこの建物は、古い歴史を持つ。それこそ建国以来、数百年と。この建物が【黄金の宮殿】であったことは間違いない。

ただ、一時は質素なものだったらしい。十年ほど前の、ほんの数年間は。

その時は入れ替えの利く家具や小物から金が消えた。宮殿の代名詞であった色が減っていくことに憤る者もいたが、結局は誰も文句は言えなかった。

無くなった金色の代わりに、眩い光を放つ御方が参られたから。


 ……伝説のようだな、まるで。


 自分が生まれたときだと云うのに少年は遠い目をした。この目と頭が痛くなる色が一時でも減り、代わりに稀代の正妃がいたなんて。


 ユルハ公爵令嬢セラフィーナ。


 今でも話に聞く、至高の女性。最強の魔術師。国王をよく助け、民を慈しみ、兵と共に戦った御方。体は弱かったが、最高の女性の代名詞となった御方。

 それなのに、彼の方は亡くなられた。十二年前に、専属護衛官と共に。


 誰もが信じられなかった。正妃は王国最強の魔術師であり、専属護衛官も近衛騎士から王宮魔術師への話をもらっていた。実質、国の一位と二位の魔法の使い手。その二人が見るも無残に殺されていたなど。

 国王の唯一の寵妃が亡くなったことで、王宮が――


「殿下」


 堂々巡りに入ったところで声をかけられ意識を戻す。そこでは第一側妃専属侍女が頭を垂れている。

 いつも通り深々と下げられた頭を上げた侍女の目は胡乱だった。


「申し訳ありません殿下。側妃様は」

「お体が悪いならいい。今日から高等部だからご報告を、とだけだ」


 会えるなんて思ってはいない。王に捨てられた――側妃という位にしがみついている女など、なんの意味もない。

 それでも息子が母に(・・・・・)進級報告もしなければ、それだけで叩かれるのがこの世界だ。

 義務は終わったとばかりに向けた背に「殿下」と声がかかった。

 訝しみながらも顔だけ向けなおすと、侍女は僅かに困惑した顔をしている。


「……今年の入試では、もう一人主席が出られたそうですが」


 侍女の前提としてある主席は、自分ではない。


「あぁ。カリ男爵令嬢が、な」


 自嘲するでもなく口角を上げて答え、話が終わったことを確認して今度こそ自室へ向かう。

 王子という身分にある自分が首位を独走しなければいけない理由はない。自分は王子であって王子でないのだから。


 部屋に戻ると、そこには自分の他に唯一この部屋に自由に出入りできる人間がいた。


 筋肉をまとっている少年独特の細身。鮮やかに光る蜂蜜色の髪。その髪を差し置いて、最も目に止まる深い紫水晶(アメジスト)の瞳。

 三大公爵家が一パルトロウの象徴。その色を現在最も濃く受け継いでいる者――イアン・ロベリド=ドゥーコ・パルトロウ。第一王子の側近。


 そう、第一王子側近――本来ならばかなりの要職。だが今回それは当てはまらない。

 アドルフ・レギィ・ジンデル――いてはいけない第一王子たる自分の側近には。


「イアン」


 アドルフが部屋に入ってきたことに当然気づいていた側近は、クローゼットから上着を取り出して広げる。


「今日は早く行くと言ってあっただろう。早く上着を羽織れ」

「お前だけ先に行っていればよかっただろうに」


 バツが悪くてつい口から出た言葉に「出来る訳ないだろう」と呆れられた。


 どれだけ血筋を見て見ぬふりをされようが、自分は間違いなく現国王の息子だ。側近も連れずに公の場を歩くなどできない。


 わかっていながら律儀に返してくれた友に謝罪し外に控えている馬車に乗り込む。ガタゴトと揺れる音と痛みに顔を顰めながら通い慣れた道を行く。


 外部進学組は例年通り一割。そこから逸材を見つける。


 自分に課せられた当座の義務を思い出して、自然と溜息を吐く。

 当て擦り、相手を測り、自分の派閥に取り込む。考えただけでも吐き気がする。だが、しなければいけないのならば。


 まずは子爵家の双子。そしてカリ男爵令嬢がどの程度か、だな。


 男手が少ないが仕方ない。それは高等部に慣れてからだ。

 決意を新たにし、胸元を握り締めた。

待っていてくださった方、ありがとうございます。

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